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第一四三話 普通の<超級>

(=ↀωↀ=)<まだ行けたよ連日更新


(=ↀωↀ=)<あと南海編下巻発売中


(=ↀωↀ=)<書き下ろし部分の情報とか結構色々出しました

 ■某月某日 レジェンダリア某所


「ハンニャってまだ普通だったのかしら……」


 とある森……いや、少し前まで森だった荒れ地を進む三人組。

 その一人、ガーベラはふとそんなことを呟いた。


「急にどうしたんですか、ガーベラさん?」

「んー、ほらね。こんな風にキャンディっていつもヤバいことやってるじゃない?」


 ゼクスの問いに対し、ガーベラはそう言って周囲の光景を手で示す。

 ここは邪妖精の巣食う迷いの森。

 しかしつい先ほど、キャンディの細菌散布によって生物を惑わす原因であった幻惑剤をばら撒く樹木が全滅。その範囲は複数の山々に及び、邪妖精自慢の天然要塞は丸裸になった。

 そうして下準備を終えた三人はこれから邪妖精をぶちのめしに行くところである。

 ここまでされる邪妖精の何が悪かったかと言えば『ここでは僕達が他の命を弄ぶのが正しいルールさ!』などと宣ったことと、キャンディの容姿を称賛していた旅商人一家を惨殺したことだろう。

 よりにもよってこの最凶犯罪者三人衆のうち二人分の動機の引き鉄を引いてしまった彼らが悪い。

 なお、ガーベラは付き合いである。


「こういう光景を見ると、ハンニャって私と同じで<超級>の中でもまだ普通だったんじゃないかなーって思うのよ……」

「ふむ」

「サンダルフォンが大きくて破壊力があるのは分かるし、そんなのが前衛超級職の速度で踏み荒らすのがヤバいのは分かるのよ? でもゼクスとかキャンディとかこの間の【魔王】を見てると、何だかシンプルすぎる気がするのよねー……」


 万姿の変形、国を滅ぼす疫病、無敵の夢。

 それらと比べればサンダルフォンは特殊性で大きく劣る。


「必殺スキルはかなり特殊だと思いますが」

「集団を撹乱するだけじゃない……。大きくて目立つし、タイマンならあんまり意味ないわ」

「?」


 ガーベラの発言に、なぜかゼクスは首を傾げた。


「ああ。なるほど。ガーベラさんはそう考えたんですね」

「……何か引っかかることでもあるの?」

「いえ、そのままならばガーベラさんの仰る通りだと思いますよ。ですが、この私の見立てではハンニャさんの戦闘スタイルには拡張性があります」


 ゼクスの言葉に、ガーベラは『あれより大きくなるの……?』と慄く。

 だが、ゼクスの言いたいことはそうではない。


「もしも誰かが使い方を矯正して、鍛え上げたのならば、ハンニャさんはむしろ一対一の戦闘でこそ化けます」


 『そうなったとき、初めて相対する人は気の毒ですね』とゼクスは他人事のように考える。

 なお、その気の毒な人は彼のクランのサブオーナーだった。


 ◇◆◇


 □■<王都アルテア>・王城・大ホール


 ハンニャについての情報をゼタは知っていた。

 “監獄”にいる<超級>としてゼクスから情報は流れてきていたし、そうでなくともレジェンダリアや王国で大事件を起こした人物だ。情報には困らない。

 注意すべきは<エンブリオ>の巨大さと空間シャッフル、そして空間ごと抉り貫く最終スキル。

 超大型目標への攻撃や集団の攪乱は得意だが、大雑把で個人戦闘型とは言い切れない。

 それが、ゼタの抱いた所感だった。


 しかし今、ゼタの前に立つハンニャは完全な個人戦闘型だった。


「……ッ!」


 ゼタは、想定外に苦しんでいる。

 今のサンダルフォンは第一形態……サイズで言えば第七形態の三〇〇分の一以下。本来ならばパワーダウンでしかない。

 だが……。


(違和……! 単純なサイズダウンではない……!)


 形態変化を持つ<エンブリオ>には二種類ある。

 発揮する力やサイズを抑えるために過去形態を用いるパターン。

 あるいは、ネメシスのように別の能力に偏重させるために異なる形態を持つパターン。

 サンダルフォンは前者――と見せかけた後者(・・)だ。

 この第一形態に第七形態ほどのサイズと質量、そして破壊力はない。

 総スペックでは第七形態が勝る。


 だが……速度に関しては第一形態が圧倒する。


(形態によって……補正するステータスが違う……!)


