満腹狼 織田信長

作者: 内藤騎之介

●人物説明


岩原新之助 オリ主。(同名がいたらごめんなさい)

織田上総介 織田信長のこと。本能寺の変で討たれる人。

木下藤吉郎 豊臣秀吉のこと。のちの天下人。

覚慶    足利義昭(室町幕府15代将軍)のこと。

明智    明智光秀のこと。本能寺の変で信長のっぶを討つ。




●地名説明


尾張  だいたい愛知県

美濃  だいたい岐阜県

越前  ほぼ福井県

北近江 滋賀県の琵琶湖の北東部分

南近江 滋賀県の琵琶湖の南部分

京   京都府の御所周辺

播磨  兵庫県の南側

摂津  ほぼ大阪府

大和  ほぼ奈良県




●用語説明


合力   協力のこと。


将軍擁立 将軍任命者である朝廷に向けて次の将軍をアピールすること。

     京を支配したうえで献金けんきんすれば、ほぼ通る。



 俺は岩原いわはら新之助しんのすけ


 俺は馬を走らせた。


 俺の目指す地は美濃みのう岐阜ぎふ城。


 そこで織田上総介(かずさのすけ)殿に会い、あるじとの面談の約束を取り付けることが俺に与えられた役目だ。


 大事な役目ではあるが、簡単なことだと俺は思っている。


 なにせ、主が上総介殿と会ってする話が、先代将軍の弟である覚慶かくけい様を将軍に擁立(ようりつ)する話だからだ。


 未来の将軍に頼られ、断る者などおるまい。


 そのうえ、上総介殿は尾張おわりが本拠地ではあるが、美濃を手中に収めると美濃に拠点を移した。


 北近江きたおうみ浅井あざい家に妹を送り、手も結んでいる。


 これは上洛を意識してのことだろう。


 つまり、主が持ち込む話は、上総介殿にとっては渡りに舟なのだ。


 断られるはずがない。



「断る」


 ………………え?


「聞こえなんだか?

 断ると言ったのだ」


 岐阜城の近くに形成された城下町の一角にある屋敷にて、俺は上総介殿と会うことができた。


 そこまではよかったが、上総介殿は俺の話に興味を示さない。


 なぜだ?


 悪くない話だと思うが?


 あ、さては将軍擁立とか話が大きすぎて、想像できないでいるな。


「あー、岩原だったか。

 ワシは尾張と美濃の二国で十分。

 これ以上は求めておらん。

 上洛には興味がないし、将軍擁立に関わる気もない。

 そう、主人に伝えるがよい」


「な、なぜですか?」


「なぜもなにも、興味がないものは興味がないのだ。

 どうしようもあるまい」


「し、しかし……」


「では、たとえばだが……例えばだぞ。

 ワシが合力ごうりきして、その覚慶殿を将軍にするために京に兵を進めるとしよう。

 南近江の六角ろっかく殿、越前の朝倉殿は合力してくれるのか?」


「それは合力するでしょう」


阿呆あほう

 するわけがなかろう。

 合力するぐらいなら、自ら将軍擁立に手を挙げておるわ。

 それをせんということは、京を守っておる三好みよしと争いたくないということよ」


「お、お待ちを。

 六角殿はわかりませんが、越前の朝倉殿は将軍擁立に織田が動けば、合力すると約束をしてくださっております」


「京に登れとうるさい覚慶殿を追い出す方便であろう。

 まあ、義理程度の兵は出してくれるであろうが、いくさ働きは期待できまい。

 つまり、ほぼワシの勢力だけで上京よ。

 東国の田舎者が旗振り役で、将軍擁立のために上洛。

 敵が多そうだな」


「さ、されど」


「されど、我が軍勢の力を持ってすれば蹴散らすことも可能。

 全てを倒して回ったとしよう」


「なによりではありませんか」


「ふむ。

 上洛を達成し、朝廷と交渉。

 たぶん、これもワシがやるのであろうな。

 なんとか首尾よく覚慶殿を将軍にしたとしよう。

 ワシはどう扱われるのだ?」


「扱われるとは?」


「将軍家から、ワシはどう扱われるのかという話よ」


「それはもう、望むままの地位や褒美ほうびをいただけるでしょう」


 俺はそう自信を持って答えたが、上総介殿はめた目をこちらに向けている。


 なぜだ?


