第60話 雪月蝶の協奏撃
「これで逃げられないね!」
「くっ...ですが!──」
「──最終奥義!《雪月蝶の協奏撃》!!」
蝶の細工がされた銀の杖を掲げ、唱えるアリアちゃん。それと同時に杖頭に細工された羽を広げた大きな蝶が淡く光る。
すると、アリアちゃんを中心に...いや、杖を中心に風が吹き出し、一気に寒くなる。そして、何の変哲もないただの豪華な部屋だった(床を除く)のが一瞬にして雪景色と早変わり。もう既に床全体に1、2cmほど雪が積もっている。
何とか目を凝らし、アリアちゃんを見つめる。
「...。」
アリアちゃんの上に視線を向けて絶句した。現れていたのは直径5mの光り輝く氷塊。まるで月が登っていっているようだ。
「...まさか飛んでこないよね?」
いや、まぁ避けられないことはないけども。
──ピシッピシピシピシピシ.........
「!まだなんかあるの!?」
──パリンッ!!
割れた月。
その欠片が次々と姿を変えていき、最終的に氷の蝶へと変化した。
それらがバラバラに飛び立ち、蝶の軌跡が音楽の五線譜のようになっている。そして、音符が並び、音が奏でられる。それはまるで冬を表しているような曲だった。
「...これを1つのスキルだけで?」
あの金髪縦ロール少女が放っているという事実が恐ろしい。私でも分かる。...このスキルがとても特別なものだと。
「...行くのです!」
ただヒラヒラと舞い、音楽を奏でていただけだった氷の蝶がピタッと動きを止め、一斉にこちらを向く。そして、速さや距離もバラバラな上に変な軌道でこちらに飛んできた。
──♫──♪︎─♩︎──♬
足場が悪くなっているため、動きにくいが、なんとか避ける。が...
──...パリッ...ギィィィィィンッッッ!!!!
「うぅ!!!」
通り抜けた氷の蝶がパリンと割れ、黒板を強く引っ掻いたような不快な音が響いた。
これは精神的にキツいので大きめな動作で通り抜けた氷の蝶から距離を取っていく。
──ぎぃぃいぃぃぃいぃいぃぃ!!!!
──ぎぃいぎぃぃぃぃいぃいぃぃぃい!!!
「...アリアちゃんは大丈夫なのかな?」
耳を抑えながら避けていく。その間で考えるのはアリアちゃんのこと。
黒板を引っ掻いたような音がこんなに大音量で聞こえてくるのだから当然同じ空間にいるアリアちゃんも聞こえているはずだ。
だからちょっと心配している。
敵だけどまだあんなに小さいしね...。
「──《焔刃》」
刀を両手で持ち、刃が私と平行になるように地面に突き刺す。
──ビキビキビキビキ...ドゴォォン!!!
私の目の前に炎の壁ができ、辺りの氷や雪を溶かしていく。もちろん氷の蝶も例外ではない。
攻撃が止んだ後、《焔刃》による炎の壁が消え去った。《焔風刃》とは違い、MPを消費すれば消えない...なんてことは無いが、それでも結構燃え続けてくれるので捨てたもんじゃない。
「...嘘...でしょう...?...結構な速さ...でしたわよ...?」
ん?あの蝶ね。多分10m/sはあったんじゃないかな...?でも頑張れば避けれないことは無い...よね?
「...なるほど。これはあのセバスが負ける訳ですわ。」
「いや、セバスチャンさんは他の方がトドメを刺しましたけど...。」
「「......。」」
「...そうなの?」
「...はい。」
そうしてまた無言になる私たち。
「...多分貴女には敵わないから一思いにやっちゃいなさい。」
「...まだなにか隠してたりします?」
「...。」
「...はぁ。分かりました。でも恨まないでくださいね?」
「もちろんよ。女に二言はないわ!」
「では。」
「──また──で──」
首を斬るのと同時になにかを口にしていたアリアちゃん。また...なんだろう...?
まぁ、い──
─ガチャ
なーんか嫌な予感。
「アヤネたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!!!!!」
「またですか!!」
今度はしっかりと避け、突っ込んできたミューさんの足を引っ掛けて転ばせる。
「へぶっ!?...いたた...怒り顔も可愛い!!」
「......。」
何なんですかねこの人は...。
先行きが不安なアヤネたんであった。
○今日のスキル○
今日のスキルは《雪月蝶の協奏撃》です。
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【名前】武器スキル:《雪月蝶の協奏撃》 消費MP:全て
【効果①(LV.1)】半径100m四方を吹雪にし、氷で出来た満月を頭上に発現させることができる。
【効果②(LV.5)】発現させた満月を割り、その欠片を変化させ、氷の蝶へと変化させることができるようになる。そして、その蝶は命令することによって言うことを聞く。
【効果③(LV.☆)】氷の蝶がぶつかった相手を音によって振動させて攻撃することができるようになる。
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