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第75話 物件紹介!

 約束もあったので、居住区の中の状態は全くいじっていないが……一個だけ、住人のみんながここに住むにあたってやっておかなければならないことがある。

 それは……エレベーターに関してだ。

 今まで1階や2階だったのが急に3階だの4階だのになったら登り降りが大変だろうと思い、一つだけ変更点として、俺はこの建物にエレベーターを設置した。

 使い方を説明しておかないと、みんな困惑してしまうだろう。


「みんな、ちょっと来てくれ。一つ説明しておかなければならないことがある」


 そう言って俺は、みんなをついて来させた。

 建物の中に入り、エレベーターホールに着くと、「▲」のボタンを押す。

 籠は最初から一階にあったので、すぐにドアが開いた。


「こ、これは……?」


「乗れば分かるさ」


 みんなに乗ってもらったら、俺は「2」と「閉」のボタンを押した。

 すると、エレベーターが2階に向かって動き出す。


「な……一瞬重力が増した?」


「かと思ったら、今度は軽くなったわ……」


 住人たちはエレベーターが加減速するたびに、そんな感想を口にする。

 どうやら昇降機は未経験っぽいので、このアパートの住人に冒険者はいないようだな。

 2階に到着すると、一旦外に出てみる。

 窓を覗いたところで……フランクさんは目を丸くしてこう口にした。


「こ、これは……さっきの重力変動だと思ったものは、階を移動していたということなのか!?」


「ああ。3階や4階まで階段で移動するのは骨が折れるだろうと思ってな、昇降機を取り付けたんだ」


「それは……何から何までかたじけない」


「「ありがとうございます!」」


 フランクさんに続き、住人たちもお礼を言ってくれた。


「じゃ、説明の続きに戻るから昇降機に戻ってくれ」


 再びエレベーターの中に入ると……今度は、俺は住人のうち一人に機器操作をやってみてもらうことにした。


「君、部屋は何階だ?」


「僕は1階……つまりこれからは3階です」


「そうか。じゃあ『3』のボタンを押してみてくれ」


「これで3階に自動で上がれるんですね! 押します」


 3階の住人はそう言って、ボタンに手をのばす。

 彼がボタンを押すと……こんな音声ガイダンスが流れた。


『生体認証を登録しました。登録済みの人は、居住区の階に昇ることができます』


「「「うわっ!」」」


 音声ガイダンスにより、住人たちはビクッとしてしまった。


「い……今のは?」


「聞いての通りだ。この建物の3階と4階は、『生体認証』を登録済みの人でなければ入れないようになっている。……他のみんなも、自分の階を押してみてくれ」


 説明すると、フランクさんを含め他のみんなも各々の階のボタンを押し、人数分の音声ガイダンスが流れた。


「料理店に来た客がまかり間違って部屋まで上がってきたら嫌だろう? だからそういうことが起きないように、このシステムを導入した。……今日いっぱいは押すだけで認証完了するモードにしておくから、今いない住人にもこれを説明しておいてくれ」


 みんなが認証を終えると、俺はそう説明を続けた。


「もしかして……」


「このアパート……」


「「貴族より警備が厳重!?」」


 説明を聞いた住人たちの感想がハモる。

 俺はこの世界の貴族に会ったことがないから、どっちの警備が上かはよく分からないな。

 だがまあ、この世界の平均的な住居よりは遥かにセキュリティがきっちりしているとは言えるだろう。


「リフォームと聞いてワクワクはしてたけど……まさかここまでとはな……」


「夢みたいだけど、一周回って現実としか思えないわね……。私の発想力じゃ、夢でもこんな設備思いつくわけないもの」


 なんだそのよく分からない感想は。

 まあ、気に入ってくれているのなら何よりではあるのだが……。


「それではここからは、各々自分の部屋とか共用部分とか見て回ってくれ。俺はこの子に店の作りを説明するから」


「「「分かりました!」」」


 他には特筆すべき部分もないので、一旦俺は各々で内見に回ってもらうことにした。

 俺はミスティナさんと一緒に1階に戻り、厨房やホールを案内していった。


「……という感じの作りになっている。どうだ、こんな感じの店で良さそうか?」


「もちろんです! 私が知る限り……これほどまでに設備がきっちりした厨房は、お世辞抜きで他に無いですから!」


 ミスティナさんにも、店の様子に満足してもらうことができた。

 見学が終わった頃、フランクさんや住人たちも諸々見終わって1階に戻ってきた。


「こんな感じでリフォームは完了としたいんだが……特に不満とかは無いか?」


「とんでもございません。僕、もうここに一生住みたいです!」


「私もよ。こんな理想郷を作ってもらって、なんてお礼していいか分からないわ」


「本当にお代は良いのかのう? マサト殿が望むなら、一生かけてでも言い値を払おうと思うのじゃが……」


 念のため感想を聞いてみると、住人たちやフランクさんはそれぞれそんな感想を口にした。

 どうやら問題無いようだ。

 ここまで来ると……本当に開店まであと一歩って感じがするな。

 数日のうちにオープンを目指して、明日からも準備を進めていこう。


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