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第70話 ヴィアリング海へ

 午後。

 ミスティナさんが昼食を食べ終えると、俺は行き先を伝えることにした。


「それじゃあこれから、ヴィアリング海に向かうぞ」


 そう。今から向かうのは、俺の行きつけの漁場であるヴィアリング海だ。

 厳密には俺が何かを生産している拠点ではないのだが、頻出素材のルーツではあるからな。

 一応紹介しておいた方がいいと思ったのだ。


「やっぱりそうですか」


 ミスティナさんは、なぜか納得したような素振りを見せた。


「やっぱり、とは?」


「少し前、いつも通り海鮮市を眺めていた時に、私あり得ない噂を耳にしたんです。ヴィアリング海産のマグロとクラーケンが入荷された、と。何かの間違いとばかり思っていましたが、マサトさんの漁場だとしたら何の不思議も無いですね」


 ミステリーの犯人が分かった時かのような清々しい表情で、ミスティナさんはそう続ける。

 あの頃からずっと海鮮市を眺めていたのか。

 もっと早く気づいてあげられれば良かったな。

 まあ、終わったことを言ってもしょうがないので、とりあえず出発するか。


「ヒマリ、またドラゴンの姿に戻ってくれ」


「了解でーす」


 俺がお願いすると、ヒマリは人化魔法を解いて元の姿に戻った。

 すると……それを見て、ミスティナさんは口をぽかんと開けて固まってしまう。


「え……え……え……」


 ……ん? どうしたんだ?


「ど……ドドド、ドラゴン!?!?」


 ――あ。もしかしてヒマリ、自分の正体を話してなかったのか。

 昨日から仲良さそうにしてたから、俺から説明せずとも知ってるかと思ったが。


「ヒマリはドラゴンだぞ。ちなみにヒマリってのは俺が付けた名前であって、本当の呼び名は神代の紅蓮竜と言う」


「し、神代の紅蓮竜って、最強格のドラゴンの一体とされてるあの伝説の!? しかもそれに名前を付けたってどういうことですか!」


「付けてって頼まれたから付けただけだが……」


「ドラゴンに名前を与える立場になれる人間がいったいこの世のどこにいるって言うんですか!」


 説明すると、叫ぶような勢いで色々とツッコまれてしまった。

 神代の紅蓮竜、伝説になっているのか……?

 どこで何の歴史がどう脚色されたらそうなったのだろう。


「ちなみに最強格のドラゴンって、他には誰がいるんだ?」


「いろいろいますけど……中でも一線を画しているのは、神代の古竜ですね」


 なるほど、そう来たか。


「それで言うと、さっきの浮遊大陸と世界樹――真ん中に生えてたでかい木は、神代の古竜からの貰い物だな」


「あ、そっちとも繋がりがあったんですか。なんかでももう……今まで驚きすぎて、すんなり納得しちゃいましたね」


 ……。

 さ、与太話はこのくらいにしておいて、そろそろ出発するか。


「定時全能強化」


 バフをかけ、ヒマリの背に乗る。


「あの……今の魔法はいったい?」


「あらゆる能力がまんべんなく上がるバフだ。ヴィアリング海は、ヒマリでも普通に飛ぶと4時間かかるくらい遠いからな。それを30分まで短縮するためにこのバフを用いている」


「ヴィ、ヴィアリング海まで30分……。私、ワイバーン周遊カードでも相当速いと思ってましたけど、もはやその比じゃないですね。というかドラゴンの飛翔速度を8倍にするバフっていったい……」


 バフの説明をすると、ミスティナさんの目が点になった。

 そんな中、ヒマリからこんな提案が上がる。


「マサトさん、ミスティナさんにもそのバフをかけたほうがよくないですか? 一般人だとワタシの加速で死んじゃいますし、ヴィアリング海の気候も厳しいので……」


 ……それもそうだな。


「定時全能強化」


 俺は同じバフをミスティナさんにもかけた。

 これでやっと出発準備完了だ。


「それじゃいきますよー!」


「ああ、頼んだ」


「超高速の空の旅、楽しみです!」


 そんな話をしている間にも、ヒマリは高度を上げて加速する。

 30分かけて、俺たちはヴィアリング海に到着した。

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