第四十七話 【ヴィドス・グランゼラ】
(=ↀωↀ=)<本日二話目
(=ↀωↀ=)<まだの方は前話から
□■【ヴィドス・グランゼラ】について
「四号は“自然の化身”対策の決戦兵器です」
「“自然の化身”?」
「はい。まぁ他に“秒針の化身”対策も狙ってはいましたけど、メインはそっちで」
それは、あの【エルトラーム号】での戦いよりも前のこと。
「その“自然”はどんな個体だ?」
「国一つ分の環境変化を自在に起こす“化身”です。それこそ、異星に迷い込んだかと思うほどの変化量を」
二〇〇〇年前、それと相対したティアン達はまともに戦うとすらできなかった。
真空、超高圧、高熱、極寒、超重力、無重力。
激変する環境は容易く人を殺し、機械兵器を活動不能に追い込んだ。
純粋な戦闘力では“石臼”などに劣るが、殺傷能力では“黒渦”と並んで恐れられた。
「高いステータスがあっても環境次第で人は死ぬ。そんな相手に対抗する手段は何だと思います?」
「<セフィロト>のカルルのような万能の無敵性を持つか、エミリーのように命の残機を持つか、か? そうでなければ……『相手以上の力で環境を支配する』か、だ」
「まさにそれです。四号は“自然の化身”よりも狭い範囲の空間を、
環境改変……否、
それが決戦兵器四号【ヴィドス・グランゼラ】だ。
「剣呑な上に回りくどそうな奴だな」
「けど仕様は決戦兵器の中でも抜群にシンプルですよ。“化身”の能力を参考にした訳でもないですし、既存の魔法技術の規模を大きくしただけですからね!」
「……それで勝てるのか? さっきは狭い範囲とも言っていただろう?」
「狭いっていうのは“化身”と比べてですし……。んー、じゃあちょっと説明しますね!」
マキナは【ヴィドス・グランゼラ】の設計図を立体投影する。
「完成版の【ヴィドス・グランゼラ】は十の属性を操る兵器になるはずでした。この羽にある球体それぞれに対応する形ですね』
毒蛾の羽に埋まった球体をマキナは指し示す。
「これらはそれぞれ異なる超級職と同じ力を持ちます。【猛毒王】、【闇王】、【炎王】、【教皇】などですね」
「超級職十人分ということか?」
「それ以上ですよ。扱う
「ほう?」
「その気になれば半径数十キロに拡大した最終奥義を撃つことだってできるはずでした」
使い方次第で世界すら滅ぼせるだろう。
なにせ、迂闊な使用はこの世界そのものの瑕疵となるからこそ、水晶の煌玉人達が歴代フラグマンにも秘匿していたほどだ。
「それは確かに決戦兵器と…………
しかし、ラスカルはマキナの言葉に不穏なものを感じて聞き返す。
「……さっき、扱う魔力が大きいって言ったじゃないですか」
「ああ」
「必要量が大きすぎるというか…………
「……先々期文明はお前以外もポンコツだったのか?」
ラスカルは心底呆れたようにマキナや決戦兵器の設計者のことを思う。
「範囲拡大は機能してるんですよ! スキルにもよりますが機体を中心とした半径数十キロ全域を対象に魔法を発動できるんですよ! すごいんです! …………でも奥義でそれをやるのはもうどう足掻いてもエネルギー足りなくて…………」
「それなら拡大せずに奥義を使えばいい。超級職と同じ機能はあるんだろう?」
「羽の設計自体が拡大を噛ませた上で魔法を使う仕様なので……通常使用は無理ですね」
「…………」
流石にラスカルも言葉を失くした。
が、その設計も無理からぬことだ。
想定する相手が相手。ただの超級職と同程度の魔法では意味がないのである。
そも『いつかエネルギー源たりうる動力炉を開発する』前提での設計だ。
極めて長期の反抗計画を前提としているため、こんなことになったとも言う。
「……“自然の化身”対策への兵器と言うが、話を聞くと完全にパワー負けしているな」
「勝てる算段あったら二〇〇〇年の間に出撃してますね。ご主人様が侵入してきたときとかもそのケースがありえましたし?」
近くに“化身”を感知して出撃した【ベルドリオン】。
ある程度完成しており、<遺跡>に踏み込まれて出撃した【アクラ・ヴァスター】。
この二機と比べると、【ヴィドス・グランゼラ】は完成度が低かったらしい。
「そういう訳なので、高出力の動力炉とか集めといてください。ご主人様の必殺スキルなら無理やり繋げて使えるかもしれませんし……」
