<< 前へ次へ >>  更新
73/236

73 ベリーパフェと不審な話

 休日のアイス屋の調理室に、甘い匂いがただよう。


 今日、アルメはパフェを改良するべく、盛り付け用のお菓子を作っていた。

 朝から調理室にこもってクッキーを焼き、プリンを作った。


 冷めるのを待つ間にキャラメルフレークを作って、今、フルーツを切り終えたところだ。ジャム作りは省略して、市販のものを使わせてもらう。


 必要なものがすべてそろったところで、冷凍庫からミルクアイスの容器を出した。


 パフェの盛り付け、スタートだ。


 先日ファルクに出したフルーツパフェは、カクテルグラスを使ったミニパフェだったが、今日作るのは通常サイズのパフェである。


 底の浅いカクテルグラスよりも縦長の、ゴブレットグラスを使ってみることにした。

 それほど大きなサイズではないが、前回よりは大きなパフェを作れる。


 まず一番底にキャラメルフレークを入れる。


 その上に苺ジャムの層を作って、またキャラメルフレークの層を作る。その上に、今度はブルーベリージャムを敷く。


 そしてその上にフルーツアイスを置く。今回は苺アイスとブルーベリーアイスとクランベリーアイスを選んだ。


 一口サイズの小さな玉を三つ、輪になるように配置する。これでフルーツアイスの層が出来上がった。


 ここまでで、グラスは八割くらいが満たされた。ここからは上部の盛り付けに入る。――パフェの華やかさは上の部分で決まるので、ここからが本番である。


 フルーツアイスの層の上に、大きくミルクアイスを乗せる。綺麗に丸く盛りつけたら、その隣にプリンを添える。


 プリンは朝一で作って冷やしておいたミニプリンだ。加熱の加減が難しかったが、上手くできてよかった。一口サイズで可愛らしい。


 一旦プリンを小皿に出して、小皿からミルクアイスの隣へそっと移す。ミルクアイスに寄り添うように、プリンが綺麗に並んだ。


 バランスを見ながら、グラスの隙間を埋めるようにフルーツを配置していく。


 使うフルーツは、グラスの層と同じく、苺とブルーベリーとクランベリー。

 スライスした苺を飾った後、ブルーベリーとクランベリーの粒を散らす。 


 最後にミルクアイスを白鷹ちゃん仕様に飾って、その後ろに星形のクッキーを添える。


 これで白鷹ちゃんベリーパフェの完成だ。



「色をそろえると、お洒落に仕上がるわね」


 完成したパフェを眺めながら、ふむ、と頷く。


 苺とクランベリーの赤がメインで、ブルーベリーの紫が差し色になっている。大きなパフェ第一号は、なかなか洒落た仕上がりとなった。


 これに赤色の花火を添えたら、さらに華やかで素敵なパフェになりそうだ。先日無事に小型花火の注文を受けてもらえたので、出来上がりが待ち遠しい。

 

「このパフェに合わせるなら、クッキーも苺味のピンク色にしたほうがいいわね。――では、いただきます」


 見た目を評価した後、アルメはパフェにスプーンを入れた。パクリと頬張って、思い切り表情をゆるめる。


「うん、美味しい! やっぱり生クリームも足したいわ。今度牛乳屋さんに相談してみよう」


 ミルクアイスに使う牛乳は、街の牛乳屋から仕入れている。あの牛乳屋は生クリームの製造もしているだろうか。今度仕入れられるか聞いてみよう。


 あとはムースやゼリーを作るゼラチンと、チョコもあればいいのだけれど……これらは手に入れるのが難しい。


 と、いうのも、ゼラチンもチョコも、製菓用のものは庶民の市場に卸されていないのだ。


 そうなると、業者から直接仕入れることになるが、小さな個人店の少量注文に対応してくれるかはわからない。ほとんどは大きな菓子店や、レストランの注文だろうから。


 でも、そのうち仕入れ方法を考えたいと思う。ゼラチンはともかく、チョコアイスは絶対に作ってみたいので。


 やはりミルクアイスを作ったからには、対となるチョコアイスも作っておきたい。アイス屋を名乗るからには、店にこの二種類はそろえておきたいところだ。


 

 あれこれ考え事をしているうちに、パフェをぺろっと食べてしまった。


 ……最近食べすぎな気がするけれど、これも仕事だから、ということで、目をつぶっておく。


 ベリーパフェの試作と試食を終えて、食休みをしつつ片付けに入る。――が、すぐに作業は中断された。


 カランカランと、玄関の鐘が鳴らされた。


 脇の窓から確認すると、訪ねてきたのはエーナとアイデンだった。アルメは急いで玄関扉を開けた。


「エーナ、アイデン、こんにちは! アイデンはもう怪我は大丈夫?」

「おう! 俺はもうすっかり。チャリコットの奴も近々退院予定だとよ!」

「それはよかったわ。――お茶を出すから、どうぞあがって」

「お邪魔しまーす!」

「お休みの日にごめんね、お邪魔します」

 

