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第46話 より高性能な成長促進剤を求めて

 ギルドを出た俺は、アパートに直帰しヒマリを起こした。

 そしてこれまたホップと同じく事前に用意しておいてもらった草木灰を使って、最初に畑でやったように浮遊大陸の土作りをやってもらった。


 それが終わると、いつものDEX任せ法で種をまき、ドライアドに恵みの雨で水やりをしてもらった。

 成長促進剤については、手持ちの分が畑全体に散布するには全くもって足りないので、一旦お預けだ。

 明日またダンジョンにでも行って、追加分を手に入れるとしよう。


 ◇◇◇


 次の日。

 俺は追加分の成長促進剤を入手しに、ヒマリとともにダンジョンへと向かった。


 ちょうどタイミングのいいことに、今日はダンジョン内に設置した昇降機の貸し切り日だったので、順番待ちをすることなく昇降機を使うことができた。

 まずはダビングカードの入手のために、一旦八十階層で止まりミミックを倒す。

 それから俺は下の階層に移動しようかと思ったが……ふとそこで、一ついい案を思いついた。


 よく考えたら、何も八十一階層で手に入る成長促進剤1HA3Mにこだわる理由はどこにもないんじゃないのか?

 もっと下の階層に降りれば、敵が強力になる分、更に効果の高い成長促進剤が見つかる可能性がある。

 一缶で10ヘクタールをまかなえたり、あるいは成長期間が一回の散布あたり六か月だったりするような成長促進剤が見つかってもおかしくないわけだ。


 今までは1HA3Mで十分だったので、そこまでしようとは思わなかったが、今や1HA3Mで賄おうとすると一回の散布に50缶も必要とする身。

 毎度毎度そんな大量のゴールデン・ランスヘッド・サーペントを探して討伐するくらいなら、今多少時間を使ってでもより効果の高い成長促進剤を探した方が、長い目で見たら時間の節約になるだろう。


 そうと決まれば、深層攻略のための事前準備だ。


「みんな、また少しの間だけINTのシンクロ率を100パーセントに戻してくれないか?」


 俺はドライアドたちにそうお願いした。

 といっても、別にこれは深層で大魔法をぶっ放そうとかいうわけではない。

 初めてダンジョンに入ろうとした時、MP不足でできなかった付与――「物理攻撃無効貫通」を付けておこうと思うのだ。


「「「はーい!」」」


 この付与に、INTが関係あるのかは正直分からない。

「無効貫通」とかいうくらいだから、もしかしたら付与時のINTの如何に関わらず、どんな敵の物理攻撃無効も貫通できるのかもしれない。

 だがもしかしたら、付与時のINT次第でどのレベルの魔物の物理攻撃無効まで貫通できるかが変わってくるという可能性もある。

 そっちの可能性を考慮して、一応INTを上げておいたという感じだ。


「魔法付与――『物理攻撃無効貫通』」


 今度はそう唱えても、前聞いた「MPが足りません」の脳内アナウンスが流れることはなかった。

 どうやら無事付与が完了したようだ。


「ありがとう、みんな。シンクロ率は元に戻しておいてくれ」


「「「はーい!」」」


 INTが高い状態でやりたいことはやり終えたので、また一億付近に戻しておいてもらう。


 その一連の流れを見て……ヒマリがおずおずと、こう尋ねてきた。


「あの……なんでまた武器を強化したんですか……? もしかして、今まで行ったこともないような下層を攻略しようとしているんじゃ……」


「……そうだが」


 予想は確かに当たっているが、なんでそんなにビクビクしているのだろう。


「『そうだが』って……一体何階層に行くつもりで?」


 そこまでは考えていなかったな。

 どのくらいが妥当だろうか。

 1階層ずつとか降りてても、それで次に見つかる成長促進剤なんて1HA3Mと比べて微々たる差しかないだろうし……。


「じゃあ……とりあえず倍で、百六十階層とか?」


 特に根拠はあるわけではないが、とりあえずパッと思いついた数字を答えてみた。

 するとヒマリは呆れたような表情でこう呟く。


「やっぱり……マサトさんが常識的な階層選びをするわけないですよね。そんな回答が帰ってくると思いました」


 なんちゅう言い草だ。


「ワタシ、多分生身で百六十階層なんかに入ったら身が持たないです。バフをかけるか、戦力外として外で待機させてもらえるか、どちらかにしてくれませんか?」


 ……何が言いたいのかと思えばそういうことか。

 確かに、言われてみれば、人間の姿のヒマリってアルティメットビニルハウスの元となったワニの魔物に太刀打ちできない程度の強さだもんな。

 そのまま百六十階層に連れて行くわけにはいかないか……。

 正直、盲点だった。事前に言っておいてくれてありがたい。


「じゃあ、バフをかけるとしよう。そして階層に関しても、前みたいに十階層ずつ降りて、ヒマリにとって危険じゃないのを確認しながら攻略を進めよう。それならいいか?」


 俺はそう提案してみた。

 俺のバフなしだと戦力にならないにしても、一応いてもらった方が心理的には安心な気がするからな。


「それなら大丈夫ですー」


 ヒマリの許可も取れたので、バフをかける方針でいくとしよう。


 さて、どの魔法が良さそうか。

 人生リスタートパッケージを眺めていると……ちょうど良さそうなスキルが一つ見つかった。

「定時全能強化」というスキルだ。


 これにしようと思った理由は二つ。

 スキル名的に、あらゆる能力を満遍なく強化するタイプのバフだと思ったことと……バフのがかかっている時間が一定時間であり、「術者がスキルを発動している限り」とかじゃなさそうなことだ。


 特に後者の理由は、有事の際に大きな意味を持つ。

 術者がスキルを使えない状態になっても一定時間バフが持ってくれるのであれば、俺の身に何かあってもヒマリが俺を助けてくれる可能性が高まるからな。

 どうせバフをかけるなら、そういうタイプにしておいた方が得だと思ったのだ。


 まあ、そもそも俺のスキル名の解釈が合っているかどうかがまず定かではないのだが。


「定時全能強化」


 俺はそう唱え、スキルを発動させた。

 これもINTがフルの状態でやればよかったのかもしれないが……まあ十階層ずつ降りる過程で、足りなそうだったら元に戻すとかして対応していくとしよう。


「わわっ……! す……凄いです、この感覚! 力が無限に漲る気がします!」


 ヒマリの感想を聞く限り、かけた付与は間違いじゃなかったようだ。

 じゃあ、まずは九十階層に向かうとしよう。


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