13 天使の殺戮SHOW
たくさんの感想、評価、ブックマークありがとうございます。今日も2話更新予定です(朝・夜)
正直、そんな高い金で売れるとは思わなかった。
だってカサゴだぜ? あ、あと2尾ほどクロソイもいた。確かに30センチ超えのカサゴもいたけどさ。
ちなみに釣り方はぶにょんぶにょんのワームを使った。おれの人差し指と同じくらいのサイズのワームだ。
カサゴの歯がすごくて、釣り上げたときにはワームはぼろぼろだった。
ていうかルアーは自作できるにせよ、ワームの自作はきっと無理だよな……つーかワームの素材ってなんなんだ? ゴム? こればっかりは化学製品だからなあ。基本使い捨てだ。大事に使わなきゃな。
目標は元の世界へ戻ること。方法を見つけるまで自分で稼がなきゃならん。釣り以外におれの取り柄はないからな。
で、半年暮らせる金が手に入った。
宿泊費を聞いたところ、一部屋銀貨2枚らしい。2千円くらいの感覚かな? 物価が安い外国に来たと思えば、そんなものか。
おれの稼いだ額は銀貨換算で310枚。30分で31万円、時給62万円。頭おかしい。あの魚、王都で売ればもっと高い金額になるとリィンは言ってた。金をどう使っていくかは考えないとなー。
あ、ステーキはでたらめに美味かったです。相変わらず肉のクオリティ高すぎる。王都はもっと美味いとリィンは言ってた。リィンって王都のこと持ち上げすぎじゃね? と思ったものの、期待してしまうおれがいる。美味い肉食ってると幸せにならない? なるだろ?
「うむむ……」
「どうしましたか、ハヤト様?」
乗合馬車は停まっていた。席は向かい合わせで木の板を渡しただけのようなしょっぱいもの。衝撃吸収の魔法がかけられている上質な馬車もあるとか聞いたが、おれの乗っている馬車は魔法どころかろくすっぽ技術も使われていない、腰に厳しい馬車だ。
おれの向かいで「?」とばかりに首をかしげているカルア。おれが唸ったのはな、お前だよお前。お前のせいだよ。
「なあ、カルア」
「はい、ハヤト様」
「お前…………誰かと入れ替わってないか?」
「あう!? どういうことですか!?」
「いや、なんつーか……」
見た目変わりすぎなんだよ。
ケッコウデス、必要アリマセン、とごねるカルアをリィンが無理矢理風呂に入れたところ、大量の泥と垢が落ちたらしい。
出てきたのは……ぴっかぴかの美少女だ。
鳶色の髪はくるんと肩の上で巻いていて、つややかだ。
健康的な肌の色。頬はそこに赤みが差している。
アザや腫れはすっかり引いて、彼女のぱちりとした目はおれの姿を映している。
服は中古のものを買った。銀貨5枚かかったが、結構高めの服らしい。女物の服なんておれにはわからないからカルアに好きに選ばせたら、ラベンダーカラーのワンピースだった。
もう、どこからどう見ても奴隷じゃあないな。良家のお嬢様って感じだ。
「なんつーか……まあいいや」
「あうっ!? 気になります!」
「気にすんな」
「あうぅ……」
しょんぼりと瞳を落とすカルア。
いや、言えねーだろ。今さら「可愛くなったね」なんて歯の浮くようなセリフ。
「まあ、小学生は守備範囲外だからまだ救われてるようなものの……」
「あう? しょうがくせい?」
「あー、いや、なんだ……その、カルアが幼くてよかったなと思っただけだ」
「幼くないです!」
「ははは。いいんだって」
「ご主人様よりきっと年上です!」
「ははは。そうかそうか」
「だってカルア16歳ですよ!」
「ははは。うんうん――うん!?」
今なんつった? じゅうろく……。
「10の手前の6歳?」
「違います! 16歳ですっ!」
「…………」
ははは。この子ったら、大人びて見せたいためにそんなことを言ってまあ。
おれ、困り切った顔でリィンの姿を探すものの今はここにいない。先ほど出現したモンスターを倒しにいっている。そのため馬車も現在停まっているのだ。
「モンスターは倒し終わり……どうしました?」
とそこへ、ちょうどよくリィンが帰ってきた。ぼろきれで鎧についた血をぬぐっている。最初こそ驚いたおれだが、もう驚かない。返り血だとさ。驚かないけど怖い。天使の殺戮ショーである。グロイからおれはもう見物しないことに決めた。
「お疲れ様。どうだった?」
「いつものとおりです」
騎士と言うだけあってリィンは危なげなくモンスターを倒す。っつうか信じられないくらい強い。馬車に乗り合わせた他の客も喜んでいた。リィンの馬は並走してついてきている。
「それで――どうしました? 変な顔をしていますが」
変な顔!? おれの顔って変なのか?
「あ、いやさ、カルアがおれに16歳だって言い張るからさ」
「ええ……ハヤトさんは16歳くらいでしょう?」
「違うよ。二重に違う。カルアは自分が16歳だって言ってんの。おれは24歳だ」
「ええぇっ!?」
「あう!? ハヤト様って20歳超えてるんですか!?」
「え、驚かれるのそこ?」
するとリィンは「わたくしと同じくらいだと思っていたのに……」とぶつぶつ言うし、カルアは「8歳の年の差……大きいです……いえ、でも年の差さんて……」とぶつぶつ言ってる。衝撃受けすぎだろ。カルアの16歳発言のほうがよほどショックだろ。半年で1歳カウントとかじゃないよな? こっちに来てからストレスフリーだから若返ったのか、あるいは童顔だったのが影響しているのか……。
乗合馬車がごとごと動き出した。おれたちの心も揺れ動いている。なんつって。
「つ、つまり、バウワウ族は年より若く見える種族ということなんでしょうね」
強引にリィンがまとめ始めた。
「ハヤトさんは王都に着いたら身分証を発行したほうがいいでしょう。年齢は証明できたほうがいいですし、いろいろと役に立つこともありますからね」
「どういう身分証があるんだ?」
「ふつうは冒険者ギルドや商業人ギルドが発行するものですね。あとはわたくしたちのように国のために働いている者は階級章が身分証代わりになります」
ちらりとリィンは腰に吊った紋章を見せた。それって身分証にもなるのか。
「ハヤトさんには――釣り人ギルドの身分証がいいでしょうね」
「釣り人ギルド……だと……!?」
なんだそれ。心躍るフレーズなんだが。
「興味がおありですか?」
「おお、もちろんだ! もしや、少年にして凄腕の釣り人がギルドの門を叩くとうだつの上がらない大人の釣り人が『おいおい、いつからここは釣り学校になっちまったんだ~?』『遊びで来ていいところじゃねーよ。ママのところに帰りな』とか粉かけてきてやっぱりそういうやつらの実力はたいしたことがないから一瞬で返り討ちにしてしまうとギルドマスターが出てきて『なんの騒ぎだ』って言ったあとに『お前の実力を見てやる』という流れから『これは……ギルド始まって以来の逸材だ』ってなるヤツか!?」
「すごい早口ですね」
興奮して悪かったな。
「そういうヤツだよな!?」
「い、いえ残念ながら釣り人ギルドは国をまたぐほどの規模ですし、よく管理され、穏やかなものですよ?」
「あっ……そうなんだ……」
「冒険者ギルドでは先日、ギルド始まって以来の逸材と囁かれる少女が現れたと聞きましたが」
やっぱあるのかよ! さすがギルドはテンプレだぜ! 最高だ!
そんなこんなでさらに馬車に揺られ――おれたちは王都までやってきた。
王都入り!