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第四十八話 レイドバトル

(=ↀωↀ=)<本日三話目です

 □■<北端都市 ウィンターオーブ>・周辺砂漠地帯


 砂漠より伸びた何本もの巨大な鎖。

 一本一本が砂漠に巣食うワームの如き鎖は、瞬く間に巨人の身体を絡め取っていく。


「あれは……!?」

「やるじゃんグリムズ! 今までで一番でっかい!」


 ユーゴーはその鎖に驚き、ソニアはこれまでで最高打点を叩き出した仲間(グリムズ)の必殺スキル――《地を穿つ魔(クトーニアン)》を称賛する。

 クトーニアンとは、クトゥルフ神話における地底に封じられし種族。

 されど封印を破り、地下に隧道(トンネル)を築いて逃れた者達。

 その名を冠する必殺スキルの力は、地の圧に対する反抗。

 地上の力・重さに比例したクトーニアンの巨大化。

 強い力で踏みしめられるほど、地の底より食らいつくクトーニアンは強大となる。

 ゆえに、この機械仕掛けの巨人というグリムズにとって過去最大の敵に対し、最大のサイズとなって顕現したのだ。


「――喰らいつけ、地底の王よ(シュド・メル)


 必殺スキルの性質の意味をグリムズは理解しながら、仲間達にも語らない。

 だが今このとき、巨大な(ファトゥムの)陰謀に対して(グリムズ)は牙を突き立てる。

 長く太い鎖が右腕に絡みつき、【ベルドリオン】の右腕を固定した。


『――Oo――』


 右腕を地に引かれながら固定されれば、動きも鈍る。

 地を蹴ろうとすればバランスを崩して引き倒されかねない。

 拘束された巨人に、【ホワイト・ローズFB】が迫る。

 そのままならば、人間達の反抗は成功する。


『――――』


 だが、そのまま(・・・・)を許すほど……神話の怪物と決戦兵器は甘くない。

 一組の脅威はここで、新たに二枚の札を切る。

 第一の札は、沈黙したラピュータ(・・・・・)より飛来する。

 ベルドリオンを守るように周囲を囲い始めたそれは、数十機の円盤。


 ラピュータの防衛機構の一つ、《円盤大隊》であった。


 ラピュータ本体や特典武具は【フーサンシェン】の光の侵食を受けない。

 だが、接続した設備……機械兵器に過ぎない《円盤大隊》は、ウィンターオーブのパワードスーツと何も変わらない。

 ウロボロスの<マスター>達との戦いで多くを撃墜されたものの、発進待機状態で残っていたものを【フーサンシェン】に奪われた。

 ラピュータを守るはずの兵器が今、自らを拘束するクトーニアンや、接近する【ホワイト・ローズFB】に牙を剥く。

 そして、使われるのは《円盤大隊》だけではない。


 第二の札は――【ベルドリオン】の左手(・・)


 かつての【覇王】との戦いで破損した箇所であり、頭脳中枢や動力炉と同様に修復不能と化した……もう一つの武器。

 しかし、【フーサンシェン】は今、破損した左手を無理やりに稼働させている。

 起動した《亜空》に左手そのものが削られていく。

 だが、身を削りながらも……動いている。

 今このとき、【ベルドリオン】の武器は両手に宿っている。

 それは右腕の拘束を破り、迫る敵を消し飛ばし、そしてもう一つの決戦兵器を倒すには十分な力。


『――Oo――!』


 【ベルドリオン】は手始めに右腕を拘束するクトーニアンに左腕を伸ばし、




『――《月は無慈悲な(アルテ)夜の女王(ミス)》』

 その左腕は――空から降り注いだ一筋の光に撃ち抜かれた。




『――o?』


 《亜空》の反動で破損しかけていた手首を正確に穿ったのは、真円を描く巨大な傷痕。

 分断された左腕は重力に引かれ、砂漠へと落ちていく。

 それを巨人の中の【フーサンシェン】が目で追う間に、事態は更に動く。


 まるで想定もしていなかった空からの攻撃は第一波に過ぎず、――第二派が降り注ぐ。

 狙いすまして放たれた狙撃の如き砲撃は、【フーサンシェン】に奪われた《円盤大隊》を次々に撃ち落としていく。

 やがてそう時間も掛けずに……再び【ベルドリオン】は単騎となった。


『――dcbe(まだ)


