第一一四話 主役と脇役
(=ↀωↀ=)<今さらですがマリオを観てきました
(=ↀωↀ=)<圧倒的既視感というかネタとエンタメの宝庫
(=ↀωↀ=)<一つの歴史を一本の映画にまとめたような作品でした
(=ↀωↀ=)<人生でマリオシリーズに触れたことある人なら楽しめる気がします
(=ↀωↀ=)<好きなシーンはクライマックスと
(=ↀωↀ=)<マリオカートの「あ、お前かぁ!」ってなるアレ
■二〇四五年一月・皇都闘技場
それは王国と皇国の戦争が停戦という形で終わった直後のこと。
戦後最初の決闘が開かれた皇都闘技場の一室で、イライジャはとある人物と顔を合わせていた。
「バルサミナ」
『いよぅ、
相手は決闘ランキング二位、【
今日の試合でイライジャと対戦し、彼を倒した人物だが……その風体は尋常ではない。
既に試合は終わっているのに、その全身は金属装甲……
そう、戦いの場に限らず、バルサミナは常に機械式甲冑を身につけている。
その素顔は、決闘ランカーとしてランクを並べるイライジャでも見たことがない。
あるいは本人かどうかも疑われる姿だが、機械式甲冑の胸部で輝く発光体……バルサミナの<エンブリオ>が本人であることを証明している。
『で、何の用だ? 試合についてはいつも通りで言うことなんかねえだろ』
「……ああ。ここに来たのは、別の用事なんだ」
問われ、イライジャは頷く。
彼が試合後のバルサミナを訪れた理由は、決闘についてではなく……。
「……バルサミナ。お前はあの戦争、
王国と皇国で繰り広げられた……第一次騎鋼戦争についてだ。
皇国の
『<超級>のワンマンショーを最前列で見せられただけだ。他は
バルサミナは至極あっさりと、そう述べた。
『まぁ二人いたのにワンマンショーってのもあれだがな』と、あの戦争に参加して巨大な怪獣と無数の悪魔をその目で見た準<超級>は吐き捨てるように言葉を続ける。
『あいつらは……
「……!」
それはイライジャの抱いた考えにも近い。
皇国の決闘ランカーとして常々ローガンの試合を見ていたからこそ……彼は戦争でも同じ気配を感じたのだ。
ローガンへの隔意はあってもその脅威は理解でき、何よりベヘモットの生物としての格の違いは同じ戦場に立つだけで伝わった。
『他に目立ったのはあの白衣くらいで、俺達も皇国も賑やかしでしかなかったのさ。戦争に勝った負けたなんて状況、
「…………」
<超級>と自分達の戦力差を知る者には否定し難い事実だ。
<超級>を除けば自身が知る中でもトップクラスの強者から発せられた肯定に、イライジャの表情も曇る。
「……『他は脇役』って言ったな。それはお前も含むのか」
『ケケケ……。聞くかねぇ、それを? だがまぁ……
イライジャの問いかけに、耳障りな笑いを返しながら……バルサミナは
『当然俺も脇役だ。今の俺……いいや、
「……?」
どこか奇妙なニュアンスを含んだ言葉に、しかしイライジャは違和感を持っても言及はできない。
『そして今後は<超級>の思惑で世界が動いていくだろうさ。そのくらい、持った『力』に差がありやがる』
「……お前でも届かないのか?」
『
バルサミナは機械式甲冑の胸に埋まった自らの<エンブリオ>を、右の親指で指し示す。
『だからまぁ、今後の脇役にできることは二つ……三つだな。まずは『力』を得て主役に成り上がること。俺はこれだ、これ以外にない』
「…………そうだろうな」
太陽の如く自分を中心に考える
そして彼ならば、既に『力』を得る算段もしているのかもしれないと考えた。
『次に、主役様の邪魔にならないように物陰でコソコソ這いつくばること。……脇役通り越してモブだな』
それはこの機械式甲冑が絶対に選ばない道だろう。
『……で、最後は……』
バルサミナは言葉を切り、ジッとイライジャを見つめる。
自身の『力』の不足を知りつつも、しかし
『
「…………」
『お前はどうする?』
「俺は……」
答えが出ない。
未だ出せないイライジャに、バルサミナは『ククク』と笑う。
『ま、
まるで別れの言葉のように、バルサミナは
◆
そして時は流れ、――イライジャの手には『力』と『役割』が持たされた。
◇◆◇
□■<遺跡>・格納庫
イライジャは、自らの身体を刃が通り抜けていく感覚を味わう。
今の彼は仰向けに倒れて、天井を見上げていた。
【オオイミマル】によって、胴を袈裟懸けに切られた。
背骨にすら届いた刃は彼の神経を断ち、傷痍系状態異常で彼の両足は既に動かない。
それほどの損傷を受けても、彼の身に付与された膨大な耐久力が致命にまで届かせない。
届かないゆえに、【ブローチ】は発動せず。
それでも、傷と出血でHPは削れていく。
