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第44話 醤油とビールの大量生産

 バーベキューを終えた後は、家に帰る前に、再度ヴィアリング海に寄ってもらった。

 といっても、今回は魚を入手することではなく、塩を錬金するのが目的だったが。


 明日麦が収穫できるので、醤油とビールを作ろうと思っているのだが、醤油用の塩が手持ちじゃ足りないだろうと思い、追加分の塩を錬金して帰っておくことにしたのだ。

 ちょっと多めにと思い、2トンほど錬金しておくことにした。


 別に塩を得るだけならヴィアリング海である必要性は皆無だったのだが……最寄りの海がそこだったので、そこで錬金したって感じだ。

 とか言いつつ、なんだかんだでちゃっかりマグロをまた一匹捕まえもしちゃったがな。

 まあこれは、またの機会に海鮮市で捌いてもらうとしよう。


 ヒマリに乗せてもらって家に帰った頃にはもう夕暮れになっていたので、浮遊大陸に植える用の種を購入するのは後日とし、とりあえずピュアカーボンツリーを植えるのだけやっておくことにした。

 根っこから引き抜いた分を植えるだけでなく、ヒマリのお母さん曰く「枝を挿せば増える」とのことだった(ちなみにこれはドライアドに一匹残ってもらっといて、通信で教えてもらった)ので、枝も何本か挿して成長促進剤をかけておいた。

 ピュアカーボンツリーは成長に時間がかかるのか、目に見えて大きさが変わるまではいかなかったが、とりあえず地面に根がしっかり張るところまではいってくれた。



 そして、次の日。

 麦に三度目の成長促進剤をかけられる日がやってきた。


 いつものようにドライアドの雨雲で成長促進剤を散布し、育ちきったところを収穫。

 それが終わると、乾燥・脱穀のために麦を工場一階の機械に投入し、待ち時間でビール作り用のイーストを街に買い出しに行くことにした。


 買い出しから帰って工場に着くと、そこでヒマリが待っていた。


「前のと同じ草、取ってきました! これであの美味しいお酒ができるんですよね?」


「ああ」


 ヒマリには、昨日またホップを注文しておいたのだ。

 ヒマリが収納魔法から出したものを、一旦俺は自分のアイテムボックスにしまった。


 じゃ、早速材料を機械に投入していこう。

 一階に入ると麦の乾燥・脱穀が完了していたので、それを全てアイテムボックスにしまう。

 今回は小麦粉を作る予定は無いので、二階は飛ばして三階に行った。

 アイテムボックスの画面で各材料の手持ちの量を見た結果、大豆を全部使い切るくらい作れそうだったので、大豆全量を基準に材料を投入していくことに。

 大豆約1900キロ、小麦約1900キロ、塩約1700キロ、水約4300キロ、麹適量を投入し、開始ボタンを押した。


 機械でできる工程が終わるまでの間に、ビールの材料をセットしに四階へ。

 今回はヒマリにありったけホップを取ってきてもらったので、残りの小麦を全部投入してビールにすることにした。

 小麦約2000キロ、ホップとイーストをそれに合わせた量、水50000リットルを投入し、これまた開始ボタンを押した。


 そこまで終えると、一旦工場を出て容器作りに入ることに。

 地面に向かって超級錬金術を発動しようとしたところで……俺は一つ、良い案を思いついた。

 もしかして、普通の地面じゃなくても、浮遊大陸に魔力を注いで増やした土地からガラスを作ることも可能なんじゃないか?


 今回できるビールの量は、50000リットルにも及ぶ、

 500ミリリットル入るガラス瓶で換算すると十万本分だ。

 それほどのガラスを地面から生成しようとすると……かなりの量の土を消費してしまい、ちょっとしたクレーターができてしまうだろう。

 だが浮遊大陸なら、それもあまり気にしなくていい。


『もしもし。ちょっと一つ、浮遊大陸について質問してもいいか?』


 俺はヒマリのお母さんのところに駐在しているドライアド越しに通信を入れてみた。


『もちろんだ。どんな質問だ?』


『浮遊大陸の土地って、土そのものを錬金術の材料とかにしても大丈夫なのか?』


『全く問題ないぞ。一度魔力を注いで生成した土地は、普通に土としても使えるからな。加工したり、一旦収納魔法に入れたりした時点で次元拡張効果が切れ、外に持ち出してもサイズが変わらないようになる』


 質問してみると、そんな答えが返ってきた。

 なるほど、それは便利だな。

 じゃあ早速――いや待てよ。


『ありがとう。ちなみに土地の質って、任意に調整可能なのか?』


 俺は追加でそんな質問もしてみることにした。


『ああ。念じれば、どんな地質にもできるが……それがどうかしたのか?』


『いや、ちょっと油田でもあれば便利だなと思って』


 そう。浮遊大陸から石油が採れるようにできたら、と考えついたのだ。

 もしそれが可能なら、醤油については前世のスーパーで市販されていたようにプラスチックのボトルに入れることができる。


『なるほど、油田か。もちろん可能だが……お主、確か浮遊大陸で農業をすると言っておったよな? それならば、油田は離島に作った方がいいぞ』


 ……離島?


