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第12話 ヒマリ、怖がられる

 次の日。

 ドライアドたちと日課の水やりを済ませると、俺は成長促進剤を探しにダンジョンに行くことにした。


 まずはダンジョンの入り口がある所から三軒くらい離れた所にある武器屋で、ロングソードを一本購入する。

 理由は二つ、スキルは豊富にあるもののMPが少ないから、そして洞窟内のような密閉空間で魔法を使うのが少し怖いからだ。


 いくらINTが最大無量大数まで引き上げれるとは言っても、MPは10しかないからな。

 魔力が枯渇すると攻撃手段がなくなってしまうので、物理攻撃もできるよう武器を装備しておこうと思ったのだ。


 そして、魔法だが……流石にダンジョンの内部では、「ナノファイア」を使う気にはなれない。

 なんというか、あんな爆炎を空気の循環が悪いところで使うと、一酸化炭素中毒などの良くないことが起きかねない気がするからだ。

 かと言って、今まで使ったことのないような攻撃魔法を初見で使うのも、なかなか勇気がいるものである。


 なので今日の狩りは、基本的に物理攻撃を中心に進めていくつもりだ。

 もちろんいざという時には魔法を使うのも躊躇はしないが、それはあくまで最終手段というわけである。



 ロングソード、1本20000イーサもしてしまったが……まあ長く使えれば、いつか元は取れることだろう。

 ……大事に使いたいので、ちょっと補強でもしておくか。

 確か人生リスタートパックのスキル一覧に「魔法付与」ってのがあったし、それを買った剣に施せば、少しは丈夫さとかが増すかもしれない。


「みんな、少しの間だけシンクロ率を100%に戻してくれないか?」


 俺は魔法付与を施す前に、ドライアドたちにそう頼んでINTを最大値に戻した。

 付与の瞬間のINTで、効果の大小が変わる気がするからな。


「「「「はーい!」」」」


「じゃあ行くぞ……魔法付与——『鋭利化』『剛性強化』」


 INTが最大値になったのを確認すると、俺は魔法付与の一覧で出てきたもののうち、字面的に剣の強化に関わりそうな「鋭利化」と「剛性強化」を施すことにした。


「あとは……『物理攻撃無効貫通』」


<MPが足りません>


 そして、物理攻撃が効かない相手も倒せるようになればより一層魔法を使う必然性が減るのではと思い、「物理攻撃無効貫通」も付与しようとしたが……こちらはMP不足のせいでできなかった。


 まあ、MPはダンジョン内で何か倒せば増えたりしそうだしな。

 これに関しては、そうなってから必要に応じて付与するのでいいだろう。


「ありがとう。シンクロ率はいつものに戻してくれ」


「「「「はーい!」」」」


 付与が終わると、俺はシンクロ率を普段通りに戻してもらった。

 そして、ダンジョンの入り口に向かっていった。



 ◇



 ダンジョンの入り口に着くと……見知らぬ女の子に話しかけられた。


「マサトさん、こんにちは! 今日はワタシの方が先に着きましたね」


 見覚えの無い顔だが、発言内容から誰なのかは分かる。


「ヒマリ……だよな?」


「はい! ってマサトさん、剣買ったんですね」


 そう、これはヒマリの人間形態だ。

 流石に、ドラゴンをそのまま連れてダンジョンに入るのは難しいと思ったからな。

 ヒマリは人化の術が使えるドラゴンとのことだったので、人の姿になって待ち合わせしてもらっていたのだ。


「洞窟内で魔法を使って、不測の事態が起きたら嫌だからな。可能な限り、物理攻撃だけで敵を倒そうと思っているのだ」


「あー……いい判断だと思います。マサトさん、魔法を使うと歩く災害みたいなものですからね」


 もっと他に言い方無いのか、と思わなくはないが、まあ懸念してる事態は似たようなものだろうと思い敢えてツッコまない。

 すると……ヒマリは続けてこう質問してきた。


「でも……なんでダンジョンに行くのに、ワタシを呼んだんですか? どう考えてもワタシなんて居ても居なくても変わらないのに……」


 心底不思議に思ってそうな表情で、ヒマリはそう口にする。


「そういえば、説明してなかったな。お前が狩れる敵なら安全に狩れるから、基準として連れていくつもりだ」


「このワタシを基準にって……やっぱりマサトさんはマサトさんって感じですね」


 マサトさんって感じとは、一体どんな感じなのだろうか。

 勝手に形容詞を作らないで欲しいものだ、などと考えつつ、俺はダンジョンに足を踏み入れた。



 ◇



 しかし……ダンジョンに入ると。

 俺たちは、一つの問題に直面することとなった。


 なぜか俺たちは、いくら歩き回れど一向に魔物とエンカウントできないのだ。

 始めはダンジョンって渋いものなのかと思っていたが、「階層探知」というスキルを使いっぱなしにしつつ注意深く探っていると、どうやらそれだけではないらしいことが分かってきた。


 なんと……この階層の魔物たち、俺たちを避けるように移動しているようなのだ。

 それも避けられているのは、どうやら俺ではなく、ヒマリのようだった。


 なぜそれが分かったかというと……実験としてドライアドたちとのシンクロ率を下げ、INTやSTRなどを全部100まで落としても、依然として逃げられ続けたからだ。


 俺が避けられているなら、俺のステータスを調整することで状況を変えられるが……ステータスが可変ではないヒマリが原因となると、そういうわけにはいかない。


「これって……とりあえず、ヒマリが避けられない程度には強い魔物がいる階層に行かないと、話にならないってことだよな」


「そうなりますかね……。ワタシはあんまり気が進まないですけど」


「まあ実際の戦闘は俺がやるから安心しろ」


 というわけで俺たちは、まずある程度の階層まで、ひたすら奥に進み続けることが決まった。


 だか……そうなると、また一つ問題が発生する。

 そういった階層にたどり着くまでに、一体どれほどの時間がかかるか分かったもんじゃないのだ。


 ダンジョンの1階層はそれなりに広く……入り口から階段のあるところまで最短経路で歩いたとしても、10分はかかる距離がある。

 4〜5階層降りるだけならまだしも、もし数十階層も降りる必要があったとしたら、移動だけで今日が終わりかねない。


 つまり俺たちには、移動をショートカットする手段も必要ということになるのだ。



 幸いにも……その点に関しては、大いに役に立ちそうなスキルがすぐに見つかった。


 人生リスタートパックの中に、「特級建築術」なるものが存在したのだ。


 具体的なスキルの効果を把握しているわけではないが……もしこれで、ダンジョン内にエレベーターを作ることが可能だったりしたら。

 階層移動の問題は、解消されたも同然だ。


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