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幕間 自爆

(=ↀωↀ=)<23巻の原稿を担当さんに送れたので更新です

 □【堕天騎士】ジュリエット


 戦争三日目、レイ(とパレード)を護衛しながら空路でギデオンに向かっていた私達は、その途中で正体不明の影法師に襲われた。

 奇襲でボルヘッドが落ちて、時間稼ぎのために月影とルークが動いて、そのお陰で私とレイはギデオンに到着することができた。

 二人があの敵を引きつけてくれなければ、レイを護れなかったかもしれない。

 私だったら……特典武具の背水コンボを使って、【死兵】まで計算に入れてようやく勝負になるかどうかだったと思う。

 結果として、私とレイとパレードはダメージもなくギデオンに辿り着いた。

 今、パレードは(ビフロスト)を展開する準備で中央大闘技場に向かった。

 奇襲や介入を避けるために、結界を張った大闘技場の中で王都との門を繋ぐみたい。


「迫る決戦の足音……」


 今の時間は正午過ぎ。

 フランクリンの予告した日没までは、あと五時間弱。

 街の近くが戦場になるため、ギデオンの人達も準備に駆け回っている。

 私達みたいにこの街を拠点にする決闘ランカーもそれは同じ。

 これまでの戦いで死音や狼桜……多くのランカーがリタイアしているけれど、まだ私達は残っている。門が繋がればチェルシー達も王都からやってくるし、ギデオン周辺で活動していたハインダック達も決戦に備えている。

 相手は【大教授】フランクリン。<超級激突>があったあの日のようにモンスター軍団との戦いが想定される以上、戦力は少しでも多い方が良い。

 ただ、フランクリンの切札についての情報がレイのお兄さんから回ってきていたから、それもあってカシミヤ達はこっちには来られないらしい。


「運命の旗の下に」


 残るフラッグは、二つずつ。

 王国は<命>のレイと、所在不明の<宝>。

 皇国の<宝>はあのメッセージが真実ならフランクリンの手元にある。

 <命>の方は個人生存型と思われていた<超級>を二人も抱えたからそのどちらかに預けたと思われていたけれど、結局は彼らが脱落した後も<命>は健在。

 だからきっと皇国の最強戦力かつ皇王の最も信頼する<超級>……【獣王】が<命>でほぼ確定。

 皇国の<砦>が先に落ちているから、このままタイムアップなら王国の勝ちだけど、それを防ぐためにフランクリンはレイを呼び出した。

 ギデオンを攻撃する脅しはあっちにとっても諸刃の剣だけれど、レイが出て来なければきっと実行する。

 それをレイも分かっているから、ここまで来た。

 そして、フランクリンも自分の脅しでレイがそうすると分かっていたんだ……。

 お互いに通じ合っているようで、けれどお互いを決して認めない。

 その関係を宿敵と言うのかもしれない。


「宿縁の最果て……」


 私達にできるのは、レイがフランクリンに勝てるようにフランクリンの戦力を削ること。

 あの日、あの時、闘技場に閉じ込められていた私達にはできなかったことをした<マスター>達がいた。

 それを、今度は私達がするんだ。

 とりあえず今は決戦の時までレイの護衛を……。


「ジュリエット、少しいいか」

「レイ?」


 私が意気込んでいると、レイに声を掛けられた。


「少し買いに行きたいものがあるんだけど」

「最後の清算?」


 決戦前に回復アイテムや最終装備を買い揃えるお買い物タイムはRPGではよくあるよね。だけど……。


「一寸先は漆黒の深淵……」


 今は買い物一つするのもノーリスクじゃない。

 王都やギデオンは戦争前に皇国側の<マスター>を探して排除して回った。

 特に今のギデオンは警戒が厳重で、探知系の<マスター>や伯爵お抱えの忍者集団によって他国の<マスター>が入れないようにもなっている。

 けれど、それだって取りこぼしはあるかもしれない。

 それに王都教会であった戦いみたいに、王国から寝返る<マスター>もいる。

 そういった人達が<命>のレイを狙う恐れはある。

 もちろん私も護衛するけれど、相手の<エンブリオ>の能力次第でリスクは跳ね上がる。


「分かってる。けど、あいつと決着をつけるためにこの時間でやっておきたいことがあるんだ」


 そう言うレイの眼には、いつかのように強い意志が見えた。

 もう何度か見ている、レイのこの眼。


「……汝の望みを唱えよ。我はその望みを助くる者なり」


 その眼を見たら止めることはできなくて、背中を押したくなる。


「ありがとな、ジュリエット」

「護り手を集う。行き先は何処」


 とりあえず何を買いに行くにしても私以外にも護衛集めなきゃ。

 ロードウェルはともかくハインダックはそろそろ動けるかな。

 あともう集まってる中で有力な人は……。


「それが買いたいアイテムは決まってるんだけど、売ってるところが分からなくてさ」

「?」


 レイが普段通ってるのってアレハンドロ商店だよね?

 あそこってかなり品揃え良かったはずだけど、欲しいのはそこでも取り扱ってないようなレアアイテムなのかな?


「出来れば王都の魔王商店に寄りたかったんだけどな。あのときは急いでギデオンに向かう必要があったから寄れなかったんだ」


<砦>の攻防の後、皇国側の妨害が動く前にギデオンまで移動しなければならなかった。

 そのため、レイは何か準備不足になってしまったのかもしれない。


「所望するは如何なる秘宝」

「ああ。俺が探しているのは――――――だ」

「…………え?」


 一瞬、自分の耳が遠くなったのかと思った。

 聞き間違いかと思ったくらい。

 念のために、もう一度聞いてみよう……。


「ワンスモア」

「ん? だから、自爆アイテム(・・・・・・)探してるんだよ」


 …………どゆこと?


