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第20話 売りに行った――①

 翌日の朝。

 目を覚まし、歯磨き代わりに口内に浄化魔法を放った俺は……ベッドから起き上がると、まずは朝食を食べることにした。


 食べるのは、昨日収穫したトマトだ。

 なんてったって、「自分で育てた新鮮な野菜を好きなだけ食う」というのは、農家の醍醐味にしてロマンだからな。



「アイテムボックス」


 まずはトマトを一つ取り出し――


「浄化」


 水洗いする代わりに、魔法で表面をキレイにする。


 雑草も害虫も全部恵みの雨で退けてたので、このトマトは正真正銘完全無農薬の有機栽培だ。

 皮も極めて薄そうなので、むいたりせずこのまま食べて大丈夫だろう。


 というわけで……いただきます。


 ベッドが濡れないよう対物理結界を受け皿にしつつ、その場でトマトにおおきくかぶりつく。

 すると……口の中に、水気たっぷりの甘酸っぱい味が広がった。


「こ、これは……ヤバい」


 思わず俺はそう呟いた。


 社畜時代の家庭菜園でも、自分で育てたミニトマトは格別に美味しいと思っていたが……このトマトは何というか、そういった「思い入れ補正」抜きでも極上の美味さだ。

 気づいたら無詠唱で開いたアイテムボックスのトマトのアイコンに手を伸ばしてしまっているほど、やめられないし、止まらない。


 なるほど、鑑定が「味も最高品質」なんて言うわけだ。

 何なら売りになど出さず、全部自分で食べてしまいたいくらいだな。


 ……まあ自分一人では何年かかっても消費しきれないくらい収穫してるので、本気で独り占めする気は無いのだが。


「あと二つ……いや三つ食うか」


 追加でいくつかアイテムボックスからトマトを出して頬張ると、俺は重い腰を上げて朝の支度に入ることにした。


 これはトマトだけじゃなく、枝豆や黒豆の味にも期待できそうだ。

 アイテムボックス、内部は時間停止になってるし……大部分は売るにしても、一年は食べたいだけ食べれる量くらいは、自分用として取っておきたいものだな。


 枝豆といえば夜のツマミなので、そちらを食べるのは農業ギルドに行って帰ってきてからにしよう。


 などと思案しつつ身支度を整えていると、外出の準備が整った。

 そしてアパートから外に出た俺は、INTを落とした「飛行」で農業ギルドを目指した。



 ◇



「いらっしゃいませ……って、マサト様。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 農業ギルドに着くと、受付でキャロルさんにそう話しかけられた。

 そういえばキャロルさん、園芸用品店で会ったときはさん付けだったんだが……ドライアドの言語自動通訳って、そういうオフの時の細かい口調の違いとかも反映してるんだろうか?


 などと至極どうでもいいことを考えつつ、俺は用件を口にする。


「この前種をもらった作物を収穫したから、売りに来たんだ」


 すると……キャロルさんは、驚いてパチクリと目を見開いた。


「え……今何と言いました?」


「作物が収穫できたから、売りに来たんだ。トマトは29トンくらい、豆も1.5トンくらいあるぞ」


 なぜか聞き返されたので再度説明すると、キャロルさんは口をパクパクさせだす。


「は……早すぎませんか? あれからまだ二週間ほどしか経ってないはずなんですけど!?」


「それは半分キャロルさんのお陰だ。成長促進剤がダンジョンで入手できるって教えてくれなかったら、この爆速栽培は実現しなかったからな」


 早すぎると指摘されたので、俺は感謝を交えつつそう説明した。


「それ全然私の知っている成長促進剤と違うんですが……。一体どこで何をしたら月単位で成長を促進できる代物が手に入るんですかね」


「この街のダンジョンの81階層に行ったらあったぞ。ちなみに効果は1HA3Mだった」


「1HA3M……なんかもう訳が分からなさ過ぎて、聞かなかったことにしたくなってきました」


 キャロルさんはそう言って、頭を抱えた。

 なんでだ。朗報なんだから、シンプルに喜べばいいだろ。



「まあ、収穫時期がおかしいのは一旦置いておくとして……出荷手続きでしたら、倉庫で行うことになります。ついてきてください」


 しばらく待って、キャロルさんのが落ち着きを取り戻すと……彼女はそう言って、カウンターのスイングドアを開けて出てきた。

 そして俺はキャロルさんの後をついて、倉庫へと移動した。 

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