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第一一三・五話 それぞれの戦場

(=ↀωↀ=)<漫画版57話が更新されました


( ̄(エ) ̄)<一言で言うと『俺無双』クマ


https://firecross.jp/ebook/series/267


(=ↀωↀ=)<「どう見ても変形しますよね?」なバルドルにも注目

 □■<遺跡>・プラント前通路


 <遺跡>内部で二手に分かれた【餓竜】の群れ。

 格納庫へと向かった集団は<暗黒舞踏会>によって殲滅されたが、それよりも多くの【餓竜】は【セカンドモデル】のプラントを目指していた。

 理由は嗅覚によって嗅ぎ取った多くの人間()の気配。

 それを目指して、【餓竜】は通路を埋め尽くしながらプラントへと暴走する。


「来たぞ! 迎撃用意!」


 その侵攻を阻まんとするのは、<月世の会>主力部隊をはじめとした<マスター>達。

 最初は<月世の会>ばかりだったが、各地の戦いで生き残った王国陣営の<マスター>達も<砦>に集い、<月世の会>の治療を受けた後は<遺跡>の防備を固めている。

 そして今は、この先にいるティアンと<(レイ)>を護るために自らを壁として【餓竜】を迎え撃つ。

 通路に設置した遮蔽物とセントリーガンの後ろから、無数の矢と銃弾、攻撃魔法、そして遠距離型の必殺スキルが【餓竜】を次々に仕留めていく。

 だが、積み重なる死体を喰らいながら、【餓竜】の群れは濁流の如く通路を押し進む。

 まるで何処かから溢れ出てくるかのように、【餓竜】は途切れることがない。


「……ッ! この数、死体を喰ってリソースの使い回しでもしているのか?」


 防衛する<マスター>の一人が極めて正解に近い答えを口にし、ならばどうするかと思考して……。


「頼む、アユーシ」

「エエ……。マカセテクダサイ!」


 <月世の会>主力部隊の一人、この状況を変えうる者に呼び掛ける。

 遮蔽物から【餓竜】に向けて飛び出したのは、褐色の肌を持つ女性。

 踊子のような露出の多い服装に、腰を落とせば地に擦るほどの長い髪。

 その毛先に触れた通路の床が、――ジュワリ(・・・・)と音を立てて溶けていく。


『GIGIGI!』


 両の手を合わせ、無防備に身を晒しているように見える彼女。

 その肌に、【餓竜】は牙を突き立てんとして……。


 ――触れた上顎が溶け落ちた。


 彼女に牙を突き立てようとした全ての【餓竜】は、牙を喪い息絶える。

 その身はどす黒く変色し、ボコボコと泡立ちながら崩れ果てる。


「ワタシノチトニク、オクチニアワナカッタヨウデスネ」


 牙が触れた部分に浅い傷が残るが、その傷も音を立てて塞がっていく。

 彼女の名は、【剛闘士】アユーシ。

 TYPE:ルール、【鰥寡孤毒 ヴィシャ・カニャ】の<マスター>。

 そのモチーフは古代インドに伝わる毒の娘。『長年の服毒で自らの血肉を毒へと変じさせており、閨を共にした男を暗殺する』という伝説の存在。

 その由来のように、ヴィシャ・カニャは彼女の身を猛毒へと変じさせる恐ろしき力。

 <月世の会>の信者たる彼女がなぜそのような<エンブリオ>となったかは……いま語るべきではない。

 重要なのは、彼女が極めて恐ろしい壁役だということだ。

 彼女の肉体は触れるだけで蝕み溶かし、血肉を取り込めば臓腑から爛れ落ちる。

