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 ◇



「私が最前線で指揮を執ってるっていうのは、マーガレットなりの意趣返し?」


 マリーはやれやれと呆れた顔で首を振った。


 いつもの俺の自室。

 マーガレットとの一件を終えて、しばらく経った頃。


 首に包帯の巻かれたマーガレットは、国民の前で大々的に宣言した。

 魔王の襲来、人類の存続危機。


 その衝撃は国民に多大な影響を与え、混乱させた。

 しかしそれもほんの数日。急に襲ってくるわけではないと理解した国民は一旦胸をなでおろし、魔物討伐隊の結成に協力的となった。

 今までほとんど外してこなかった聖女の予言。王子たちもそれを無視するわけにはいかず、王国全体として魔物の討伐隊が実験的に組まれたとのこと。


「討伐隊の中にはアステラさんもいたよ。騎士団からも何人も組み込まれてるみたい」


 市井の情報を集めてきたアイビー。

 最近レフ関係で色々あった色男も参戦とのこと。


「俺たちも卒業したら、討伐隊に入るのか?」


 レドがバルディリスで素振りをしながら。

 部屋の中でやるなよ。


「そこらへんはまだ何とも言えないな。討伐隊に入った方が動きやすければそうするけど」

「何もなければ俺はそっちに行くぞ。討伐隊の訓練も楽しそうだしな」


 なんだこの戦闘狂。何が楽しいんだ。


「後一年で卒業ですしね。進路のことも色々と考えていきましょう」


 シレネの言う通り、学園生活も折り返し。

 二年間のうち、半分が過ぎようとしていた。


 中々に濃厚な一年間だった。

 俺の目的はほとんど達成することができた。順調だ。どれもこれも、俺に力を貸してくれたみんなのおかげ。


「とりあえず、飲み会するか」


 ねぎらいも必要だし、先日の一件で思いを吐露するにはうってつけだとわかったしな。

 言うと、多種多様な反応が返ってきた。


「うん! 私は行きたい!」とアイビー。

「なんでだよ。俺は行かないぞ」とレド。

「前みたいに楽しみましょう」とシレネ。

「思い出すし行きたくないわ」とマリー。

「よし、全員参加だな」


 半数が乗り気じゃないが、押し切った。

 学年末の飲み会だし、ライ、レフ、ザクロも誘おうか。


 人生は長い。少しくらい楽しんだっていいじゃないか。



































 ◇



 俺は未来を知っている。

 俺やマーガレットのような存在が介在しなければ、変わりようがない時の上を歩いている。


 だから、この出会いはきっと、誰かが動いた結果なのだろう。

 どういう意図かはわからない。だが、少なくとも、以前にはあり得なかったことだ。


 そいつは以前と変わらない金髪を隠すことなく見せつけて、俺の前に現れた。憎たらしい無表情はそこにはなく、困惑と怯えの表情だった。


 眼前に立つ俺に怯えているようだった。


 俺は一体どんな顔をしているのだろうか。


 表情筋をどこかに置いてきたかのような感覚。


 俺が俺を制御できなくなる激情の渦の中。


「あ、あの、何か、御用でしょうか……」


 震える声を吐き出すその女はきっと嘘をついている。

 虚飾色の存在の言葉は、俺の鼓膜を揺らすことはなかった。


 俺は彼女を床に押し倒していた。

 腕を背中で組ませ、動けないようにする。


「……まさかこんな白昼堂々としているとはな。流石に面食らったぜ」

「な、な、何を?」

「俺と出会ったのは、おまえも想定外か? 知らぬ振りがへたくそだな。それとも、まだ俺を揶揄ってるのか?」

「何を言ってるかわかりませんよお……」


 涙目になるそいつ。

 大した演技力だ。

 だが、俺はそれが演技だと知っている。こいつの根元が腐りきっていることを知っている。


 俺は手に霊装を手にした。

 漆黒のアロンダイト。

 一撃で喉元に突き刺してやる。


 断罪を。

 贖罪を。

 眼前の女に、後悔と自責を。


 今まで動いてきたことは無意味になったが、構わない。ここで終わるのだから。終わらせられるのだから。この手で終わらせてやる。


 振り下ろした。


 金属音と共に声が鼓膜を揺らした。


「何をしてんだ、リンク! とちくるったか!」


 焦った様子のレドがバルディリスで受け止めていた。

 ぎりぎりと、刃物同士が拮抗している。


「……本気で殺そうとしてたのか」


 唖然とした表情。

 逆に、俺はその表情の意味がわからない。


「どけよ」

「どかねえよ」

「うるせえ、どけ!」

「どかねえって言ってんだろ!」

「うわあああああああああああああん」


 俺とレドの激情のぶつかり合い、組み伏せた少女の絶叫。

 学園の廊下は人目を引く場所になってきた。


「見つけたんだよ、ようやく」


 偶然だろうが、見つけたんだ。

 こんなに簡単に出会えるのなら、もっとちゃんと探していればよかった。


「何がだよ。いいから離せ」

「魔王だよ」


 俺が言うと、レドは頬を歪めた。


「はあ?」

「こいつが、魔王だよ」


 俺が羽交い絞めにしている少女。

 これが数年後に魔王として世界に恐怖に陥れる存在だ。


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