「……ああ」
この後、【エルトラーム号】に向かい、手痛い敗北を経験することとなる。
◇◆
ラスカルは【ヴィドス・グランゼラ】をコントロールしながら、かつてのマキナとの会話を思い返した。
「稼働率三〇%未満、か。【サードニクス】を組み込んでも奥義の使用にはまるで足りない」
溜息を吐きながら、ラスカルは自機のデータを見る。
真珠色の光を発して半径数十キロの空間を染め上げる決戦兵器だが、内情は継ぎ接ぎだらけの外観よりもひどいものだ。
「それでも動いて、奴の機能を潰しているだけ御の字か」
未完の決戦兵器。
だが、稼働率こそ低いものの動き、役割を果たしている。
それを為したのはラスカルの必殺スキル、《
彼の必殺スキルは、『結果に繋ぐ』力。
機械を繋げる《コネクト》の正統発展形にして、機械を収納する《ジャンク・ボックス》との複合スキル。
《ジャンク・ボックス》内の素材を
今回は未完成のまま格納していた決戦兵器四号を稼働できるように接合した。
材料不足ゆえ、完全には程遠い稼働率。
だが、その力の具現たる固有兵装の低出力使用は可能だった。
「通常時と異なる力場……魔法で奴の転移可能範囲を埋め尽くせば、奴は転移できない」
空間内の属性支配、魔法の充満。
『何も無い空間などない』ゆえに……【ベルドリオン】は転移移動を封じられた。
(とはいえ、今の【ヴィドス・グランゼラ】ではここまでか)
相手に再生能力がなければ、そのまま【猛毒王】の毒や【炎王】の熱で攻撃していた。
が、それはできない。
魔力不足で奥義使用不能な現状、瞬間火力は大したものにならない。
その状況を打破できるのはユーゴーの《百刑氷河》だけであり、そんな彼を生きたまま【フーサンシェン】に近づけるためにも殺傷能力の高い属性は行使できない。
それゆえ今回は《
元より相手は異常な回復能力を持っており、何より機械は回復魔法では直らない。
そして、ユーゴーが接近できれば【フーサンシェン】に対しても意味がなくなるからだ。
付け加えれば他の<マスター>への支援であり、この地にいるティアン……それを大事に思う者への貸し一つだ。
「……ここまでだな」
ともあれ、これでもう【ベルドリオン】は転移での脱出はできない。
【ヴィドス・グランゼラ】在る限り、転移に依らない移動で脱しない限り、逃げられない。
だからこそ、この後の成否はユーゴー達に委ねられている。
「
そうして、ラスカルは自らの役割を果たしながら他者の勝利を祈った。
自身と……自身の相棒の未来のために。
◇◆◇
□■<北端都市 ウィンターオーブ>・周辺砂漠地帯
真珠色の光が満ちる砂漠を、【ホワイト・ローズFB】が駆ける。
【ベルドリオン】までの距離は五キロ以上。走って詰めるよりほかにない。
《百景氷河》の間合いがその十分の一にも届かないことを思えば、遠い距離。
だが、今はそれ以上距離をあけられることもない。【ヴィドス・グランゼラ】の魔法に空間を塗り潰され、今の【ベルドリオン】は空間転移を使えないのだから。
『――Ooo――』
だが、それでもなお【ベルドリオン】は脅威と呼ぶべき存在だ。
転移による移動は封じられても尚、【フーサンシェン】の再生力は健在であり……。
――その右手にはあらゆるものを削り飛ばす力が宿っている。
ラスカルは転移の全てを封じたわけではない。《亜空》の右手は例外だ。
なぜなら、最初から移動先の制御などない攻撃用の機能であり、【ヴィドス・グランゼラ】が空間を塗り潰したところで意味がないのだ。
ラスカルは【ベルドリオン】の回避手段は潰したものの、攻撃手段は健在である。
それでも、ユーゴーと【ホワイト・ローズFB】は必殺の右手を持つ【ベルドリオン】に接近してその力を封じなければならない。
でなければ、この地の全ての者に……あるいはより多くの者に未来がない。
そんな寝覚めの悪い未来はごめんだった。
「【IG】、もしものときは……!」
『任されたと言いたいがな、流石に今日は仕事をし過ぎた。そろそろ私の操作権が切れる』
「ああ! だから、本当にどうしようもなくなったときに! 多少の被弾は構わない!」
『……アレのこうげきに『たしょうのひだん』したら、しなない?』
