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第15話 ついに成長促進剤が

 再び「階層探知」の画面に目をやると……青色じゃなかった▼の大半が赤色に変色すると同時に、こんなアナウンスが流れた。


<この階層にいる間、エターナルクロコダイルブリザードを示す「▼」を赤色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>


 どうやら先ほどのワニを示す「▼」マークは、全て赤色に変色したようだ。

 それにより、この階層の「▼」マークは、たった一つを除いて全て青か赤となった。


 1階層にたった一匹しかいない魔物がいるとは、珍しいな。

 もしかしたら、俺たちはエレベーターですっ飛ばしてきたから知らないだけで、フロアボス的なものがいたりするんだろうか。


 そんな予想をしつつ、俺たちは赤でも青でもない「▼」マークを目指して移動したのだが……着いてみると、予想が完全に外れていたことが分かった。

 そこにあったのは、宝箱だったのだ。


 近くに階段があるわけでもないし……この宝箱がボスってことはないだろうな。

 魔物として表示されているということは、さしずめミミックとでもいったところだろうか。


「あれって開けたら何が出てくるんだ? 噛みついてくるとか……それとも、毒ガスを放ってくるとか?」


「さあ……ダンジョン固有の敵となると、ワタシもそこまで詳しくは……」


 ミミックと聞いて連想できるイベントをいくつか列挙しつつ、ヒマリに質問してみたが……ヒマリもこれは専門外らしく、首をかしげるのみだった。


 襲ってくるとかならAGIでどうとでもなりそうだが、毒ガスだったら嫌だな。

 確かスキルの中には「リアルタイムキュアー」なんてのがあったはずだし、一応それでも発動しつつ開けてみるか。


「リアルタイムキュアー」


 とりあえず想定できる範囲内で対策しつつ、宝箱を開けてみる。

 すると……中からは、黒紫色の長い舌が飛び出してきた。


 物理攻撃型だったか、杞憂だったな。

 などと思いつつ、舌を避けながら剣で一刀両断する。


 すると、宝箱全体が光の粒子を発しだしたかとおもうと……宝箱は外観がボロくなり、中にはカードが一枚残るのみとなった。


 これで討伐完了ってことでいいんだよな。

 見た目はワイバーン周遊カードと一緒だが、効果は違うかもしれないので、一応鑑定っと。


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 ●ダビングカード

 ダンジョンドロップのアイテムならどんな物でも複製できるカード

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 すると、カードの効果が表示された。

「なんでも育つ」の次は、「どんなものでも複製できる」、か。

 使いようによっては強力な効果を生み出しそうだが……とりあえず今まで入手したものに関してはいくらでも狩れそうなので、実際の使用はおあずけとなりそうだ。


 ……そうだ。せっかく鑑定を開いたついでに、この宝箱も鑑定するか。

 今までは魔物を倒したらドロップ品以外何も残らなかったが、今回はドロップ品とは別に残骸が残っているというのも、ちょっと気になるし。


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 ●ミミックの残骸

 討伐されたミミックの死骸。ダンジョン内で一定時間放置すると蘇り、再度討伐するとまたアイテムが得られるようになる

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 すると今度は、こんな説明文が表示された。


 これは鑑定してみて正解だったな。

 というのも……この鑑定結果からは一つ、興味深い仮説が立てられる。

 一定時間放置すると蘇るってことは……もしかしてこの残骸、エレベーターの付近に移動させとけば、毎度毎度エレベーターから降りた直後にダビングカードを入手できるようになるんじゃないか?


 ワニや熊ならまだしも、ミミックが自力で移動するとは考えにくいからな。

 この宝箱を移動させとけば、実質的にリスポーン地点を指定するようなことができてしまうかもしれない。

 そう考え、俺はこの宝箱をエレベーターまで担いで行くことにした。


「あれ、その宝箱、持っていくんですか?」


「ああ。ダビングカードのためだけにこの階層に立ち寄るなら、エレベーターから近くでリスポーンしてくれた方が助かるだろ?」


 この階層には、ほぼ熊とワニの二種類しかいないみたいだからな。

 この階層をメインで探索することは、もう今後一切無いだろう。


 である以上……この階層唯一の立ち寄る理由となる「ダビングカード入手」を時短できるようにしておけば、今後の狩りの時短になるというもの。


 エレベーターのところまで戻ってくると、俺は宝箱を降ろし、エレベーターに乗った。

 もう敵の強さは十分なので、これ以降は10階層飛ばしに降りる理由は無い。

 今度こそ成長促進剤を目指して、次は81階層に行ってみよう。



 ◇



 そして……ついに。


「おっ! あれは……」


 81階層で最初に出会った、大蛇の魔物を倒すと……今回は、園芸用品店で見たのとそっくりな缶がドロップした。


 やっと、成長促進剤がドロップしたか。

 確か……缶の表記を見れば、「どれくらいの範囲に何日促進する効果を及ぼすか」が確認できるんだったよな。

 そんなキャロルさんの説明を思い出しつつ、ラベルを確認する。


 すると……そこには、「1HA3M」という表記がなされていた。

 1HA3Mってことは……HAがヘクタール、Mが月だとすると、「1ヘクタールの畑の作物を、3か月間成長を早められる」ってことか。


 ……え!?


「う……そだろ?」


 店で見たものと効果の程が違いすぎて、思わず俺はそう呟いてしまった。

 いいのか。それが本当なら、俺の畑全域の作物がこれ1〜2缶で収穫期まで行ってしまうぞ。


 期待しておいて俺の思い違いだと悲しい事この上ないので、鑑定でも再確認してみる。


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 ●成長促進剤1HA3M

 3か月成長を促進させられる。希釈すれば成長促進期間を調整可能。クールタイムは、原液の場合4日

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 その表示内容は、確かにこれこそが俺の目的のアイテムであることを示していた。


「希釈すれば成長促進期間を調整可能」ってことは……一回一缶原液を撒いてから、四日後に二倍希釈のを撒くとかすれば、狙って収穫期まで持っていくことも可能ってことだよな。

 これはちょっと、店で見たものとはいい意味で話が違うぞ。


「収納」


<この階層にいる間、ゴールデン・ランスヘッド・サーペントの所在地を示す「▼」を青色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>


 成長促進剤をアイテムボックスに入れてから、「階層探知」に目をやると……そんなアナウンスと共に、階層全体の「▼」マークの3割程度が青く変色した。


 結構いるな。

 となると、成長促進剤にダビングカードを使うよりは、もう何体かさっきの蛇を狩った方が良さそうだ。


「目当ての物はこの階層で見つかった。もう少し探索するぞ」


 俺はヒマリにそう告げ、最短距離にある青色の「▼」マークを目指し始めた。

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