 メインジョブの【剛闘士】をはじめ、HPとENDに振った彼女は壁役にして毒のデバッファー。

 さらにはかつて自らを喰らわせることで討伐した再生能力特化<UBM>の特典を得た。

 その結果、ティル・ナ・ノーグには及ばないながらも、身体欠損も時間を掛ければ再生する継続回復スキルまでも持ち合わせている。

 講和会議では【獣王】に毒が通じず、再生の間に合わない攻撃力で殺害された。

 だが、【餓竜】相手ならば問題ない。

 触れれば死に、死体は毒に侵され、喰らえばまた死ぬ。

 捕食によるリソースの回収さえも不可能だ。


「シニタイモノカラ、カカッテキナサイ」


 当たり判定を広げるための長い髪を振り乱し、アユーシは【餓竜】を迎え撃つ。

 獲物ではなく、【餓竜】への明確な死の壁となって。


『GIGIIII……!』


 それでも、【餓竜】は止まらない。

 野生の獣であれば、有毒生物を恐れるだろう。

 だが、【餓竜】は恐れない。

 毒を食らわば皿まで。毒で死ぬ恐怖はなく、毒であろうと喰らう食欲のみが【餓竜】にはある。

 ゆえにアユーシに牙を突き立てんとし、あるいは脇をすり抜けて前進する。


「アユーシの毒にも怯えねえか……、だがまぁ、そこで止まりな」


 アユーシの脇をすり抜けようとした【餓竜】の群れに次々と銃弾が突き刺さる。

 弾丸は小さく、威力は弱く、【餓竜】の勢いを止めるにはまるで足りない。

 撃たれた【餓竜】達は構わず突き進み、


『GI……?』

 次第に、その足の動きが鈍る。


 まるで自らの足を持ち上げる力が足りないかのように、その歩みが鈍重になる。


「ひっひっひ、攻撃力はあるがSTRはさほど高くねえみたいだなぁ」


 後続に銃弾を放ちながら【餓竜】を笑うのは、翁の面をつけたガンマン。

 【疾風銃士】枯木十六斎。

 拳銃型のアームズ、【重重招致 コナキジジイ】の<マスター>。

 彼のコナキジジイに弾丸を撃ち込まれたものは一歩歩く毎に自重が倍々になる。

 一歩二倍、二歩四倍、三歩八倍……通常時は最大で七歩一二八倍。

 超軽量超筋力の【獣王】には意味がなく、そもそも当たりもしなかったが今は別だ。

 通路を埋め尽くすような【餓竜】には目を瞑っても当たる。

 そして弾丸の影響下に置かれた【餓竜】達は動きを鈍らせて歩みを止め、その身体自体が後続の進行を阻む生きた防柵になってしまう。

 中央に毒の壁、両脇に足手まといの仲間。

 【餓竜】の動きはここに停滞し、


「発動、《連環の計》」


 動きを止めた【餓竜】の群れに、一斉に鎖が掛かる。

 それらは身近な【餓竜】同士を繋ぎ続け、その場にいた数多の【餓竜】が鎖で繋がる。

 その鎖はコナキジジイと違って重さもない。

 だが、鎖で繋がった【餓竜】は一定以上離れられなくなっている。


「――《勝軍の風(チービー)敗軍の舟(ヂーヂャン)》」


 直後、【餓竜】を繋ぐ鎖が紅く輝き――アユーシが後方へと大きく飛び退く。

 そして僅かな間をおいて、


「《クリムゾン・スフィア》」


 上級奥義でも最大級の火力を持つ火属性魔法が、【餓竜】に向けて放たれる。

 身動きの取れぬ【餓竜】の一体にその火球は命中し、


 ――瞬間、鎖で繋がった【餓竜】全てが同時に炎上した(・・・・・・・)


「流石に消し炭は食えまい」


 燃える【餓竜】にそう呟いたのは、顔面も頭髪も隠した古代中国風衣装の男。

 彼の名は【紅蓮術師】死胎蛋(スータイタン)