三者の意志を乗せた機体が砂漠を進む。
その姿を、その命を、【ベルドリオン】の内なる【フーサンシェン】が察知する。
『――
なぜか
求める気持ちは尚も強い。
しかし同時に、あれが自身の玩具を直せなくなる力を持っていることも、【グラディウス】の件から察している。
ゆえに、求めるが――近づけまいと対策も打つ。
――まずは右足で砂漠の砂を蹴り上げた。
一〇〇メテルを超す巨人が体躯に比して速い動きで、子供のように砂を蹴る。
それが引き起こすのは砂嵐の如き砂津波。
【フーサンシェン】も右手で掴めば消えてしまうのは理解しているし、近づかれるのもまずい。
ゆえにこれは、『直せる程度に壊す』と『近づかれる前に壊す』を両立した戦術だ。
「ッ!?」
それに対して、ユーゴーは――迫りくる正面の砂津波に搭載兵器を叩き込む。
自らの火力を以て、風穴を開けて突破する。
生き埋めも破損も回避して、【ホワイト・ローズFB】は砂津波を超える。
だが、否応なく移動速度は落ちた。
それを見計らって――巨人は左足を蹴り出す。
第二の砂津波に対して、ユーゴーは再度の爆破貫通を目論み……。
『――弾切れだ』
――先の【グラディウス】戦とザカライア戦で多用したミサイルが底を突いた。
直後、砂津波が【ホワイト・ローズFB】に直撃する。
「……!?」
一〇〇メテル超の巨人の力で放たれたそれは、地属性の上級奥義以上の威力を持つ。
装甲を削られ、フレームを軋ませ、それでもユーゴーは操縦を続けて……第二の砂津波も越えた。
『――
だが、三度目となればどうだ。
砂を被って速度を大きく落とした彼らに、巨人は容赦なく砂を蹴りつける。
ユーゴーは迫る大量の砂を前に、生き埋めとなる未来を想像して背筋を冷やし――。
――砂と自機の間に立ち塞がる
それは【ネザーフォレストギガス】、ビーンスターク。
<童話分隊>のアスマの有するテイムモンスターである。
樹木の巨人は自らを壁として、この戦場での希望である白薔薇の機兵を砂から守る。
「……これは!」
「ねえ、聞こえてる!?」
庇われるのと同時に、誰かの呼びかけと【ホワイト・ローズFB】の装甲に飛び乗る音が聞こえた。
「話は聞いたよ! あなたがあいつに近づかないとあいつを倒せないって!」
「君は……?」
「私は<童話分隊>のソニア! 私達で、あなたが近づけるように援護するから!」
どこかユーゴー……ユーリにとって聞き覚えのある名前と声の女性はそう言って、【ホワイト・ローズFB】に対して幻影魔法、《シャッフル・ミラージュ》を行使する。
そうして三度目の砂津波が過ぎて視界が開けたとき……。
『――?』
ソニアを乗せた【ホワイト・ローズFB】の姿は、実際の位置と離れた場所に映し出されていた。
気配も含めたその幻に、【フーサンシェン】の注意が向く。
『おかしいなぁ』と思いながら、それでも四度目の攻撃を放たんとしたとき。
その一瞬の隙に……。
「――《
――砂漠の下より伸びた巨大な鎖が巨人を捕らえた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<今年中に終わらせるには二話だと足りないので三話目更新しますね……
○決戦兵器四号【
(=ↀωↀ=)<広域制圧・殲滅型環境汚染兵器
(=ↀωↀ=)<(理論上)キャタピラーより狭いが強制力の強い空間の属性改変が可能
(=ↀωↀ=)<伝説に謡われる『斧』を発想の源とし
(=ↀωↀ=)<元々この世界にあった魔法の範囲拡大版の行使を可能とする
(=ↀωↀ=)<(本来想定されていた)性能は半径数十キロを対象として
(=ↀωↀ=)<《運命》、《蝕》、《恒星》などの奥義と同等の魔法現象を発生可能だった
(=ↀωↀ=)<…………うん
(=ↀωↀ=)<『エネルギーどうやって賄うんだ。天竜型動力炉でも無理だぞ』問題により
(=ↀωↀ=)<二〇〇〇年かけても動力部分が完成しなかったのです
(=ↀωↀ=)<結果、上級奥義未満の魔法を広範囲に振りまくに留まっている
( ꒪|勅|꒪)<それでも結構強くねーカ?
(=ↀωↀ=)<まぁ生き物殺すには十分だよ
(=ↀωↀ=)<想定している相手(化身)が基本的に生き物じゃないし今回も相性悪いけど