エピローグB 神か悪魔か
(=ↀωↀ=)<本日二話目
(=ↀωↀ=)<これで最後だ!
(=ↀωↀ=)<作者にとっても長かった戦いよさらば!
(=ↀωↀ=)<ようやくFGO七章とか積んだプラモとかゲームとか……
( ꒪|勅|꒪)<20巻の校正とSSの締め切り迫ってんゾ
(=ↀωↀ=)<ぐああああああああ……!?
○余談
(=ↀωↀ=)<この話で本編の文字数が四〇〇万字超えました
(=ↀωↀ=)<思ったより書いてた……
□【未確認飛行要塞 ラピュータ】
陽が落ちた砂漠の空を、ラピュータが飛行している。
今朝までは天空の城というに相応しい外観だった建造物が、今夜は廃城とさえ呼べない有り様だ。
一部機能を回復して飛んではいるが設備の破損は多く、飛行速度も遅い。
カルディナによる更なる追撃がなかったのは幸運と言えるだろう。
【ベルドリオン】がユーゴーと共に消え去った後。
混乱はあれども方針は『ウィンターオーブ領からの脱出』ですぐに固まった。
<マスター>とティアンを合わせても然程多くない生存者が、辛うじて破損を免れた城の基礎部分に乗り込んでの脱出だ。
本来であれば収容できなかっただろうが……護衛の<マスター>の多くが脱落したために足りてしまっている現状だ。
ウィンターオーブの住民については、彼ら自身での避難を祈らざるをえなかった。
今のラピュータに収容できる余裕はなく、またラピュータに民衆を避難させても『獅子面』のような存在が混ざっているリスクもある。
なにより、住民達にとってもラピュータの方が危険だ。
防衛力がガタ落ちして、設備としても限界が近いラピュータでは……多くの人間を守ることは難しい。再襲撃があれば死地となるだろう。
ゆえに、新たにティアンを乗せることはなかった。
しかし、エイリーンをはじめとする元々乗っていた者達が降りることもない。
そして<マスター>について言えば、新たに乗船する者がいた。
【召喚姫】天空院翼神子。
あの激戦の中で現れた押し掛け助っ人は、そのままラピュータに滞在している。
わざわざ自分が危害を加えない旨を明記した【契約書】まで持ち出してのことだ。
彼女は出現方法とタイミングこそ怪しくはあったが、彼女に救われた者達の嘆願があり、エイリーンが身柄の保証人となることで乗船している。
エイリーンが保証したのは、彼女が人狼を介して父の協力者であったことは父との別れの際に読んでいたためだ。
それにグレイ達としても、ここまで激減した戦力での道行きには不安があり、準<超級>でも上位の実力者である彼女が【契約書】の保険込みで同行してくれるならばありがたくはあった。
かくして多くを失いながらも新たな乗船者と共に、ラピュータは黄河を目指す。
◇◆
『間もなく<ウィンターオーブ>の東、二〇〇キロメテル地点を通過するトド。カルディナの宣言した隔離地域はここまでトド。各員は警戒を厳に』
「…………」
グレイのアナウンスを聞きながら、エイリーンは露天となった部屋に佇んでいた。
砂漠といえども夜は冷える。ましてや空の上だ。
服を着込んで、彼女は星を見上げている。
覚悟をしていたけれどあまりにも恐ろしく、多くを失い……託された今日という日を思い返しながら。
「こんばんは」
「殿下……」
そんな彼女に声を掛けたのは、ツァンロンだった。
RANとの戦いで消耗した彼だが、今は随分と回復している様子だった。
「どうしてこちらに?」
「そろそろ境を超えるらしいので僕も外で警戒を。そしたらあなたを見つけました」
「そうですか……」
そう交わした言葉を区切りに、会話が止まる。
ツァンロンは言ったように周辺の警戒を続けて、エイリーンは沈黙する。
けれど、会話の再開を試みたのはエイリーンの方だった。
「あの、殿下達は……大丈夫ですか」
「……色々と、ありましたからね。今は一段落したところです」
僅かに、ツァンロンの顔に苦悩が浮かぶ。
ツァンロンはRANから渡された【契約書】……その意味について悩んでいた。
だが、より深刻なのはエリザベートだ。常の彼女とは違い、ひどく動揺していた。
だが、それも無理からぬことだ。自分のことであれば殺されかけても冷静な肝が据わっている少女だが、姉妹については心を揺らす。それをツァンロンはよく知っていた。
彼女にとって、妹が今代の【邪神】であるという情報はあまりに大きかったのだ。
先ほどまでは不安と焦燥を抱く彼女に寄り添っていたが、今は彼女が眠りに落ちたので数少ない戦力として警戒に回っている。
