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第一二九話 F.O.E

(=ↀωↀ=)<ゴールデンウィークですね


(=ↀωↀ=)<という訳で更新です


( ̄(エ) ̄)<という訳で……?

 □王都アルテア


 戦争最終日。昼前の王都にいる<マスター>達は慌ただしかった。

 夕刻に予告されたフランクリンのギデオン襲撃に対応するため、大勢が忙しなく動いている。

 それはこの三日間戦い続けたランカーだけではなく、ルールによって戦場である街の外に出られない一般の<マスター>達も同じだった。


「はー。なんかあちこち騒がしくなってきたなーブルー」

「……納期直前の修羅場を思い出す」


 そんな街の様子を、遅めの朝食をとりながら眺めている二人の<マスター>がいた。

 クラン<ライジング・サン>のオーナーであるダムダムと、リアルのトラウマが蘇っているブルースクリーンである。

 カルチェラタンの<遺跡>での仕事に従事していた二人だが、戦争期間中は戦場になる<遺跡>に滞在できないため、戦争開始前には王都に移っていた。

 <遺跡(仕事場)>が戦場になったと聞いたときは心臓が凍る思いをした二人だが、何とか<遺跡>も残り、作業に従事していた部下……ティアン達も全員無事だったため、今は安心して朝食中だ。


「まぁ例のフランクリンからのアナウンスのせいだろうなー」

「……ああ。この戦争における戦場が限定されたお陰で、王国側も打てる手が増えた」


 フランクリンはギデオン近郊を指定してきた。

 それはかつての戦いのリベンジを誓うにはいい場所なのだろう。

 同時に、王国にとって街の傍での戦いには利点もある。


「だなー。遠距離型の<マスター>なら戦場外……ギデオンの街中からでも支援攻撃ができる。ここに来て、非ランカーにも出番が来たって訳だ」


 それはニッサでの【塊竜王】との戦いと同じ。

 非ランカーは戦場に出れば強制ログアウトというルールだが、街の中から攻撃する分には制限がない。

 そしてニッサの時と違い、<マスター>相手ならば戦争のルールによって街に向けて攻撃されるリスクは抑えられている。

 余程に追い詰められていれば別だろうが、逆に言えばそうなるまでは火力支援できる。


「で、参戦を呼び掛けているんだったか。本来ならギデオンまでの移動もできないが……今はあの便利な門があるからな」


 ブルースクリーンはティアン技術者達が<遺跡>から逃れてきたビフロストを思い出し、ダムダムもそれに頷く。


「ああ。ランカーはレイやパレードと一緒にギデオンに向かってよー。それ以外のマップに出られない連中はパレードが到着次第、教会に置かれた門からギデオンに転移することになるってな」