 AGI補正に秀でた第一形態。

 しかも、それを履くのは【狂王】……単純なステータスならば前衛超級職でも上位の怪物。

 今のハンニャの速度は、AGIに秀でた超級職で尚且つレベルが上のはずの超級職であるゼタと同等。

 さらに、タフさと一撃の攻撃力は言うまでもない。

 一対一の対人戦、それも重要拠点での屋内戦ならば第一形態を選ぶ価値がある。

 近距離での戦闘力も、中距離からの突撃力も、ハンニャが上回る。

 特に、中距離から加速して蹴り込んでくる一撃は超音速の重騎兵重槍突撃(ランスチャージ)に等しい。


(動きも、素人のそれではありません……!)


 まして、今の彼女はかつての彼女ではなく、フィガロとの特訓を経た後だ。

 恐らくは格闘系サブジョブからセンススキルも得ており、かつては皆無だった戦闘技術も目に見えて向上している。

 迷彩や空気の壁を駆使しなければ、速攻で真正面からゼタが蹴り潰されていただろう。

 可能な限り姿を晦まし、空気の壁で阻害し、遠距離から空気砲弾を引き撃ちする。

 その消極的な戦いでようやく拮抗している。


「……ッ!」


 とはいえ、本来ならばゼタには他にも打つ手があったのだ。

 巨大極まる第七形態ならともかく、人間の範疇で戦うならば彼女にはいくらでも打てる手があるからだ。

 魔法に長けたキョンシーだった迅羽とは違う。

 周囲の空気組成を変えるなり、核を使うなりすれば殺傷は難しくない。

 が、ゼタは今それをする訳にはいかないのだ。


(厄介ですね……この必殺スキルは……!)


 いま城内の空間は区切られ、シャッフルされているがゆえに影響がどこにどう波及するかゼタには分からない。

 そうなったとき、自らの目的であるミリアーヌが巻き込まれかねないのだ。

 ミリアーヌがいつどこからこの大ホールに飛び出してこないとも限らない状況では、毒ガスも核も使える訳がない。

 何なら空気砲さえ射角が制限される躊躇われる。

 ハンニャにその意図は全くないだろうが、防衛側が人質をとっているようなものだ。


(いえ、恐らく……)


 彼女にここを守るように指示したシュウは、それも織り込み済みだろう。

 単に内にいる人間を殺すなら外からどうこうすればいい。ギデオンを人質にとって脅し、レイを決戦の場に引きずり出そうとするフランクリンのように。

 そうするのではなくわざわざ忍び込んでいる侵入者には、単なる破壊や殺害ではない繊細な目論見がある。

 例えば、かつてのギデオンの事件のように誰かを生かしたまま連れ去りたい、などだ。

 その目論見を御破算にするリスクを侵入者に背負わせるために、シュウはハンニャをこの戦争の間、城の防衛に回していた。

 空間シャッフルや単純性能を無視して彼女を倒せる広範囲攻撃を封じた上で、それさえなければ攻略が困難極まる彼女を侵入者にぶつけるために。


(性格が悪い。あるいは……)


 可能性を掴むために手段を選ばない、ある意味では破壊的な思考をゼタは感じ取った。

 それこそ、先の<宝>の在処をバラした放送のように。


(遺憾ですが……思考はかなり<IF(犯罪者)>寄りですね、【破壊王】……!)


 万能性が売りのウラノスが、殲滅も制圧も封じられる縛り。DEX以外のステータスでハンニャが凌駕していることも含めて、ゼタは押され続けている。

 ステータス差ゆえに、接触して心臓を抜き取る行為もリスクが極めて高い。

 死角からの接近もサンダルフォンというもう一つの眼が見抜いてしまう。

 そして、厄介なのは戦闘力だけではない。


「こ」「こッ!」

「!?」


 眼前にいたハンニャの姿が掻き消え、一瞬で背後から飛び出して蹴りを放ってくる。

 空間跳躍を伴った純然たる暴力。

 しかしこれは……。


「違う……! 動いているのは私……!」


 切り替わる視界によって、ゼタはその秘密を理解する。

 相手の攻撃を回避するために動いた拍子に、異なる空間へと移動してしまった。

 ゼタがその移動先を把握する前に、予め移動先の地形を理解しているハンニャによって奇襲を受ける。


(けれど、空間が切り替わるラインはここではなかったは、ず……!?)


