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第45話 売却と買付け、そして農地返却

「いらっしゃいませ、マサト様。このタイミングで来られるということは、また何か納品なさるんですよね? 倉庫にご案内しましょうか?」


 農業ギルドに着くと、早速俺は倉庫に案内されそうになった。

 今回はその必要はないんだよな。


「いや、大丈夫だ。全部これに詰めてきたからな」


 そう言って俺は、キャロルさんにワイバーン周遊カードを渡した。


「な、なるほど……。確かに、マサト様ならその手段がありますもんね……。扱いやすくて助かります。でも、今回の収穫物にもどんな効果があるか分かりませんから、一旦は鑑定しないといけないですよね?」


「その点も大丈夫だ。今回納品するのは、前に試食してもらった醤油とビールだけだからな。効果については、前回鑑定してもらった分と同等だ」


「分かりました。じゃあ今回は、鑑定士さんは呼ばなくても大丈夫ですね。ちなみに量はどのくらいになりますか?」


「醤油が一万本と、ビールが十万本だ。それぞれ1リットルサイズのプラスチックボトルと500ミリリットルの瓶に充填してある」


「これまた途方もない量ですね……。というか、プラスチックボトル?」


 プラスチックボトルと聞いて、キャロルさんはキョトンとする。


 ……ああ、そうか。この世界だと、石油製品には馴染みが無いのか。


「こんな感じのボトルだ」


 俺はアイテムボックスから空のボトルを一つ取り出し、キャロルさんに渡した。


「なんか柔らかいですね、これ。ベコベコします」


「まあ、空だとな。落としても割れないから便利だぞ」


「なるほど、柔らかい素材だとそんな利点があるんですね! それは喜ばれると思います!」


 プラスチックボトル、どうやらキャロルさんには気に入ってもらえたようだ。


「あの調味料にビールとなると……これもコールさん経由で販売するしかないですね。流通は彼が弊ギルドに戻ってきてからでいいですか?」


「もちろんだ」


「では、一旦お預かりしておきます!」


 そう言って、キャロルさんはワイバーン周遊カードを金庫にしまいにいった。


 とりあえず、これで納品は完了、と。

 あとは次の作物の種を買わないとな。

 キャロルさんが戻ってくると、俺は種の注文に入ることにした。


「次の作物なんだが……そうだな。麦7ヘクタール分と大豆3ヘクタール分を頼む」


 まず頼むのは、前回に引き続き麦と大豆だ。

 なぜなら、とりあえず早い段階で和食に使う調味料をできるだけ揃えたいからだ。


 醤油は前回作ったが、味噌や酢、みりんはまだできていない。

 このうちみりんは米を必要とするので後回しにする(前に確かめたことがあるが、この世界には日本にあったようなうるち米が存在しないようだ)として、次は味噌と酢を作りたい。

 そのために、また麦と大豆の種を注文するのである。


 しかしいい加減そればっかりなのも飽きてきたので、他の作物も並行で育てたいと思い、麦と大豆は合わせて10ヘクタールまでに留めておくことにした。


 残り40ヘクタールには、何を植えようか。

 考えていると……キャロルさんは不思議そうな顔をしてこう言った。


「あの……それ合計10ヘクタール分ですけど、どういう意図でしょうか? あんまり頻繁に弊ギルドに来るのも面倒だから、何回かの収穫分一気に種を買う、とか?」


 ……そうか。浮遊大陸のことを知らない人からすれば、「急に畑のキャパの10倍を買おうとする変な人」みたく映っちゃったか。

 そうだな……このギルドのことは信頼しているし、話しておくとしよう。


「いや、そういうわけじゃなくてな。ちょっと事情があって、知り合いから特殊な土地をもらったんだ」


「特殊な……土地?」


「ああ。浮遊大陸という、魔力を注ぐことで面積を拡張できる移動式の土地だ。土地は異次元に拡張されるから、どれだけ拡張しても外からみた面積は1アールだし、だからこそ街の日当たりを遮る心配もない」