 フランクリンがどんな手を打つかは不明だが、戦力を集めるに越したことはない。

 王国にとっては正真正銘の総力戦になるだろう。


「ビフロストの残り時間がギリギリなんで、全員向かうのは難しいって話だけどよー。まぁ俺らには関係ねーわ」

「……そうだな」


 ダムダムは戦闘職だが近接奇襲型。戦場に出られない状況では戦えない。

 ブルースクリーンに至っては生産職。この戦争の最終局面に関わることはないだろう。


「あっ! ブルーさん! ここにいたんですね!」

「……ん?」


 そんなことを考えていた二人の前に、一人のティアンがやってきた。

 二人には見覚えのあるそのティアンは<遺跡>のプラントに勤めていた技術者であり、ブルースクリーンの部下の一人だ。


「……どうした?」

「ブルーさん、呼ばれてます(・・・・・・)! ギデオン派遣組として!」

「「……は?」」

「<デス・ピリオド>のルーク氏からの指名で、ビフロストが繋がったらブルーさんを最優先でギデオンに送るようにと……」

「「…………は?」」


 ◇◇◇


 □■アルター王国・上空


 さて、ギデオンへの戦力集中の段取りを進めている王国だが、それには一点問題がある。

 『どうやってレイとパレードを刻限までにギデオンへと送り届けるか』、である。

 これについて、選択肢は三つあった。

 『残っているランカー全員で地上を護送』、『レイを含む飛行可能なメンバーで敵の少ない空中を移動』、『月影の影に二人を沈めての単独行』。

 三つ目はかつてレイがギデオンから誘拐されたときの手順と逆であり、最も有効であるように思われた。

 が、これに関しては月影自身から待ったがかかった。

 あのときは夜だからこそ、目立たず高速で二つの街を行き来できた。

 しかし日中の場合は影の移動にも制限が生まれ、速度や隠蔽能力も著しく落ちる、と。

 次いで残る選択肢の内、『全員での護送』も却下された。

 連日の戦いを通して、両国の戦力は大きく削れている。

 それでも、最大戦力である【獣王】は健在。あの最強に陸路で捕捉されれば逃げるも守るもむずかしい。

 ならば、あちらが手出ししづらい高度で移動した方がまだ逃走も容易だろうという判断だ。

 ゆえにレイやルークに加えて飛行可能なランカーで護送するプランが固まり、さらにルークが考案したとある方策を追加して実行に移されることになる。


 ◇◆


 空中を行くシルバーの背にはいつも通りに禍々しい装いの騎士が騎乗し、その周囲を他の<マスター>が固めている。

 護衛の<マスター>は三人。

 オードリーに騎乗した【色欲魔王】ルーク。

 自身の翼で飛行する【堕天騎士】ジュリエット。

 そして三人目は……天竜種のドラゴンに騎乗している青年。

 これまでレイとはあまり関わっていない<マスター>であり、王都に残っていた飛行可能なランカーとして集められた人物である。

 だが、レイは彼のことを知っている。

 また相手もレイとは縁がないが……ルークとは一つの縁があった。


「ボルヘッドさん、周囲の状況は?」

「問題ないですよ。うちの子達の索敵でも接近する<マスター>は見当たりません」


 ルークの問いに答えた<マスター>……ボルヘッド。

 彼は“トーナメント”に参加していた<マスター>の一人であり、三日目に参加して本戦まで勝ち進んだ猛者である。

 ……そう、三日目の本戦。

 即ち、自分の従魔をルークに【魅了】されて負けた【高位従魔師】が彼だ。

 従魔師としてかなり最悪な敗け方をしていた。

 だが、ボルヘッドはそのことを気にした風もなくレイ達に協力してくれている。

 今も自分の鳥型従魔を周囲に飛ばし、周囲の安全確認を担っていた。


「翼持つ眷属達よ。危難の嵐、数多の羽の煌きは陰らず舞うか否か。我が心は揺らぐ」

「……なんて?」

「…………レイさん」


 ジュリエットが放ったジュリエット語をボルヘッドは理解できず、ルークもレイに投げる。

 今回はあまり親しくない人も多いので、ジュリエット語の難易度(レベル)も高かった。


『『沢山テイムモンスター飛ばしてるけど、大丈夫かな? 今ってかなり危ないから……死んじゃったりしたらどうしよう。心配だな』だってさ』


 シルバーの方から聞こえてきた答えに「あー」とボルヘッドは納得する。


「大丈夫ですよ。いま外に出てるのは私の<エンブリオ>の中に仕舞った子達を写したコピーなんです。動かしてるのは中にいる子達の意思ですけど」


 そう言ってボルヘッドはジュエルの代わりに右手の甲に装着された鏡付きの手甲……TYPE:レギオン・アームズ【幻双鏡 ドッペルゲンガー】を掲げる。

 <エンブリオ>に格納したコピー元の従魔と全く同じ身体を持ち、死ねば幻のように消えていく仮初の従魔達の饗宴。

 ボルヘッドは“幻獣サーカス”の二つ名で知られた猛者だった。


「ただ、一度消えると丸一日は同じ子のコピーが出せなくなるので、限度はありますけど」

「それでも十分でしょう」


 従魔を扱う者にとって最大の懸念……ロストのリスクが格段に低い。

 全ての【従魔師】にとって垂涎の<エンブリオ>と言える。


「天軍ここに在り。幻獣の指揮者の命脈が三度朝まで繋がるは、運命が導いた救国への道筋」

『『飛行戦力と数を兼ね備えたボルヘッドがまだ生存していたのは、王国にとって幸運だったね』ってさ』

「昨日までは王都に篭りながらコピーだけ外に出してましたからね。だから<トライ・フラッグス>に参加してる実感も薄かったんですけど、最終日にこんな大事な役割を担えるなら良かったです」


 実際、この時点でも生き残っているランカーは、王都周辺に接近する皇国<マスター>の排除を担っていた者達が多かった。

 <墓標迷宮>や北部、<ターミナル・クラウド>、そして<遺跡>での攻防で大勢が犠牲になったこともあり、大規模な戦場に参加しなかった者達が王国側の残存戦力の大半を占める。


「助かりますよ。空中戦ができる<マスター>は双方にとって貴重です。それも、<ターミナル・クラウド>の防衛戦で双方大きく数を減らしてしまいましたから」


 様々なジョブや<エンブリオ>を有する<マスター>だが、空中で自由に戦える者は一割にも満たない。

 その少数も、ほとんどがこの戦争では既に退場していた。


「皇国にはあとどのくらい残っているんでしょうか?」

「皇国側の空中戦力も確認できる限りでは壊滅状態。警戒すべきは<ターミナル・クラウド>で唯一生存が確認された準<超級>……【竜征騎兵】ガンドールくらいでしょう」

「天を戦場とする頂点は一つに非ず。我が翼、竜人一体に劣るものなし」


 ジュリエットは『私と同じで空中戦を得意とする人だね。ジョブと<エンブリオ>のシナジーがすごいとも聞いてるけど、負けないように頑張るよ!』と述べ、「フンス!」と気合を入れた。

