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第四十五話 ザカライア

 □■<北端都市 ウィンターオーブ>・近郊


 巨人の掌のカタチに抉れたラピュータが傾いていく。

 これまで宇宙からの爆撃に晒されようとも、神話級クラスの激突が起きようとも、水平飛行を維持してきた飛行要塞。

 だが、今このとき、それは砂漠へと墜ちていく。

 損傷を免れた機関を全力稼働させて落下速度を落としているが、墜落は免れない。


「な、なにあれ……」


 一瞬にして上空へと転移してラピュータを撃墜した【ベルドリオン】に対し、ソニアはそう呟く他なかった。

 これまでデンドロで様々な事件(イベント)強敵(ボス)に遭遇してきたが、あれはその中でもとびきりだ。


「グリムズ……」


 この状況に対してどうすればいいかなど、ソニアにはまるで分からない。

 こうしたときには頼れるグリムズも今は落下するラピュータの中だ。

 ソニアは狼狽えながら、不安と共に隣の迅羽を見る。


「…………」


 迅羽は《龍神装》の解けたテナガ・アシナガを見上げながら、考えを巡らせる。


(あれだけのデカブツが、あんな距離を転移するのかよ……。しかもあの右手、転移を応用して抉り飛ばしてるのか?)


 それは墜ちるラピュータに対してではなく、相手の能力についてだ。

 ラピュータにいる者達の保護はグレイとツァンロンが何とかするだろうと信じ、自分は脅威にどう対抗するかを思案している。


(アイツ、ラピュータの砲撃には回避や防御の素振りすら見せなかったくせに、《龍神装》はタイミングよく回避しやがった)


 その事実は、受けていい攻撃とそうでないものを見分けているということだ。

 それが迅羽にとっては不利な条件となる。


(こっちの手札は必殺スキルがあと一発。それでアイツの核をぶち抜けるか。……いや、転移を使いこなす奴が、こっちの転移を察知できないと考えるのは楽観的すぎるな)


 恐らくは必殺スキルで右手が転移する穴を形成した時点で察知される。

 そうなれば右手が相手を捉えるより先に再び転移されるだろう。

 虎の子の最後の一回も、ベルドリオンに対しては有効打になり難い。

 かと言って、ラピュータの爆撃ですら効果がなかった。


(火力と手札が足りねえ……。もっと他に打つ手があれば……)


 迅羽が戦力を分析して頭を悩ませていた、そのとき。


 ウィンターオーブの街から――連鎖する爆発音が轟いた。


「……チッ」


 迅羽はその音と黒煙に、脅威の全てが巨人に集約されたのではないと悟った。




 ◆◆◆


 ■<ドラグノマド>・首都工房 数日前


「グラディウスは十機ロールアウトした。兵装管理にアイテムボックスを使用したので格納できなくなったが、例のウロボロスに輸送してもらえる線で話はついてる。そっちの作戦開始後、ウィンターオーブに投下されるはずだ」


 それはザカライアがウィンターオーブの任務に赴く数日前。

 彼は首都の工房で議長勢力の技術担当であるカリュートと事前相談をしていた。

 今回の作戦はカリュートの新兵器を戦場に投じる必要があり、その進捗を直接確認するためだ。


「少し粗削りな仕上がりね」


 工房に並ぶ人型兵器を見回しながら、ザカライアはそう述べる。

 ザカライアはリアルでも兵器類に携わった経験があったため、カリュートの作った【グラディウス】に対しては厳しい視線を向けていた。


「ペイロードは多めにとってある。実戦の結果を踏まえて二度三度改修するからな。今回は件の<UBM>が動かすところまでやってくれるが、完成品は別の自動操縦機構が要るな」

