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第一三三話 眷属器 前編

(=ↀωↀ=)<連続更新五日目突入


( ꒪|勅|꒪)<……前編?


(=ↀωↀ=)<はい


(=ↀωↀ=)<……さらに膨らんで六日目突入します


(=ↀωↀ=)<ていうか多分、Result込みで七日連続になります


( ꒪|勅|꒪)<毎度事前の想定と実際の執筆でボリューム変わりすぎだロ

 □■アルター王国・<サウダ山道>南部


 眷属。

 【邪神】と【色欲魔王】が生み出す人でもモンスターでもない存在。

 モンスターの身体性能と、眷属器と呼ばれるジョブの器のコピーを併せ持つ。

 モンスターの眷属が得られる眷属器は、個々の性質によって異なる。

 元々が【三重衝角亜竜】であったマリリンは、その生まれと戦い方ゆえか【衝神】の眷属器を得た。

 では、【ハイエンド・ドラゴニック・レイス】……元は古龍人であり、超級職であったタルラーは如何なる眷属器を得るのか。

 最も新しき【邪神】眷属のように、生前と同じ超級職……【邪仙(マスター・ダーク)】の器を得るのか。

 死霊(レイス)という今の身の性質から、【死霊王】の器を得るのか。

 あるいは……他の何かか。


『《一刀両断()》/《霞の太刀()》――』


 しかし、その答えが示されるより早く、影法師はタルラーを殺しに掛かる。

 これまで通りに出し惜しみなし、クールタイムがあけた直後に最短の有効打。

 何より【影打】を作成した滅丸もまた【邪神】眷属……既知の強化を見過ごすはずもない。


『――《雲鷹()》/《破魔()》――』


 影法師は自らの必殺剣に霊体特効スキルを重ねる。

 そして……。


 

『――《大蛇》』

 ――刃は振り抜かれ、回避不能の必殺剣は狙い過たずその首に届いた。



 一瞬の後に霊体の首に一筋の線が走り、頭部は胴体から離れて宙を舞う。

 そして……。



『――なるほどなぁ』

 ――タルラーは両手(・・)で自らの頭部を掴み取る。



『…………!』

『フフフ、フハハハハハ……!』


 失われたはずの左手がそこにはあり、見れば右足までも生えている。

 霊体特効で頭部を斬り飛ばされたのに支障なく言葉を発している。


『なるほど、なるほど、なるほどなぁ! 余の場合は……こうなる(・・・・)のか!』


 タルラーがそのまま無造作に首の断面に自らの頭部を載せれば、何事もないかのように繋がった(・・・・)

