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第33話 ビール作りと実食

 では次に、ビールだ。

 四階に上がって様子を見ると、仕込みの段階は既に終わり、麦汁が発酵タンクに入れられていた。

 まずは発酵を進めよう。


「時空調律」


 俺は時空調律スキルで、発酵タンク内の麦汁の時間を一週間ほど進めた。

 これで糖分のほとんどがエタノールと炭酸ガスに変化したはずだ。

 発酵が済んだ麦汁――これを若ビールという――を今度は低温熟成するため、ボタンを操作してタンク内の温度を5度から0度に下げる。


「時空調律」


 再度時空調律スキルを発動し、今度は時間を一か月ちょい進めた。

 あとは濾過すれば完成だ。

 濾過が終わるのを待っている間、俺は一旦工場の外に出て、容器づくりをやっておくことにする。


「超級錬金術」


 地面に対して超級錬金術を発動し、500ミリリットル入るガラス瓶を201本生成した。

 それを持って工場の四階に戻り、容器詰めの装置にガラス瓶を200本だけセットする。

 濾過が終わると、容器詰めの装置の作動ボタンを押し、ビールを充填した。

 充填が終わったビール瓶をアイテムボックスに入れると、下の階に降りる。

 残り1本のガラス瓶に、貯蔵タンクの中にある醤油を詰められるだけ詰めると、それもアイテムボックスにしまった。

 そして更に下の階で、いろいろな作業をしている間に製粉が完了していた小麦粉も回収した。


 これで作業完了だ。

 いよいよ、料理する段階に入れるな。

 天ぷら用に街の食品店で卵と油とサツマイモを購入すると、ヒマリと共にアパートへ。

 まずは一番手間のかかる、天ぷらからやっていこう。


 油を火にかけて温めている間に、卵・冷水・小麦粉を混ぜて衣を作る。

 そこにワカサギ、アジ、マグロ、エビ、クラーケンの切り身を十切れずつくらい投入した。

 あと買ってきたサツマイモも、輪切りにして衣に漬けた。

 そうこうしていると油がいい温度になってきたので、何個かずつに分けて順に揚げていく。

 揚げ油に具材を投入する時のパチパチという音は、いつ何時聞いても食欲をそそるものだな。

 もちろん、仕上げには手に付けた衣を飛ばして「花」を散らせ、見栄えも整えていく。

 DEXの高さのおかげか……天ぷらは、まるで専門店で揚げてもらったかのようなサクサク・カリカリとしてそうな完璧な見た目に仕上がった。


 次に、刺身用の切り身も皿に盛り付けていく。

 こちらに関しては、例の海鮮市の調理師たちが一口サイズに切り揃えてくれているので、食べたい分を皿に乗せていくだけだ。

 それができたら、鍋に水魔法で熱湯を注いでそこに枝豆と塩を入れ、軽く塩ゆでしておつまみも完成させる。

 全品揃ったので、早速実食だ。


「いただきます」


「い。いただきまーす」


 俺に続き、ヒマリも一歩遅れていただきますの挨拶をする。

 ドラゴンにもそういう文化がある……というよりは、単に俺につられてやっただけって感じっぽいな。

 まあ別にどちらでもいいのだが。

 とりあえず……まずは、マグロの刺身から食べてみることにする。

 小皿に醤油を出して、チョンチョンと付けてっと。


「……!」


 口に入れた瞬間……俺は言葉を失った。

 あまりの舌触りの滑らかさ。

 脂に凝縮された旨味。

 そして鼻にスーッと抜けていく、甘辛い醤油の香り。

 その全てが、今までに人生で食べたことのあるありとあらゆる刺身を凌駕していた。

 あまりの美味しさに、しばしの間噛むことすら忘れてボーっとしてしまう。


「……な、なんですかこの調味料! 魚の切り身に絶妙に合いすぎでは!?」


 俺の意識は、そんなヒマリの叫び声によって現実へと引き戻された。


「コウジカビエキス、最初聞いた時は何のことやらと思いましたけど、食べてみると最高ですね!」


「……これには醤油っていう正式名称があるから、勝手に変な名前をつけないでくれ……」


 コウジカビエキスって名前だと、まるで麹が主役ではないか。

 一応麴は触媒って位置付けで、メインは大豆と麦なんだぞ……。

