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拾話 フランチェスカ・ゴーティエ

(=ↀωↀ=)<七章終盤は準備あるのでまだしばらく先になりますが


(=ↀωↀ=)<合間に拾話やAEはやっていきます


○告知


(=ↀωↀ=)<コミックファイアとニコニコ静画で漫画版61話公開中


(=ↀωↀ=)<第三章完結


(=ↀωↀ=)<そして次回から四章突入です!

 ■私の人生について


 私の人生は、生まれた時点で歯車が狂っていた。

 家庭環境が悪かったとまでは言えないので、『拗れていた』と言うべきかしら。

 私は裕福な資産家の娘として育った。

 ただし、その資産家……義父と私に血の繋がりはない。


 義父と母が結婚する以前から、母が身籠っていた子供が私。


 胤は当時の母の恋人。

 婚約して結婚を誓い合いながら、突如として行方不明になった男だ。

 父は、母と二人で暮らしていた家からある日唐突に消えた。

 財布や身分証、携帯端末までもそのままに姿を消したらしい。

 警察に通報してもまるで見つからず、出国などの記録もなく、むしろ母が何らかの事件の犯人ではないかと疑われたほど。

 以降、私の血縁上の父は、死体さえも見つからないまま今に至る。


 その後、血縁上の父が起こそうとしていた事業が父の蒸発により破綻。

 出資者であり、名ばかりの共同事業者であった母は、多額の借金を負う形となった。

 そこに手を差し伸べたのが義父。

 元々舞台女優であった母のファンだったそうで、昔からアプローチを重ねていた。

 しかし母は父一筋であり、義父に対しては冷たくあしらっていたらしい。

 けれど状況は変わり、父は消え、母は借金を背負い、お腹の中には私がいた。

 それらの状況を考えた結果……母は義父の求婚を受け入れた。

 義父も義父で『前の恋人の子供も含めて受け入れる』と明言し、二人は結婚した。


 ◆


 夫婦になり、私が生まれてからの数年は問題なかった。

 義父はさほど顔が良いとは言えず、人格面で傲慢さや強欲さはあるが、少なくとも夫や父として失格というほどではなかった。

 衣食住に不満を持たせることは一度もなく、強欲ながらも一途な面もあって母以外に女を作ることもなかった。

 公平に言って、夫として、父として、十二分に役目を果たしていたと言えるわ。


 とはいえそれも……美化された死人(思い出)には敵わない。


 母は生活のために義父の求愛を受け入れたけれど、逆に義父へと愛を向けてはいない。

 妻として応じても、恋人としては見ていなかった。

 母の愛の最上段は常にいなくなった遺伝上の父であり、それがまるで揺らがない。

 私への愛情はあったようだけれど、それもどこか私を通して父を見ているようですらある。

 いなくなった恋人を待ち、自らの身を捧げ、恋人の子供を守り生きる。

 私が言うべきことではないかもしれないけれど、端的に言って……母は悲劇のヒロインぶっていた(・・・・・)

 舞台女優らしいと言えば……職業への侮辱になりかねないわね。


 要するに、私達の家族関係に罅を入れていたのは母だった。

 私が知る『私が生まれる前の話』は、母から直接聞いたもの。

 随分と幼い頃だったと記憶しているわ。

 後年に振り返れば、『それは子供に教えるべき話だったの?』という疑念も抱くけれど、母はそういう女だった。

 きっと、何も知らなかった頃の私が義父を『お父さん』と慕う様子に、身勝手な危機感を抱いたのでしょう。

 あるいは、『あなたの父親はあんな傲慢で金しかない男ではなく、私の愛したもっと素敵な男なのよ』という善意(・・)かしら?

