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十八話『もうすぐ』

 いよいよ、マイホームのリフォームが始まった。

 和室は茶室仕様で渋く、寝室は大正モダンな雰囲気で、ダイニングはアメリカンに。

 国も時代も入り乱れる注文に、中村氏が根気良く付き合ってくれたお陰で、工事着工にこぎつけたのである。

 八月の盆明けに工事を始め、終了は約二ヶ月後。

 我々は、工事の様子をウキウキウォッチングしながら夏を過ごせる……はずだった。




「工事用の駐車場が必要ですなあ」

 着工直後にそう告げたのは、中本氏に紹介された大工頭だった。

 工事用の車両の駐車スペースを二台分確保する必要があるのは聞いており、

 ちょうどマイホームには二台分の余白があった。

 だが、そこに車を停めると、外壁工事用の足場を組むスペースが足りなくなるのである。

 幸いにもご近所に空き地があった為、我々はその空き地を二ヶ月間有料で借り受け、駐車スペースを確保した。


 

「電気の容量が、あまり高くないようです」

 工事が始まって一か月もしないうちに、中村氏が困り顔でそう告げてきたのだ。

 要は、すぐにブレーカーが落ちてしまうのである。

 古い住宅の為に容量が30アンペアしかなく、照明や冷蔵庫等の必須消費分に加えて、ドライヤーと電子レンジを同時に使えば、もうブレーカー落ちのリーチなのである。

 拡張工事には十万前後要するが、これは対応せねば不便である。

 我々は仕方なく、工事項目の追加を依頼した。


「気になったんでついでに言うが、アンテナが古いようじゃね」

 そう告げたのは中本氏ではなく、エアコン設置の下見に来た電気屋だ。

 なんとアナログ放送用のアンテナしか備わっておらず、その上固定ワイヤーも緩くなっているらしい。

 テレビを見る習慣は然程ないが、倒れては困るので、これも工事は必要だろう。

 リフォーム期間中は多忙で対応困難な為、我々は引っ越し後にアンテナ交換を検討する事にした。




 そんな想定外の問題は、後からホイホイ沸いてきた。

 一年間、家を探し続けた事もあり、中古住宅を見る目は肥えているつもりだったのだが、どうやら、まだまだだったようだ。

 その他、中村氏に追加で依頼した建具や扉の発注もあり、最終的なリフォーム予算は約500万にまで上がった。

 想定内ではあるが……痛い。

 私は少しでも貯蓄額を復活させる為、昼食は弁当を作る事にした。

 別に、健康診断でクソミソな結果を貰ったからではない。

 尿酸値だって、基準超えしていないぞ。

 脂肪肝なんで見た事も聞いた事も無い。






 ◇





「じゃあ、明日は、工事に差し入れした後で家具を見に行きましょうか」

 十月上旬の週末、夕食のサンマをつつきながら妻がそう提案してきた。

 確かに想定外の出費は痛いが、それはそれとして、徐々に完成形に近づく新生活の準備をするのも楽しいものである。

 想定外のリフォーム対応はひと段落したし、転居に伴う手続きや業者の手配も完了したので、異論はない。


 妻の提案を受け、私と妻とミミは、週末に車を走らせた。

 まず向かった現場では、若いあんちゃんが二人ほど、シートに座って昼食の弁当を食らっていた。

 菓子の差し入れは随分と喜んでもらえて、私としても悪い気はしない。

 それから我々は、リサイクルショップやホームセンター、インテリアショップをいくつかはしごした。

 茶室は料亭のような建具や、粋な和柄ウォールペーパーを張った襖で方針が定まってはいるものの、

 妻の希望でアメリカンビンテージスタイルとするキッチンや、

 大正ロマン風の照明・扉を設ける私の寝室には、相応の家具が必要となるのである。

 時代も国も統一感の無い家ではあるが、個々のコンセプトが明確なら問題はないのだ。



「おいパパ! これで爪を研いでいいか?」

「やめなさい、ミミ」

「じゃあパパで爪を研ぐぞ」

「やめなさい、ミミ」


 リサイクルショップで茶箪笥に爪を立てようとするミミを引きはがし、にやけながら家具を眺める。

 まだリフォームは完了していないし、リフォーム代の支払いも完了していないが、

 それでも我々の主だった作業は完了しており、この先は家具選びやら庭作りやら、楽しい事ばかりのボーナスステージなのである。


「随分と機嫌が良さそうね」

 妻にそう突っ込まれたが、妻の声もどこか弾んでいる。

 ミミも「子分まだか!」と毎晩ハイテンションではしゃいでいる。

 新居を探し始めてから一年と一か月、ついにそれが実るのだから無理もない。

 もっとも、我が家に向かえる新しい猫は、ミミとの相性を考えて子猫にする予定で、

 出産シーズンの春までミミの子分は増えないのだが……。


「それほどでもない。それより、そろそろ帰るとするか」

「あら、新しい家具は買わないでいいの?」

「どれも決め手に欠けるな。他の市まで探しに行くのもありだ。本棚とか、とりあえずは古いものを使いまわせる家具もあるからな。焦る必要は無いのだ」

 

 そうだ、焦る必要はない。

 もう新生活の到来は確定したのだから、新しい猫も、新しい家具も、少しずつ新生活を築けば良いのだ。


 加藤家住宅購入計画は、いよいよ終わりを迎えようとしている。

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