 まあそれはともかく、どうやらドラゴンにも、醤油の良さは分かるみたいだな。

 喜んでもらえてなによりだ。

 続いて俺は、天ぷらを食べてみることにした。

 まずはえび天から。

 醤油は作ったもののまだ天つゆは作っていないので、とりあえず今回はシンプルに塩を付けて口に運ぶ。


「……これも最高だな」


 噛んだ瞬間口全体にジューシーさがジュワーっと広がり、再び俺は全身が幸せに包まれるような感触を覚えた。

 こちらも間違いなく、人生において一度食べたことがあるかないかというレベルの最高級品だ。

 ……これがヴィアリング海産クオリティか。


「ヒマリ、穴場の漁スポット教えてくれて本当にありがとうな」


「いえいえ、あの場所の存在くらいなら誰でも知ってますよー。こんな美味な食材にありつけるのは、あの海での漁を可能にするマサトさんの超絶パワーあってこそです!」


 ……そういえばあの海の海氷、誰にも割れないとかなんとか言われてたっけ。

 あの海の海産物を独占的に獲れるなんて、素晴らしいことこの上ないな。

 えび天を一本食べ終えると、また今度は刺身に戻ることにした。

 次に食べるのは、クラーケンの刺身だ。

 これに関しては、前世にはなかった種類の魚介だからな。

 ちょっと口に運ぶのには勇気がいるぞ。

 それでも、醤油をつけてからおそるおそる口に運んでみる。

 すると……。


「……いけるな」


 食べてみた感触としては、至って普通に高級イカ、という感じだった。

 巨大な魔物だからといって得体の知れない食感があるとかいうわけでもなく、むしろしっかりとした嚙み応えがあってまさに絶品といった感じだ。

 嚙めば嚙むほど味が出る不思議な食感にすっかり病みつきになり、気づけば俺は立て続けに三切れほど食べてしまっていた。


 それに引き続き、イカ天の方も食べてみる。

 ……うん。イカのしっかりとした噛み応えとサクサクとした衣の相乗効果で神業のような食感になっているな。

 今後はヴィアリング海でクラーケンを見つけたら、積極的に狩っていくこととしよう。


 ある程度腹が膨れてくると……いよいよ俺は、ビールを開けることにした。

 アイテムボックスから瓶を一瓶取り出し、中身をコップに注ぐ。

 まず注いだ感じはといえば……うん、泡立ちはバッチリだ。

 久々のこの光景はテンションが上がるな。

 グビッグビッと、四口ほど口に入れる。

 さすが「味も最高品質」と言われる麦を使っているだけあって、泡はきめ細かくて舌触りがよく、喉ごしもいい感じに炭酸が効いてまさに突き抜けるような美味さだ。

 それだけでなく……ヒマリのホップのチョイスが良かったからか、香りも前世で飲んだどのブランドのビールよりも好みど真ん中ときてる。


「プハーッ。ヒマリ、また今度前と同じ場所からホップを採ってきてくれ。この品種最高だから、今度は畑で栽培してみたい」


「わ、分かりました……。気に入っていただけたならなによりですー」


 そんな約束を取り付けながら、枝豆に手を伸ばす。

 口に入れると、枝豆は舌で軽く押すだけでホロリと崩れた。

 崩れた豆からはまろやかな旨味が広がり、こちらもまた至高の一品。

 自然とビールがグイグイ進み、気づけば一瓶空っぽになってしまった。

 ここまで満足できるとは……本当に、工場やらなんやら手配していろいろ作った甲斐があったな。

 酔いもいい感じに回ってきて眠たくなったので、俺は皿に浄化魔法だけかけて寝ることにした。


「おやすみ、ヒマリ」


「マサトさん寝るんですねー。明日の朝も、この美味しいご飯食べられるんですか?」


「ああ、刺身はまだまだあるからな」


「了解です。じゃあワタシはホップを採ってくるんで、マサトさんが起きるくらいになったら戻ってきますねー」


 そう言ってヒマリは、アパートかた発っていった。

 ドラゴンすらもリピーターにしてしまうあたり、さぞかし本当に美食って感じがするよな。

 ベッドに横になると、酔いと一日の充足感から一瞬で眠気が襲ってきた。

 瞬時に眠りに入った俺は、そのまま朝まで爆睡した。


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