 父が消え、父が消えた結果生じたトラブルの借金に苦しみ、手を差し伸べた義父の求婚を選んだのは母自身でしょうに。

 いえ、あるいは父の消失や借金も義父の差し金とでも思っていたのかもしれないわね。

 まぁ、他人に対してするかしないかで言えばする人でしょうけど。

 ただ、かつての母や真実を聞かされる前の私、そして後に生まれる妹に対しての態度を振り返るに自らが愛情を注ぐ対象にはどこまでも甘くなる男でもある。

 そのため、当時片思いの横恋慕とはいえ愛していた母にそんなことをするかと言えば疑問よね。

 とはいえ、母に言っても納得はしないでしょうけど。


 そして、母は義父への態度を隠しもしないので、愛に曇っていた義父も徐々に目が覚める。

 自然、母の愛が今も向けられている父と、その血を継ぐ私を見る目も変わる。事実を知ってしまい、私の方から変化したこともあるでしょう。

 それでも父や夫としての責任を放棄することはなく、私達の面倒を見続けていた。

 身内に引き込むと見捨てきれない甘さは、後に生まれる妹の父である証明のよう。


 とはいえ、この時点で私は自分の未来に不安を覚え……準備することにした。


 ◆


 妹のユーリ……ユーの誕生は一つの転機だった。


 妹は、家族の誰にとっても『愛すべき家族』だったと言える。

 母は、好きでもない男の子供だろうと『自分の子供』への愛情はあった。

 義父は、念願の『自分の子供』を得て、何の憂いもなく愛情を注げた。

 そして私にとっても、ユーは『可愛い妹』だわ。

 家族全員から愛されて、妹はスクスクと育った。


 母は私のときとは違い、ユーには何も言わなかった。

 まぁ、父親が違う私とユーではとる態度も変わるのかもしれない。

 穿った見方をすれば、ユーという繋がりがある限り、義父は母も含めて見捨てないと判断したのかもしれない。

 それこそ、いつかひょっこりと私の父が帰って来たとき、長年のDVを理由に離婚し、賠償金を受け取り、さらにユーの親権を得ると共に養育費をせしめることも考えていたのかしら。

 ……いえ、違うわね。母はきっとそんなことは考えてはいない(・・・・・・・)

 考えないまま、無自覚なまま、悲劇のヒロインとしていつか報われる(・・・・)ことを祈っている。

 だから、当時の私の視点からは布石にしか思えないことも……本人は考えずにやっている。

 実際、後に私をきっかけ(・・・・・・)に離婚したそうだけれど、その流れは凡そ私の予想通りだった。


 ◆


 当時の私は、父母に疲れていたわ。

 そんな私の癒しだったのは妹と、ペットのディランと、母方の祖父。

 母のことは苦手になっていた私だが、母方の祖父のことは慕っていた。

 ディランを亡くし、悲しみに暮れていた私を慰めるために、祖父はディランそっくりの像を作ってくれた。

 私の趣味嗜好である創作……特に生物を模った作品を生み出す楽しさを教えてくれたのは祖父だったからだ。

 売れない芸術家だった祖父だが、そんな祖父のアトリエでの創作活動は私にとって妹と遊ぶことと並び、心安らぐ時間だった。

 楽しくて、楽しくて、楽しくて。

 楽しいから、いつまでも続けていたくて。

 私は祖父の死後も、それを続けて。

 数年経って自分がその道を夢見るだけの力はあると確信できたとき、祖父と同じ道を進むと家族に告げた。



 結果はと言えば、両親のどちらからも(・・・・・・)反対された。



 既に私と母への愛想が尽きていた義父は、私を政略結婚の道具にしたいと考えていた。

 その邪魔となる私の芸術家としての道を、作品を叩き壊しながら言葉で全否定した。

 母は、義父に責められる私に泣きながら同情しながらも、やはり私の道を否定する。

 『フランチェスカは私に似て美人なのだから、私のように舞台女優を目指してもいいんじゃないかしら。私から紹介できる劇団もあるのだし』と善意(・・)で勧めていた。


「…………」


 自分で選んだとはいえ、芸術家とは奇異な将来設計。

 素直に応援されるとまでは思っていなかったけれど……これは予想を大幅に下回った。

 父は血が繋がらず、愛せない子供をこれまで育てた投資を回収しようとして。

 母は、無自覚に私を自分の……人生が失敗した自分(母の人生)のやり直しにしようとして。

 両親のどちらも、私の人生(・・・・)を道具にしようとしている。

 そのことに、私は気づいてしまった。


(――私が生まれる前の事情で、理屈で、……私の道を歪めるな(・・・・・・・・)

