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第一一六話 魂の咆哮 後編

(=ↀωↀ=)<本日連続投稿


(=ↀωↀ=)<まだの方は前話から

 □■カルチェラタン地方・山岳部


 それは、王国側の知らない情報(・・・・・・)

 この世界の長い歴史の中で、ジョブの情報は二〇〇〇年前に一度消えている。

 ロストした情報の数々には超級職の転職条件や奥義も含まれる。

 その中で特に遺失している情報は――最終奥義について。

 就いた者以外では【大教授】の《叡智の解析眼》か、使用を目撃した者しか把握できない。

 そしてティアンの超級職であれば多くの者は使わずに死ぬ。

 まして、近年までジョブ自体がロストしていた魔力式火器運用の超級職……【魔銃王】や【魔砲王】であれば尚更に最終奥義を見る機会はない。

 ゆえに【魔砲王】の最終奥義を知る者は、王国には……少なくとも<砦>を護る者達にはいない。

 秘された【魔砲王】の最終奥義、その効果は――。


『――《魂の咆哮》、装填』


 宣言の直後、ヘルダインは消失する。

 肉体も、千切れた足も、身に纏っていたパワードスーツも、消え失せて……。


 ――彼のいた場所には輝く球体(・・・・)が遺る。


 それは光であり、あるいは魂のイメージを思わせる。

 だが、それを目にしたライザーが抱いたイメージは――『砲弾』だった。


『マスター……!』


 自らの<マスター>の変貌に、フェンリルは苦渋に満ちた声を発した。

 しかし、その変貌は終わりではない。


【――フェル】


 自らの肉体のカタチを失いながら……そこにまだヘルダインはいる(・・)


【――頼む】


 魂砲弾(ヘルダイン)は、自らの半身(フェンリル)へと呼びかける。

 その短い言葉に、託された思いに、フェンリルは逡巡し……しかし僅かな時間で決断する。


『はい……! 《黄昏の牙(フェンリル)》、発動!!』

 決断の果てに用いるは――自らの力の全て。


『くっ……!』


 これから起ころうとする恐れるべき何かを止めるため、ライザーは駆け出していた。

 だが、それよりも速く、ヘルダインはフェンリルへと飛ぶ。

 魂砲弾(魂の咆哮)と化したヘルダインが絶対貫通の砲(黄昏の牙)へと装填され、絶対命中の照準(魔弾の射手)は月夜に向けられている。

 奥義、最終奥義、必殺スキル……彼の持ちうる全てを費やした三重奏。

 【魔砲王】ヘルダイン、最強最後の一撃が発射態勢に入る。


【――――――】


 砲身の中、装填されたヘルダインが想起したのは……二度の対話。

 バルサミナと交わした、『選択』について。

 カタと交わした、『正しさ』について。

 その答えは、既に彼の中にある。


【――私はこれを『正しい』と信じる。

 ――この『選択』の先に、私の世界が続くと信じる】


 誰に否定されようともヘルダインはそう決めて、決断する。


『ッッ……!』


 ライザーが飛び、《ダブルキャスト》を併用した最強の《ライザーキック》をフェンリルへと放つ。

 数秒の後に、その一撃は列車砲を蹴り砕くだろう。

 だが……。


『――――御武運を、マスター!』

【――――Fire】


 フェンリルが砕かれるよりも、最後の砲弾が放たれる方が僅かに早かった。


 そうして砲弾(ヘルダイン)は、破壊される半身(フェンリル)より飛び立った。


 ◇◆◇


 □■<遺跡>・格納庫


「あかんかも」


 砕けた天井の先に見えた光景に、扶桑月夜は口中でそう呟いた。

 自らの超級武具が展開した《絶死結界》の中にあり、《薄明》という優位があってもなお……今の彼女の背筋には冷たい汗が伝っている。

 今回の防衛戦において、扶桑月夜は幾重もの安全対策を張っていた。

 《絶死結界》と《薄明》は前提。

 フィガロという<超級>戦力を偽月影の中に紛れさせる恐るべき策も一端に過ぎない。

 彼女が忍ばせた策はまだまだある。

 例えば……。


『――月夜様』

「――影やん(・・・)

