第64話 煮物を作ってみた
何を作るかだが……そうだな。
まあみりんといえば、王道はやっぱり煮物系か。
その前に、みりん作りで米を使い切ってしまったので、今日の夕飯分の米を調達しなければ。
7階の精米工場に降りると、俺は籾の状態でとってある米を3合分だけ取り出して精米することにした。
この籾は次の栽培の種籾用だが、まあ1200ヘクタールに蒔ける量の種籾から3合分を使ったところで誤差でしかないので今回は気にしない。
精米が完了した3合のお米を手に、俺はアパートに帰宅した。
サクッと炊飯だけ済ませると、早速煮物作り開始だ。
具材は……そうだな。人参、じゃがいも、ごぼう、里芋に関しては端数の部分を売らずにとってあるのでそれを使うとして、あとはまたイノシシ肉を少し切り出して入れるか。
根菜類は「クリーン」で汚れを落としてから適宜それぞれに合った切り方でカットし、ごぼうと里芋に関してはアク抜きもした。
イノシシ肉も、一部解体した後一口サイズに切り分けた。
次は、これらを煮るための合わせ出汁作りだ。
水魔法で800ミリリットルくらいの水を生成し、旨味調味料を適量溶かす。
そこに焼酎大さじ4杯、みりん大さじ4杯、上白糖大さじ2杯、醤油大さじ4杯を混ぜたら出汁の出来上がりだ。
出汁の中に先に準備した具材を入れて中火にかけ、「時空調律」で30分相当の時間を飛ばす。
一応これでもう食べれる状態ではあるのだが、煮物は冷める際に味がしみるというので、一旦冷却してから再度火を通そう。
結界と氷魔法を使って即席の冷蔵庫を作り、そこに煮物の鍋を入れて「時空調律」で冷ます時間を飛ばす。
冷蔵の温度まで冷えたら、再度中火にかけて軽くブクブクするまで「時空調律」で時間を飛ばした。
ご飯はお椀によそったものを、煮物に関しては各々食べたい量だけ自分で取ればいいかと思い鍋そのものをテーブルに持っていく。
「お、またなんか新しい料理ですね?。それも美味しそうです!」
「ああ、俺も作ってる時から腹が鳴ってた」
「じゃあさっそくー……」
「「いただきます!」」
お玉で煮汁ごと具材を空の皿によそい、まずは里芋から食べてみる。
「……美味いな」
味がひたひたに染みている里芋は噛めば噛むほど甘さが増し、ホクホク感と相まって口の中に幸せをもたらした。
ああ、癒やされる。
砂糖作りの疲れが完全に吹き飛んで、力が漲るようだ。
……ん? 力?
そういえばこの里芋の名前、「力の根源」だったか。
でも今の俺にとって今さらVITとかが10上昇したって誤差だし、やっぱりこの感覚は里芋の美味さによるものだよな……。
「な、なんなんでしょう……すごく甘いんですけど、飴みたいな甘さじゃなくて……何というか、すごく口当たりの良い甘さですね」
ヒマリからは、そんな感想が出てくる。
「それがみりんの効果だ。甘さは甘さなんだが、砂糖とかとはまた違うんだよなこれが」
「それであんなに一生懸命複雑な工程を踏んでまで作ってたんですね! 今となっては分かります、あそこまでする価値が!」
ヒマリにもみりんの良さが伝わったようで何よりだ。
この調子で、ギルドでもウケてくれればいいんだが。
まあこちらの人間におそらく一番馴染みが無いであろう味噌でさえ高評価だったんだから、みりんが通らないということはまずありえないだろう。
多めに作ったつもりだったが、ヒマリが大層気に入ったようで、あっという間に煮物はなくなってしまった。
煮物を食べ終わった後はヒマリが「またビールが飲みたいです!」とかいうので、ついでに枝豆も少し茹ででつまみながら一緒に飲んだ。
飲んでたら眠くなってきたので、そのまま床についた。
明日は何をやろうかな。