「望むままの地位。

 例えばどのような地位があるのだ?」


「それはもう。

 相伴衆しょうばんしゅうとかでしょうか?」


「相伴衆か。

 四職家の赤松、一色、京極、山名、それに加えて畠山はたけやま、細川、大内が不満を持ちそうだな。

 田舎者が生意気にと。

 それを将軍が抑えられるのか?」


「もちろんです」


「はははは。

 抑えられるわけがなかろう。

 なにせ、少し前まで将軍のイロハすら知らぬ寺の坊主であったのだ。

 将軍になったからと才気を発するわけではないわ。

 身の回りにおる幕臣の言いなりよ」


「それはお言葉が過ぎるのではありませんか」


「言葉が足らんぐらいだ。

 どうせ、ワシが苦労して将軍にしたとて、すぐにワシを敵視してくる。

 なにせ、将軍家にとってもっとも邪魔な家が織田になるのだからな」


「そ、そんなことは……」


「ないと言えるか?

 上洛したということは、南近江、京を手中にしておるということ。

 三好を蹴散らしたのであれば、播磨はりま摂津せっつ大和やまともワシのものであろう?

 そういった大勢力を、将軍家は味方だからと重宝してくれるかの?」


「うぬ……」


「せんであろう。

 逆に、ワシが三好を蹴散らす邪魔をするであろう。

 播磨は誰それの領地故、その者に任せよとか言ってな」


 ……


 上総介殿の予想は、ありえる。


 覚慶様と直接、お言葉を交わしたことはないが、嫉妬深い性格なのは見てとれる。


 そのうえ、覚慶様の周囲にいる幕臣たちは、三好が支配していた地に拠点を持っていた者が多い。


 つまり、播磨に摂津、大和に領地を持っていた者が多い。


 三好の本隊と決戦でもしたあとなら、遠慮なく足を引っ張ってくる。


「わかったであろう?

 興味がないと言った理由が」


「お、お待ちを。

 上総介殿のお気持ちはわかりましたが、せめてそれがしの主とはお会いしていただけませぬか」


「会ってもよいが、断るだけだぞ。

 ああ、主の名は明智あけちでよかったかな?」


「その通りでございます」


「うむうむ。

 まあ、ワシを殺す者だ。

 顔ぐらいは見ておこうかの」


「は?」


「ああ、なんでもない。

 こちらの話だ。

 それよりも、飯でもどうだ。

 最近は食への興味が増えてな」


「えっと……」


「気楽な席だ。

 かしこまる必要はない。

 おーい、料理番。

 今日は飯はなんだ?」


「モ●バーガーっす」


「そうか。

 じゃあ、モ●バーガー、テ●ヤキチキンバーガー、オ●ポテ、飲み物は……ジンジャーエールにしよう」


「承知しました。

 お連れさまはどうします?

 こちらのセットをお薦めしておりますが」


「え?

 セット?

 え?

 じゃあ、そ、それで……」


「承知しました。

 少々、お時間をいただきます。

 お席にてお待ちください」


 ……


 なんだろう?


 模様の書かれた札を渡されたが……


「席の近くに立てておけばよい」


 はぁ。


「まあ、こうやって待っている時間も楽しいものだが……

 そうだ。

 ワシの領地の秘密を少しだけ教えてやろう」


「秘密……ですか?

 よろしいので?」


「ふむ。

 隠しても無駄だと言われておるからな。

 かまわんだろう」


 隠しても無駄?


 どういう意味だ?


「すぐに露見ろけんするということだ」


 はぁ?


「秘密と言っても、たいしたことではない。

 ワシの領地には、なぜか未来から人がやってくるのだ」


 ……は?


「一人二人ではないぞ。

 ワシが知っているだけで百人を超えている」


 上総介殿はなにを言っているのだ?


「その百人を超える未来人は、ワシの領地に未来の知識を与えてくれる。

 ワシが断ってもな。

 好き勝手にやっておるわ」


 は、はぁ。


「お陰で尾張と美濃の生活環境は激変した。

 この部屋、夏場で閉め切っておるのに、過ごしやすいと思わないか?」


「え、ええ、心地よい涼しさで……」


「そこの箱。

 エアコンなるもののお陰よ」


「この箱が?

 たしかに冷気を出しておる」


「でもって、こっちの箱がテレビ。

 別の場所の様子がわかる」


「さきほどから気になっておりました。

 箱の中に、どのようにして人が入っているのかと」


「誰かと会うときは消せと怒られるのだがな。

 それで、この板がスマートフォン。

 遠くの者と会話ができる」


「なんとっ!

 た、た、たしかに声が聞こえる」


「発電機……は、見ても面白くないな。

 蒸気機関のほうを見せてやろう。

 あれはわかりやすくていいぞ。

 まあ、野外でないといかんので、飯のあとになるがな」


「そ、それは楽しみですな」


「うむ。

 馬、千頭分ぐらいのパワー……力を出すからな。

 驚き過ぎるでないぞ」


 馬、千頭分の力?