 そんな感じで、概要を簡潔に説明してみた。


「な……るほど? よく分かりませんが、マサト様がよくわからないのはいつものことなので通常通りですね。承知いたしました!」


 一瞬、キャロルさんはぽかんとした表情を見せたが、すぐに笑顔に切り替えてそう言った。

 いや、それでいいのか。

 まあ最低限、種の数に見合う土地を持っているということだけでも伝われば問題ないか。


「その土地を、現在10ヘクタール持ってらっしゃるということですね」


「いや、麦と大豆がとりあえずその量ってだけだ。土地は現時点で50ヘクタール持っている」


「ご、50ヘクタール!? なんかもう、一瞬にして大農場経営者じゃないですか……」


 キャロルは浮遊大陸の面積を聞くと、そう言って固まってしまった。

 まだまだこれ以上増やすこともできるんだがな。

 無闇に増やしても成長促進剤の入手が追いつかなくなりそうなので今はこの程度に留めているが、もっとその辺は状況を見てより拡大するかどうかを決めていくつもりだ。


「じゃあ……10ヘクタール分麦と大豆の種を買っても、あと40ヘクタール土地が余りますよね。他に何か買っていかれますか?」


「ああ、もちろんだ。そうだな……」


 しばらくの間、カタログを眺めながら次に育てる作物を検討する。


「……じゃあ、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、ごぼう、里芋を各8ヘクタール分ずつで」


 色々考えた結果、俺はそんな感じにすることに決めた。

 とりあえず、このあたりを揃えれば煮物を作って食べることができるからだ。

 本当に日本食らしい味付けの煮物を作ろうと思えばみりんは避けて通れないのだが、その問題についてはおいおい考えよう。


「分かりました! それでは合計で750万イーサとなります」


 キャロルさんはそう言って、種をカウンター上に置く。

 この面積になると、種代ですら結構な額になってくるな。


 というか……そうだ。

 よく考えたら、浮遊大陸を手に入れた以上、もう借りてた土地って解約してもいいよな。

 540万イーサ先払いしてあるんだし、ワンチャンいくらか帰ってきて種代を相殺……とかならないだろうか。


「一つ思ったんだが……今まで借りてた土地、今返したら返金とかしてもらえたりするのか? 浮遊大陸が手に入ったから、もう使わなくてもいいんだが……」


 一応聞くだけ聞いてみることにした。

 流石に制度上そういう対応は無理かもしれないが、その場合は1ヘクタール分種を買い増して、何か育てるとしよう。


「なるほど、そうなりますか……。ちょっと、上の人と相談してきますね!」


 お、可能性はゼロではないみたいだな。

 キャロルさんはしばらく奥の部屋に相談に行っていたが……5分くらいすると、笑顔で戻ってきた。


「可能だそうです! 通常、一度ご契約いただいた土地の中途解約はできない……というかしていただいても返金できないのですが、今回は特例だそうです」


「……本当にいいのか?」


「はい! 理由としましては、今まで納品いただいた作物から土壌の状態が極めて良好であることが推測できるからだそうです。例えば土壌品質が最高評価のSとかになれば、変な時期であってもすぐに借り手がつきますからね。その点を加味し、特例としても問題ないとの判断に至りました」


 相談の結果について、キャロルさんはそう報告してくれた。

 特例対応と聞いた時は一瞬恐縮に思ったが、ギルド側にもちゃんと思惑があったようだ。


「いくらくらいになる?」


「そうですね……マサト様が農地を借りてた期間、2か月にも満たないですからね。返金額は、450万イーサにしようかと」


「じゃあ、その分を種代と相殺してくれ」


「承知しました! ではお代は300万イーサとなります!」


 こうして俺は、大量の種を比較的安く購入できることとなった。

 種を全部アイテムボックスにしまうと、俺は農業ギルドを後にした。


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