 思考しながら動く最中に、またも風景が切り替わる。

 それは、明確におかしい。

 サンダルフォンの必殺スキルによる『区分け』は一〇〇メテル四方。

 しかし今、ゼタは一〇〇メテルも移動していない。


(まさか……!)


 記憶の齟齬の理由を求めたゼタの背筋に、嫌な汗が伝う。


(必殺スキルの範囲が狭まっている(・・・・・・)……!?)


 能力の内容次第だが、必殺スキルはそのまま使うのではなく<マスター>の意図に応じたカスタマイズが可能な場合がある。

 分かりやすい例としては、テリトリーの圧縮。

 また、テリトリーでなくともジュリエットの《死喰鳥(フレーズヴェルグ)飛翔流星(ペネトレイター)》のように、<マスター>の技術研鑽で編み出すパターンもある。

 そして、サンダルフォンの《天死領域》にもその余地があった。


(【狂王】は、必殺スキルの調整を会得している……!)


 《天死領域》の効果範囲は本来一〇キロメテル四方。

 そして、範囲内の空間を一〇〇メテル四方で区切ってシャッフルする能力だ。

 だが、今の《天死領域》は……効果範囲を一キロメテル四方(・・・・・・・・)にまで狭めている。


(恐らく、『区分け』の数は変化していない。効果範囲を狭めることで、一ブロックが小さくなっている)


 現在のシャッフルは一〇〇メテル区切りではなく一〇メテル区切りにまで縮まった。

 街一つ覆う必殺スキルを、この城一つにまで狭域化。

 あるいはそれ以上に狭めることも可能なのか。


 目まぐるしく変わる風景。

 想定外の方向から蹴撃を放ってくる超音速の狂戦士。

 今この城は、どこから奇襲されるかも分からぬキルゾーンへと変質した。


「〜〜〜〜!」


 不利な状況を更に傾ける環境に、ゼタは言葉にならない悲鳴を上げる。

 この状況を打破する手段は、戦術核をはじめとする広域攻撃や毒性空気の蔓延だ。

 しかし繰り返すが……ミリアーヌがどこにいるかも分からない現状でそんな無差別攻撃は使えないのだ。

 クエスト(恩返し)のためにここまでやってきて、クエスト(しがらみ)のために窮地に陥っている。


(……悪辣! 広域殲滅できなければ、恐ろしい不利を強いられ続ける……!)


 光学迷彩(コードⅢ)のデコイに引っかかりやすい、というハンニャ本人のプレイングの癖がなければもう殺されていてもおかしくない。

 その欠点も『視えた瞬間に蹴り殺しに行く』という判断の速さゆえだ。これぞ【狂王】としか言いようがない。

 やはりハンニャも<超級>であり、恐ろしく面倒で強力な相手だ。

 しかし……。


「比較的……。それでもフィガロよりはマシです……」

「?」


 その呟きが聞こえたのか、殺人マシーンのようにゼタを狙い続けていたハンニャの動きが止まる。


「ねえ、あなた。さっきもヴィンセントに会うのを嫌がっていたようだけど、彼と何かあったの?」

「…………そう、ですね」


 唐突に戦闘を中断して質問を投げかけてくるハンニャ。

 ゼタはその質問を……ひとまず受け入れる。

 会話の間に息を整え、この窮地を脱する方法に頭を巡らせる。


(そう、必殺スキルの調整を会得しているといっても、本来の仕様に手を加えればその分だけ消耗も大きくなっているかもしれない。私との会話で時間を潰させ、MPSP切れで必殺スキルを解除させてしまえば……)