「作れるのかしら? あなたの<エンブリオ>には技術の元が必要なはずだけれど?」

「ん」


 問われたカリュートは自らの後方を親指で指し示す。

 そこに積まれていたのは破損した大量の人型機械。

 破壊のされ方は様々だが、機種としては二種類ほどだ。


煌玉兵(・・・)王国の<遺跡>(カルチェラタン)で湧いて出た自動兵器だ」


 先のLS・エルゴ・スムの事件の前に話だけは聞いていたものだ。

 しかし今は実物が大量に此処に置かれている。


「生物を内側に取り込んで魔力を捻出する仕様だが、逆を言えば魔力さえあれば稼働する。今後完成させる小アルカナのベースとしては申し分ない」

「これはどうしたのかしら?」

「普通に買ったんだよ。王国の<マスター>の一部からな」


 大量に出現した煌玉兵は、防衛戦に参加した多くの人間の奮闘により撃破された。

 その中には、より高値で買い取ってくれる相手にドロップアイテム代わりの残骸を引き渡した者達もいる。


「機械なんて取り扱ってるのは皇国とグランバロアとカルディナ。で、王国と皇国は商取引どころじゃねえし、船舶以外なら多く金出すのはうちだ。当然の帰結だな」


どこぞの民間回収業者(・・・・・・)と買付け合戦になったらしいが、カリュートにはマニゴルド(財布)がいたため、大体は押さえてレプラコーンの解体学習を進めている。


「まだ研究中だが、どの道作戦は問題ねぇな。その<UBM>の能力が聞いた通りならだが」

「そう、それなら問題ないわ。…………」

「……まだ何か言いたい事でも?」


 ザカライアの様子から、進捗以外にも何かしらの本題があるとカリュートは悟る。


「例のユーゴーちゃんについて話があるの」


 それは、作戦のオマケ……ウィンターオーブを排する動機作りの一つであり、<IF>の介入を察知するレーダー役であるユーゴーについてだ。


「彼は次の任務に動員して、場合によっては切り捨てるわ。元々外様の人員だもの」

「師匠のAR・I・CAは何て言ってる?」

「『良い頃合い』だそうよ」

「…………」


 その言葉の意味をカリュートは思案する。

 それからかつて彼女が語っていた話を思い出して、「やれやれ……」と首を振った。

 恐らくは彼がユーゴーの機体を改修した時点で、そうなる流れだったのだろう。


「それで? 何で私にその話を振った?」

「彼を切り捨てるときの流れをスムーズにしたいのよ」

「ふぅん?」

「あなたが作っている彼の機体に細工はできるかしら? 緊急停止でも自爆装置でも、外部から操作できるようにしておけば処理が楽でしょう?」


 ザカライアの申請を聞き、カリュートは笑みを浮かべて……。


「――却下だ」

 ――笑顔のまま突っぱねた。


「今の動力炉兼補助AIはこちらの手製ではなくあいつの特典武具だ。何か仕込んだところで機体を掌握しているあれが気づく。何より……」


 口元は笑顔だが……目は欠片も笑わないままカリュートはザカライアを見る。


「私は『自分の仕事』にそういうクソギミックを仕込まれるのが嫌でクランを出たんだ。何で同じことをしなきゃならん」


 到底受け入れられないと、カリュートは首を振る。


「……あなたを使う側の人間の意向でも?」

「指名手配にでもするか? だったら今度は<IF>なり<デザイア>なりに寝ぐらを移すだけだ。連中は人手不足のようだからな。売り込めるだろうさ」


 実際に実行すればその通りになるだろう。

 国際指名手配にしようとも、カルディナの思惑を理解している皇国は乗るまい。


「一からリクエストに沿う兵器ならいくらでも作ってやる。だから……私が作りたいものに余計な口出しをするな」

「…………」

ユーゴー(あいつ)を排除したいってんなら、必要に応じて自分でやることだ。装備くらいなら見繕ってやる」

「……そうさせてもらうわ」


 ◆


 そうして事件の渦中、ザカライアの想定通りの対峙が発生した。




 ◇◆◇


 □■<北端都市 ウィンターオーブ>・市街地


 音を撹乱した死角からの奇襲戦法で、ザカライアはユーゴーのいるコクピットに刃を突き込んだ。

 胸部装甲を貫き、内部の人間も殺傷可能な一撃。


『パージ』


 だが、胸部装甲……その一次装甲を表面に張られた氷結装甲ごと刺突の直前に剥離させることで致命の一撃を回避する。

 タイミング良く剥離射出された装甲につられてザカライアの上体が逸れかけ、彼は咄嗟に得物である湾曲剣を手放して隙を生むことを回避する。

 そして両者は再び距離を取り、ザカライアは新たな武器を取り出して構える。


(さっきから良い読みをしている。例の補助AIか。特典武具になったパイロットの成れの果てと聞いたが……純粋な技量では蒼穹歌姫(AR・I・CA)より上か?)