ただ、ツァンロンは思う。
ここにも一人、心に負担を抱えた少女がいると。
「あなたも……大変でしたね」
「……いえ」
父を亡くしたエイリーンを気遣うように、ツァンロンは言う。
肉親があんな死に方をしたのだ。悲しみに沈んでもおかしくない。
(肉親……か)
ツァンロンは物心つかないうちに母親を殺してしまい、父親には憎まれてついに刺客を送られた。
そんな彼でも、エイリーンの境遇と心境を察することはできる。
それでも、彼女は閉じこもることなく、ここにいる。
「あの……」
だからこそ、ツァンロンも聞くべきことを聞くことにした。
あるいは、何かを話すことで彼女の重荷を減らそうとしたのか。
「何でしょう……」
「ローグ市長が最後に遺した言葉。『伝えるべき人に、伝えるべきことを』とは何のことですか?」
「…………」
「そもそも、なぜウィンターオーブ……ローグ家はカルディナに襲われたのですか?」
エリザベートやツァンロンを狙ったというなら話は簡単だ。
だが、ウィンターオーブを嵌めた手口といい、狙いの主眼は明らかにローグ家だった。
王女や【龍帝】以上に優先する何が、ローグ家にあったのか。
「…………」
再びの沈黙。しかし……。
「……私達の一族には、稀に過去を視る力が宿ります」
今度もまた、口を開いたのはエイリーンからだ。
『伝えるべき人に、伝えるべきことを』。
父の遺言を重んじ、その一度目を……今話せることを伝え始める。
「レジェンダリアの人達が生まれながらに環境に合わせた力を持つように、私達は触れたものの記録を読み取る力を持っています」
セーフティである手袋を翳しながら、エイリーンは頷く。
「この力で議長の陰謀を察知し、それを阻もうとして……気取られた。それが今回の事件の発端です」
「……そういうことだったんですね」
ツァンロンはエイリーンの言葉を信じた。
話の筋が通る。市長邸でツァンロンと握手した市長、そしてお茶会の場でエリザベートと握手したエイリーンは、どちらも直後にツァンロンを見ながら驚いていた。
それはツァンロンが【龍帝】だと過去視によって二人が知ったからなのだろう。
「ただ、過去は私達しか視られません。議長の陰謀を調べても……」
「証拠がない、ということですね」
物的証拠がないゆえに、今回の事件も議長のプロパガンダ通りに世間……少なくともカルディナでは認知されるだろう。
「だからこそ、父は議長に対抗する力を集め、私のことは信じてくれる協力者……銀龍殿下に預けて、この力を活用して共に世界を護ってもらおうとしていたのです」
「……概ね、分かりました。しかし、世界を滅ぼす陰謀を巡らせるカルディナの議長とは……何者なのですか?」
「…………」
【邪神】が世界を滅ぼしたとして、何の得があるというのか。
破滅思考の傍迷惑な狂人……とも思えない。
そんな人間にしては、陰謀が狡猾に仕組まれすぎている。
頭のおかしい人間にできることじゃない。
(市長は議長のことを『古の神』と言っていた……)
この世界で神とは超級職の一種、【神】シリーズのことだ。
しかしツァンロンはそれでは腑に落ちなかった。
(神。……神、か)
かつて、先々期文明の時代までは、ツァンロンに宿る力の前身にして祖先……古龍が神にも等しいとされていた。
人にこの世界の力であるジョブの知識を授け、世界の管理を担う者だと。
しかし、ある文献では古龍は神の遣いにすぎず、この世界を創生した神々や管理する神は別にいるとも記されていた。
その真実は、古龍が既に彼の中の力でしかない現状では分からない。
だが、もしも……。
(もしも、本当に神や、神の遣いなのだとすれば……)
この世界を滅ぼそうとする議長の正体は、底知れない。
「…………」
ツァンロンはエイリーンにそれも含めて聞こうと思ったが……やめた。
既に、彼女は口を閉ざしていたからだ。
(『伝えるべき人に、伝えるべきことを』、か)
恐らく、ツァンロン達に今伝えられる情報は伝えたのだろう。
過去視という情報収集に特化した血族。
だからこそ、重要度の高い情報ほど、慎重に扱っている。
逆に言えば、自分達の一族の秘密よりも遥かに重い何かを抱えているということだ。
しかし、それはいま聞くべきことではないのだろう。
父親の遺言に従い、決意と共に彼女は口を閉ざしているのだから。
「「…………」」
黙したエイリーンの隣で、ツァンロンは言葉なく周辺を警戒する。
そのまま、彼女が屋内に戻るまで……ツァンロンは彼女の傍で彼女を護った。