「何があったか教えてくれないのかしら?」

「……些末。いえ、大した話ではありません」


 思考する間にハンニャが再び攻撃態勢に入りかけたので、ゼタは言葉を繋ぐ。


「旧敵。私が昔、彼と戦ったことがあるだけです」

「あら、そうなの?」


 ゼタは頷きながら、過去の失敗を思い起こす。

 あれはフリーベル伯爵領での事件が起こる前……つまりは<IF>の初期メンバーと出会う前のこと。


「出奔。グランバロアを出て大陸に渡った私は、盗賊としての活動を始めました。けれど、大陸での最初の仕事で出くわした相手がフィガロだったのです」


 それは、ゼタにとって嫌な思い出だ。

 <超級エンブリオ>、超級職、超級武具。

 それらを得た当時の彼女は自分のことをそれなりに高く見積もっていた。


 が、その自信はフィガロによって木っ端微塵に砕かれた。

 あのとき、彼女は人間を相手にしている気がしなかった。

 『気配が違う』だの『音の通りが違う』だの、そんな理由でゼタの仕掛けた致死性戦術を軒並み回避。

 挙句に核の炎を突き破って恐ろしい形相(フィジカルバーサーク)で急接近してくるのだ。

 ハッキリ言って、指名手配早々にデスペナして“監獄”送りになっても不思議ではなかった。

 超級武具がなければ逃げられなかっただろう。

 それゆえ、今でもたまに夢に見るレベルのトラウマだ。


「……以上。私にとって初めて苦戦した相手が彼だったというだけの話です。だからこそ、あの頃よりもさらに強くなっている彼と遭遇したくありません」

「…………」


 ゼタは自分とフィガロの過去を語り終えた。

 『結構な時間を稼げましたが、あとどのくらい耐えれば必殺スキルは途切れるのでしょうか』と考えていると……。



「――そう、なのね」

 ――なぜか、ハンニャが両の眼を見開いてゼタを見ていた。



「……?」


 『おかしい。なぜそんな反応に?』とゼタは混乱する。

 だが、形相を変じたハンニャは「ウフフフ……」と不気味に笑う。


「ヴィンセントが、自分の初めての男(・・・・・)と……言うのね?」

「…………????」


 ゼタの混乱は深まる。

 『え? 話聞いてました? バトルしてボコられただけですよ? 初めて苦戦したのであって恋とかではありませんよ?』と言いたいが、ハンニャから発せれる威圧感はゼタに有無を言わせない。


「彼との思い出を、感情たっぷりに語って、夢にまで見ると宣う。挑発しているのね……泥棒猫」

「感情の種類にも言及して!?」


 滲ませていたのは恐怖と羞恥であって愛とか一ミリも入っていない。

 だが、ハンニャは聞く耳を持たない。

 持つようなら、彼女は<超級>にも【狂王】にもなっていない。


 ハンニャはフィガロと交際し、ラブラブカップルとなった。

 そんな彼女しか知らない者の間では、『イチャイチャしてるのが多少ウザったいけど<超級>の中では普通な人だよな』という意見もある。

 しかし、忘れるなかれ。

 彼女は、【狂王】ハンニャ。

 負の恋愛感情に身を委ねたときの彼女は、間違っても普通などではない。

 どれほど普通でないかと言えば。



「――《ラスト・バーサーク》」

 ――ここで最終奥義を躊躇わず使うほどだ。



「正気!?」


 否、これこそが【狂王】の狂気。

 このハンニャの凶行は、ゼタにとって最悪の流れだった。

 超級職最終奥義である《ラスト・バーサーク》は狂化(強化)スキルの最上位。

 自分が死ぬか目標を殺すまで作動し続ける最終暴走。

 STRとAGIを五倍化し、被ダメージは五分の一という超絶強化。


 何より最悪なのは――その間のMPSP消費が0になること。


 つまり、必殺スキルが解除される未来はなくなった。


「■■■■■■!!」


 そしてハンニャは人の喉が発しているとは思えぬ叫声と共に動き、



 ――超々音速の暴力でゼタを蹴り抜く。



 超過ダメージで【ブローチ】が判定も何もあったものではないほどに砕け散る。

 凄まじい威力に強大なノックバックを生じさせ、ゼタは幾度も《天死領域》のラインを越えていく。


「~~~~!」


 ゼタは目まぐるしく変わる景色の中を吹き飛びながら、この局面でもどうすれば打開できるかを思案する。

 既に蹴り飛ばしたゼタに追いつくべくハンニャは超々音速機動で迫ってくるだろう。

 最早速度では勝負にならない。アレから逃れるには、隠れなければならない。

 幸いにして、そうした能力には事欠かないが……。


(ただ隠れるだけでは、見つかってしまう……!)


 ゼタが思い出すのは、最初の奇襲。

 あのときのゼタは姿を消していたのにハンニャに察知されていた。

 恐らく、見える見えないに関係なく、空間シャッフルの区切りのラインを超えたことでサンダルフォンに察知されるのだろう。

 ゆえに逃れるには、何か工夫が必要だ。


(しかし、あれから完全に逃げ果せる準備には、時間が……!)