「っ……」
立ち上がることもできないまま、床の冷たさと血の熱さを感じている。
そんな彼への追撃はない。
何とか頭を起こして視野を変えれば、フィガロは倒れた彼から距離を取っていた。
既にフィガロの身体から立ち上る血煙は……彼の血潮を燃やす必殺スキルが止まっている。
先の攻防で、効果時間が切れたらしい。
だからこそ、後ろへ跳んで距離を空けたのだろう。
イライジャの足が動かずともクロスレンジならば、強化の切れたフィガロならば左腕だけで倒しうる。
逆に、距離を取られてしまえば、今までの強化幅でも見切られていた《見えざる猿の手》しか使えない。フィガロにとっては脅威ではない。
一手読み間違えれば死ぬ状況でも、遥か格上の『力』に挑む狂気的な状況でも、フィガロの行動には狂いがなかったのである。
(ここまでの戦闘の組み立てを、あの一瞬で……)
フィガロは近づかないまま、しかしイライジャを倒すための武器を取り出している。
銃器の形をした遠距離攻撃型の特典武具だ。
【グローリアα】の《終極》を使わないのは、ここが彼らの守る<遺跡>の中だからか。
(そうだ……冷静に考えれば、フィガロがここで使うはずがなかった……)
相手はこちらの砦での戦いでも周辺の村落の被害を考え、ブラフを交えながらも周囲への被害のない使い方しかしていなかったのだから。
イライジャは『そんなことも分からないほどに、今の自分は空回っていたのか』と自嘲する。
だが、もう遅い。イライジャの損傷は致命的だ。
もはやここに、両者の勝敗を覆す手段はない。
「……なぁ、教えて、くれ」
「…………」
仰向けで天井を見上げながら、イライジャが声を発する。
それは今の自分には分からず、自分を倒したフィガロならば分かるかもしれないこと。
「何が、違ったんだ……」
自分とフィガロの違い。
攻防の中で押されながら、脳裏に幾つも浮かび上がりは消えていったもの。
一体、その中のどれが決定的な差であったのか。
<超級>を凌駕する『力』を、世界を動かすほどの『力』を手に入れたはずなのに……。
そんな、イライジャの心からの嘆きに……。
「気負いすぎたんじゃないかな? きっと、本当の君は
フィガロはあっさりとそう答えた。
それは、イライジャが思ってもいない言葉だった。
「……バカなことを言うな。俺のステータスは、【獣王】にも匹敵する過去最高の……」
「
イライジャの言葉を、フィガロが確信を以て否定する。
「君、明らかにコンディションが悪かったよ。前に戦ったときよりも、今日の動きは明らかに鈍い」
あの日、あの時。
仲間の力を引き継いだばかりの彼は、右腕の有無を別にしても今日より優れていた。
だが、あの日の痛み分け……否、敗走を経た今日のイライジャは違った。
――
それこそ、彼自身の動きを縛ってしまうほどに。
誰よりも自分で自分を責めて、窮屈に押し込んだ……そんな『心』で本来のパフォーマンスを発揮できるはずもない。
「だから、今日の君の『力』がどれほど大きくても……本当の君と戦うより
心と身体のパフォーマンスは無関係ではない。
背負うものが大きいほど力が出る者はいるだろう。
後に退けないからこそ強い者はいるだろう。
だが、今日のイライジャは無自覚だが……そうではなかった。
あまりにも大きな『力』と役割に、何よりも彼の『心』が縛られていた。
ステータスを別とすれば、普段の決闘で戦うイライジャの方が格段に優れた動きを見せるだろう。
フィガロとの戦闘前、<月世の会>や<暗黒舞踏会>を蹴散らしていたときから動きは単調で、想定外があればすぐに迷いを見せる。
彼以上の速度があろうと、思考時間があろうと、相手より拙く、ロスが多ければ意味がない。
背負わされるべきでない
『正しく』あろうとして、『犠牲を無駄にはしない』からこそ、彼は受け止めすぎた。
そして、重すぎる荷に……肉体ではなく心が負けた。
自らの欠点すらも克服してこの大舞台に臨み、絶望的な状況で苦渋の表情一つ浮かべることなく、自らのパフォーマンスを出し切ったフィガロとは違う。
フィガロとイライジャの差を一言で言えば――『役者が違う』。
「……………………そうか」
もしも、もしもの話。
同じ力を持ったとしても、こんなシチュエーションでなければ。
国家の命運や戦友達の犠牲を背負わず、ただの……いつも通りの決闘であれば。
あるいは……彼の心がこの状況すら背負いきれるほどに成長していれば。
イライジャとフィガロの差は、遥かに小さかったのかもしれない。
だが、そうはならなかった。
ゆえに、最大の敗因は彼自身に他ならない。
「――――ハハ」
