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第48話 目当ての品

 次の階層で最初に出会ったのは、龍の魔物だった。

 といっても、ヒマリのようなドラゴンではなく、どちらかというと中国の伝説に出てきそうなタイプの龍だ。


 ヒマリにしろ、ヒマリのお母さんにしろ、今まで出会ってきたドラゴンは良いやつばかりだったので、ドラゴン型だとちょっと討伐を躊躇したところだが……こっちのタイプなら全くの別物なので、気兼ねなく倒せるな。

 早速、斬ってみるとしよう。


 案の定、この魔物も一撃で一刀両断でき、斬ったそばから光の粒子に変わりだした。

 そして……なんとこの魔物からは、ドロップ品として缶が出現した!


「お! あれはまさか……!」


 お目当てのフォルムに、期待が高まる。

 が……そのラベルを見た時、ふと俺の脳裏に悪い予感がよぎった。

 というのも……そこに書いてあったのは、「1A10YNC」という表記。

 NCが何かは分からないが、今までの法則からして、これが「1アールの土地の植物を10年成長促進する」ものだと推測するのは容易だった。


「鑑定」


 複雑な気持ちの中、スキルを発動する。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ●成長促進剤1A10YNC

 一アールの土地の生物を十年成長促進させられる。希釈すれば成長促進期間を調整可能。クールタイムは無い

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺の予想は当たっていた。

 成長促進期間こそ八十一階層のものより格段に長い代わりに、一缶で撒ける面積は1HA3Mの足元にも及ばない代物だった。


 どっちかというと、逆が良かったんだがな。

 でっかい畑を手に入れたんだから、散布面積の方が広いのが欲しかった。


 というか、より強力な敵を倒してるんだから、トレードオフじゃなくて完全上位互換で良かったんじゃないか……。

 そしてNCというのは、ノークールタイムかなんかの略だったようだ。

 これはこれで、使い道が無いわけではない。

 ピュアカーボンツリーや世界樹に関しては、これ一つで一気に成長させられるからな。

 その点に関しては、確かにありがたいアイテムだと言える。


 だが……広大な畑の方は、これだとどうしようもないんだよな。

 やはり、さっきの熊から大量のカードを得て1HA3Mをダビングしまくるしかないのか。

 などと考えつつ、一応この缶をアイテムボックスにしまう。


<この階層にいる間、奉先の化身の所在地を示す「▼」を青色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>


 三割くらいの「▼」が青色に変色する中、俺は今後の探索方針について頭を悩ませた。

 ここで成長促進剤が見つかったということは、ここや周辺の階層で別種の成長促進剤が見つかるとはあまり考えられない。

 探索を続ける方針でいくとするなら、階層を飛ばしてもっと奥にでも行った方が良いのだろうか。

 数字は適当だが、例えば二百階層とかに。

 ……昇降機のとこに戻りながら考えるか。


 ん、魔物が移動したのか、昇降機への帰り道の途中に色がついていない「▼」が一個あるな。

 一応あれだけ倒してから、階層移動するとするか……。

 などと考えをまとめつつ、昇降機を目指して移動を開始する。

 その途中にいた「▼」は――さっきとは微妙に外見が違うものの、これまた龍の魔物だった。

 龍の魔物ってことは……もしかしたらワンチャン、あれも成長促進剤をドロップする可能性があるか?

 淡い期待を抱きつつ、その魔物を一刀両断する。

 魔物が完全に光の粒子に変わった後、現れたのは……なんとそのまさかで、見覚えのあるフォルムの缶だった。


 缶のラベルを確認すると、そこには「400HA1Y」の表記が。


「鑑定」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ●成長促進剤400HA1Y

 四百ヘクタールの土地の生物を一年成長促進させられる。希釈すれば成長促進期間を調整可能。クールタイムは、原液の場合7日

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 逸る気持ちを抑えつつ、鑑定してみると――この缶こそが、目当てのアイテムであることが判明した。

 これだ。これが欲しかったんだ。

 400ヘクタールもの面積をカバーできるなら、浮遊大陸の面積を現状の8倍にしても1缶で事足りるぞ。

 クールタイムこそ1HA3Mより長いが、一回の散布で一年も成長させられるとなれば、むしろ収穫の周期を早めることさえできる。

 というか大抵の野菜なら、一回の散布で収穫まで持っていけるぞ。

 この魔物が帰り道の途中にいてラッキーだったな。

 でなければ、早とちりで不必要な遠回りをしてしまうところだった。


 早速、この魔物を重点的に狩っていくとするか。


<この階層にいる間、偃月刀の化身の所在地を示す「▼」を赤色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>


 ……しかも残り7割全ての「▼」が赤色に変化するとはな。

 この階層には、成長促進剤がドロップする魔物しかいなかったようだ。

 じゃあ早速、赤色の「▼」を重点的に狩っていくとしよ――いや、待てよ。

 次の「▼」を目指そうとしたその時、俺は大事なことに気がついた。

 よく考えたら、目当ての成長促進剤が手に入ったら手に入ったで、それをダビングしまくるのが最高効率であることに変わりないのではないか?


 である以上は、一個上の階層に逆戻りだな。

 俺は百六十階層に戻ると、追加で三体の実体を持たない熊を倒した。

 そして手に入れたカードケース全てを「乱数調整」で開封し、三百枚のダビングカードを入手した。

 もうこれ以上は特にダンジョンに用が無いので、昇降機に乗って地上に帰還することに。

 乗っている時間が暇だったので、ダビングカードで成長促進剤400HA1Yをひたすらダビングしていくことにした。


 十枚ほどダビングしたところで地上に着いてしまったので、ダビングはそこで一旦やめにすることに。

 まあこれ以上は、使うその都度ダビングすればいいだろう。

 などと考えつつ、俺達はダンジョンから出た。


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