<< 前へ次へ >>  更新
4/6

第4話 街に着いた

 ラストアトミック・インフェルノ……?

 このドラゴン、一体何を言っているのだろうか。


 まあ、それは一旦置いておくとして……ドラゴンの様子はというと、確かにこの炎に怯えているようだ。


「ナノファイア」がどういう立ち位置の魔法なのかは分からずじまいだが……森全体が焦土と化すようなことはなかったし、それでいてドラゴンにも心理的ショックを与えられたとなれば、結果的に魔法の選択は最適だったということなのだろう。

 などと満足していると、ようやく右手の炎が消えた。


「あの魔法を使いこなすなんて……あなた、一体何者なんです!?」


 ドラゴンはといえば、俺のナノファイアをラストなんちゃらとかいう魔法だと勘違いしきっているようで、震える声でそう聞いてきた。

 しかもいつの間にか、俺への言葉遣いがやたらと丁寧になっている。


 俺、そんなスキル持っているのだろうか。

 試しにスキル一覧をスクロールしてみると……確かに、ら行のところに「ラストアトミック・インフェルノ」というスキルは存在した。

 しかし……そのスキルは文字が灰色になっていて、横には「※MP不足につき発動不可」という但し書きがなされている。


 これを見るに……「『ナノファイア』と唱えたつもりが、実際は『ラストアトミック・インフェルノ』を発動してしまっていた」という可能性は無さそうだ。

 そこまで確認した俺は、ドラゴンにこう返事をすることにした。


「いや、俺が使ったのは『ナノファイア』であって、『ラストアトミック・インフェルノ』とかいうのではないんだが」


「絶対嘘ですよ! 確かに『ナノファイア』と唱えるのは聞こえましたけど……口でそう唱えつつ、無詠唱でラストアトミック・インフェルノを発動したに決まってます!」


 いや、そんな高等技術知らないんだが。

 発動不可の魔法を使ったと断定され、俺は複雑な気持ちになった。


 しかし……まあ、ものは考えようか。

 もしこのドラゴンがビビっているのが炎の威力に対してでなく、「ラストアトミック・インフェルノ」という特定の魔法に対してだったとしたら、さっきのがナノファイアだと分かった途端また攻撃的になるかもしれない。