 傷跡は、跡形もない。

 寸前までの彼女では、こんなことはできなかった。

 ならばそれは彼女が得た眷属器の力に他ならず、そんなことが可能な超級職は……。



『外法ではあるが……届いたぞ! 黄龍人外(親父様)!』

 眷属器――【龍帝ドラゴニック・エンペラー】。



 それはきっと、この世でタルラーだけが得る眷属器。

 古龍人の一人であり、かの三強の一角の娘であり、そうなる(・・・・)ために邪法に関わった者。

 だからこそ、例外的に写し取られた。生前の彼女が求め……しかし届かなかったものが。


『《ウィンド・ブレス》、《雷龍》』


 影法師が追撃として、撒いていた符を利用する。

 ルークとタルラーによって設置範囲から回避されていた符を、下級の風属性魔法で吹き飛ばす。

 そしてタルラーを取り囲むように再散布した符を起動し、《雷龍》を放つ。


『効かぬよ!』

 しかし雷光の嵐はタルラーから溢れ出す《竜王気(オーラ)》に弾かれ……届かない。


 再生能力と《竜王気》。

 幽体なれど、その力は正に【龍帝】そのもの。


『ハハハ! これが【龍帝】! 古龍人(我等)の結晶! 余が言うことではないが、これはもう……人間(・・)ではなかろうよ』


 ハイになりながら、タルラーは笑う。

 しかしその言葉にはなぜか……納得と憐憫が混ざっていた。


「どうやら、良い結果だったようですね」


 高揚する自らの眷属にルークは特に驚く様子もなく話しかける。


『おぅ、るぅくよ。全く以て最高だ。……しかし、眷属器が【龍帝】でなければ首を斬られて死んでおった可能性があるのだが?』


 タルラーはその可能性に気づき、自らの首をトントンと叩きながら不満げにそう述べた。

 対して、ルークは気にした様子もない。


「タルラーがその程度(・・・・)で死ぬんですか?」

『……さてなぁ』


 探る……否、確かめるようなルークの問いを、誤魔化すようにタルラーはニヤリと笑う。


「それに【龍帝】でなかったとしても、タルラーなら相当に死に難い眷属器になるだろうとは思っていましたよ。下級枠、【死兵】あたりでは?」

『フフフ、抜かしよる。……本当に就いておるな、【死兵】』


 ルークの返しに笑った後、確認したら本当に彼の言っている通りだったのでタルラーは少し引いた。

 そうして『だが、生命力の尽きた死霊の場合はどうなるのだ……?』、『……ああ、上級職がこれか』などとブツブツ呟いていたものの、『まぁよい』と切り替える。


『それでるぅく、余はこれからどうすれば?』

「攻め続けてください。命の危険はもうないでしょう?」

『であろうなぁ。――任せよ』


 タルラーは《竜王気》を溢れさせ、影法師へと飛翔。

 自らの魔法と跳ね上がったステータスによって、防戦一方の状態から反撃に移る。


『《破邪顕正》、《虎鶫》、《雷精招来》、《破魔》』


 影法師は迫るタルラーに向けて、これまで同様に矢継ぎ早のスキルを連打する。

 それらはいずれも霊体に効果のあるスキルの数々であり、先刻までのタルラーであれば防御に集中していなければ重傷を負っているほどの猛攻。


『――もはや効かぬなぁ!』

 ――それに対し、タルラーは一切身を守らぬ直進によって突き進む。


 破邪の光で灼けた霊体が即座に再生し、式神の誘導弾と雷光は身に纏う《竜王気(オーラ)》に弾かれ、霊体特効の刃が斜めに断った顔面も即座に癒着する。

 不死の怪物(アンデッド)が不死身の存在に成り果て……否、昇華された。

 タルラー自身の特性と死霊の体。

 それに眷属器が合わさり、生存能力だけならば今代の【龍帝】さえも超えている。

 一切の防御を捨ててもなお、影法師の攻撃はタルラーへの有効打たりえない。


『《真禍真倒ォォォ……怨龍覇》ァ!』


 そして防御を捨てた彼女は、これまで影法師から掠め取り続けた魔力を消費し、自らが生前から抱えたままの奥義を放つ。


『……!』


 大技を放つタイミングは、相手にとっても仕留める隙。

 だが、今のタルラーはその隙に攻撃を叩き込んで殺せる域にいない。

 妨害をものともせずに奥義は発動し、闇属性と呪いの混合爆発が巻き起こる。


『《浄界》』


 対して、影法師は《鬼火》同様に複数系統に跨るレアスキルを発動。

 闇属性魔法のダメージを減衰し、呪怨系状態異常を弾く。

 それでもダメージをゼロにはできず、闇属性魔法によって命を削られる。


『《虎鶫》、《ウィンド・カッター》』

「……でしょうね」


 その状態で尚も、攻撃は止んでいない。

 しかし、その攻撃対象はタルラーではなく、ルークへと移っていた。

 眼前の不死身の存在ではなく、それを眷属とする【魔王】を討つべきだという機械的な判断。

 空中戦で容易に倒せないジュリエットではなくパレードを狙ったときと同じ優先順位の変更。


「…………」


 されど、ルークはそれに対処できている。

 【断詠手套】が有する魔法耐性への補正とバビのスキルによるバフで耐え、さらには指を鳴らし……《断詠》で魔法攻撃を阻止していく。

 影法師の攻撃は続いているが、タルラーの猛攻に晒されている状態では先刻までと比べて攻勢の数と質に差が出る。

 加えて……より決定的な違いが一つある。


(案の定、大技を控えてきましたね)