 ――残存戦力の誤認工作。


 側近にして対人即死スキルを持つ月影を、死亡したと思わせるトリック。

 月影はこの防衛戦以前に【死兵】を取得している。

 それゆえにイライジャに胸を貫かれ、HPを削りきられても、月影は消失していなかった。

 その後は想定外のフィガロ出現によってイライジャの注意が逸れたタイミングで、死んで消えたと見せかけて影に潜り、影の中を月夜の足元まで移動。

 イライジャがフィガロに集中せざるを得ない状況の中、【女教皇】のスキルで月影の肉体を復元し、蘇生魔法で回復した。

 仮にフィガロが倒されていれば、イライジャが最大の強敵への勝利に気を緩めた隙に……月影が最終奥義で殺す算段だった。

 そう、フィガロを運用した理由には、フィガロという大戦力に敵の耳目を強制的に惹きつける目眩しも含まれている。

 結果として月夜の想定よりもフィガロが働いたため、不要となったが。


『撤退を視野に入れるべきかと……』


 そして今、陰に潜んだ彼女の側近は、この有利な状況からの撤退を具申した。

 彼もまた、隣接する山から発せられた異様な気配を知覚していた。


「いやぁ、無理やろ。うち、絶対ロックオンされとるわ」


 しかし、絶対有利の陣地にいるはずの月夜はそう返す。

 まるで『逃げる必要があるのは分かっているが、それが不可能である』と言うように。

 これはまずい(・・・・・・)と、理屈以前に<超級>としての直感が囁いていた。


 主従が言葉を交わす間に、隣接する山から放たれた輝く砲弾(ヘルダイン)は格納庫へと迫る。


「――《極竜光牙斬ファング・オブ・グローリア》――」

 ――それに対応するのは、もう一人の<超級>。


 イライジャの死の直後、フィガロは飛来する脅威への行動を起こしていた。

 フィガロもまた、迫る砲弾に異様なプレッシャーを理解していたからだ。

 ゆえに、迎撃に用いるは彼の持ちうる最強の一閃。


「――《終極(オーヴァー・ドライブ)》!」

 ――あらゆるものを蒸発させる超熱量の極光。


 イライジャが天井を砕いて拓いた空へと、超熱量の光を解き放つ。

 射線上のあらゆるものを、焼失させる強大な一撃。


 膨大な熱量の奔流は飛来する砲弾を――逃さず捉える。


 ――しかし、万物を蒸発させる光の中を魂砲弾は意に介さず飛翔し続けている。


 まるで、既にこの世のもの(・・・・・・)ではない(・・・・)かのように。


(……! そういうことか(・・・・・・・)


 砲弾の動きに、何が起きているかを理解し……フィガロは悟る。

 既に対処不可能だ(・・・・・・・・)、と。


 直後、極光の奔流を突破した魂砲弾が、《絶死結界》の外縁へと触れる。

 外部から内部への攻撃を無為とする最強の護り、《絶死結界》。

 ならば、外部から砲撃された魂砲弾も無為となるのか。



 否。

 なぜなら、これは攻撃にあって攻撃に非ず(・・・・・)



 これこそは最終奥義、【魔砲王】の肉体と命とレベルを変換したモノ。

 【女教皇】の《聖者の帰還ウルファリア・エルトラーム》と似て非なる最終奥義。


 砲弾であり、ヘルダイン自身(・・・・・・・)


 《魂の咆哮》とは、確定死亡と引き換えに……使用者自身を(・・・・・・)自爆特攻型にして(・・・・・・・・)迎撃不可能な(・・・・・・)エレメンタル(・・・・・・)へと変換する(・・・・・・)

 これは外部からの攻撃(・・・・・・・)ではなく、命持つ侵入者(・・・・・・)


