前へ次へ
101/106

リナ救出劇〜アリス、スチュワートと再会する〜

前半アリス視点、後半スチュワート視点

二つの指輪を貸し付けて『じゃ、がんばってぇー』と風の如く帰っていったルナ嬢。

行きは転移魔法で突然来たけと帰りは指輪がないので、正々堂々と玄関からお帰りになった。

「…嵐みたいな人だね…」

何故か体力を根こそぎ奪われた気がした。

「それより、アリス!本当に一人でリナ嬢を奪還する気か!?」

リュドが問いかける。

「勿論!」

この魔法の指輪があれば、ぱっと行ってぱっと帰ってこれるしね!

「だが、またあのような事が起きるかもしれない」

ザックが難しい顔をして言う。

確かにそうだ…。

はっきりいってあれは反則だと思う。

こっちが必死にやりくりしても土壇場で全てなかったことにされてしまうのだから。

いや、なかったことにされただけならまだしも、本来なかったことが、あったことにまでされてしまう。

まるで神様が定めた未来へと必ず到達しなくてはならないという規則でもあるかのようだ。

「確かにね。でも、思うに穴があるんじゃないかなって思うんだ。」

『穴?』

リュドの言葉に私とザックの言葉が重なる。

「そう。今回の裁判でそう感じたんだ。」

「どういうこと?」

「僕達はあの時間逆行に巻き込まれなかったし、記憶を失ったり、別の記憶を植え付けられたりもしていない。

だからこそ、リナ嬢が無実であると知っている訳だ。」

うんうんと私とザックは頷く。

「しかし、その他の人々は時間逆行に巻き込まれ、別の記憶を植え付けられてしまった。

…さて、この『その他の人々』とはどこまで適用なのか。

さらに、時間は実際どこまで戻ったのか。」

「え?」

そんなの私達以外全てでしょう?

戻った時間も精々数時間程度。

違うの?

「王城の外は範囲なのか。王城敷地内部までが範囲なのか、それとも国全てを巻き込んで時間は逆行したのか。

いや、世界を余すことなく時間は数ヶ月単位で逆行してしまったのか」

「えー…」

よくわからないけど、リナさんを殺すのが目的の時間逆行と考えれば世界の時間を数ヶ月単位で逆行させるのってちょっと効率悪い気がする。

「…戻ったのは精々王城敷地内、それも精々数時間程度なのではないのか?」

「そう、極めて限定的な話。だからこそ、今回の裁判に齟齬が生じた。」

『?』

「それ以上は戻ってない。だから、犯行の証拠なんてものはない。」

「成る程!」

ぽんっと手を打つザック。

えー?今の説明でわかったの?

私にはさっぱりだ。

「物事には経過と結果が必ず紐付く。

結果だけ弄ってもその過程の変化がなければ矛盾が生じる」

えっと…。

さしてよくない頭を回転させる。

リナさんは王家に弓を引くという犯罪を犯したという風に結果が弄られた。

でも、実際はやってないから本来犯罪を犯していれば存在していたはずの証拠はなかったってこと?

リナさんが裁判中事件は三つのパートに分かれるといってた。

計画、準備、実行。

このうち弄られたのは実行パートのみ。

計画と準備までは弄られてないからこそ、証拠を捏造せざるを得なかった…?

計画段階から弄ってたらそりゃ数ヶ月単位での逆行が必要にもなるし、関わっていた人達の人数だってもっと多くなってた…。

「でも、証拠が実際あろうがなかろうが処刑は確定してしまったわ。」

「そうだな。」

「僕はね、この流れをみて、まるで神の見えざる手によって決められた未来へと向かわされてるって感じたんだ。」

「!」

「…俺もそうだ。」

「ザックも!?」

「アリスもか。」

ザックが少し驚いて私を見る。

「そう、時間逆行に巻き込まれていなければ誰しもがそう感じる。

では決められた未来とはなんなのだろうか。

それはなんだかわからない。

けれど、決められた未来においてリナ嬢の死が必要であることは確実なんだ。」

「それじゃ…」

「たとえ、転移魔法を使って彼女を連れ出しても、きっとまたアレが起こる」

言われてぞっとした。

今回は運良く巻き込まれなかった。

でも次回はわからない。

いや、確実に巻き込まれてしまう。

そんな予感しかない。

「で?穴とやらがあるからつけ込めと?」

ザックが言う。

そうだ!リュドは最初に穴があるといった。

ならば…その穴とは一体?

