第71話 巨大ウニの解体と大漁
ヴィアリング海に着いたら、早速魚介獲り開始だ。
「ミスティナさん、寒くないか?」
海に潜る前に、念のため体調に問題が無いかだけ確認する。
「はい! なんか不思議ですね……明らかに極寒の地にいるのに、まるで春みたいな心地よさで……」
どうやら大丈夫なようだ。
しかし、魚捕りに夢中になっている間に「定時全能強化」の効果が切れてしまってはマズいので、一応上書きだけしておく。
「それなら同じ魔法で問題なさそうだな。――定時全能強化」
「ありがとうございます!」
では、どうやって漁をやってるかだけ解説しつつ、海に潜るとしよう。
「ここでの魚の獲り方だが……基本的には、素潜りで捕まえている。海の中でも、飛べば魚に追いつけるからな。――飛行」
そう解説して、俺は「飛行」スキルで海に突っ込んでいった。
海面にはまた薄氷が張り始めていたが、わざわざ殴って割るまでもなさそうだったのでそのまま突き破る。
しばらく海の中を飛んでいると、クラーケンから逃げ惑うマグロを見かけたので、両成敗して海上に戻ってきた。
「……とまあ、こんな感じだ」
「一瞬でマグロに巨大イカが……。確かに、素潜りでこんなペースでの漁獲が可能なら船なんて必要ありませんね……!」
「そもそもこんなに氷が張ってると船の動かしようも無いしな」
などと話しながら、マグロとクラーケンをアイテムボックスにしまう。
「前のもほぼ使い切ってないのに、またクラーケン獲ったんですか……」
「これから店開く以上は、あればあるだけいいからな。アイテムボックスに入れてればずっと保存できるし」
「え、今の巨大イカ、クラーケンだったんですか!?」
「ああ。魔力で動ける分浮力となるエグ味成分を含まないから、巨大な割には美味しいって原理らしいぞ」
「なるほど、もう完全に食材としてしか見ていないんですね……一応は伝説の魔物を」
ミスティナさんがまた唖然としてしまったが、それはそれとして第二陣出発だ。
再び「飛行」スキルで、俺は海に潜った。
海底スレスレを飛行していると、今回は今までに見たことない、これまた美味しそうなものを見つけられた。
その見た目は、トゲトゲした巨大生物とでも形容すべきフォルム。
直径は三メートル半ほどあるが、おそらくウニの一種と見て間違いないだろう。
デカいだけで味は良いと信じたいが、以前の巨大ハマグリの件もあるからな。
「俺たちが食べる分には問題ないが一般人が食べると健康に悪影響がある」というケースも考えられなくはないので、一応鑑定はしておこう。
店で出す予定なんだし。
「鑑定」
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●グングニルアーチン
アダマンタイト合金でできた殻を持つウニ。高速移動により獲物や天敵を突き刺すことが可能だが、臆病者なため自分以上の戦闘能力を持つ者の前ではじっとしている。味は他のどんな種類のウニより美味しい
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調べてみると、どうやら完全に食用として見て大丈夫そうだと分かった。
「他のどんな種類のウニより美味しい」と味も担保されてるので、同種のウニを見つけたら積極的に獲っていこう。
てか、地味に危なかったんだな……。
俺が「自分以上の戦闘能力を持つ者」と判定されたから良かったものの、そうでなければ初見殺しに遭っていたところだった。
さあ、じゃあこれをアイテムボックスにしまお――って、ちょっと待て。
よく考えたら、ウニってどうやってアイテムボックスに入れるんだ?
魚みたいに活け締めにすることもできないので、殻付きのままアイテムボックスにしまうのはあまり現実的じゃないぞ。
一応過去にクラーケンを生きたまま収納した実績はあるが、その時だって仮死状態にしてから入れたんだし。
完全にピンピンした状態だと、そうはいかないだろう。
となると、いちいちこの場で捌いてから収納していかなければならないのか……。
……とすると、じゃあそれをミスティナさんにやってもらうか。
俺はウニを手に一旦海上に上がった。
さて、と。
俺はミスティナさんにウニを捌いてもらうために素潜りを中断したわけだが、ここで一つ問題がある。
それは、ウニのサイズだ。
いくらこのウニがアダマンタイト合金に覆われているとはいえ、頑丈さの問題は「定時全能強化」でどうとでもなるだろう。
しかし、自分の身長の倍以上あるウニを捌くのは、いくら凄腕の料理とて困難を極めるはずだ。
それを解決できるようなスキルが「人生リスタートパッケージ」にあればいいのだが。
少しスクロールして見てみると、そのようなスキルはすぐに見つかった。
「巨大化」というスキルだ。
これで一時的にミスティナさんを巨大化すれば、相対的にウニが小さくなり、普段料理する時のように捌いてもらうことができるだろう。
「ミスティナさん、一個頼みがあるんだが、このウニを捌いてもらえるか? もちろんそのままだとデカすぎて難しいだろうから、ミスティナさんには『巨大化』という魔法をかける」
「え……えと、ちょっと展開が急すぎて頭が……。まあでも、マサトさんのお願いならやってみますよ! 捌いた後は元のサイズに戻してほしいですが」
えーと、百科事典百科事典。
「時間経過で効果が切れるタイプの魔法だからそこは安心してくれ」
「分かりました。ありがとうございます!」
「じゃあ、巨大化」
スキルを発動すると、ミスティナさんのサイズが10倍くらいになった。
……って、10倍か。
通常の30倍ほどの大きさがあるウニなので、この倍率だとまだ比率的にはウニがデカいわけだが、果たして大丈夫だろうか。
「これで捌けそうか?」
「ちょっとまだウニが大きく感じられますが……問題ないかと!」
心配する必要は無かったようだ。
「あの、今の私のサイズに合うハサミありますか?」
「用意しよう。超級錬金術」
「ウニをゆすぐ水が欲しいです」
「結界、水生成、超級錬金術……」
ミスティナさんが必要とする物を適宜用意しながら、ウニの下処理を進めてもらう。
程なくして、身だけがとれた生ウニが完成した。
「ありがとう、これで収納できるぞ」
「それは良かったです!」
アイテムボックスにしまっていると、ちょうど「巨大化」の効果が切れ、ミスティナさんが元のサイズに戻った。
これで一件落着したので、素潜りの再開だ。
それからはしばらくの間、ウニの解体や「定時全能強化」の上書きのため何度か海上に上がったりしつつ素潜りを繰り返し、たくさんの魚介類を集めていった。
帰る前にアイテムボックスをチェックしてみると、今日だけでマグロ20匹、ウニ10匹、エビ1000匹、鮭100匹、鰹50匹くらいを獲れていたことが分かった。
そのほとんどは、フルAGI+「単純作業自動化」の組み合わせで体感一瞬で獲ったものだ。
唯一エビに関しては、「ディヴィジョンシュリンプ」という集団で一体の巨大なエビに擬態するエビの群れがいたので、それを丸ごと捕まえた感じだったが。
ちなみにディヴィジョンシュリンプの味は、伊勢海老にそっくりだそうだ。
これだけあれば、店を開いてしばらくの間出す分の魚介はしっかり確保できたと言えるだろう。
俺たちはヒマリに乗ってアパートに帰り、ミスティナさんは定時になったのでそこで上がりとなった。