 その可能性を踏まえると、この勘違いは最大限利用した方がいいということになるだろう。


「だいたい『ナノファイア』であんな威力が出せる人がいたら、それもうこの世の終わりですって!」


 ……前言撤回。

 どちらかといえばこのドラゴン、プライドだけ無駄に高いただのビビりって説が出てきたぞ。

 普通の魔法を、伝説の魔法だとか言いだす極度のビビりである可能性が。


 だとしたら、街までついてきたとしても人々に危害を加える能力なんてなかったかもしれないし……脅すのはかわいそうだったかもしれないな。

 まあ俺だって急な展開に困惑続きだったので、そこは許してほしいものだが。


 とりあえず俺としては、このドラゴンが最低限空を飛ぶ能力さえ持ってれば、後は何だっていい。


「で……俺を乗せて空を飛んでもらうことってできるか?」


「はひっ! 誠心誠意やらせてもらいますっ!」


 再度お願いしてみると、ドラゴンは翼で敬礼しながらそう答えた。


「……長距離空を飛ぶのは疲れるとかだったら、無理しなくていいからな?」


「馬鹿にしないでください! 貴方の力がおかしいだけで、ワタシだって大陸を半日で突っ切るくらい余裕なんですから!」


 言ってることが本当だとしたら……旅客機くらいの速度は出せるってことなので、結構頼もしいな。

 などと考えつつ、俺はドラゴンの尻尾側に回り込み、その背中までよじ登っていった。



 そして、いい感じの突起に掴まると……。


「出発していいですかー?」


「おう、頼む」


 俺はドラゴンに合図し、離陸してもらうよう頼んだ。


 ちなみに今ドライアドたちは、鱗と鱗の間の隙間に挟まるような位置を取ることにしたようだ。

 確かにその位置なら空気抵抗も小さそうだし、賢明な選択と言えるだろう。


「では、行きます!」


 などと考えていると、ドラゴンはそう言って翼をはためかせだした。

 それと同時に……確かに俺は、急加速するのを感じたのだが。


「おわっ!」


 俺はバランスを崩すような感覚に陥ったかと思うと……どういうわけか、地面に向かって落下しだしてしまった。

 何とか首を捻り、空を見上げると……そこには、空を舞うドラゴンの姿が。


 ……おかしい。確かに俺はドラゴンの突起に掴まっていたはずなのに、なぜドラゴンと離れ離れになっているのだろう。

 不思議に思い、掴まっていた突起を見ると……なんと、俺が掴まっていた鱗が、運悪く剥がれてしまったようだった。


 ドラゴンの急加速に耐えられず、慣性の法則で剥がれたってか。

 なんで俺ってこんなところで運が悪いのだろう。


 などと思っている間に、俺は地面に激突した。

 が、ステータスのおかげか……特に痛みとかは感じなかった。不幸中の幸いってか。


「やれやれ……」


 土埃を払いながら立ち上がり、空を見上げると……ドラゴンも俺が落ちてしまったことに気づいたのか、いつの間にかこちらに飛んで戻って来ていた。


「す……すみません! なんかチクっとしたと思ったので、振り返ってみたら……掴まっていたワタシの逆鱗ごと剥がれてしまったんですね」


 そしてドラゴンは、そう言って何度も頭を下げだした。

 ……なんか一個だけ逆向きになってて掴まりやすいなと思ったら、逆鱗だったのか。


「とりあえず……分かったから、頭を下げるのをやめてくれ。そんなに高速でヘッドバンギングしてたら、ドライアドたちが振り落とされてしまう」


「あっ……すみません!」


 ドラゴンが頭を下げるのをやめ、尻尾をこちらに向けたところで……再度俺は、その背中によじ登った。


「それはそうと……逆鱗、剥がれてしまって大丈夫なのか?」


「大丈夫です! 今くらいの衝撃で剥がれてしまうってことは、ちょうど代謝の時期だったってことですし」


「そうなのか。なら良かった」


「というかそれ、お詫びに差し上げます! 竜の鱗ってニンゲン界だと高く取引されるらしいので、損は無いはずですよ」


 ……へえ。それは良いことを聞いたな。


「収納」


 確かスキル一覧のスクロール中にそんなスキルを見かけた気がしたのでそう唱えると、俺の目の前に空間の歪みの渦みたいなものが現れた。

 そこに鱗をつっこむと……。


<神代の紅蓮竜の逆鱗を収納しました。収納したものは「アイテムボックス」と唱えると、確認や取り出しができます>


 俺の脳内に、そんなアナウンスが流れた。


 今の俺は、財布も持っていない完全な一文無しなので……本当にコイツの言う通り鱗に市場価値があるなら、ありがたく売らせてもらおう。

 そんなことを考えつつ、俺は今回は特に頑丈そうに見える鱗に掴まることにした。


「出発していいぞ」


「では、今度こそ!」


 今度の離陸では……俺は問題なく、ドラゴンに掴まったままでいることができた。

 加速が終わり、多少ならドラゴンの上で移動できるようになると……俺は、下を覗き込める位置まで移動してみる。


 眼下を見下ろすと……そこには、航空写真のような大自然の光景が広がっていた。


 こうしてみると、本当に飛行機にでも乗ってるみたいだな。

 そんな風に感慨に耽りつつ、俺は人のいそうな集落とかが見つからないか探し始めた。



 ◇



 そうこうして、十分後。

 ついに俺は、進行方向に小規模な街を見つけることができた。


「なあドラゴン、あの街の上空でホバリングとかできるか?」


 とりあえずの行き場を見つけた俺は、ドラゴンにそう指示をだしてみる。


「お安い御用です! ……あそこが目的地だったんですか?」


 するとドラゴンは、俺に質問を返しつつ、少しづつ飛行速度を落とし始めた。


「いや、特にあそこがというわけじゃなく……とりあえず、人のいる場所を探してって感じだな。……あ、いきなり中に入るとまずいかもしれないから、できれば門の手前の真上とかで頼む」


「了解!」


 そして更に細かく指示を出した頃、ドラゴンは減速を終え……真下に飛び降りれば門の手前に着地できる位置で静止してくれた。


「ありがとう、助かった」


「いえいえ、またいつでも手助けさせてください!」


 例を言うと、ドラゴンはそう返す。

 だが……。


「気持ちはありがたいけど、連絡手段が無いからな……」


 まさかこのドラゴンを、街の側に住まわせることなんてできないしな。

 巣に帰ってもらったら、もう会うこともないだろう。


 そう思い、俺はそう口にした。


 だがそんな時……ドライアドのうち一匹が、助け舟を出してくれた。


『あたし、ドラゴンのとこにのこってもいいよー』


 そのドライアドは……そう俺の頭に直接話しかけたのだ。


『まさか、遠隔で通信できるのか?』


 それに対し、俺は思ったことをあえて口にせず、心の中で思ってみる。


『そうだよー!』


 ……どうやら、可能なようだった。


 そう来たか。確かに現状、このドラゴンは貴重な知り合いだし……お言葉に甘えて、ドライアドには一匹、連絡先として残っといてもらうか。


『じゃあ、残ってくれると言った君はドラゴンについていってくれ。……他のみんなはここで降りよう』


『『『はーーい!』』』


 ドライアドの役割分担を決めると……俺はドラゴンから飛び降りた。

 不本意ながら、自由落下は既に経験済みだからな。

 こうして高度数百メートルから飛び降りるのも、怖くなくなってしまったというものだ。

<< 前へ次へ >>目次  更新