 赤壁の戦い(チービーヂーヂャン)をモチーフとしたテリトリー、【一網拿塵 チービーヂーヂャン】の<マスター>。

 《連環の計》にて密集してる相手を鎖で繋いで、動きを制限。

 その後、必殺スキルによって繋がった者達の当たり判定(・・・・・)を共通化。

 いずれか一体に命中すれば……繋がった者全てに被害が及ぶ。

 通常スキルの頃はダメージが連結数に応じて分散されたが、必殺スキル化してからは全てに同じだけのダメージが入るようになった。

 【獣王】のように単独で襲ってきた相手には意味がないが、今回は違う。

 拘束された餓竜の群れの多くが《クリムゾン・スフィア》の直撃を受け、延焼によってさらに多くの餓竜も炎上。

 そこに他の<マスター>の遠距離攻撃が次々に刺さり、息絶え、死体は燃えていく。

 そうしてプラント前の通路に殺到していた【餓竜】は死体すら遺せない。


「オワリデショウカ」

「後続も湧いてこねえし、一旦はWAVE終了みてえだな」

「そのようだ」


 プラント前通路の攻防は、ひとまず王国側の勝利に終わる。

 その中核となった三人は、<月世の会>が得意とするレイド戦において活躍する戦闘部隊の主力。

 【ジェム】で代用可能な火力ではなく、敵を抑え込む力に特化した者達であり、かつてはシジマの指揮の下で数多の敵を討ち取った。

 月夜の《月面除算結界》と合わせ、デバフの連携に晒されれば……大抵の相手は地に伏す。


「コンカイハ、オヤクニタテマシタ」


 アユーシが安堵したように息を吐く。

 前回動員されたときは【獣王】によってあっさり全滅したことを気にしていたらしい。


「我々とは相性が良かったが……。教主様にもどれほどの戦力が差し向けられていることか……」

「心配要らねえだろ。向こうにはあのフィガロがいるんだぜ? 前にうちの本部ぶっ壊されたの忘れたのかよ……」

「イヤナジケンデシタネ……」


 レイ誘拐事件の際、奪還に来たフィガロに蹂躙された記憶を三人は思い出して表情を歪めた。

 【獣王】やフィガロ、それに【グローリア】など、彼らが相手どれる『大抵の相手』からズレる手合いとの交戦も多い三人である。

 そして、一つ付け加えるならば……。



「守りが厚い。――<砦>はこっちなのかな?」

 この地にも――そうした手合いはいる。



 ◇◆◇


 □■カルチェラタン地方・山岳部


 囮となるべく<遺跡>を砲撃し、迎撃に出た敵戦力を削っていたヘルダイン。

 彼はアウトレンジから一方的に敵を削っていた。

 しかし夜が明けた頃、彼の周囲の戦況も変化していた。


『前の戦争以来だな、ヘルダイン!』

「マスクド・ライザーか……!」


 今、彼の前にはヒーロースーツの男……ライザーが立っている。

 彼もまた、この地で月夜の治療を受けた者の一人。

 カタとの戦いで損なった身体も、既に完全回復している。

 そして今は空中から接近する者達がフェンリルの対空砲撃に晒される陰で、木々の間をバイクで駆け抜けてヘルダインの前に辿り着いたのだ。

 視線を引きつけることも迎撃部隊の狙いだったのだろう。


「……!」


 かつての戦争において、ヘルダインはアウトレンジから砲撃することでライザーを仕留めた。

 だが、ここまで距離が詰まれば話は別だ。

 超級職といえど、ヘルダインは魔力式大砲の運用に特化したジョブ。

 ステータスの成長はMPやDEXがメインであり、レベル差を加味しても近接戦においてはライザーに軍配が上がる。

 それゆえ、ライザーは畳み掛けるように攻撃を仕掛けてくる。


『マスター、……!』


 フェンリルが援護射撃を敢行しようとして、それを取り止める。

 なぜなら、ライザーは常にフェンリルを意識した立ち回りをしていた。

 フェンリルとの射線上に必ずヘルダインを挟み、可能な限り距離を詰める。

 砲であるフェンリルの攻撃に、ヘルダイン自身を巻き込まざるを得なくなる位置取りだ。

 加えて、未だ迫ってくる他の<マスター>達の迎撃のため、フェンリルは形態を変えることもできない。


「くっ……!」


 ヘルダインは自身の装備である魔力式銃器でライザーを迎撃する。

 だが、それらは防御貫通能力のあるフェンリルではない。

 銃弾はライザーの纏うスーツを傷付けることはできても、一撃で貫いて彼を殺す域には届かない。


『オォォッ!』


 ライザーは拳打をヘルダインに叩き込む。

 ライザーキックは使えない。予備動作で空中に跳んだ時点でフェンリルに狙い撃たれる。

 それでも、このまま押し切れるとライザーは踏んだ。


「《瞬間装着(・・・・)》!」


 ヘルダインが言葉を発した直後に生じたのは、激突音。

 金属同士がぶつかる……重くも甲高い響き。