『離島って何だ? 元の大陸と完全に切り離された別の土地が作れるのか?』


『その通りだ。これもまた、念じるだけで作ることができるぞ。離島については、いくら作っても外から見ることはできない。一応、個数制限はないが……多すぎるとごちゃごちゃするから、必要最小限に留めるのをおすすめするぞ』


 詳しく聞いてみると、そんな答えが得られた。

 へえ。そんなことまでできるのか。

 確かにそれは素晴らしいシステムだな。

 よく考えたら、農地と油田が隣接するという状況はあまりよろしくない気がするし。


『いろいろありがとうな』


『なあに、命の恩人のためとあらば当然よ』


 俺はお礼をしてから通信を切った。

 じゃ、その離島とやらを作ってみるか。

 浮遊大陸に乗ると、言われた通り「離島に油田ができますように」と祈りながら魔力を注いでみた。

 今日は時空調律用に魔力を温存しなければならないので、とりあえず1ヘクタール(MP100相当)だけだ。

 やってみると……確かに原油が吹き出す孤島が一つ出来上がった。

 よし、これで醤油はプラスチックのボトルに入れることができるぞ。


「超級錬金術」


 俺は離島に対し超級錬金術を放ち、まずは醤油用のボトルを作ることにした。

 1リットルサイズの容器を、完成予定の醤油が余裕で入り切るよう11000本ほど生成する。

 離島のサイズ的に石油が足りるかは少し心配だったが、どうやら問題無かったようだ。

 生成されたボトルを全てアイテムボックスにしまうと、きちんと11000本できていたことが画面で確認できた。


 離島の方はというと……吹き出していた石油は完全になくなり、干からびた土地みたいになっていた。

 深層にはまだ多少残っているのかもしれないが、少なくとも地表に近い部分の石油は全て使い切ったようだ。

 じゃあガラス瓶の方も、あの土地で作るか。


「超級錬金術」


 再び超級錬金術を発動し、地面の土をガラス瓶に変えていった。

 しばらくして、500ミリリットルサイズの瓶が十万本ちょい出来上がる。

 これで容器の方は、完璧に解決できたな。

 俺は浮遊大陸を降り、再び工場に向かった。

 工場に入ると、もう既に醤油もビールも熟成までの全工程が完了していたので、熟成を進めていくことに。


「時空調律」


 全量に対し、醤油は一年間、ビールは一週間の時を飛ばした。

 更にビールは低温にした後、再度一か月の時を飛ばす。


「うっひゃー……この量でさえも、年単位で時間を飛ばしちゃうんですねー……」


 などと呟いているヒマリはともかくとして、あとは容器への充填だ。

 プラスチックボトルを醤油工場の機械、瓶をビール工場の機械にセットし、ある程度の本数の充填が終わる都度アイテムボックスに収納していく。


 終わってから数えてみると、醤油は10555本、ビールは102870本となっていた。

 まあざっくり、農業ギルドには醤油一万本とビール十万本を納品するか。

 自分で醤油555本、ビール2870本も消費するとは思えないが、端数は次回(当面は別のものを作るつもりなので、いつになるかは分からないが)に繰り越しということで。


 そう思い、俺は醤油一万本とビール十万本を手持ちのワイバーン周遊カードに移し替えた。

 カードごと納品すれば、嵩張らなくて向こうも助かるんじゃないかと思ったからだ。


 工場を出てみると、もう西日が眩しい時間帯になっていた。

 今日はあと農業ギルドに行くくらいしかできそうにないな。

 それすらも明日に回したい気分だが……ここは気合いを入れて、納品までは済ますこととしよう。


 ヒマリはといえば、容器への充填作業の時「見てても退屈なんで家で寝てまーす」なんて言ってアパートに行ってしまったので、俺一人でギルドに行くことに。

「超級錬金術」だの「時空調律」だの色々やった割には、MPがまだまだ残っていたので、ドライアドたちに一時的にシンクロ率を落としてもらって「飛行」でギルドまで飛んでいった。

本作の書籍版、ついに本日発売です!

本当に素晴らしいイラストをたくさん付けていただいているので、ぜひお買い求めいただけると幸いです……m(_ _)m

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