 影法師は《猿叫》を使う気配がなくなった。

 それだけでなく、大魔力を消費する……上級奥義相当の高火力魔法そのものを控えている。

 それは明らかに《法爆》を警戒した動きだ。

 同じことをすれば、同じように返されると機械的に学習したのだ。


 だが、その学習は無意味……否、有害なものだ。

 なぜなら、ルークが《法爆》が使えたのはあの一度きりなのだから。


 本来ならば両手の特典武具で一度ずつ使用可能なスキルだが、ルークは一日目の戦闘で左手ごと【断詠手套】の片方を失くしている。

 腕の方は治療を受けて完治しているが、特典武具の自動修復は未だ完了していない。

 ゆえに、この戦闘で《法爆》はあの一度しか使えなかった。

 だが、そんなことは影法師には分からない。

 一度きりのハッタリとも言えるカウンターを危険視し続け、手札を切れずにいる。

 戦闘技術は生前の本人と同じでも、人間の心理やブラフを読み解く心と思考が伴わない。

 これが生前の本人であれば……そうでなくとも歴戦の猛者であればルークのブラフは通じなかっただろう。

 だが、影法師にはこれが通じる。

 見えているデータ的な情報だけで行動を取捨選択するシルエット(NPC)が、直感や読み合いで勝ることはない。


(分かりやすいロジックと限られたパターンで動くから、読み切れば行動を誘導できる)


 遊戯派(ゲーマー)ならば、『パターン入った』とでも言うだろうか。

 これは影法師の明確な弱点だ。

 しかしこれまでの準<超級>との戦いにおいて、この弱点は露呈しなかった。

 それは戦っていた者達が弱かったという訳ではない。

 影法師には回避不能の初見殺し、人体であれば確実に致命傷を与えられる《大蛇》がある。

 ゆえに弱点が露呈する以前に、《大蛇》をはじめとする複合技術で葬られてきた。

 他者が《大蛇》の犠牲になる様を目撃し、準備すれば《大蛇》に耐えられる身体を得られたルークだからこそ、耐久によって影法師の手札・パターンを読み切ることができたのだ。


 そして今、両者の戦いはルークが優勢。

 ルークが影法師の行動を誘導し、タルラーが真っ向勝負でも五分以上に戦えている。

 このまま戦い続ければ、ルークが勝つ。

 しかし、二重の理由でそうはならない。


(あと、三分)


 《制限昇華》による眷属化で影法師を上回ったタルラーだが、現時点で奥義も含めた攻勢の手札を影法師に対応されている。

 影法師ではタルラーを殺せない。

 だが、タルラーもすぐには影法師を殺せない。

 そして影法師にリミットはなく、タルラーには《制限昇華》のタイムリミットがある。

 ルークが五〇レベルを捧げて得た五分間の覚醒。それが残り三分程度。

 その時間での決着は不可能だ。

 ゆえに、タイムリミットを迎える前にこの均衡を崩さねばならない。


『…………』


 そして、タイムリミットがどの程度かを知らない影法師もまた、このままではいられない。

 シンプルなロジックで動いているとはいえ、否、シンプルなロジックだからこそ有効打を打ち続けるために影法師は動くだろう。


(大出力魔法を封じられ、斬撃も通じない。相手はここからどう動く?)