「弄れるのは結果だけ。それこそが穴だよ。」

「過程は重視されないということか。」

「処刑までの二週間は何事もなく僕達は動けると思う。

それまでに、『リナ嬢が処刑された』という事実を作り上げて実は死んでないという状況を作る必要がある。」

「そんな都合よくいくの!?」

「僕達に出来るわけないでしょ?」

さくっと流すリュド。

「リュド…!」

私が言うより早くザックが制する。

「僕達?では他のものなら可能だと?」

「ふふ…僕はね、思うんだ。誰か特定の人間が死ななければ決して訪れない未来なんてろくなものじゃないって。

だから、そんな未来はお断りしたい。

その為にも彼女の救出は必須。

だけどリナ嬢の救出者は僕達よりも適任者がいると思うんだ。」

「適任者?」

「囚われの姫を助けるのは古今東西王子様の役目と決まっている…そうだろう?」

言われて私は一人の男性を思い浮かべる。

彼女の暴力によって無理矢理従わされていると思われていたあの人を。

「僕達が出来るのは彼を助けることのみ。

そこからは彼が動くことなのかと思うんだ。」

「…危ない橋は他人に渡らせるということか?」

ザックが意地悪なことをいうがリュドは全く意に返さない。

「充分僕達も….いや、アリスは危ない橋を渡ると思うよ?

これ以上ないほどにね。」





======スチュワート視点======

夜が巡り朝がくる。

それが当たり前な話なのに、私の夜は明けることがない。

当然だ。

私の太陽がいないのだから。

初めてお会いした時から変わらぬ輝きをお持ちのお方。

触れようと手を伸ばせば途端にその手を燃やし尽くされることはわかりきっておりました。

かつて愚かにもその太陽に手を伸ばし燃やされずに済んだ者がおりました。

燃やされないどころか、極寒の冬に苦しむそのものに春の如くの暖かさを与えておりました。

私も同じく寒さに震える子犬でございましたが、寒さに震えれば捨てられると思い必死で耐えておりました。

ええ、酷く羨ましくて仕方ありませんでした。

そして、そのうち暖かいふりをしている子犬より本当に暖かい子犬の方が愛されて当然なのではと思い、激情に駆られて捨てました。

私は暖かいふりしかできませんからね。

本当に暖かい子犬がいては捨てられるのは時間の問題。

ならば、捨てられる前に捨てるのは道理でしょう。

後悔?今更でしょう。もう一度過去に戻れたとしても私は同じ事を繰り返します。

あの時はああしなければ、私は私の立場を失ったのですから。弱肉強食は世の常です。

しかし、時を経て復讐にやってくるとはさしもの私も思いませんでした。

しかも、私達に復讐ついでに王家に弓を引くとは、中々残虐な犬に育ったものです。

そして、復讐は…まあ、成功でいいのではないですか?

お嬢様の処刑は確定、私は…お嬢様に同行の許可を得られませんでした。

これが罰なのでしょうか。

これからはお嬢様のいない世界でただ夜の街を彷徨うような生涯を送らないとならないのでしょうか?

これが罰ならば私は甘んじて受けなくてはなりません。

しかし…これはあまりにも酷い罰。

生き地獄が待ち受けている…。

いっそ、死んでしまおうか。

…いや、追ったところで、私の居場所はないのです。

そう思った瞬間悪夢が目の前を横切った。

「ああああ!」

耐えられず誰もいない留置所で叫んだ。

「うるせーぞ!」

留置所の外側にある扉の外側から声が飛び込んできた。

見張りの声だが、どうでもいい。

胸を掻き毟る。

シャツが引き裂かれ、血が滲む。

それでも悪夢は消えない!私は壁に爪をたててバリバリと引っ掻く。

爪が割れて血がこぼれ落ちた。

痛みでようやく我にかえる。

あの男とお嬢様の接吻がふとした瞬間に脳裏をよぎるのだ。

そのたびに嫉妬で気が狂いそうになる。

憎い!憎い!!

お嬢様の心を奪ったあの男が憎い!

憎い憎い憎い憎い!

私を捨てて別の男を連れて遠くへ行ってしまうお嬢様が憎い!

まさか、お嬢様を憎いと思う時がくるとは。

これが世に言う可愛さ余って憎さ百倍という奴なのでしょうか?

どうしましょう。どうすればこの憎しみを晴らすことが出来るのでしょう?

あの犬は私達を殺すことで晴らせたようですが、私の場合はそうではない。

殺して晴れる程生ぬるいものではない….!

なのに、殺すことすら許されないとは!!

「ああ!一体どうすれば!?」

「とりあえず、落ち着きませんか?」

ビクビクとした少女の声がして私は我にかえる。

留置所の外側。

それでいて扉の内側。

つまり、私の目の前に彼女…私の天敵がいた。






前へ次へ目次