第8話 土地と種を買った
冒険者ギルドを出た俺は、そのまま農業ギルドに直行した。
ギルドの建物が見えてくると、俺は再度「アイテムボックス」を開き、事前に金貨を取り出しておくことに。
アイテムボックスのウィンドウを開いてみると……左上には金貨のアイコンと、その横に「810」という数字が添えられていた。
全部で810枚の金貨を貰ってきたってことか。
となると、一枚の価値は1万イーサ……要は諭吉だな。
タップすると、<小判 取り出し キャンセル>というポップアップウィンドウが出てきたので、「取り出し」を選択。
今度は枚数を指定するためのテンキーが出てきたので、俺は1と入力してOKを押した。
すると、目の前に金貨が一枚だけ出現したので、俺はそれを手に持ってギルドの建物に入った。
「いらっしゃいませ……って、あなたはマサト様じゃないですか。無事換金できたんですね?」
「ああ。これで頼む」
受付の人はさっきと同じ女性で、俺のことを覚えてくれていたようだったので、用件を伝える手間が省けた。
「分かりました。こちら、お釣りの9000イーサになります」
「ありがとう」
お釣りは銀貨が九枚だった。
銀貨は、一枚1000イーサのようだな。
「それでは、もうそちらの魔道具は外していただいて構いませんので、こちらにお渡しください」
銀貨をポケットにしまっていると、受付の女性がそう言ったので、俺は指輪を外して女性に渡した。
何というか……俺が日本にいた頃から、位置情報サービスを極力オフにしておくような性格だったからだろうか。
特に疚しいことがあるわけではないが、もう追跡の魔道具を着けていなくていいと思うと、少し気が楽になったな。
身分証関連の手続きはこれで全て終わったので、次は土地購入のことについて聞いてみよう。
「ところで……実は、もう一つ聞きたいことがあるんだが。農地の購入って、ここでできるのか?」
ここが農地関連の不動産業もやっているのかは知らないが……まあ農業ギルドというくらいだし、何らかの手掛かりは得られるはずだ。
そう思い、まず俺はそう質問してみた。
「購入……ああ、ドラゴンの鱗なんか売ったら相当な大金が手に入るでしょうしね。一応、そういう事業もやっていないことはないですよ」
すると受付の女性からは、肯定ではあるものの、どこかしら引っかかるような感じの返事が返ってくる。
更に質問を重ねると、受付の女性の最初の発言の意図が分かった。
「やっていないこともない、か。……それと俺がドラゴンの鱗を売ったことに、何の関係があるんだ?」
「農地って、普通新規参入者がいきなり買うものではないんです。何世代も続いている資金力のある大規模農家ならともかく、普通は賃貸の畑から始めるのが一般的なんですよ」
「……土地はドラゴンの売却益くらいの金がないと買えないってことか?」
「ええ。レンタルですと1アール(10メートル四方)あたり年間5.4万イーサくらいで貸し出しできるのに対し、買っていただく場合は1アールあたり90万イーサほどとなりますので」
ぶっちゃけ……そういう話なら、むしろこちらとしても想定内の内容だな。
土地を買うのにお金がかかるのは当然のことだし、俺だって810万イーサものお金が入ったからこそ、購入を検討しだしたくらいなのだから。
とはいえ……俺は今の話を聞いた上で、ここで土地を購入するかどうかは考え直そうと思い始めていた。
というのも……畑のレンタルという選択肢、俺は思いつきもしなかったが、聞いてみた感じだとかなり魅力的なのだ。
購入の場合だと、今の俺の手持ち資金だと最大でも9アールしか手に入らないが、レンタルなら540万イーサも払えば1ヘクタール(100メートル四方)もの畑を使うことができるようになる。
9アールって、なんかショボい感じがするからな。
どうせなら一年目は、1ヘクタールの畑で何ができるか、いろいろ試した方が良い気がする。
「……ならやっぱ、レンタルにしようかな」
考えをまとめた俺は、受付の女性にそう伝えた。
そして、収納からお金を取り出そうと思ったのだが……。
そういえば、こうして会話中にいちいち「アイテムボックス」って唱えるの、小声でやるとしても恥ずかしいな。
何か、そうしなくてもいい良い方法はないだろうか。
……よく考えてみると、ドラゴンにナノファイアを見せた時、ドラゴンは「ラストアトミック・インフェルノの無詠唱がどうの〜」とか言ってた気がする。
もしかしたら声に出さなくても、アイテムボックスの画面って出現させられるのだろうか。
(アイテムボックス)
そう頭の中で念じると……例の画面が出現してくれた。
……これで行けるのか。良いことを知ったな。
「……1ヘクタールで」
そう言って俺は、アイテムボックスから出した540枚の金貨をカウンターに置いた。
「……面積を取りに来ましたか。でも……マサト様って、流浪の民でしたよね。1ヘクタールとなると協力者無しで世話できる面積ではなくなってくるのですが、その辺は大丈夫なのですか?」
「ああ。伝手はある」
金貨を置くと、受付の女性は心配そうに聞いてきたが……それに対し、俺はそう答えた。
この世界で俺が協力を仰げる者は、いないわけではない。
人ではない上に、農作業でどこまで役に立つのかは完全に未知数であるものの。
「……分かりました。今お貸しできる農地の候補は、この辺になりますが……」
それから俺は、受付の女性と相談の上、借りる農地の場所を決めた。
場所は、なるべく街の郊外にあたる場所にすることにした。
その方が、例のドラゴンを呼ぶにも都合がいいだろうからな。
そして、最後にもう一件。
「そういえば……マサト様って、育てる野菜は決めているのですか?」
「……まだだな。種もここで買うことができるのか?」
受付の女性に言われて、肝心の作物の種が未入手だったのを思い出した俺は、それも買えるか聞いてみた。
「もちろんです! 今の季節なら、こちらから選ぶといいかと」
受付の女性はそう言って、カタログを広げて俺に見せる。
日本では、季節は初夏だったが……ここではどうやら春のようで、カタログに載っている植物も、そういう時期に種を植えるものだった。
どうせなら……最初は、栽培経験のある作物がいいだろうな。
そう思い、俺はトマトと、小学生の時に生活の授業で育てた覚えのある大豆を選ぶことにした。
「この二種類を、半々ずつ植える感じですか?」
「ああ。そうしようかな」
「では……それぞれこれくらいの量があれば十分だと思います! お値段は22万イーサですね」
カタログ上のトマトと大豆の種を指しつつ、購入したいと伝えると……受付の女性は床下収納から袋一杯の種を取り出し、カウンターに置いた。
「分かった」
俺はアイテムボックスから金貨22枚を取り出し、代わりに袋一杯の種を収納する。
「これで以上ですか?」
「ああ。色々ありがとう」
必要なものが全て手に入ったところで、俺は農業ギルドを後にすることにした。
なんか……たった半日で随分と念願の生活に近づいてしまったな。
今まで見てきた感じだと、この世界は現代日本レベルの文明には至って無さそうだが……もしかしたら俺には、こっちでの生活の方が合ってる可能性もありそうだ。
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