愛しい面影
「二度目の初恋を君に」が書籍化・コミカライズします!
詳しくはあとがき、活動報告にて……( ; ᴗ ; )
サラが大変なことになったという知らせを受けた瞬間、仕事中だった俺は執務室を飛び出していた。もしも彼女の身に何かあれば、俺はもう生きてはいけないだろう。
心臓が嫌な音を立て、指先から一気に身体が冷えていく。
「っサラ!」
彼女がいるという部屋へと全速力で向かい、ノックもせずにドアを開けた。だが、室内を見渡してもサラの姿はない。
そこにいたのはスレン様と、彼と向かい合うようにしてソファにちょこんと座り、菓子を食べている一人の少女だけ。
「ルーク師団長、お待ちしておりました」
「……サラは、どこですか」
そう尋ねたところ、スレン様は困ったように微笑み、向かいに座る少女へと視線を向けた。
少女は薄茶色の瞳で俺をじっと見つめており、その顔には何故か愛しい彼女の面影がある。
「わあ、イケメンなおにいちゃん! こんにちは」
イケメンという言葉を、俺は彼女の口から以外に聞いたことはない。まさか、と言葉を失う俺に向かって、少女、いや天使はにっこりと微笑んでみせたのだった。
◇◇◇
「ルークおにいちゃんって、アイドルみたい」
「アイドル、ですか?」
「知らないの? すごくかっこいい人のことだよ」
「そうなんですね。嬉しいです、ありがとうございます」
──まさかサラが試験薬を間違えて飲み、子供の姿になっていたなんて想像もしていなかった。
伝え方が他にあっただろうと思いつつ、6歳の姿の彼女は想像していた以上に可愛らしく、胸が締め付けられる。
数日経てば、効果は切れ元の姿に戻るようで。その間は彼女の側にいられるよう、スレン様が取り計らってくれた。
今はひとまず屋敷へ戻ろうと、サラと共に王城の門に待たせている馬車へと向かっている。
「ふしぎなお洋服を着た人がいっぱいだね!」
「サラにとっては、そうですよね」
物珍しげに辺りを見回す彼女は、精神年齢や記憶もまた、身体と同じ年齢になっているらしい。
つまり今のサラは、俺を知らないのだ。サラに存在を忘れられてしまうというのは、正直何よりも辛い。とは言え、たった数日だと思えば耐えられるだろう。
とにかく今は、この小さなサラを守らなければ。
……15年前、幼い俺を育て守ってくれていた彼女も、こんな気持ちだったのだろうか。そんなことを考えながらサラを抱き抱えると、「きゃっ」と楽しげな声を漏らした。
「ねえ、どこにいくの?」
「俺の家に行きます」
「知らない人の家は行っちゃダメって、ママが言ってたよ」
分かってはいても、やはり「知らない人」という言葉がぐさりと胸に突き刺さる。なんとか俺は安全な人間だとアピールすれば、納得してくれたようだった。
「あれ、ルーク?」
だがほっとしたのも束の間、門まであと少しというところで一番会いたくない人に
「……カーティス師団長」
「その子、どうしたの? なんかサラちゃんに似てない?」
「気のせいでしょう」
「いやいやいや、どう見ても小さいサラちゃんだけど」
カーティス師団長はこちらへと近づいて来ると、「こんにちは」と爽やかな笑顔でサラに話しかけた。
「こんにちは」
「かわいいね。名前、なんていうの?」
「さらです」
「だよねえ」
ほら、と言う視線を向けてくるカーティス師団長に、仕方なく事情を話すことにした。流石の彼も驚いたようで、俺の話を聞きながら、まじまじと小さなサラを見つめている。
「おにいちゃんも、すっごくかっこいいね!」
「ありがとう。よく言われるんだ」
「……サラ、そろそろ行きましょう」
今のサラならば仕方ないことだと分かっていても、彼女がカーティス師団長を褒めるのは非常に面白くない。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、カーティス師団長は俺を見て可笑しそうに笑った。
「ルーク、子供相手に焼きもち焼いてるんだ?」
「子供の姿だろうとなんだろうと、サラはサラですから。自分の妻が他の男を褒めるのは嫌です」
「こんな小さな子を妻って言うの、危ない香りがするね」
「…………」
──これから数日間、想像以上に大変なことになりそうだと思いながら、俺は深い溜め息を吐いたのだった。
お久しぶりです! いつもありがとうございます。
なんと本作が、書籍化・コミカライズします……!!
◇書籍 KADOKAWAビーズログ文庫さま 12/15発売
◇コミカライズ Flos comicさま 12月中旬に開始予定
書籍化やコミカライズに伴い、沢山の方にお手に取ってもらえるようタイトルを変更しています。私自身、元タイトルもとても大切なのですが、ご理解いただけると幸いです……!
書籍は改稿に改稿を重ね、サラとルークはそのままにお話自体はかなり変わっております! 子どもルークとの別れ、遠征シーンや結末までWEBとは別の展開になっており、書き下ろしシーンもたくさんです。
サラとルークが両思いになるまでを丁寧に書きました。
間違いなくパワーアップしておりますので、WEB版を読んでくださった皆さまにも楽しんでいただけるかと思います。
私にとって「二度目」は思い入れのある作品で、初投稿から一年半が経った今、こうして素敵な機会を頂けて本当に本当に幸せです……! 応援してくださった皆さま、ありがとうございます! サラとルークのお話を新たな形で皆さまにお届けできること、とても嬉しく思います。
詳細はあとがきやツイッター(@kotokoto25640)、活動報告などでお知らせしていきます。
作者マイページからお気に入りユーザー登録をしていただくと、通知が行きますのでぜひ♪
今後も番外編を更新していきたいと思っておりますので、引き続き「二度目」をどうぞよろしくお願いいたします!