 だが、どうやって時間を作るかを考える時間すらゼタには与えられない。


「グッ……!」


 吹き飛ばされた勢いのままに壁へと激突し、大きなダメージを負う。

 咄嗟に圧縮空気のクッションを拵えなければ、このダメージで死んでいたかもしれない。

 暴力的なSTRを持つ相手からの直撃は、AGI型にとっては致命的だ。


(ま、ずい……このままじゃ……せめて……水……)


 どこかに水があれば、【水天一色】で液体に変じて隠れ、さらには肉体を再構成することもできる。

 だが、ここは侵入した水源でなければ、厨房でも浴場でもない。ただの廊下だ。

 あるものと言えば値の張りそうな絵画の数々と……。



「――は?」

 ――ゼタを驚愕の表情で見ている裏切者(モーター)の姿。



「スー……スー……」

 しかも、裏切者はなぜか腕の中に眠る少女……ゼタのターゲットであるミリアーヌを抱えている。



「――――」


 混乱、混迷、カオスの極み。

 だが、この場で最も早く状況を理解したのはゼタだった。

 彼女だけが何もかもを解決する、たった一つの策を閃いた。


 目の前には敵、後ろからも敵。

 前門のモーター()、後門の暴走ハンニャ()


 否、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』、そして『二虎競食』だ。



「――《天空絶対統制圏(ウラノス)》」

 ――ゼタは自身の必殺スキルを行使する。



 大気操作の精度の引き上げと範囲の拡大。

 しかし今は、自分と眼前の相手の周囲にその効果を限定し、集中する。


 空気を操り、モーターの腕の中からミリアーヌを飛ばして自分の元へ。

 次いで、自分の姿の光学迷彩(・・・・・・・・・)をモーターに被せる。

 さらに、モーターの発する音が外部に漏れないように真空で遮断。

 そして、自分とミリアーヌの姿を光学迷彩で覆い隠す。



 一瞬の後――空間シャッフルのラインを越えてきたバーサーク状態のハンニャがゼタ(モーター)を攻撃した。



「……………………!!」


 真空で音を断たれているがゆえに、モーターの悲鳴は聞こえない。

 モーターは先刻のゼタのように遥か彼方まで吹き飛び、ハンニャがそれを追う。

 隠れていたゼタには気づかぬまま。


(……成、功)


 裏切者を囮にし、隠れ、ハンニャを遠ざけた。

 仮にどこかでおかしいと気づいても、ハンニャの肉体はもう止まれない。

 ターゲットに設定されたゼタ(・・)が目の前にいる限り、最終奥義は暴走し続ける。

 自分の敵二人をぶつけ合わせ、ゼタは危難を逃れた。

 《天死領域》、《ラスト・バーサーク》、そしてモーター。

 彼女にとってのマイナス要因全てが噛み合い、奇跡的に彼女を生かす形になった。


「クー……クー……」


 さらに望外なことに……自身のターゲットであるミリアーヌも腕の中。

 なお、ミリアーヌはこの状況でもスヤスヤと眠っている。中々に図太い。


「…………はぁ」


 死ぬ思いをして……というか死ぬ半歩手前まで追い詰められたが、彼女は生き延びた。

 やり遂げたという思いで、息を吐く。

 かつて後ろから自分の心臓をぶち抜いたモーターへのリベンジもできたことも含め、彼女にとっては良い結果と言えるだろう。


(あとは、ミリアーヌを連れてこの城を脱出するだ……、……け?)


 しかし、そこで気づく。

 ハンニャとモーターを彼方に追いやったが……まだ何も終わっていない。

 《天死領域》は今も発動中であり、この城の内部は依然として迷宮。

 ゼタを殺すべくハンニャは暴れ続け、モーターも生きていれば必死にゼタ達を探すだろう。

 そんな中をゼタは【ブローチ】が破損した状態、且つミリアーヌ連れて突破しなければならない。


(……帰るまでが遠足と、本に書いてありましたね)


 ゼタのクエストは、ここまでで折り返し。

 ここからは、決死の脱出行が始まるのである。


 To be continued

〇モーター


(=ↀωↀ=)<強制バ美肉で囮にされた


( ꒪|勅|꒪)<そう書くとわりと最悪だナ……


( ꒪|勅|꒪)<というか、あれ食らって生きてるのカ?


(=ↀωↀ=)<眷属だから耐えられた……改人だったら耐えられなかった……


(=ↀωↀ=)<まぁ妖精巨人さんに限らず


(=ↀωↀ=)<人間ベース眷属って耐久力や生命力といった身体能力は人間だった頃と比べて跳ね上がるからね


(=ↀωↀ=)<ジョブを載せる土台の肉体がすごい強くなる感じ



〇ハンニャ


(=ↀωↀ=)<第一形態&必殺スキル&最終奥義で殴り合うとものすごく強い


(=ↀωↀ=)<まぁ最終奥義使ったから策に嵌まったんだけど

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