 彼の拳を阻んだのは、ヘルダインの軍服ではなく……装甲の輝きだった。


『ッ!? パワードスーツだと!』


 自らの攻撃を左腕の防御用装甲で防いだ人型機械に、ライザーが驚愕の声を発する。


注文主(【機甲王】)がいつまで経っても引き取りに来なかった代物だ。私が代わりに引き取らせてもらった』


 ワンオフ型機械甲冑、【カピタン・ドライフ】。

 かつて【機甲王】バルサミナがフランクリンのPKを成功させた報酬を注ぎ込んで発注した機体。

 発注後に本人がフランクリンの報復によってログイン不能に追い込まれたため引き取りに来ず、契約不履行のまま工房に眠っていた代物。

 それをヘルダインが見つけ、後金が貰えず困っていた工房に代わりに金を払って預かっていた。

 その後、戦争直前に【光王】に敗北してアジトに引き戻されたヘルダインは、失った戦力を補うためにこの機体を持ち出したのだ。


『貴様の決め技ならこの甲冑も砕けようが、ただの徒手空拳では骨を折るだろう』


 オーダーメイドだけあって性能優先、カンストでも届かぬレベル制限とMP消費を要求する代物だったが……【魔砲王】であるヘルダインならば運用できる。

 パワードスーツや機械系のジョブではないため性能補正は乗らないが、素の機体性能でもヘルダインの肉体よりは遥かに頑強だ。

 ライザーキックを封じられているライザーでは破壊も容易くはない。

 ヘルダインはフェンリルによる砲撃ができず、ライザーはライザーキックが使えない。

 共に決め手を欠いた戦いだが、両者共に一つの共通認識がある。

 最終的にはライザーが勝つ、ということだ。

 装備で補ったところで、決闘のベテランたるライザーと専門外のクロスレンジ戦をすれば結果は見えている。

 パワードスーツはその結果が訪れるのを遅くするだけのものだ。


(構わない)


 だが、ヘルダインはそれも織り込み済みだ。


(時間を稼げば、待てば、その機会は来る……)


 そしてパワードスーツの光学センサーを、今仲間達が戦っているだろう<遺跡>へと向ける。


(頼むぞ……カタ、イライジャ)


 ヘルダインは敗北が確定した勝負に挑みながら、その時を待つ。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<21巻作業の詰めがあるので来週はお休みかもしれません


(=ↀωↀ=)<そうなったときはご了承ください……



○主力


(=`ω´=)<うち含めて只管デバフ掛けた後に影やんとアユーシで殺す感じや


(=ↀωↀ=)<まぁシジマさんも大別するとデバフ型ですからね


(=`ω´=)<シジマがデカいソロモンスター、死胎蛋が数の多いモンスターで分担する感じや



○【鰥寡孤毒 ヴィシャ・カニャ】


(=ↀωↀ=)<『全身毒化』を特性とする<エンブリオ>


(=ↀωↀ=)<スキル発動すると自分以外を無差別に侵す毒の塊に成る


(=ↀωↀ=)<ちなみにアユーシは海外支部の病院で<月世の会>に入信しましたが


(=ↀωↀ=)<彼女がカタカナ喋りなのは翻訳ミスとかでなく


(=ↀωↀ=)<喋ること自体にまだ慣れていないからです



○【重重招致 コナキジジイ】


(=ↀωↀ=)<『重量過多』を特性とする<エンブリオ>


(σロ-ロ)<アトラスと近いのでしょうか?


(=ↀωↀ=)<『自分を中心とした範囲』と『当てる必要はあるが射程の長い弾丸』


(=ↀωↀ=)<『近距離五〇〇倍で圧縮可能』と『七歩一二八倍だが低コストで連射可能』


(=ↀωↀ=)<利点になる部分は違うけどそうですね


(=ↀωↀ=)<ちなみに枯木十六斎は初めてログインしたときの年齢が十六歳でした


(=ↀωↀ=)<リアルの彼も自重で動くことに耐えられない体質です



○【一網拿塵 チービーヂーヂャン】


(=ↀωↀ=)<『巻き添え』を特性とする<エンブリオ>


(=ↀωↀ=)<歴史上の出来事モチーフ


(=ↀωↀ=)<こんな感じで有名な戦いの名前付いた<エンブリオ>もいる


(=ↀωↀ=)<ちなみに<マスター>名の死胎蛋は孵化寸前の卵使う料理ですね


(=ↀωↀ=)<本人的には『鳳雛(龐統)未満のできそこない』という皮肉も込めている


( ꒪|勅|꒪)<……<月世の会>ってサ


(=ↀωↀ=)<まぁ、成り立ちが成り立ちなのでそういう人多いですよ


(=ↀωↀ=)<シジマさんとかもね



○【カピタン・ドライフ】


(=ↀωↀ=)<名称に悩んでいた作者


(=ↀωↀ=)<手元にテック・オン・ア○ンジャーズのキャップがあったので「これや」となる


(=ↀωↀ=)<見た目もそんな感じです

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