 まだ超級職にも至らぬ<マスター>なれど、機体と装備で戦闘力は準<超級>のそれ。

 『カリュートが申し出を受けていればもっと簡単だったものを……』と思考するが、それでも自分の能力で撃破は可能と思考する。

 それに、カリュートも一切協力しなかったわけではない。

 ユーゴーの機体に細工をすることには許さなかったが、ユーゴーと戦うことに関しては気にも留めていなかった。


この装備(・・・・)で奴の<エンブリオ>は問題ない。ならば、あとは兵器のスペックを私が超えるだけでいい。補助AIは強敵だが、可能だ)


 【ホワイト・ローズFB】という最高峰の<マジンギア>が相手。

 異形の兵器との戦いは、対人戦の経験を活かしづらくはある。

 それでも、戦闘経験値においてザカライアはユーゴーより遥かに優っている。

 まして、機体の設計図はザカライアも見ている。どこに隠し武器があり、武装毎の稼働範囲がどれほどか分かっているならば兵器の攻撃に被弾などしない。


「…………」


 ザカライアは、ふと視線を空に向ける。

 空では天を翔けていた龍は空中で溶けるように消えていき、後にはその骨であったテナガ・アシナガが残っていた。

 自身を追い詰め、エンブリオを使用不能に追い込んだ脅威の消失にザカライアは笑みを浮かべる。


(やはり、長くはもたなかったな)


 召喚にしろ、具現化にしろ、あれほどの性能を発揮するならばコストは重いと踏んでいた。


(《魔神装》に近い能力という読みは正しかった)


 主であるファトゥムの切り札の一つ(・・・・・・)と類似した力だったのだろうとも理解している。

 しかし、枯れぬ魔力を行使する自らの主とは根本的に違うのだ。

 『獅子面』を殲滅し、ザカライアの腕を飛ばし、ウロボロスを貫き、カルルを討った。

 流石にタイムアップが近いことは読めていた。


(上々の結果だ。これで迅羽も決戦兵器と【フーサンシェン】を倒す力を失くした)


 ゆえに、ザカライアは振動魔法を放出しながら、再び刃を構えて疾走する。

 全ては、残った唯一の作戦失敗要因……ユーゴーを排除するために。

 今このとき、彼の全神経は目の前の戦いにのみ集中していた。


 ◇◆


 ザカライアと相対するユーゴーに、余裕はない。


「危なかった……!」

『やれやれ……。パイロット君は何度死にかけてくれるのかな?』

「ッ……!」


 【IG】の皮肉に文句を言いたいが、実際に幾度も彼の強制操作で致命傷を回避しているために何も言えない。


『さて、防戦一方ではこちらが不利だが、逆転の秘策などはあるかね?』

「……ザカライアさんのカウントは多い。《地獄門》なら、効くはずだ。でも……」


 ユーゴーのメインウェポンである《地獄門》。

 しかし、今はその使用にネックがある。


『ひっさつスキルをかいじょしないと、つかえない』

「ああ……」


 キューコが言うように、《百刑氷河》と《地獄門》の併用はできない。

 加えて、《百刑氷河》を解除すれば、再使用までには『直前の使用時間と同じだけのクールタイム』を要する。


「…………」


 今、それをすることは難しい。

 機械仕掛けの巨人……【ベルドリオン】の戦闘はユーゴーも確認した。

 ラピュータからの爆撃で受けた損傷を瞬く間に再生せしめたのは、間違いなくこの街を侵食した【フーサンシェン】の力……その源流とも言うべきものだった。

 通常の攻撃手段では……<超級>の火力があっても、あの再生力を突破して倒すことは困難だ。

 それこそ、【グラディウス】を倒したときのように《百刑氷河》の効果範囲に収め、その再生力を封じなければならない。

 今ここで《百刑氷河》から《地獄門》に切り換える選択は取りづらい。


「……っ!」


 それが分かっているから《地獄門》なしで戦っているが、【ホワイト・ローズFB】の武装の数々を用いてもザカライアには届かない。

 一発の有効打もなく相手に切り込まれている。

 このままでは……遠からず敗北に至る。


「だったら……」


 このまま敗れれば全て終わり。

 ならば一度は《地獄門》に切り替え、ザカライアを倒すべきではないかとも思う。

 【フーサンシェン】を相手に時間を稼げる可能性もゼロではない。

 ……空の上にまで瞬間転移するバケモノ相手では、それこそ小数点以下であろうが。

 しかし……。


『止めておきたまえ。ここでの切り替えは悪手だ』


 賭けに出るかを思案するユーゴーを止めたのは【IG】だった。


「どうして?」

『君と奴は同じ組織の下で動いていた。私が動かす機体もそこの人間が改修したものだ。<エンブリオ>との併用テストも繰り返したのだ。組織は君の能力を把握しており、眼前の相手も例に漏れない。相手の動きがこちらの武装配置を把握している気配からもそれは間違いない』


