第一四一話 サプライズ
(=ↀωↀ=)<次の更新は明日と言いましたね?
(=ↀωↀ=)<明日更新(午前0時)
(=ↀωↀ=)<サプライズクリスマスプレゼント
□■<王都アルテア>・王城外
(……あれが<死神の親指>。ティアン屈指の戦闘集団とは聞いていましたが、明らかに準<超級>と同格かそれ以上ですね)
《視天使》によって正門で騎士や<マスター>達と交戦するゴゥルを視ながら、ヴォイニッチは『配下であのレベルですか……』と気落ちしていた。
(【死神】は軽く見積もっても<超級>……いえ、<超級>上位クラスは確定でしょうね。確実に退けなければいけない相手が強敵だと困りものですねぇ)
議長曰く、【死神】が【金剛力士】を動かしたことで今回の動きを掴めたらしい。
『【死神】自身の動きは読めなかったんですか?』と聞けば、『アレは私の管轄じゃない』という答えが返ってきた。
詳しく事情を聞けば、ヴォイニッチからするとどこかで聞いたような話が返ってきたので『どこの世界にもいるんですねぇ……ジャンル違い』と思ったものだ。
(ともあれ、侵入に関してはむしろ助かりますね。【金剛力士】に気を取られている間に通り抜けてしまいましょう)
ティアンとの接触と妨害は懸念点の一つだったが、これならば問題なく通過できる。
(しかし、様子を見ている間にライザー君達が先行してしまいましたね。……どうして私が城に向かうと分かったのでしょうか?)
『去り際の第三王女云々の話でアタリをつけられたのだろうか』と思うヴォイニッチだが、『追跡特化の<エンブリオ>にマーキングされている』とは考えていなかった。
ランカーの<エンブリオ>は概ね把握していたが、その中で特に警戒していたのは霞のタイキョクズだ。
しかし彼女が既に落ちていたことで、少し安堵してしまっていた部分はある。
まさかランカーでもなければギデオンへの援軍向きでもない奴が、増援を送るための教会に紛れ込んで自分をマーキングしてくるとは思わなかったのである。
(【死神】だけでなく、【盗賊王】も動いていますが……あちらはこちらと目的が違いますし、バッティングもしないでしょう。かち合ったとしても、残機の差で私の勝ちです)
思考しつつ、ヴォイニッチは《視天使》によるマッピングを進めていく。
テレジアの現在位置を把握し、最もロスなく、かつ手早く辿り着くルートを思案中だ。
(第三王女発見、……? モーター・コルタナはいますが、ドーマウスがいませんね。常に傍にいるという話でしたが、戦争中で管理AI側も余裕がない? それとも何か別の事情が……)
疑問はあるが、自室にいるのを確認できたのは大きい。
あるいは、先の王都襲撃で地下の避難シェルターが使えなくなった以上、逃がせる場所もないのかもしれないが……。
(これからどこかに移されるかもしれませんし、監視は続け……っ)
次の瞬間、テレジアを発見・監視していた《視天使》の映像が途切れた。
それを為したのはモーターであり、《視天使》に気づいて即座に潰したらしい。
(……気づかれないように動かしていたつもりなんですけどね)
付近にいた《視天使》も向かわせてみるが、今度は絵画や家具の変じた無生物眷属に襲われて撃破されている。《視天使》に戦闘力はないため、ひとたまりもない。
(完全に警戒されていますね。仕方ない。最新の位置を把握できないのは問題ですが、最終確認地点である自室をゴールと仮定してルート設定を……、……んん?)