 だが、【フーサンシェン】は動じていない。

 左腕や円盤の損壊が何だというのか。

 【フーサンシェン】の光があれば、千切れた腕は再び繋がり、円盤も空に戻る。

 この光の法の下で、彼らは不死身である。

 ゆえに、【ベルドリオン】は砂漠に落ちた左腕に手を伸ばす。



 溢れんばかりの光を纏った左腕は――繋がらない。



『――a0()


 なぜならば……。


「――届いたぞ」

 ――《シャッフル・ミラージュ》に隠された彼らの死神は、既に足元まで迫っていた。



 ◇◆


 砂漠の一角。

 人間と機械仕掛けの巨人の戦いを遠望できる場所。

 そこから、一人の女が巨人を凝視(・・)していた。


「……これで満足?」


 女の名は――【砲神】イヴ・セレーネ。

 ラピュータ攻略に参加した<超級>の一人であり、撃墜されたウロボロスに乗っていた人物。

 そんな彼女の後頭部には今、一丁の銃が突きつけられている。

 彼女の後ろには銃把を握る一体のモンスター……。


「ええ、上出来ね」


 そして、召喚モンスター【ガロア・ガン・ガード・シェリフ】で彼女の命を握っている【召喚姫】……天空院翼神子が立っている。

 彼女もまたあのラピュータからの脱出を果たしていたが、それだけではない。

 《龍神装》にウロボロスが破壊された際には脱出していたイヴを拘束し、こうしてデスペナルティと引き換えに砲撃を敢行させたのだ。


「……それにしても、よく私が生き残っていたことに気づいたわね」

「あなた、普段はテイムモンスターで空から観測砲撃しているそうじゃない。なら、それが撃墜されたときに安全に地上に降りる手段くらい備えていて然るべき。【ブローチ】で落下に耐えるか、特典武具かオーダーメイド、それともスキル?」


 いずれにしろ、『イヴはまだ生きている』と当たりをつけて周囲を探ったのだ。

 視えてはいなかったが、読めることだ。


「ともあれ、見逃す(・・・)対価は今の支援砲撃で十分。こっちの面々に追い打ちしないのならこれで帰ってくれていいから」

「……必殺スキルを使わされた上に、<UBM>のMVPからは蚊帳の外ってことね。その上から目線も含めて苛立つわね」


 既に日は傾き、夜に入りかけている。

 最大火力には程遠いが、アルテミスの必殺スキルは使用可能な時間であり……標的を撃ち抜くには十分だった。

 あるいは、それを王国や黄河の者達に使われては困ると見越して探していたのか。


「……こちらが負けたのだし今回は大人しく従ってあげるわ。それにしても……」


 押し当てられていた銃が下げられたのを確認したイヴは、渋々と立ち上がる。

 それから、イヴもう一度視線を【ベルドリオン】に向けて……。


あの(・・)UBM(・・・)とロボットは何なの(・・・・・・・・・)?」


 自らが左腕を破壊した【ベルドリオン】を見ながら、不思議そうにそう述べた。

 そこに何かの誤魔化しや知らないふりをする気配はない。


「<UBM>は最近マニゴルド君や色魔が集めてると噂の珠だとして、ロボットは? ……ああ、議長が言っていたウィンターオーブによる『先々期文明兵器の密造』ってあれのこと? まったく……あんなものまで用意されてる恐れがあるなら先に言っておいて欲しかったわ。迅羽にやられなくてもウロボロスが落とされていたかもしれないもの」