 人間や生身のモンスターであれば、逃げることも選択肢に入る。

 だが、影法師のロジックに逃走はない。

 何を相手にしても退かず、壊れるまで戦い続ける。

 天地に立った【ホロビマル】がそうであったように。

 強者との戦い尽くすことこそが、本懐に繋がる。

 だが、戦うとしても有効な手札がない影法師の選択は……。


『…………』

『む……?』


 タルラーの猛攻に晒されていた影法師が、不意に自らの頭部……顕現の媒介である兜へと手を乗せる。

 影のように黒々とした兜の表面を、その手が撫でて……。


『――拝領(はいりょう)(つかまつ)る』

 ――ズルリと黒から何かを引き抜いた。


 それは蒼褪めたような色合いの鞘に収まった太刀。

 影法師の彩の中で唯一つ、黒以外の色。

 そんなものが、唐突にこの場に出現していた。


「そうですか。やっぱり……供給できるのはMPやSP(エネルギー)だけではなかったんですね」


 ルークは動揺せず、ただ推測が正しかったことを理解する。

 影法師について、そもそもの疑問が一つあった。

 《大蛇》を使う度に使い捨てていた刀。

 式神や《雷龍》で用いる符。


 それらを、影法師がどこから補充しているのか。


 その答えが眼前の光景。

 あの兜は何処かと繋がっている。

 エネルギーだけでなく、必要な物品を送り込んでくる。

 そこにいる者こそが、影法師をこの地に送り込んだ存在だとルークは確信した。


(運営……いや、戦争中に<SUBM>の亜種を送り込むとも思えない)


 正体は不明。

 しかし、影法師を送り込んだ存在の意図はルークにも分かる。


 相手は……今ここで影法師が斃れることを良しとしていないのだ。


 だからこそ、ここで追加投資(・・・・)を行なった。

 今この場面で、まだ勝利を目指せるだけの手札を足したのだ。


『《破魔》』


 影法師が新たな刀を青い鞘から引き抜けば、それは刃までも青い色。

 影法師は刃に霊体特効を付与し、そのまま《虎歩》で踏み込んでタルラーに斬りかかる。


『フフ、……!』


 それをタルラーは受けようとして……背筋に走る悪寒から身を引いた。

 刀はタルラーの腕を掠めるに留まる。

 浅い掠り傷は下級の回復魔法でも容易に完治するものであり、【龍帝】の再生力ならば一秒と掛からず塞がるはずのモノ。


『なに……?』


 しかし、掠り傷は塞がらない。

 【龍帝】の超再生能力が機能していない。


「……そういうもの(・・・・・・)ですか」


 その光景が意味するものをルークは理解し、僅かに表情が揺れる。


『…………のぅ、るぅく』


 傷跡へと手を伸ばしながら、タルラーはルークの名を呼ぶ。

 癒えぬ傷痕を毟り取り、その傷ごと治してしまおうという思い切った考え。


 だが、それを実行できない(・・・・・・)

 毟り取ろうとした手が止まってしまう。


『――あれで斬られればスライムであろうと死ぬな』

「――でしょうね」


 自動再生も、自傷からの再生も、恐らくは回復アイテムや魔法も無意味。

 そうした仕組み(システム)があの青い刀に組み込まれている。


 ◇◆


 それこそは試製の武具たる【ホロビマル】の更に試製(・・・・)

 《防虚殺し(アンチ・ディフェンス)》たる大太刀との選択の末、選ばれなかった太刀。

 【滅丸】の銘を与えられなかったがゆえに、刻まれた力と同一の銘を持つ。


 ゆえに、その刃の銘は【快覆殺し(アンチ・ヒール)】。

 

 元始の聖剣の模倣が一振り……一切の復元を封じる妖刀である。


 To be continued

○眷属タルラー(秘匿眷属名(ジーナス・コード):偽龍帝ロンユェン)


超級職:【龍帝】

上級職:【闇司教(ダークビショップ)】※アンデッド用回復魔法上級職(レア&マイナー上級職)

下級職:【死兵】


(=ↀωↀ=)<限定的とはいえ棚ぼたで【龍帝】になれたのでめちゃくちゃハイになってた


(=ↀωↀ=)<多分黄河編で語られますが


(=ↀωↀ=)<アンデッドになりたかった訳じゃなくて【龍帝】になりたかったウーマン


(=ↀωↀ=)<ちなみに【龍帝】の《古龍細胞》で再生力と《竜王気》はありますが


(=ↀωↀ=)<レベル引継ぎ要素はないのでステータス面は本家に及びません


(=ↀωↀ=)<ただ、元々の本人の性質や上級下級枠も含めて生存能力は本家を越えている



○【快覆殺し】


鍛冶師「え? 打つ手なくて敗けそう?」


鍛冶師「うーん。鎧がハメ技で負けたばっかりだしもうちょっと頑張ってほしい」


鍛冶師「仕方ないから余ってる武器送るね」


(=ↀωↀ=)<雑に言うとこんな感じ


( ꒪|勅|꒪)<雑すぎんだロ

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