テレジアの部屋以外の《視天使》の情報を確認しようとして、ヴォイニッチは混乱した。
「……え? まさか……ここで?」
なぜ混乱したかと言えば、集めていた情報の価値が無に帰したからだ。
何が起こっているのかは、現時点では彼にしか分からない。
ただ、ヴォイニッチは天を仰ぎ……溜息を吐く。
(ここにいたのは聞いていましたけど、まだいるんですか? ギデオンとクレーミルで決戦ですよ……? しかもこの分だと……最悪ですねぇ……)
ヴォイニッチは状況の悪化を嘆きつつ、再びルート設定のためのデータを集め始めた。
ある事情から……その作業は先刻までよりも遥かに難易度が高くなっていた。
◇◆◇
□■<王都アルテア>・王城内部
正門付近での戦闘を他所に、ゼタは王城内部を進んでいた。
同時にウラノスを介して空気を伝う音から状況を把握していく。
(<死神の親指>? 【アラーネア・イデア】の元々の所属ですか。……まさか私が知らない間にラ・クリマやラスカルが何か行動を? 戦争中は時間の加速もあってリアルでの連絡も取り辛いですし……)
何ゆえに<IF>と協力関係にある組織が今この城を襲っているのか、ゼタには全く理解不能だった。
とはいえ、今の混乱は彼女にとっては好機だった。
対応するための人員が正門の侵入者に向けられており、彼女が発見されるリスクは大幅に低下している。
城の内部構造は先の潜入時に把握済みであり、迷うことなく奥の居住エリアに向かう。
(この通路を進み、薔薇園を抜ければ近いはず)
居住エリアのどこにミリアーヌがいるかは分からないが、正門のように音を拾えばそう掛からず見つかるだろうと踏んだ。
何せ、幼い少女などこの城には二人しかいない。
少女の声を拾えば二分の一でミリアーヌだ。
どちらの声もゼタは知らないが……。
(……たしか第三王女は大きなネズミに乗っていたはずなので、動物の音がしない方に行けば良さそうですね)
そんなことを考えながらゼタは通路を進んでいき、進路の奥に薔薇園が見えてくる。
あそこを抜ければ居住エリアが近いと足を速める。
そしてゼタは薔薇園へと入り込み、
――彼女は大ホールに足を踏み入れた。
「……、……え?」
目の前に広がる光景に、思わず声を漏らした。
自分は花々に満ちた薔薇園に入ったはずなのに、今いるのはダンスパーティでも開かれそうなホールの中だ。
一瞬前の風景とまるで一致しない、理解不能な状況。
まるで世界の繋がりそのものがシャッフルでもされたかのような――。
「ッ!」
思考が先か、感知スキルが先か。
ゼタは咄嗟に空気の足場を蹴って更なる空中へと逃げた。
直後、彼女のいた場所に超音速の槍が突き立つ。
否、それは槍ではない。
突き立った何かは……長大な金属製の円錐。
それは円錐で完結せず、その先に別のものが繋がっている。
「――あら?」
円錐の先にあったのは、人の身体。
自らの奇襲が外れたことで不思議そうに首を傾げる女の姿。
その女の両足を、女の身長よりも長い金属の円錐が覆っている。
ヨーロッパで発達した足場竹馬のようだったが、放つ輝きと鋭さが剣呑すぎる。
「疑、問。なぜ、ここに……?」
その特徴的なシルエットを、『女性と長い脚』を、ゼタは知っている。聞いている。
かつて、自分達のオーナーと同じ場所に収監されていた<マスター>の名を。
「――【狂王】ハンニャ」
――“監獄”から出所した<超級>の名を。
「なぜも何も、今は王国の<マスター>だから王国のために戦っているのよ? ヴィンセントも頑張っているんだから、私も頑張って働かなきゃね」
長すぎる両脚でクルクル回りながら、共働きの新婚夫婦みたいなことを宣っている。
だが、その情報は無視できない。
「……質問。いつから、ここに?」
「え? 開戦前からよ?」
その答えに、ゼタは包帯の内側で『うそでしょ……?』という顔をした。
しかし、無理もない。
王国においてスケールでは最大戦力の一角だ。
それをまさか、開戦から三日……ずっとこの城の中に潜ませていた?
「けれどヴィンセントのお友達、シュウの読み通りね。『皇国がこの機に乗じて再び王城に仕掛けてくるはずだ。それも戦争参加者以外を使って』ってね」
「…………」
シュウは王国側の<マスター>では唯一人、テレジアの正体を知っていた。
だからこそ、王都襲撃事件での皇国の狙いにテレジアが含まれていることも察していたし、今度の戦争中にも同じことが起こらないとは限らないとも考えていた。
動き次第では戦争の趨勢に関わらず詰む、とも。
だからこそ、大戦力の一人である<超級>……ハンニャをこの城の防衛に回すようフィガロを介して頼んでいた。
そしてシュウの読みは、ある意味では正しい。
皇国のヴィゴマ宰相が【死神】に依頼したために、今この王城は襲撃を受けている。
護るためにハンニャを配したことは正しかったと言える。
(【破壊王】……!!)
