第16話 そして調達完了
次の青色の「▼」マークに到達すると、俺はそこにいた蛇を斬り、もう一個成長促進剤1HA3Mを入手した。
六か月も成長を促進することができれば、トマトはもちろん大豆も収穫期に到達するので、今植えているものに関してはこれで十分なのだが……どうせならアルヒルダケの分も取っておこうとおもい、次の「▼」マークを目指す。
だが……その道中、俺たちは予定外の別の魔物と遭遇してしまった。
——全身がガラスでできたトカゲの魔物だ。
「ヒマリ、あの魔物ってどんな特徴があるんだ?」
「そうですね……体表を熱膨張させてガラス片をまき散らす『爆砕脱皮』にだけ気をつけていれば、特に危険な魔物じゃないです。というかマサトさんの実力なら、今までの魔物全部五十歩百歩だと思うんで、何も気にせず一刀両断でいいと思いますよ?」
……それでいいのだろうか。
確か、ガラスって刃物で切れるようにできていない物質な気がするのだが……。
ま、どうせ討伐完了すれば光の粒子になって跡形もなく消え去るんだしな。
もし破片が飛び散って怪我しても、その後「ヒール」でもすればいいか。
一瞬いろいろ頭をよぎったが、結局俺は深く考えず、トカゲを斬ることに決めた。
いつも通り一瞬で迫り、首元に縦に剣を振り下ろす。
すると……俺は何の抵抗感もなく剣を振り下ろすことができ、トカゲの首は綺麗な切断面を見せた。
マジで切れるのか……。
全身ガラスとはいえ……これで死なないってことは、まあないよな。
警戒しつつも、一歩下がって様子を見る。
約一秒後、トカゲの魔物は光の粒子と化し、ドロップアイテムのみを残していった。
どうやら杞憂だったみたいだな。
「ね、だから言ったんですよ! マサトさんもその剣の切れ味も、何もかもがおかしいんですって」
「……何でお前が自慢げなんだ」
ふんぞり返るヒマリにツッコミを入れつつ、俺はドロップ品を拾った。
ドロップ品は、ガラスの靴だった。
とりあえず、鑑定。
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●yes!シンデレラクリニック
履くと一生絶世の美女になれるガラスの靴。ただし男が履いてもイケメンではなく美女になるので注意。
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……ここへ来てとんでもなく使えないのが出てきたな。
いや需要はあるところには確実にある品なのだが、俺にとっては使い道が無さすぎる。
せめてイケメンになれるのであれば、自分で使うのも選択肢に入ったが……それも不可能なようなので、売却あるのみだ。
ヒマリに渡してもいいのだが、そもそもヒマリはこんなもの使うまでもなく結構顔立ちが整ってるし、何より「ドラゴンの姿に戻れない」みたいな副作用があったら困るどころでは済まないので使う気にならないだろう。
<この階層にいる間、クリスタルリザードを示す「▼」を赤色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>
蛇の魔物が既に色分け済みなのでもう意味は無いのだが、一応ガラスのトカゲを示す「▼」も色付きになったようだ。
赤色は無視して、とにかく青の討伐だな。
などと思いつつ、俺は更にダンジョン内を進んでいった。
更にもう一匹蛇の魔物を倒し、成長促進剤をゲットすると……俺たちは、エレベーターのところまで戻ってきた。
「もう帰るんですか? まだダンジョンに来て2時間くらいしか経ってないですけど……」
「別に本腰入れて冒険者やるつもりはないからな。欲しいものが手に入れば、それ以上長居する理由はない」
「そうですか……。なんかもったいない気がしますけど……」
ヒマリは名残惜しそうにそう呟くが……確か「週一日の労働がメンタルヘルスにとって必要な全て」みたいな研究結果もあったはずだしな。
作物の収穫も目前、収入に困らないのは目に見えているのに、過剰に働いてどうすんだって話である。
「▲」ボタンを押すと、エレベーターのドアはすぐに開いた。
別に他の利用者を制限とかはしていなかったのだが……警戒されたのか、誰も使わなかったみたいだな。
エレベーターで1階層まで戻ってくると、俺たちは「階層探知」のマップで出口を探し、ダンジョンを出た。
「じゃあまたな、ヒマリ」
「はい! あのビニルハウスを使う時は、是非また呼んでくださいね」
そんな会話を交わしつつ、俺はヒマリに「隠形」の魔法をかける。
他の人から見えなくなると、ヒマリは人間の姿のまま空に浮かび始めた。
「……あれ、その姿で飛べるのか?」
「はい。別にドラゴンの時だって羽で飛んでるのではなく、飛行魔法で飛んでるだけなので……ニンゲンの姿でも、その要領で飛ぶこと自体は可能なんです! 速度は落ちますけどね」
だんだん距離が離れるので、ドライアドの通信に切り替えつつそんなことを話していると……ある程度高度を確保したところで、ヒマリはドラゴンの姿に戻って飛んでいった。
畑に帰ったら、早速成長促進剤を散布してみたいものだな。
これほどの促成栽培となると、いったいどれほどプレミアが付くか楽しみだ。
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