『力』を得て主役に上がろうとしても、彼には主役になれる心の強さがなかった。
自分の心の弱さを自覚して……イライジャはそこで折れた。
「…………」
一つの問答……彼らにとって必要だった行為を終えて、フィガロは特典武具の銃口をイライジャに向ける。
そこに油断はない。フィガロは今もイライジャの左腕を注視しており、何かあれば即座に回避できるように身構えている。
だからこそ、ここからイライジャがフィガロに勝利することはない。
完膚なきまでに、イライジャは負けたのだ。
彼の力で全てを破る……『
「――――」
『ああ、それでも……』と折れた心で彼は決める。
――仲間達から託された力で、今度こそやり遂げる。
否、既に
何があろうと、託された力で責務だけは果たすのだ、と。
自分が負けようと。
心が折れようと。
やるべきことは、変わらない。
――
此処に至るまでに、格納庫で可能な限りの敵を排除した。
<マスター>の数は可能性の数。
予期せぬ
だからこの戦場に乗り込んだ彼は、可能な限りにそれを減らした。
そうして彼は――視線を対爆天井の一角に定める。
「……!」
その視線の動きに、フィガロは気づいた。
手にした特典武具からイライジャにトドメを刺す弾丸を放つ。
「……
それをイライジャは回避できない――回避する意味もない。
彼の思考速度と行動速度は、その前にすべてを終えられる。
そしてイライジャはその左手を、《見えざる猿の手》を、
「――後は、頼む」
――
着弾は手が振るわれるより速い。
そのダメージは致命的であり――致命的であるがゆえに【ブローチ】に阻まれた。
そして、天井へと伸ばされた《手》が触れた。
彼に与えられた『力』の……彼の全てが乗った《見えざる猿の手》は天井に届く。
物理最強に匹敵し、かつての質量爆撃をも凌駕する一撃が――格納庫の外壁を粉砕する。
天井が崩れ、崩落した瓦礫が格納庫内へと落下していく。
それが、彼の最期の役割。
ほんの少しでも、世界を動かす手段の一つ。
そして彼は崩落の中で絶命し……。
『――――
――――バトンは仲間に託された。
To be continued
○イライジャ
(=ↀωↀ=)<テーマ『大きな『力』と『役割』を持たされた、『主役』ではない人』
(=ↀωↀ=)<失敗できない場面で緊張していつも通りにやれないことってありますよね
(=ↀωↀ=)<かつてない大舞台、大きな力、大きな責任は彼の心を苛みました
(=ↀωↀ=)<自覚していた部分と、自覚しきれず指摘された部分
(=ↀωↀ=)<結果として最強の力を扱う心の準備が彼にはできていなかったのです
(=ↀωↀ=)<前話に則り、パフォーマンス云々を論じるのであれば
(=ↀωↀ=)<今日の彼は、集団戦をするフィガロよりも本来の彼から遠かったでしょう
(=ↀωↀ=)<それゆえに彼は主役を全うできず、しかし決意のままに最後の行動を起こしました
(=ↀωↀ=)<その結果は……
○バルサミナ
(=ↀωↀ=)<ジュバが『降り注ぐ陽光』としての太陽だとするならば
(=ↀωↀ=)<こちらは『恒星系の中心』としての太陽
(=ↀωↀ=)<この人については次話のあとがきでもちょっと書く
○準<超級>
(=ↀωↀ=)<こんなタイミングですが
(=ↀωↀ=)<王国と皇国の準<超級>上位五人をリストアップ(※管理AIアバターは除く)
王国
・【光王】エフ
・【抜刀神】カシミヤ
・【嵐王】ケイデンス
・【傾国】キャサリン金剛
・【絶影】マリー・アドラー(奇襲不意打ち何でもありの条件)
(=ↀωↀ=)<なお、決闘ルールに絞るとマリーの代わりにジュリエットが入ります
(=ↀωↀ=)<ちなみにルークはレベル消費の《制限昇華》抜きで考慮してるのでまだ入ってません
皇国
・【喰王】カタ
・【魔砲王】ヘルダイン
・【機甲王】バルサミナ
・【掻王】ドミンゴス
・【流姫】ジュバor【竜征騎兵】ガンドール
(=ↀωↀ=)<こちらも状況によってジュバとガンドールが入れ替わります
(=ↀωↀ=)<戦う場所や戦場にいる効果対象(MPドレイン対象)の数などですね
( ꒪|勅|꒪)<……ドミンゴス強くねーカ?
(=ↀωↀ=)<作中ではあっさり退場したけど攻撃当たれば勝てるレベルだからそりゃ強いよ
○追記
(=ↀωↀ=)<上記の選出ですが『高空に飛ばない』前提です
( ꒪|勅|꒪)<まぁ……何千メートルも飛ばれたら近接オンリーが詰むよナ
(=ↀωↀ=)<カタやカシミヤでも手が出せませんしね
(=ↀωↀ=)<決闘舞台くらいの高度を想定しています
( ꒪|勅|꒪)(逆に、飛べる連中は飛ばなくても五指に入ってたのか)