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第14話 すごいビニルハウスが手に入った

 問題は、どうやって効率的に別種の魔物にエンカウントするかだな。

 現状「階層探知」は、魔物の居場所を「▼」マークで示してくれるものの、魔物の種類まで教えてくれるわけではない。


 これがどういうことを意味するかというと……このまま「魔物を倒す度に次の最短距離の▼を目指す」という行動を繰り返した場合、運が悪ければ先ほどの熊の魔物ばかりに遭遇し続けることもあり得るのだ。

 そうなってしまうと、俺たちは延々とワイバーン周遊カードばかり集めることになってしまう。


 そうならず、仮に運よく成長促進剤をドロップする魔物を見つけたとしても……今のままだと、その魔物と同種の魔物だけを探すのは不可能だ。

 成長促進剤をドロップする魔物が分かったとて、「▼」マークがその魔物か熊の魔物かどちらを示しているのかが分からなければ、結局エンカウントする相手はランダムになってしまうからな。


 せめて今まで遭った事のある魔物に関しては、「▼」マークの色を変えることができればいいのだが。

 などと思っていると……奇跡が起こった。


<この階層にいる間、マイアズマグリズリーの所在地を示す「▼」を青色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>


 そんなアナウンスと共に……「階層探知」の画面上の「▼」マークの4割くらいが、青色に変わったのだ。


 マイアズマグリズリーというのは……確か熊は英語でグリズリーなので、先ほどの魔物で間違いないだろう。

 これで俺たちは、別種の魔物に会いたければ青色じゃない▼に向かえば良くなったということか。


 まるで「階層探知」が、俺の意思をくみ取りでもしてくれたかのようだな。

 ありがたく恩恵に授かるとしよう。


「次はあっちに向かうぞ」


「はい!」


 というわけで俺たちは、現在地から最短距離にある、青じゃない「▼」マークを目指した。



 5分くらい歩いて……次に俺たちが見つけたのは、ワニの魔物だった。


「ヒマリ、あの魔物は知ってるのか?」


「あー、見かけたことは無くはないですね。気をつけるべき攻撃は、凍てつくブレスくらいです。……あの魔物はさっきの熊とは違って、ニンゲンの姿のワタシでは太刀打ちできないので討伐はお願いします」


 ワニの魔物について聞いてみると、ヒマリはそう答えて頭を下げた。


 ……人化の術を使っている間は、本来のドラゴンの姿と比べ力が劣るということだろうか。

 まあそうでなくても、始めっから討伐は俺がするつもりだったので、そこは問題ないのだが。


 凍てつくブレスとやら、VIT次第では浴びても平気ということもなくはないのかもしれないが……それでも、敵の攻撃は受けないに越したことはないよな。

 AGIはさっきの戦いからマックスにしっぱなしだし、またサクッと一刀両断するとしよう。


 俺はワニの横に回り込み、その首をスパッと斬り落とした。

 そして元いた位置に戻ってきて、ワニの様子を見ていると……次第にワニは光の粒子と化しだす。


 ここまで来れば、討伐完了ってことだよな。

 さて今回は、いったいどんな品がドロップするのだろうか。


 期待しながら待っていると……今回は折りたたまれたビニルハウスが出現した。

 成長促進剤でこそなかったが、農業に関係のある特殊アイテムではあるみたいだな。

 などと思いつつ、鑑定を発動してみる。


 すると、こんな説明が出てきた。


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 ●アルティメットビニルハウス(小)

 4平方メートルしかないが、あらゆる植物にとって最高の環境を作り出せるビニルハウス。菌類を含め、この中で栽培不可能なものは存在しない

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 すごいアイテムなのは確かなようだが……正直、上手い活用法がパッと思いつかないな。

 それが、俺がこの説明文を読んで最初に抱いた感想だった。


「それは……どんなアイテムだったんですか?」


「アルティメットビニルハウスだとさ。よく分からないが……とりあえず、この中で栽培不可能なものは存在しないらしいぞ」


 だが……ヒマリはといえば、俺の説明を聞いて表情が一変する。


「栽培不可能なものは……存在しない!? え、て、てことは、まさかアルヒルダケさえも育てられてしまうという……?」


 どうやらヒマリには、「アルヒルダケ」なる育てたい植物(おそらく名前的にキノコ)があるみたいだった。

 この説明を聞いて目を輝かせているということは、通常栽培しにくいキノコなのだろうが……一体アルヒルダケとは何なのだろう。


「アルヒルダケって、どんなキノコなんだ?」


「アルヒルダケは、白魔病の唯一の治療薬の原料なんです。……五大極悪疾病についてはご存知ですよね?」


 質問すると、今度は「五大極悪疾病」とかいう、これまた聞いたことの無い単語が出てきた。


「五大……極悪疾病?」


「もしかして知らないんですか……。五大極悪疾病と言えば、専用の特効薬以外はエリクサーさえも効かない、致命的な五種の不治の病ですよ。白魔病も、そんな五大極悪疾病の一つなんです」


 更に詳しく聞くと、どうやら五大極悪疾病とやらは、まず治すのが不可能な難病みたいな位置づけのようだと分かった。

 白魔病……なんか名前的に白血病に似ているのだが、似たような病なのだろうか。


「白魔病って……魔力の癌みたいなものか?」


 自分で言ってて「魔力の癌って何だよ」って感じではあるが、まあイメージとしてはそんなもんだろうと思い、そう質問してみる。


「はい。実はワタシの母が、白魔病を患ってまして……あともう余命300年って感じなんです。こればっかりはどうしようもないと思って、悲観に暮れていたのですが……アルヒルダケが栽培できるかもしれないとなれば、少し希望が湧いてきました!」


 返事を聞いて、俺はなぜヒマリがあそこまで目を輝かせていたのかが分かった。

 確かに、不治の病による親族の死が確定していたところに治療法が見つかったとなれば、そりゃ一気に心が晴れるよな。


 ……にしては、引っかかる部分が一個あるのだが。


「だったら、なんで昔あのワニに会った時討伐しなかったんだ? ドラゴンの姿でなら勝てる相手なんだろう?」


「魔物からアイテムがドロップするのは、ダンジョン内部のみの仕様ですよ。外で魔物を倒しても死体が残るだけです。ドラゴンの姿ではサイズ的にダンジョンに入れないので、ここにドロップ品が何か知ってたとしても、倒しに来るって選択肢はありませんでしたし……」


 ……なるほど、そういう理由か。

 魔物からのアイテムドロップは、ダンジョンのみの特別仕様だと。


 ダンジョン外の魔物から何もドロップしないのであれば、かつてヒマリが同種の魔物に会っているのに、ビニルハウスについて何も知らなかったのも無理はないな。


 にしてもそういう理由なら……今までも結構役に立ってくれてるし、アルヒルダケとやらを育ててあげたいものだ。


「育成環境はこれで手に入ったとして……菌床は持ってたりするのか? 流石に元が無いと育てようがないのだが……」


「アルヒルダケは育成が困難を極めるだけで、菌自体は芽胞の形で至る所にありますよ! ……歴史上発芽した例が存在するのかは定かではないですが」


「……ボツリヌス菌かよ」


「何ですかそれ?」


 芽胞と聞いて、思わず俺は地球の細菌を引き合いに出してツッコんでしまった。


「……いや、こっちの話だ」


 しかしまあ、そういうことなら……栽培開始はいつでもできるってことだし、であればできるだけ早く育ててあげたいものだな。

 そのためにもまずは、今育ててる作物を急いで収穫して農地に空きを作れるよう、成長促進剤を入手しなければ。

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