 ジュリエットだけでなく他の面々もレイを守るために周囲を警戒している。

 彼らの顔に恐れはない。

 だが……。


「え……?」


 不意に、ボルヘッドが困惑の声を漏らす。

 そして自らの後方を振り返りながら、声を張り上げる。


「七時方向! 偵察要員消失! 敵襲です!」

「「!」」


 ルークとジュリエット、馬上の騎士の表情が変わる。

 ジュリエットはボルヘッド同様に後方を注視し、ルークは陽動を警戒して周囲を探る。


 そして間もなく、――ソレ(・・)は後方から彼らに迫ってきた。


 ソレは彼らや彼らの従魔のように、翼で空を翔けているわけではなかった。

 シルバーと同じく、まるで足場があるかのように、空中を駆けて彼らを追走している。


「ファサリナ!!」


 殿についていたボルヘッドが動く。

 自らの天竜の名を呼び、迎撃態勢に移る。

 直後、彼の騎乗した天竜が宙返りし、飛翔の向きを即座に反転。その顎を開く。

 口腔の内部に赤々とした光が燈り、次の瞬間には横倒しの火柱となって天を貫く。

 ジョブスキルと<エンブリオ>の固有スキルによる二重強化を受けた天竜の炎は凄まじく、《爆龍覇》に準ずる熱量の奔流が空を灼く。

 そして炎は瞬く間に迫る襲撃者との距離を縮め……。


『――《猿叫》:《エメラルドバースト》』


 直後に影法師が発動したのは、高出力の風属性魔法。

 あたかも巨大な息吹で吹き散らすように、天竜の炎を掻き乱してかき消してしまう。


『――《一刀両断()》/《霞の太刀()》/《雲鷹(魔剣)》』


 そして炎を破りながら迫ってきた襲撃者は天竜との距離を詰め……


『――《大蛇》』

 ――抜き放たれた刀が瞬時に変形し、一斬で天竜の首を切り落とした。


「なっ……!?」


 一撃でHPを全損した天竜は幻の如く消え去り、ボルヘッドは空中に投げ出される。

 天竜を切り捨てた影法師は変形して使い物にならなくなった刀を捨て、新たな刀を装備して再び動き出す。


「っ……!」

「《黒死楽団鎮魂歌》!」


 それでもボルヘッドは新たな従魔のコピーを呼び出そうとし、彼を援護するためにジュリエットも闇属性の弾幕を襲撃者に放つ。

 無数の魔法の黒球が襲撃者へと迫り、


『――《化狸》』

 ――まるで透過するようにその身体をすり抜けた。


「幻影魔法!?」


 一体いつから幻術師系統のスキルを併用していたのか。

 何より先刻からそれだけのジョブスキル……何をどうすれば併用できるのか。

 相対する人間達の疑念が深まる中……。


『――《虎鶫》』


 次の瞬間、何もない――ように見えていた――場所から飛来した式神によって、ボルヘッドは砕け散った。


「……!」


 あまりにも早く、ランカーの一人が倒されたことに、彼らは衝撃を受ける。

 そしてボルヘッドだった光の塵が舞う空の中で……。


『――超級職、確認候』


 襲撃者は残る獲物を見据えながら、死を宣告するようにそう告げた。


 かくして、彼らはこの戦争で多くの超級職を屠ってきた襲撃者……影法師と遭遇する。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<七章一二八話の引きで


(=ↀωↀ=)<『こいつは終盤のどこで乱入してくるんだ』と思われた方も多いと思われますが


(=ↀωↀ=)<――こいつがボスラッシュ一番手です



○影法師


(=ↀωↀ=)<ランダムエンカウントの強ボスっていますよね


(=ↀωↀ=)<それ


( ̄(エ) ̄)<ここで来るなよ


(=ↀωↀ=)<超級職数人で固まって動いてたせいでもあるから……



○《大蛇》


(=ↀωↀ=)<今回は致死ダメージの危険がない状態での使用なので


(=ↀωↀ=)<『致死ダメージが迫っているとステータス二倍』の《剣禅一致》が発動していない


(=ↀωↀ=)<まぁ、それでも『切断力アップ』、『視認失敗でのダメージアップ』、『失敗リスク付きダメージアップ』の複合は余裕で純竜の首とか落とすけど



○ボルヘッド


(=ↀωↀ=)<ルークの“トーナメント”でナレ死したのが初出


(=ↀωↀ=)<その後に書籍版で名前と二つ名が明らかになり


(=ↀωↀ=)<掲示板回で実は登場していた後、今回本編登場


(=ↀωↀ=)<<エンブリオ>は普通に使い勝手がいい

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