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第38話 ローン返済と夜ご飯

「いらっしゃいませ……あっ!」


 不動産屋に入ると……受付にいたのが前の時と同じ人だったようで、俺に気づいてくれた。


「随分とお早いですね。今回はどうなさいました?」


「まとまったお金が入ったのでな。この間のローンを完済しに来た」


「……よかったです……!」


 来た目的を言うと……受付嬢は大きくため息をつきながら顔を綻ばせた。


「ワイバーン周遊カード、持ってるだけでずっと気が重かったですから……!」


 ……そんなに思うほどだったのか。

 なんかもっと別の担保にしておいた方がよかったかもしれないな。

 といっても、他に大したものを持っていなかったので、別の選択肢など無かったのだが。


「……320万イーサ、確かに受け取りました。少々お待ちください」


 アイテムボックスから320万イーサ相当の金貨を出すと、受付嬢はそれを数えた後、そう言って奥の部屋に行った。

 そして、ワイバーン周遊カードを手に戻ってきた。


「こちら担保のワイバーン周遊カードです!」


「ああ」


 ワイバーン周遊カードを受け取ると、アイテムボックスにしまう。

 もう一回農業ギルドに行って送り届けてもいいのだが……なんかすごい厳重な金庫を何回も開け閉めさせるのもアレだからな。

 今度また追加で調達した際に、まとめて渡せばいいだろう。

 なんにせよ、これで正式に工場が自分の土地になったわけだ。

 心残りが一個消えて良かったな。



 用事が済んだので、俺は不動産屋を後にし、自分の畑に戻ることにした。

 整地は既に済ませてあるので、いつものDEX任せ法で畑の面積半分ずつに麦と大豆の種をまく。

 ドライアドの恵みの雨に成長促進剤をセットし、最初の散布を終えると、今日の作業は全て終了だ。


 あとは夕飯を食べて寝るだけなわけだが……そうだな。

 昨日ガッツリ和食を食べたので、今日は洋食にしよう。

 トマトも小麦粉もあるわけだし……無水パスタとか、ちょうどいいかもな。

 卵やにんにくなど、パスタを作るのに必要な材料を買い出しに行った後、「超級錬金術」を用いて圧力鍋を錬成する。


 アパートに戻ると、ヒマリはスースーと寝息を立てて爆睡していた。

 もしかして……夜中にホップを取りに行かせてしまったせいで、昼間に眠気が来てしまったのだろうか。

 いやまあドラゴンの睡眠サイクルが人間と同じとは限らないので、確かなことは言えないが……もしそうだったとしたら、ちょっと忍びないな。

 元ブラック企業勤務者としてはやはり、たとえドラゴンが相手であっても当時の経営者と同じ穴の狢になるのは御免だからな。

 生活サイクルが同じだとしたら、次からは気をつけよう。


 それはそれとして、早速夕飯の準備だ。

 まずは小麦粉と塩を混ぜた粉、及び水と卵とオリーブオイルを混ぜた液体を用意する。

 次に液体を粉に少量ずつ混ぜていって、生地がなめらかになるまでしっかりとこねていった。


「時空調律」


 本来は生地を二時間ほど寝かせないといけないのだが、その時間は「時空調律」のスキルで短縮する。

 打ち粉を振りながら生地を伸ばし、細切りにして麺は完成だ。

 完成した麺は、丸ごとトマト及び刻んだにんにくと共に圧力鍋に放り込む。

 蓋をきっちり閉めて、火にかけ始めた。

 無水パスタはトマトから出る水分だけで麺をゆでるのが特徴の調理法なので、水で麺を下茹でとかはしない。

 こうすることで、トマトの旨味が麺の芯までしっかりと染み込むのである。

 トマトが完全に崩れて汁が出る頃合いになると……唐突に、ヒマリがガバリと起き上がった。


「おはよう」


「あ、おはようございますマサトさん」


「どうした? 急に起きて」


「美味しそうな匂いがしてきたらそりゃあ目が覚めちゃうじゃないですかー」


 あまりに勢いよく起き上がったので何事かと思ったら、そんな程度の理由だった。


「すまないな、夜にホップを取りに行かせたせいで、昼間に眠らせることになってしまって」


「……え? あ、違いますよー。ワタシただ昼寝してただけです。そもそもドラゴン、こういうパワーナップとかを除けば年に一回とかしか寝ませんし」


 そして労働環境をブラックにしてしまったというのも、杞憂だったことが判明した。

 それならそれで安心だ。

 などと考えている間にも、そろそろ茹で上がりのようだ。

 鍋の中身を二皿に移すと、それぞれに少しずつ粉チーズを振り、その上にハーブをちょこんと乗っける。


「「いただきまーす」」


 昨日の夕飯から学んだのか、今回は俺とヒマリの挨拶が完全にシンクロした。

 食べてみると……トマトの甘酸っぱい味が口の中に広がる。

 弾力もちょうどバッチリだし、無水調理をした甲斐があって噛めば噛むほど永遠に味がする。

 じっくり堪能しようと思っていたが、気づけば一瞬で一皿平らげてしまっていた。


「美味しかったですー。パスタって、ここまで味が沁みることってあるんですね」


「ちょっと変わった調理法を使ったからな」


 ……そういえば、この世界の文明レベルだと、ダンジョンで取れるとかでもない限り圧力鍋って普及してないはずだよな。

 今度冒険者ギルドに行った時聞いてみて、圧力鍋っていうドロップアイテムがなかったとしたら、大量に錬金して売りに出すのもアリだろうか?

 ま、時間がある時に気が向いたらやってみるとしよう。

 などと考えつつ、晩酌のためにおつまみを用意するべく再びキッチンに向かう。

 よく考えたら、アイテムボックス内で時間停止保存できるんだから、一気に大量に作って保存しとけばいいのか。

「超級錬金術」でデカ目の鍋を作ると、入れられるだけ枝豆を入れていっぺんに茹で、これから食べる分以外をアイテムボックスに収納した。

 ビールも一瓶取り出し、飲みながらおつまみを食べる。

 飲み終わると、寝る支度をして床についた。


【 重 大 告 知 ★ 】


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