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理想の姿



 ルークの住む家は王都にあるらしく、着くまでの間、私は彼から色々な話を聞いていた。


 私が消えた後、言いつけ通りにモニカさんの所へ行ったこと。それから魔法学院の入学まで、食堂で手伝いをしながらあのアパートで暮らしていたこと。


 それから6年間学院で学び、首席で卒業後、騎士団に入ったこと。強くなりたくて前線で魔獣と戦い続け、今では国で一番の氷魔法の使い手となったこと。その結果、騎士団の中では師団長になったこと、男爵の位を貰ったことを、一気に聞いたのだけれど。


 途中からあまりにも凄すぎて、アニメの主人公か何かかと思った。優秀の域を超えている。


「ありがとう、ルーク。すごく頑張ったんだね、こんなに立派になってくれてとっても嬉しい。本当にありがとう」


 そんな彼の姿を見れて、心の底から嬉しかった。あの日助けた少年が、こんなに立派になるなんて思いもしなかった。


 そしてあの頃、彼のために準備しておいたことが無駄ではなかったのだと知れて、本当によかった。


「全て、サラのお陰です」

「えっ?」

「貴女が居なくなって初めて、俺の為に色々な準備をしていてくれたことを知りました。そのお陰で、今の俺がいます。本当にいくらお礼を言っても足りません」

「そんな、全部ルークが頑張ったからだよ」

「そもそもサラがあの日助けてくれなければ、俺は死んでいたんです。貴方は俺の恩人だ」


 そう言ってルークは私の手を取ると、ひどく真剣な顔で私を見つめた。あまりにも熱い視線に、顔が熱くなる。


 ……感謝してくれるのはもちろん嬉しい。けれど全て私が好きでやったことなのだ。あまり気にしないで欲しかった。


 なんだか照れてしまい、無理やり話を変えようと、適当に思いついたことを彼に尋ねてみる。


「ルークも25歳なんだし、恋人とかはいないの?」

「いません」

「ルークはこんなにかっこよくて、何でも出来るんだもん。死ぬほどモテるでしょう?」

「……サラから見て俺は、格好いいんですか?」


 質問に質問で返されてしまった。


「もちろん。ルークが一番かっこいいと思うよ」

「…………っ」


 それは紛れもない事実だった。23年間生きてきた中で、彼は間違いなく一番のイケメンなのだ。むしろ、こんなとんでもないイケメンがあちこちに居ては困る。


 思ったことをそのまま伝えると、ルークの顔はあっという間に赤くなった。なんだか可愛い。そして彼はしばらく何かを考え込んだあと、私に尋ねた。


「俺は、格好いいんですよね」

「うん。かっこいいよ」


「今は身長も185センチあります」

「そんなに伸びたんだね、牛乳飲んでたもんね」


「学院も首席で卒業しましたし、国で一番の氷魔法使いになりました。騎士団の中でも上位の強さです」

「本当にすごいよ、天才だと思う」


「金も、かなり稼ぎました。これからも稼ぎます」

「さすがだね、頼もしいよ」


 なぜか突然、自己アピールのような物が始まった。


 初めはどうしたのだろうと不思議に思ったけれど、もしやルークは褒められたかったのでは、と気付いてしまった。彼を親目線で褒める人など、モニカさんしかいないのだから。


「これだけでは、まだ駄目ですか?」

「えっ、駄目なんてことないよ!理想の男性像だよ!」

「それなら、よかったです……」


 すると彼は急に、照れたように顔を窓の外に向けた。


 きっと、褒められて嬉しかったに違いない。少しだけ歳は上になっても、可愛いところは変わらないなと思った。


『えっ、好み? うーん、顔がかっこよくて、背が高くて、頭が良くて強くて、お金持ちな人』


 ……まさかそんな昔適当に言った言葉を、ルークはずっと気にしていたなんて、私は思いもしなかった。


「明日は非番なんです。サラさえ良ければ、モニカさんの所へ一緒に行きませんか?」

「えっ、いいの? すごく嬉しい、ありがとう!」

「色々、生活に必要な物も買い揃えましょう」


 モニカさんに会える。それは本当に嬉しかった。誰よりも私を救ってくれた人であり、第二の母のような人なのだ。


「お金、今はないけどまた稼いだら返すからね」

「サラが俺に残してくれたお金、いくらあったと思ってるんですか? いい加減に気にするのはやめてください」

「ご、ごめんなさい」

「はい、分かってくれればいいんです」


 なんだか早速、立場が逆転しているような気がする。



「これから、俺は人生をかけてサラに恩返しをしますから」

「あ、ありがとう……?」


 人生をかけた恩返しだなんて、ルークは本当に義理堅い子だなあと、呑気なことを考えていたのだけれど。


 まさか本当に、()()()()()()恩返しをしてくれる事になるなど、この時の私は知る由もなかった。



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