もう、護ってくれる親がいなくなってしまった彼女を。
最初から護ってくれる親などいなかった少年が。
ただ、護っていた。
◆◆◆
■【漂竜王 ドラグノマド】・機密格納ブロック
<ドラグノマド>の市庁舎の最奥のエレベーターから繋がる先には、巨大<UBM>の体内に建造された、管理AIの監視も跳ね除ける機密性の高い区画がある。
「…………」
カルディナ議長、ラ・プラス・ファンタズマは数時間前……【フーサンシェン】が討伐されたときからこの区画の一角に佇んでいる。
それは自らの出したクエストの、失敗というにはあまりに大きな失敗ゆえに。
視えずとも、演算できずとも、勝てるだけの戦力は送り込んだ。
しかし、結果はカルディナ側の全滅。
再稼動したラピュータにより、ターゲットだった者達は死地であるウィンターオーブ領を離脱している頃だろう。
ウロボロスの空間ループが解けてしまえば離脱は容易であるし、第二の追手を放つ時間的余裕はなかった。
ザカライアが生存して要ればいくらでも第二派、第三派の刺客として『獅子面』を送り込めただろうが……彼もまた落ちている。
いや、何より問題なのがそのザカライアの
情報アドバンテージの一部が失われ、埋伏の毒さえも露見した。
これで、今まで視ていた未来はほとんどがご破算になったと言ってもいい。
「……それで、どんな様子だったかしら」
議長は自分以外誰もいなかった区画で、声を発する。
「うん。彼にはリアルの方で私から事の次第を伝えておいたよ」
その声を受けたのは、たったこの区画に入ってきた褐色の青年……ラ・プラスの夫であるファトゥムだった。
「大丈夫そうかしら?」
「いや、ひどく気に病んでいたよ。だから、私から『君はローグ家の力と相性が悪かった。私の人選ミスだから気にするな』とは言っておいたとも」
「……ふふふ」
『
この失点を取り戻すために、より死に物狂いになるはずだ。
「ヴォイニッチは潜っているので連絡が取れなかったよ。今回の件で最も皺寄せが向かうのは彼だから心配だね」
「そうね」
【鎌王】ヴォイニッチ……ファトゥムの友にしてラ・プラスの共犯者である男の正体が、王国サイドに露見した。
これは三日目……戦争最終日を大きく左右することになりかねない
「まぁ、いいわ。今回はウィンターオーブとローグ家。私にとって悪性腫瘍にも等しいあれらの機能が停止したことは喜ばしいと思いましょう」
「おや、まだ娘が生きているようだけど?」
「見えない群れが乱数として大きかっただけで、単独なら他の情報からどうとでもできるわ」
「そうか。君がそう言うなら問題ないよ」
ファトゥムはラ・プラスの言葉に異を唱えない。
彼女の夫は常にこのような振る舞いだ。
ラ・プラスを立て、ラ・プラスの手駒として、忠実に異議なく動く。
この世界を滅ぼすことで解放されるラ・プラスの力を
その関係はラ・プラスも望むところであり、心地いいとさえ感じる。
元より、ヒトとの『契約』によって生きるのがかつての己の在り方なのだから。
「それにしても、今回は災難だったね」
「そうね。読めないものが多かったけれど、完全に意図しないものまで混ざっていたから」
「……? それは?」
ラ・プラスの言葉にファトゥムが疑問を呈する。
それに対してラ・プラスは……彼女としては珍しくも
「決戦兵器四号なんてもの、どのタイミングで
ラスカルも、マキナも、そして彼の操る決戦兵器四号も。
ウィンターオーブにまつわる計画を立案したときには、影も形もなかった。
そんな彼らを紛れ込ませた……読めない存在がいるのだと彼女は言った。
「ただ、どちらかといえば私の妨害だけでなく、私的な怨みが垣間見えるわね。
そして下手人が
◆◆◆
■カルディナ某所
「あっはっはっはっは!」
カルディナに広がる大砂漠のどこかにて。
ステルス性能に特化した先々期文明兵器の館内で、一人の女性が手を叩いて笑う。
女性はカルディナ中を股に掛けるフリーの敏腕【記者】スター・チューン。
その正体は、量産型煌玉人【
そして……。
「いやー、転がった転がった。私に未来なんか視えないけれど、視えてる奴より上手くいったかもしれませんね!」
今回の一件に影ながら介入した指し手である。
「本当は
彼女の介入とは、ラスカルとマキナがウィンターオーブを訪れたことだ。
ラスカルの回収事業に持ち込まれたベルドリオンの残骸は、彼女の仕込みである。