 ――理解した瞬間、私の心の奥底から止めようのない激情が生まれた。


 他者の都合で私の生きる道を捻じ曲げられる。

 前からの不満が溜まっていたのか、あるいはそれが私の逆鱗だったのか。

 産んでもらった恩や育ててもらった恩がなければ、直接的な決着を選んだかもしれない。

 それほどの激情を胸に抱いてしまえば、そのままではいられない。

 この瞬間に――私はこの家族から抜け出すことを決めた。


 ◆


 夜明け前。

 一通の手紙を卓上に置いた私は、持てるだけの荷物と共に長年育った家を出る。

 幸か不幸か、愛着のある作品は全て壊されてしまったので、荷物は軽い。


「……ハァ」


 まだ夜明け前の空気は冷たく、吐く息には白が混ざる。

 一日で最も冷たい時間。

 逆を言えば、ここから明るく、そして温かくなる時間だ。


「…………」


 幼少期から今日までの日々、どこかで覚悟はしていた。

 私の人生の歯車は狂っていて、進む道は歪んでいる。

 それを正すには……どこかで一度歯車を外さなければ、と。

 だからこそ、金銭面も含めて一人で生きる準備はしていた。

 私でも使えるお金の多い家だったことは感謝している。

 ……いつか、私が自分で稼げるようになったら返そう。


「さて、まずはこの国を出ようかしら」


 国内だと義父の手が回りかねない。

 パスポートはあるから、早々に外国に高跳びね。

 まずは滞在期間の制限が緩い国に行って、そこで成人を迎えてから芸術について学べる国に移住する。

 そんな風に未来に進む道を考えると……なんだかワクワクしてきた。

 

「自分の道を阻む者がいないというのは、いい気分ね」


 そんなことを呟きながら、私……フランチェスカ・ゴーティエは親に囲われるだけの子供の立場から一歩踏み出した。


 To be continued


(=ↀωↀ=)<このエピソード自体は五巻の書き下ろしでするつもりだったけど


(=ↀωↀ=)<『敵側のエピソードやるにはまだ早い』ってなったので後に回されました


(=ↀωↀ=)<今回、漫画版で五巻部分が終わり、本編でも決着が近づいてきたので


(=ↀωↀ=)<フランクリンのバックボーンとしてお出ししました



○ゴーティエ姉妹


(=ↀωↀ=)<前もどこかで書いた気がするけど父親違い


(=ↀωↀ=)<ちなみにフランチェスカの父親が消えたことについて事件性はないけれど


(=ↀωↀ=)<もう地球上のどこにもいない



○フランチェスカ


(=ↀωↀ=)<拗れた人生を正す一歩目にして


(=ↀωↀ=)<人格の方が拗れ始めた一歩目


(=ↀωↀ=)<この後、どっかの【撃墜王】とかのせいでさらに拗れる



○父


(=ↀωↀ=)<強欲で傲慢だけど家族にはダダ甘


(=ↀωↀ=)<まぁ、途中からユーリしか家族として見れなくなってるけど



○母


(=ↀωↀ=)<悪意はないし計算高くもないし子供達も愛しているけれど


(=ↀωↀ=)<ナチュラルに自分を中心とした舞台(悲劇含む)を頭に描く


(=ↀωↀ=)<なおかつ美貌と演技力で周囲をその舞台に共感させて巻き込む


(=ↀωↀ=)<一番通じない相手が実の娘のフランチェスカ


(=ↀωↀ=)<……デンドロやってないけどやってたら厄介なタイプだなこれ

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