もっとも……ここにいるゼタにとっては完全なとばっちりである。
オーナーを“監獄”送りにしたことといい、ゼタにとっては自分の予定をぶち壊すために存在しているような男だった。
「《天死領域》を使えば侵入者の進行を阻むのも、逃げる相手を閉じ込めるのも簡単だもの。正門での騒ぎを聞いて、すぐに発動させたわ」
居住エリアに繋がる薔薇園に入ったはずが、遠く離れた大ホールにいるのもそのためだ。
加えて、先ほどの奇襲も空間シャッフルによるものだろう。
ハンニャ……いや、<エンブリオ>であるサンダルフォンのみが空間の正確な繋がりが把握できている。
(内部の構造把握が無意味になりましたね……)
《天死領域》。ギデオンを巻き込んだ大混乱のイメージしかない必殺スキルだったが、拠点防衛に適しており……侵入者にとっては最悪の能力だ。
もはや覚えた地図は意味をなさない。
ハンニャが空間をシャッフルし直せば、目的地である居住エリアに辿り着ける可能性は恐ろしく低くなる。
そう、ハンニャを倒さなければ、ゼタは辿り着けず……何よりミリアーヌを誘拐した後に脱出することも叶うまい。
ゼタはここで、<超級>を倒さねばならない。
かつて、迅羽とこの城で戦ったときのように。
(……フィガロよりはマシでしょう。ええ、マシですとも……)
戦争前は誰とも戦わずに目的を達成できると思っていたのに、蓋を開ければ城の中で<超級>との一対一。
それでもゼタはまだめげていなかった。
これでめげるメンタルなら火星で生き残れない。
「小型化。ところで、オーナーから聞いていたよりも随分と足がスリムですが……」
「これ? 第一形態よ。屋内警備だから小さい方がいいでしょう? 最近のヴィンセントとの特訓ではこっちばかり使っていたし、必殺スキルも発動できるから問題ないわ」
サンダルフォンは進化の度に倍近いサイズアップを重ねてきた<エンブリオ>だ。
第六形態から第七形態への進化に至っては十倍以上のサイズアップをし、一〇〇〇メテルを超える巨大な<超級エンブリオ>と化した。
逆に言えば……その始まりのサイズはこの三メテル程度の足場竹馬ということだ。
それでも見上げる高さだが……天井の高い城のホールでならば戦うのに何の支障もない。
そして巨大さこそが特徴と思っていた相手だからこそ、こうして屋内戦で出て来られたときに意表を突かれた。
先ほどの奇襲もゼタの反応が一瞬遅ければ致命傷だっただろう。
「……納得。そういうことですか。ところでヴィンセントとは?」
ゼタは『第一形態への可逆性を持ち、尚且つ問題なく必殺スキルが使えるタイプの<エンブリオ>ですか。厄介……というか対人戦なら第一形態の方が強いかもしれませんね』と考えつつ、先ほどから聞いていて気になった人名について問う。
聞かなければいいのに。
「え? フィガロのことよ?」
「…………」
ゼタは『そういえばハンニャはフィガロの婚約者という情報が……』と<超級>についての情報を振り返る。
同時に『恋人のリアルネームをバラしてたの?』と思いもしたが、そもそも彼女自身が実名プレイであるのでリテラシーでは人のことを言えない。
「ああ! そういえばあなたって皇国の決闘王者なのよね?」
「……元。皇国を抜けたので、元決闘王者です」
『いいことを思いついた!』というハンニャの表情に、ゼタは何だか嫌な予感がしてきた。
「折角だからヴィンセントも呼ぼうかしら? 決闘王者との戦いならきっと彼も喜ぶわ!」
「やめて!?」
ゼタは本気で嫌がって素の悲鳴を上げた。
このままではクエストは失敗するし、デスペナで“監獄”に叩きこまれる。
そして決意した。『フィガロを呼ばれる前に彼女を殺さねば自分に未来はない』、と。
かくしてゼタの目論見は更に崩れ、ハンニャとの決死戦に突入する。
To be continued
(=ↀωↀ=)<サプライズ(ゼタへの)
(=ↀωↀ=)<でも作者も悩んだんですよ
(=ↀωↀ=)<フィガロとぶつけるかハンニャとぶつけるか
( ꒪|勅|꒪)<鬼かナ?