第7話 鱗は高く売れた。……逆鱗だからだよな?
地図通りに歩き、冒険者ギルドに到着した俺は……まず建物に入ると、中を見渡した。
すると……右奥の方に、幅2メートルほどの傾斜の緩いローラー滑り台を伴うカウンターが。
このギルドでは、受付が目的別にいくつかに分かれているようだが……あの滑り台は買い取り素材を奥に運ぶためのものだろうし、おそらく俺はそこに並べばいいのだろう。
ちょうど並んでる人もいないみたいなので、早速俺はそこの受付の人に話しかけてみることにした。
「一つ聞きたいことがあるんだが」
「ええ、何でしょう?」
「買い取って欲しいものがあるんだが……査定って、ここでやってるのか?」
「はい! 魔物の素材やダンジョンのドロップアイテムなどは、全てここで買い取らせていただいております」
話しかけてみると……俺の予想は当たっていることが分かった。
ダンジョンなんてあるのか、とか聞きたいことはいろいろ出てきたが、そこで話を脱線させているとキリが無さそうなのでとりあえず話を進める。
「その素材ってのは……ここに置けばいいんだな?」
「はい! この幅で収まらないような巨大素材ですと話は変わってきますが、基本こちらに出していただければと」
ローラー滑り台を指しつつ質問すると、受付の人はそう答えてくれた。
「じゃあ、これを頼む。……アイテムボックス」
たしかこう唱えると、収納したものの確認や取り出しができるんだったよな。
などと思い出しつつ、俺はそう唱えた。
すると……俺の目の前に、dropb〇xの画面みたいな半透明のウィンドウが出現した。
画面左上にドラゴンの鱗みたいなアイコンがあったので、それをタップすると……<神代の紅蓮竜の鱗 取り出し キャンセル>みたいなポップアップ画面が出現した。
当然これから売りに出すので、「取り出し」をタップする。
それにより、画面が消える代わりに空中に鱗が出現したので……俺は鱗を掴んで滑り台の上に置いた。
「これ、買い取ってもらえるよな?」
「あ、あの……ちょっと待ってくださいね」
そして俺は、確認のため買い取ってもらえるか聞いたのだが……なぜか受付の人は、慌てたようにそう言って「関係者専用」と書かれた部屋に入ってしまった。
もしかして……ドラゴンの鱗、売るのに許可証とかいったりするのだろうか。
などと少し不安に思っていると、受付の人が中年の男を一人引き連れて戻って来た。
男は胸に名札を付けていて……役職は、副支部長のようだ。
「驚いたな。このギルドで、ドラゴンの鱗を持ち込む人が出てこようとは」
男はそう呟くと……手に持っていたスピードメーターのような機械を、鱗に近づけた。
「すみません、ご存知かと思いますが……ドラゴンの鱗の査定額は、ドラゴニウムの含有量によって決まりますので。ちょっと今から、それを測定させていただきます」
続いて男は俺にそう言うと、鱗のあらゆる部分に機械を押し当て、その度に数値を記録していった。
俺がスピードメーターだと思った機械……金属含有量測定器だったのか。
ていうか、ドラゴニウムなんて金属があるんだな。
あのドラゴン由来だとあまり期待できない気もするが……まあ、登録料+当面の生活費として数万イーサでも手に入ればそれでいいか。
などと考えながら測定終了を待っていると、なぜか男の顔がだんだん青ざめていった。
そして、測定値の平均を求める頃には……男は、開いた口が塞がらなくなるまでに。
「1ミリリットルあたり0.0005グラム……うそだろ」
そのまま男は、掠れるような声でそう呟いた。
ハハ、そりゃ傑作だ。
どうやらあのドラゴンの鱗からは、ほんの少量しかドラゴニウムとやらが取れないらしい。
ざっと縦横90センチ、厚み10センチと過程しても……この鱗から取れるドラゴニウムは、たった405グラムということになる。
純金並みの価格で取引されればそれでもいい金額にはなるのだが、精鉱の費用も考慮すると、俺が貰える金額は微々たるものになってしまうんじゃないだろうか。
やはり、アイツはただの中二病トカゲだったか。
含有量ゼロじゃなかっただけマシという見方もできるが。
「すまない。これ実は、知り合いのドラゴンからの頂き物なんだが……ドラゴニウム目当てで鱗を売るなら、強い竜のじゃないとダメとかだったか?」
申し訳なさ半分、恥ずかしさ半分といった気持ちで、俺はそう質問した。
だが……それに対する受付の人の反応は、どこかずれているような感じだった。
「あの、ドラゴンが知り合いってとこからちょっとツッコミたいくらいなんですが、まあそこは置いておくとして。強い竜って……これこそ、かなりの上位竜の鱗じゃないんですか?」
なぜか受付の人は、今の話の流れで、これを上位竜の鱗と判断したようなのだ。
まさかと思い、念のためこう質問してみる。
「1ミリリットルあたり0.0005グラムって……少なすぎるって意味だよな?」
「「多すぎるって意味ですよ!!」」
質問すると、二人から勢いよくツッコまれてしまった。
小数点以下の桁数が多いので、少ないのかと思ったら……これでも平均以上だったのか。
「鱗のドラゴニウムの含有量は、ドラゴンの格にだいたい比例するんですが……これ、古代からいるドラゴンでもないとこんな量にはなりませんよ。それと知り合いって、貴方一体何者なんです?」
そして男からは、逆に質問し返される始末だ。
何者かと聞かれても、俺を取り巻く状況がここ数時間で変わり過ぎなので、何をどう説明したらいいか困るところだが。
おそらくだが……この鱗のドラゴニウム含有量が普通より高いのは、次のうちどっちかが原因だろうな。
逆鱗だから高いのか、あるいはドラゴンにとってドラゴニウムは老廃物みたいなもので、代謝で落ちる寸前の鱗だから集まっていたのかだ。
いずれにせよ、高く売れそうなら万々歳である。
あのドラゴンには、感謝しておかなければな。
「あー、それはそうと……これ、いくらくらいになるんだ?」
「そうですね……8100000イーサくらいが妥当かと。副支部長はどう思います?」
「ああ、それくらいが妥当だな」
肝心の査定額を聞くと、なんか想像の遥か上をいく金額が出てきた。
それ、グラム単価2万イーサくらいになるんだが……製錬前の原料の段階でそんなにいくのかよ。
「こちらになります」
「あ、ああ。ありがとう。……収納」
目の前に用意された金貨の山に気圧されつつも、俺はその山をアイテムボックスにしまった。
まさか……当面の資金の確保のつもりが、土地代レベルのお金が手に入るとはな。
どうせなら、農業ギルドに戻るついでに、畑の土地を売ってもらえないかとかも聞いてみようか。
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