彼女はタイミングを見計らった。【フーサンシェン】の珠がウィンターオーブにあり、カルディナの<マスター>がウィンターオーブ周辺でのクエストに動き始める……そんなタイミングで彼女達がかつて回収していた残骸を流したのだ。
事件の渦中に、折よくラスカル達が噛み合うように。
機械への天敵である【フーサンシェン】でマキナを害し、尚且つラ・プラスの計画を歪ませるために。
「こちらがまだ
彼女は煌玉人、【水晶之調律者】。
フラグマンの遺志を継ぎ、その目的のために動くモノ。
◆◆◆
■【漂竜王 ドラグノマド】・機密格納ブロック
「例の煌玉人……フラグマン陣営か」
「
ファトゥムの言葉に頷きつつ、ラ・プラスは首肯する。
「あれらの目的は『“化身”を滅ぼすこと』。最善は『世界を護った上で滅ぼす』、次善は『世界を犠牲にしてでも滅ぼす』。最善ならば敵同士だけれど、諦めて次善を選ぶならば協力できる」
「そうだね。まだ何体かは決戦兵器を秘匿しているのだろうし、戦力としては無視できない」
「ええ。何より、こちらの仕様上……機械人形の未来は読めない。
「いつの間にかサリオン氏が死んで流れていたからね」
ヴェンセールが爆発する前に珠は動かすはずだったが、それよりも先んじて【水晶之調律者】に奪われてしまった。
完全な敵ではないが、相性は悪い陣営だ。
「こちらの目論見を短絡的に崩さないでほしいものだね」
「ええ。けれど、あれらが短絡的なのは当然よ。
ファトゥムの言葉にラ・プラスは笑い、けれど少しだけ訂正した。
「いえ、違うわね。
「歪んでいる?」
「あれらは最初一〇〇〇体以上が存在した。それらは二〇〇〇年を掛けて、姉妹で協力して、“化身”対策に動き続けていた」
量産型の名に数で、姉妹揃って先々期文明のために恥じぬ働きをしていたのだ。
だが……。
「そして負け続けた」
抗するべき存在はあまりに強大であり、それ以外にも障害は多かった。
「“化身”に破壊され、<UBM>に破壊され、【覇王】と【龍帝】に破壊され、そして“化身”の意に沿ったティアン達に壊され続けた。だから歪む」
憐れむように、ラ・プラスは微笑む。
けれど煌玉人の敗北の歴史の幾らかの手引きをしたのは彼女……の前身だ。
「『自分達は世界を取り戻そうとしているのに、世界を……あなた達を護ろうとしているのに、どうして』。そんな言葉を吐きながら壊された個体もいる」
その瞬間を壊す側の耳目を通して観測していたであろう存在は、
「現在、残っているものは片手の指にも足りない。しかし残ったものも姉妹機の末路やデータ回収を通して、
何が楽しいのか……不気味に笑う。
「歪まなかったのは『自分達が初代フラグマンの望みを託された煌玉人である』という誇りと、『“化身”を滅ぼす』という目的。歪んだのは『人間への認識』」
「…………」
「もうあれらは人間を守るべき存在ではなく『容易く他者に利用される愚かな駒』、『下等生物』としか認識していない。二〇〇〇年かけて怨恨と蔑視を学習したと言えるわ。ゆえに騙すし、甘く見る。昔はもっと慎重に賢く立ち回れていたのにね」
人類への献身に努めた機械人形を歪ませた一因が、彼女達をそう評した。
「けれど、それがあれらを一個の機械生命体として確立させたとも言える。“化身”に対しての立ち回りや隠れ方も上手くなった。もはや“化身”では余程大雑把なやり方でなければあれらを滅ぼすことはできない。ファトゥムなら……いいえ、私達なら消せるけれどね」
「つまりあれらが最善の道を選ぶならば消し、次善に落ちるならば手駒にするということだね?」
「そういうことよ」
自分の意を汲む夫に機嫌を良くしながら、ラ・プラスは言葉を続ける。
「敵味方の話、私達にとって完全な敵といえるのは皇王くらいね」
「ああ……そうだろうね」
「彼女は『世界を護る』ために手段を選ばない。
私達は『世界を滅ぼす』ために手段を尽くす。
絶対の並行線。手打ちの余地がない。だから……」
――
「さて、王国と皇国の戦争は明日で最後。私にも視づらくなった未来の棋譜」
遥か西……戦争を繰り広げる二つの国を思い浮かべながら、
「戦争が終わるとき、盤面から消えているのは皇王と……誰でしょう?」
To be continued
(=ↀωↀ=)<2.5日目終了!
(=ↀωↀ=)<作者はこれから20巻の校正など、書籍の作業に入ります
(=ↀωↀ=)<三日目開始はしばらくお待ちください
(=ↀωↀ=)<その間は最近54話が更新された漫画版などをお楽しみください
(=ↀωↀ=)<それでは皆様良いお年を~
( ꒪|勅|꒪)ノ