 二人を店の中に招いて、適当に座ってもらう。アイデンは戦地で怪我をしたそうだけれど、元気そうでよかった。


「もう少し早ければ、二人にパフェを出せたのに……自分で食べてしまって悔しいわ」

「なになに? また新作でも作ってたの?」

「俺ら別にアイスをたかりに来たわけじゃねぇし、気にすんなよ」


 水出しのお茶を出して、アルメもその辺の椅子に座った。

 落ち着いたところで、エーナが話を切り出した。


「――で、今日はちょっと報告があってきたの! 私たちの結婚パーティーなんだけど、近いうちにやっちゃおうか、って話になってね。アルメの予定はどうかな~ってわけで、相談に来たんだけど」

「あら、いいじゃない! 私の予定は気にしなくていいわ。二人の予定に合わせるから。いつ頃を予定しているの?」

「来月中はどうかなって」

「デカい戦が終わった後だし、この先しばらくは魔物なんざ出てこねぇだろ、ってことで。なるべく早めがいいんだけど、どうよ?」


 アイデンが言うには、濃い魔霧が出た後には、しばらく霧が出なくなるらしい。出たとしても薄い霧なので、小さくて弱い魔物しか発生しないとのこと。


 平和なうちにパーティーをしておこう、という提案に、アルメは笑顔で賛成した。


「私はいつでも大丈夫よ。楽しみにしていたから、むしろ嬉しいわ!」

「ありがとう。まだ確定してないけど、場所は東地区の第二教会広場を借りる予定」

「身内だけの気楽なガーデンパーティーだから、適当に呼びたい友達とか知り合いとか、呼んできていいから」

「じゃあ、ファルクさんも呼んでいいかしら?」

「お、おう……! 別にいいけど、身分とか堅苦しいことはなしの、無礼講で頼むぜ?」


 変姿の魔法を使っていれば白鷹だとバレないだろうし、素のファルクはぽやぽやとした人なので、庶民のパーティーにいても大丈夫だと思う。

 

 そう説明すると、アイデンも了承してくれた。

 

「みんなでお酒と料理を持ち寄って――っていうパーティーにするつもりなんだけど、アルメにはデザートを担当してもらえたら嬉しいなって思ってて。どうかしら?」

「もちろん、協力する! たくさん仕込んでおくけど、一応、近くなったら大体の参加人数だけ教えてちょうだい。とびっきりのアイスを作るから」

「了解。ありがとうね。楽しみにしてるわ!」


 さっき、エーナとアイデンにパフェの試作をご馳走できなくて悔しいと思ったけれど、よかったかもしれない。


 パフェのお披露目は二人の結婚パーティーに決めた。とびきり素敵なものを仕上げて、二人にプレゼントしようと思う。


 エーナとアイデン、そしてパーティーに集まったみんなが笑顔になるような、美味しくて楽しいアイスを作ってみせよう。



 そんなことを考えてニコニコしていると、ふいに二人が別の話題を出してきた。


 エーナとアイデンは二人で顔を見合わせたあと、なんとも微妙な表情を浮かべた。


「――それで、アルメ、ここからは別の話になるんだけど……」

「うん? どうしたの?」

「その、すげぇ言いにくいんだけど、ここに来る途中に、ちょっと変なモン見つけちゃってよ……」

「変なもの?」


 雰囲気の変わった二人を見て、アルメも真面目な顔になった。続くエーナとアイデンの話は、おかしな内容だった。


「アルメのアイス屋さんって、ここだけ、なのよね?」

「え? えぇ、もちろん」

「なんか通り沿いにさ、『ティティーの店』、もう一軒できてたんだけど……あれって、お前の店の二号店じゃねぇんだよな?」

「はぁ!?」


 アルメは目をむいて、大声を出した。もう一軒できているというのは、何かの怪奇現象だろうか……。


 ポカンとするアルメに、エーナが詳細を教えてくれた。


「大通りに面したところに新しい店ができてて、看板に大きく書いてあったの……『ティティーの店』って。『新しい極上スイーツ、貴人も夢中の氷菓子』っていう触れ込みで、垂れ幕まで下がっていたわ」

「えぇ!? なんで!?」


 一体どういうことなのだろう。たまたま店名が被っただけならわかるが、商品まで一緒なんてこと、あるだろうか。


 氷菓子を扱う店なんて、他にはなかったはずなのだけれど……。


 ……これはちょっと、調査が必要だ。

 

 アルメは神妙な顔で立ち上がり、エーナとアイデンは励ますようにポンと背中を叩いた。


<< 前へ次へ >>目次  更新