「…………」


 イヴの任務(クエスト)はラピュータを襲撃する際の支援砲撃だったため、ラピュータの制圧とターゲットの確保については情報を渡されている。

 だが、地上のウィンターオーブに関する陰謀の情報は一般公開分しか受け取っていない。


 即ち『ウィンターオーブが武装蜂起した』という表向きのプロパガンダだ。


 そもそもラピュータの制圧も『反乱したウィンターオーブが内通した黄河の拠点から、ウィンターオーブ市長の娘と黄河と王国の重要人物を押さえる』というクエストだ。

 カルディナ側とて情報の大小には差があり、全てを知っていたのは全てを知っても裏切らないザカライアくらいのものだ。

 『ラ・プラス・ファンタズマ』の本当の目的と『カルディナ議長』としての活動。その二つは過程こそ似ているが結果は明確に異なり……それゆえに従事させる戦力も違う。

 ゆえに【ベルドリオン】についても、当然イヴは関知していなかった。

 彼女の主観では今のフレンドリーファイアも、『(デスペナ)と引き換えに敵方の暴走巨大ロボを撃った』に過ぎない。

 翼神子は内心で『これもどこかで演算とズレたんでしょうね』ともう一人の未来視の失敗に苦笑しながら、戦いの結末を見守った。


「私が苦労したラピュータがあっさり落とされたのも含めて業腹だわ。……けど、王国と黄河も<UBM>のせいで暴走した兵器の後始末までしなきゃならないなんて本当に大変ね?」

「……それはそう」


 翼神子も、これ以上の厄介事が起きないことを心から祈った。


 ◇◆◇


 □■<北端都市 ウィンターオーブ>・郊外


 最終局面へと突入した巨人との戦いを、ティアン達も祈るように見守っていた。

 左腕が落ち、再生能力を失った巨人にユーゴーや迅羽、ベルドルベルら<マスター>の攻撃が殺到する。

 上空の【ヴィドス・グランゼラ】からも魔法ではなく連結した火器による砲撃が実行されている。

 だが、足りない。

 再生能力を失おうともそれは決戦兵器。

 ましてや、かつて最強の力(【覇王】)に敗れ、再び起つための改修を施された個体だ。

 巨大且つ堅牢な機体は、連戦の果てに力を落とした<マスター>達の攻撃を跳ね除けていく。


「迅羽さま……」


 戦う力のない少女達を守るよう託されたツァンロンは、拳を握りしめながら信頼する者達の戦いを見る。

 見守るのは彼だけではない。この場には他に何人もいる。

 ツァンロンの傍らで手を握るエリザベート。

 もしものときは彼女達を呑み込んで逃げるように命じられている【グリム・レッド】。

 強い不安を抱きながらも主の傍から逃げ出さない侍女達。

 怯えながら、それでも目を離さないエイリーン。




 ――エイリーンの傍に立っていたしわがれた皮膚と白髪の男。




「――!?」

「え?」


 それまではいなかったはずの人物が、いつの間にか(五感迷彩で)そこにいた。

 だが、ツァンロン達の驚きはその人物の出現によるものだけではない。

 その人物が……未知の相手ではなかったからだ。


「…………お父様(・・・)?」


 <マスター>達が誰も助けに来られないタイミングを見計らって彼女達の傍に現れ、ジョブクリスタルを砕いたのはウィンターオーブ市長スペクトラル・ローグ。


 ――否。


「――――It’s Show(御照覧) Time(あれ)

 最後の(・・・)獅子面(・・・)』は手を打ち合わせ――最終奥義を発動した。



 To be continued

(=○ω○=)<三話でも終わらんのですよ


(=○ω○=)<決着は今書いてるところなので


(=○ω○=)<一時間後に投稿されていなかった場合は


(=○ω○=)<明日もエピローグ二本と合わせて三話連続更新になると考えてください


(=○ω○=)<今年中には締めるのです……


(=○ω○=)<…………


(=○ω○=)<このエピソードで再確認しましたが作者の話数見積もりは甘いです


(=○ω○=)<『【フーサンシェン】/【ベルドリオン】は長めの二話で終わるな! ヨシ!』


(=○ω○=)<そもそも足りないし、切った方が読みやすいだろうってね……

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