 ゆえに――《絶死結界》には阻まれない。


 最恐の結界を物ともせず、自身を迎撃せんとする攻撃を透過しながら、魂砲弾(ヘルダイン)は《魔弾の射手》でロックオンした月夜へと突き進む。


「……あかんかな」


 《絶死結界》を突破された月夜は、カグヤのスキルを起動する。

 そのスキルの名は、《陽寝墨(ひねずみ)の皮衣》。

 十二単の上にさらに重ねるように、夜を圧縮したような黒衣が羽織られる。

 彼女がテリトリーの圧縮という発想に至った原点であり、『触れたものの持つ月夜にとって都合の悪い数値』を全て六分の一にする接触型圧縮デバフ。

 そして、守りの手札は《絶死結界》とカグヤだけではない。

 彼女の装備もまた、防御の要。

 それは扶桑月夜が纏う十二単に施された十二の護り。

 火・氷・風・雷・光・闇・聖、七属性魔法。

 病毒・精神・制限・呪怨、四種の状態異常。

 そして水や地属性の質量攻撃を含む物理ダメージ。

 装着者を蝕む『十二の災い』からの影響を、強弱に関わらず半減する最小聖域。

 神話級特典武具、【十二身装(じゅうにしんしょう) ドヴァーダシャ・スィーマーバンダ】。

 《陽寝墨の皮衣》と重ねれば、その身に及ぶ全てに半減と除算を重ねた人型防御要塞。

 あらゆる攻撃のダメージを十二分の一以下に落とし、敵に触れれば月夜に不都合なあらゆる数値に六分の一のデバフを強制する。

 先の“トーナメント”でも、この護りを破って彼女を倒せる者はいなかった。


「…………あかんやろなぁ」


 だが、月夜は既に理解している。

 これでも、まるで足りない(・・・・・・・)、と。

 既に後手に回り、どれほどに防御を固めたところで意味はないのだ。

 この状況を避けるには、天井が破壊される前にイライジャに止めを刺すか、ヘルダインが月夜を目視する前に倒しておく必要があった。

 だが、敵の執念がこの状況に持ち込ませていた。


(<砦>は動かせへんし、うちが逃げるのも無理やろ)


 月影のエルルケーニッヒで影に退避するという選択肢はない。

 影に潜って逃げようが魂砲弾(ヘルダイン)は月夜を追い、影でさえも透過するだろう。

 そして《終極》の奔流を受けても止まらぬ砲弾が、影に阻まれるとも思えない。

 ゆえに……。


「二人とも。……あと任すわ(・・・・・)


 月夜は自身ではなく、他者の生存を優先した。

 この後の、戦いのために。


『承知いたしました』


 影が動き、月影の気配が去る。

 主への抗弁もせず、無駄なやり取りもない。

 理解し、忠誠を誓う従者だからこそ、月影の動きは迅速だった。

 フィガロの姿も、月夜の言葉に前後して消えている。

 この状況で既に活路を見出しているのは、流石の判断の速さと言うべきだろう。

 そして残るは……月夜のみ。


(ここで終わりやあらへんし、なんぞ役に立つこともあるやろ。この流れ、あっちの狙い通りに進んだ分もあるんやろうけど……)


 フィガロと月影の生存。

 この二点……否、続く行動も含めて三点(・・)が相手の思惑を超えた月夜の選択。


「まぁ、なんもかんも思惑通りにはさせへんってことや」


 十二単と夜の衣に包まれた月夜はニヤリと嗤い、自らに飛来する魂砲弾に退かなかった。



「――<命>の方(レイやん)は獲らせへんよ?」

 ――直後、魂砲弾(ヘルダイン)は扶桑月夜に着弾する。



 《黄昏の牙》が【十二身装】の守りを食い破って無効化し、《魂の咆哮》が確定死亡最終奥義に相応しい爆発力を発揮せんとする。

 それは、この<遺跡>全域を崩壊せしめるだけの大破壊となる……はずだった。

 しかし、月夜のせめてもの抵抗……《陽寝墨の皮衣》によって魂砲弾のダメージ量(爆発力)は六分の一に落とされ、大破壊の規模を大幅に削られる。

 そして威力を落とされた魂砲弾は、その上でなお……先々期文明の格納庫を<砦>ごと跡形もなく消し飛ばす。



 その身を賭してこの地を護った、<超級>(扶桑月夜)諸共に。



 ◇◆


 戦争最終日初戦『王国<砦>攻防戦』。

 王国<砦>、破壊。

 【硬拳士】イライジャ――死亡(デスペナルティ)

