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18 約束の時間

本日2回目(朝・夕の夕)の投稿です。非常に短いので、同様に短い次の閑話もいっしょに更新します。

 結局――それからおれはイナダを3匹追加で釣り、ランディーは20センチサイズのメジナを釣り上げた。

 メジナは地方によっては「グレ」とも言う。釣り上げてすぐは魚体がブルーに見える。この深いブルーが美しいんだ。

 針にかけるとめっちゃ引くことで有名だ。だから釣りのターゲットとしてはほんとに面白い魚だと言える。

 刺身にすると上品な白身なんだけど、夏に釣ったメジナは磯臭いんだよな。ランディーは食べる気満々らしいが、どうかな?


「小腹が空いてきたな」

「だなあ。そろそろ止めようか。なんか知らんけど釣れなくなってきたし――何時間くらい釣ってた?」

「そうだな、かれこれ――」


 ランディーがすっかり昇っている太陽を見上げて考える。

 ……あれ? おれ、なんか忘れてないか?


「3か4時間ってところか? 今はおそらく8時半ほどだろう」

「そうかそうか」

「うむ」

「うん」

「……ところでハヤトよ。私はなにかを忘れているような気がするのだが」

「そうなんだよ。おれもそんな気がしてて。えーっと、8時半ってことはそろそろ9時――」


 9時? 9時に、なんだっけ?


「ご主人様ぁぁあぁあああああ!!」


 そこへ遠くからおれを呼ぶカルアの声が聞こえてきた。

 汗だくで走ってくる。


「あうっ、こんなところにいたんですか!? お約束、お忘れじゃないですよね!?」

「約束? ってなに――」


 ……あ。


「王族と面会いじゃねーかああああああ!!」

「そうですよ! 遅刻したらまずいですよ!」

「ぬあーっ、行きたくねえっ!」

「今さらそれを言わないでくださいぃぃ……」


 目の前が真っ暗になる。

 面会。王様。遅刻。死刑。

 ああ……おれの人生、短かったな……。


「そうだったな、ハヤトは王家との面会があったな。では王城に行くか。今から急げば間に合うぞ」

「え!?」


 落ち着いているランディー。マジ!? 間に合っちゃうこれ!?

 王族との面会なんてイヤでイヤで仕方ないが遅刻して処刑されるよりマシだろう。


「つ、連れてってくれえ!」




 王城へと猛ダッシュしたおれは、城門に到着するころには息も絶え絶えだった。

 装備品(タックル)は半分カルアが持ってくれたけど、釣り人ってのは走ったりしないものなんだよ……走らせないでくれよ……。


「遅いですッ!」


 城門の前で仁王立ちしていたリィンから立ち上る怒気が見える……。


「その格好は、釣りをしていたのですね」

「……はぃ」

「ずいぶんと大漁のようですね」

「……はぃ」

「面会の前に釣りとはいい身分ですね」

「……すみません」


 なんも言えません。


「行きますよ、ハヤトさん」

「いってこい。がんばれよー」


 へらへらと笑って手を振る元男爵。クソッ、ランディーは今回は関係ないもんな。ていうか同じだけ走ったはずなのに平気なもんだな、ランディーは。体力あるのな。


「――待て、カルア」

「あぅ?」


 荷物持ちのようになっているカルアを、リィンが呼び止める。


「……まさかとは思うが、刃物を隠し持ってはいまいな?」


 え? 刃物? どうして?

 ……と思ってカルアを見ると、


「ないですよ……? 刃物なんて……」


 カルアの瞳から光が消えている!


「か、カルア、昨日のあれは冗談だろ!? 相手が誰であれ、その、やっちゃうみたいなのって!」

「……冗談ですよ?」

「おれの目を見てくれ、カルアーっ!」

「ハヤトさん、カルアちゃんを押さえてください! 刃物の所持がバレればそれこそ処されます!」


 城門前で騒ぎ出すおれたち。

 しっかり5分、遅刻した。

リィンは苦労人(確信)。


いや、でも釣りをやっていると「あと30分……」「もう1キャストだけ……」となってなかなか帰れないんですよね……。

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