「できれば使ったら自分も相手もHPがゼロになるような強力で、一度に何個も同時に使える奴がいいな」

「……汝は<命>」


 それって絶対にこの戦争で使わせる訳にはいかない類のアイテムだよね?


「ん? ああ、違う違う。戦争に使う訳じゃないんだ。ただ、俺がそれを所有しているかどうかで……フランクリンとの戦いでできることが変わるんだよ」

「?」


 レイの言葉の意味は分からない。

 戦争に使わない自爆アイテムなのに、持ってるとフランクリンとの戦いが変わる?

 ただ、彼の眼にはハッキリとした覚悟と展望が見える。

 私には考えつかないことをレイが考えることは今までもあったから、きっとその類の何かなんだろうと察した。

 そして奇しくも……私はそういうものを取り扱っているお店には心当たりがあった。

 ……まぁ、戦争に使うんじゃないならいいのか……な?


 ◇


 その後、私はレイと一緒に多くの商店が連なるギデオンの四番街を訪れた。

 レイの周囲には私をはじめとして複数の<マスター>が護衛についた万全の態勢でのお買い物だ。

 そして私は、お気に入りの店までレイを案内した。

 呪いのアイテムまでところ狭しと並ぶそのお店で、「これだ!」と声を上げたレイが購入したのは……【レックレス・グラスプ】という手袋だった。

 発動すると自身のHPを全損(・・)させ、手袋で掴んでいる相手に失ったHPの二倍の固定ダメージを与える呪いのアイテム。大昔の自爆装備。

 両手で掴めば効果も二倍になるらしい。【決死隊】のスキルとも併用できる。

 とはいえ、やっぱりどう考えても<命>のレイには絶対に使わせられない代物だ。

 けど、レイはそれに加えて、HPを増加させる装備品……ブーツや外套を購入していた。

 露骨な自爆用の装備構成。

 けれど手袋、ブーツ、外套はいずれもレイの持つ特典武具の装備箇所。

 ……それらを外してまで自爆装備を用意する必要ってあるのかな?


「……これでいいの?」


 思わずそう聞いてしまう。


「ああ、これでいい。これで……確率(・・)を上げられる」


 そう言うレイは何かを思案しているようだった。

 意味は分からないけれど、レイの眼には何かに対する確かな勝算が見えた。


 その後、守りの厚い中央大闘技場に移動したレイは……そのまま眠りについた。

 それは一見すると決戦に備えて体力を回復させるための行動に見える。

 けれど眠る前に私が見たレイは……いま正に戦いに赴くような顔をしていた。


「……頑張ってるんだね」


 レイが何を考えているのか、何をしているのか、私には分からない。

 けれど、彼が何かを終えて目覚めるまで私が護ろうと思った。


 ◇◇◇


 □【聖騎士】レイ・スターリング


 思いついたのは、いつだったか。

 あるいは、斧の試練で【死霊王】やかつての【破壊王】と戦ったときにうっすらと気づいていたのかもしれない。

 この試練では、ネメシスは使えない。

 特典武具も使えない。

 使えるのは普通の装備群とシルバー、ジョブスキルだけだ。

 俺の戦闘スタイルのほとんどは、意味をなさない。

 ジョブビルドについてもそうだ。

 【死霊王】との戦いでこそ【聖騎士】のスキルが役だったが、他はそうでもない。

 【死兵】で耐えても、【決死隊】で倍化しても、受けたダメージを叩き返す(ネメシス)がない。

 しかし逆に、だ。

 数々の試練で打ちのめされたときも、【死兵】が発動中はまだ終わらなかった。

 そう、【死兵】は有効だ。HPがゼロになっても《ラスト・コマンド》の効果時間中は俺の負けじゃない。

 そう、つまりは……。


「この攻略法は……ありなんだろ?」

『使用不可能条件に抵触する装備はない』


 斧の返答に、俺は拳を握りしめる。

 【瘴焔手甲】ではないアイテムを装備した拳を。

 そう、特典武具の代わりにHP増幅装備と【レックレス・グラスプ】を身に着けて、俺は試練に挑んでいる。

 自爆装備による大ダメージをぶつけての敵性ユニット撃破。

 戦闘の度に肉体と装備が復元され、かつ何度でも挑戦できるからこそ可能な手段。

 繰り返す戦いで相手の動きを見切り、自爆装備のスキルを当てて、自分は《ラスト・コマンド》で生き延びる(・・・・・)ことで相手が先に倒れる。

 恐らくは今の俺が試練を攻略する数少ない手段、それがこれだ。

 そのために、無理を言って装備を整えた。

 フランクリンとの決戦の前に、少しでも制御権を獲得し……斧を使える可能性を引き上げるために。


「よし! 始めてくれ!」

『それでは、試練を開始する』


 そして万全の状態で試練は始まり……。



 俺の前に立っていたのは――最早見飽きるほど見た王の姿。



「……待って、初手【覇王】は待――」

 ――次の瞬間に俺は消し飛んでいた。


 【レックレス・グラスプ】で相手を掴む余裕など、あるはずもなく。

 …………これ、決戦までに何人倒せるかな。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<特典武具と<エンブリオ>以外は使えるので


(=ↀωↀ=)<【死兵】とか入ったビルドならわりと最適解


(=ↀωↀ=)<まぁ、自爆でどうにもできない奴ほどよく出てくるのが試練だし


(=ↀωↀ=)<自爆で倒せる奴でも当てるのは難しいけど


(=ↀωↀ=)<これ以外だとそもそも今のレイ君じゃダメージソースが足りないからね

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