 【魔砲王】ヘルダイン・ロックザッパー――死亡。


 【女教皇】扶桑月夜――死亡。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<…………


(=ↀωↀ=)<<砦>落ちたけどこのエピソードは此処から本番



○ヘルダイン


(=ↀωↀ=)<自分視点での正義、正しさを貫き続ける男


(=ↀωↀ=)<相手を悪だと思っているわけではないが自分は曲げない


(=ↀωↀ=)<こちらの世界……皇国で得た価値観と生き甲斐に殉じる軍人


(=ↀωↀ=)<余談だけどプロットだとパレードと遭遇して


(=ↀωↀ=)<「この裏切り者がぁああああ!!」する予定だったけど色々考えて没



○《魂の咆哮》


(=ↀωↀ=)<最終奥義としての方向性は【女教皇】に近い


(=ↀωↀ=)<固定ダメージじゃない&確定死亡な代わりに


(=ↀωↀ=)<あっちより出が早くて単純なダメージも上がっており


(=ↀωↀ=)<諸々の魔力式砲バフも乗ってるしフェンリルのスキルも乗る完全シナジー最終奥義


(=ↀωↀ=)<というか『着弾するまで透過する』って性質に《魔弾の射手》が足されたことで


(=ↀωↀ=)<『ロックオンした目標に当たるまで他の全部をすり抜ける砲弾』になってる


(=ↀωↀ=)<目視してなかったり《魔弾の射手》分のMP切れてると地面とかに着弾して爆発する


(=ↀωↀ=)<だからイライジャが天井壊すまで待つ必要があったんですね



○《絶死結界》


(=ↀωↀ=)<外部からの攻撃は無効化しますが


(=ↀωↀ=)<レベル制限にかからない相手の、いわゆる『突進攻撃』は素通しします


(=ↀωↀ=)<例えば大佐が外部から電磁加速して突っ込んできても防げません



○《陽寝墨の皮衣》


(=ↀωↀ=)<やってることはテリトリー圧縮と同じで


(=ↀωↀ=)<触れたら六分の一デバフにかかる。今回の《魂の咆哮》もそう


(=`ω´=)<これで爆発抑えたのはうちのファインプレーやろ?


(=`ω´=)<取引で下がった株も爆上がりや! 褒めてくれてもええんやで!


(=ↀωↀ=)(自分で言わなきゃいいのになー……)


(=`ω´=)<ていうか<遺跡>全部吹っ飛ぶんやったら他の連中も死ぬはずやったん?


(=ↀωↀ=)<『前提として、私達の生存と帰還は考慮しない』


(=ↀωↀ=)<ヘルダインは三人全員死ぬのも想定して伝えてもいました


(=ↀωↀ=)<あとイライジャだけでいけそうなら天井壊さなかった≒「最終奥義しなくてもいい」


(=ↀωↀ=)<逆に天井壊したら「俺にかまわずやれ!」って合図



○【十二身装】


(=ↀωↀ=)<ずっと装備してるのにようやく明かされた神話級特典武具


( ̄(エ) ̄)<ちなみに【十二身装】の元個体ってどんなだったクマ?


(=`ω´=)<『十二の災い』を九割減した上に、減らした分を距離無視した確定必中で叩き返してくる感じや


(=ↀωↀ=)<……神話級ってそういうことするよねー


( ꒪|勅|꒪)<ネメシスの動作安定版みてーな奴だナ


( ̄(エ) ̄)<どうやって倒したクマ?


(=`ω´=)<『十二の災い』に単純なステータスダウンは入ってへんやろ?


(=`ω´=)<せやからうちがデバフしつつ信者の人海戦術で攻撃しまくったんよ


(=`ω´=)<カウンター食らっても生きてるなら回復させ続けるゾンビ戦術やし


(=`ω´=)<大技をカウンターされて死ぬとしても


(=`ω´=)<削り切れる人数用意して攻撃しまくればええってことやしね


(=`ω´=)<で、ずっと生き残ってデバフと回復してたうちがMVPや


(=ↀωↀ=)<脳筋レイド……


( ꒪|勅|꒪)(……あれ? 元のヤツのカウンター効果どこ行った?)

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