 想像もつかん。


「あと、飛行機も乗せてやろう。

 なかなかできん体験だぞ」


 飛行機?


 なんだかよくわからんが、ワクワクする言葉だ。


「ちなみにではあるが、ワシが今川を破った田楽でんがくはさまの戦いでは、このドローンが活躍した」


 ドローン?


「ほれ、このように浮くのだ。

 そして、このドローンが見ているものがこっちのモニターに映し出される」


 ……


 驚き過ぎて言葉がでん。


 されど、上総介殿が冗談を言っているわけではないと理解できた。


 未来人か。


 恐ろしいものだ。


 ……


 ん?


 未来人?


「つまり、上総介殿は未来人より、これから起こる出来事を聞いているのですか?」


「そうなる。

 あ、いまドローンを操縦しておる者が……木下藤吉郎というのだがな、天下を獲るらしいぞ」


 この愛嬌あいきょうのある顔の男が?


 まさか。


 驚いておると、食事が運ばれてきた。


 上総介殿が手を叩いて喜んでいる。


「やっと来たか。

 だが、待つだけの味ではある。

 どれ、食べようではないか」


「は、はぁ……」


 珍妙な料理だが……まあ、上総介殿の様子を真似ながら頑張った。


 味は……美味い。


 天国の料理かと思った。


「岩原よ。

 ワシはこのようにエアコンの効いた部屋で快適に暮らし、美味い飯を食べ、テレビやスマホで情報を得ておる。

 移動も飛行機や自動車……自動車はさきほど言った蒸気機関を使った乗り物よ。

 速いぞ。

 それに乗って移動しておる。

 この岐阜の屋敷から、尾張の清州きよすまで一刻もかからん。

 道路の整備もしておるからな。

 そのうち、ワシだけでなく、尾張や美濃に住む者がワシと同じ生活をするであろう。

 そうなると……

 このまま未来人に従って内政をやっていれば、十分じゃないか。

 天下とか必要ないんじゃないか。

 そう思うようになってな」


 ……


 返す言葉がない。


 俺も、この料理を毎日食べられるなら、上総介殿に仕えたいと思ってしまったのだから。


「ああ、モ●は美味いが、毎日食べるものではない。

 料理番よ、次はなんだ?」


「次は吉●家っす」


ぎゅうか。

 悪くない。

 動いて腹を減らしておこう」


 吉●家とやらは、毎日食べられるのかな?


 などと思っていたら、部屋に上総介殿の部下が慌てて飛び込んできた。


「来客中ぞ!

 どうした!」


「し、失礼しました。

 さきほど、清州より連絡がありました!

 新たな未来人が到着されたそうです!」


 上総介殿はその報告を受けても落ち着いていた。


 慣れたものなのだろう。


「すまぬ、ワシのスマートフォンにも連絡が入っておった。

 メッセージ機能が、まだ上手く使いこなせんでな。

 だが、その程度ではそこまで慌てることはなかろう」


「今回、到着した未来人ですが、なんとハ●ター×ハ●ターの最新話を知っております」


「最新話と?

 現在の最新は三百七十であるが……」


「はっ。

 四百を超えて、知っておるそうです!」


「まことかっ!

 こうしてはおれん、飛行機を用意せよ!

 清州に参る!

 料理番、飯は清州で運べ!」


「殿、私もご一緒しても!」


 木下殿が揉み手で上総介殿に近づき、許可される。


 こういったところは抜け目がないから、天下が獲れるのか?


「岩原、お主もついて参れ。

 一話から丁寧に読み聞かせてくれる者がおる」


 読み聞かせ?


 なにを?


「ハ●ター×ハ●ターだけではない、ワ●ピースや呪●廻戦もあるぞ。

 完結しているものであれば、ド●ゴンボール、鬼●の刃とか、キ●肉マン、シ●ィーハンターもお薦めだ」


 俺はわけがわからぬまま、十日ほどを織田家の領内で過ごした。


 主からもらった大事な役目は、綺麗に忘れていた。


 それより、ワ●ピースの続きを!


 清州、清州で待てばいいのですか?







Q「なぜモ●?」

A「昼、モ●を食べたから」


柴田勝家「ス●ダンが最高」

丹羽長秀「ジ●ジョでしょ」

滝川一益「ナ●トもいい」

前田利家「る●うに剣心も……」


徳川家康「五●分の花嫁は……」

本多忠勝「殿、それはジ●ンプ作品ではありませぬ。あ、三女は拙者の嫁でござる」




がつがつしてない織田信長を書きたかっただけ。

歴史物は、前提知識が必要すぎると、書いてわかった。