 人としての身体も望みもなくしたからこそ、今の【IG】……カーティスは純粋にその能力を使うことができる。

 操縦技術に限らず、一つの国でトップクラスの軍人としての読みもだ。

 ゆえに、断言する。


『あれは今回、『君を最初から切り捨てるつもりだった』のだろう? そんな人間が君の間合いに飛び込んでくる時点で、既知の手札である《地獄門》は既に対策されている(・・・・・・・・・)と考えたまえよ』

「!」

『むしろ、この機体に仕掛けなかった時点で相手側に何かあって然るべきだ。恐らくはオーダーメイドの対抗装備で《地獄門》を潰している。使えばむしろ隙を作るだけだ』


 既にあの【エルトラーム号】の事件で《地獄門》が無欠の格上殺しではないと判明しており、それはカルディナも把握している。

 原理については、それこそユーゴー自身から説明したほどだ。

 当然、それを理解しているカルディナならば……潰す理屈を組み立てるのは不可能ではない。


「……っ!」

『とはいえ、あちらも見ての通りに腕を欠いている。さらに、どういう訳か装備が実力に劣る。特典武具を使えない事情でもあるのかな?』


 その読みも正しい。

 迅羽の《龍神装》によって左腕を失い、『獅子面』が使っていた特典武具は回収できていない。ログアウトやデスペナルティならば自動回収されるが、その余裕はザカライアにもなかった。

 互いに『決め手』を欠いているとも言える。


『とはいえ、時間は我々の味方ではない。緊急回避とて何度も使えんよ。打つ手はあるかね?』

「…………」


 あらゆる面で時間を掛けるわけにはいかない。

 【IG】が【ホワイト・ローズFB】を強制操作できる時間には限度があり、何より決戦兵器と一体化した【フーサンシェン】を放置すれば今以上の地獄だ。

 地獄を覆すにはザカライアを破り、転移する【フーサンシェン】に接近し、《百刑氷河》で回復を封じて倒す。困難は多いが、それしかない。

 そしてユーゴーは【フーサンシェン】の天敵たりえるが、ザカライア相手には分が悪い。

 この第一の障害を、どう乗り越えるか。

 ユーゴーはそれを思案して……。


「……【IG】。周辺レーダーで付近の生存者は?」

『ゼロだ。シェルター設備に避難したか、あるいは動く死体になっているだろう』

「分かった」


 【IG】の返答にユーゴーは歯を食いしばって……。


「なら……可能性に賭ける」


 一つの決断を下す。


『何の可能性に?』

他力本願(・・・・)


 ユーゴーは自嘲するような苦笑と共に、操縦桿を強く握りしめる。



「【IG】。防御を頼む。致命傷のみ回避を」

『了解』

「キューコは必殺スキルの維持に専念」

『うぃ、まむ』


 ユーゴーは自らのパートナー達に告げ、息を吐き……。



「――ミサイル全弾発射」

 ――【ホワイト・ローズFB】のミサイルを四方八方に乱射した。



 《ミサイル・ダーツ》と《サーマル・ミサイル》といった複数種のミサイルが、機体の各部ハッチから飛び出していく。

 舗装道路か空中かも構わず、放たれたミサイルが爆発と高熱による破壊をまき散らす。


「ッ……!?」


 無差別なミサイルの爆発を見切って回避しながら、ザカライアはその表情を歪める。

 音響撹乱をはじめ、ザカライアの攻撃タイミングをユーゴー自身が掴めていない。

 ゆえに、全周囲を爆撃することでザカライアの接近を阻み、あわよくば命中弾を……と考えている。ザカライアはそう判断した。


「……乱射した程度で私を倒せるとでも思ったのかしら?」


 ミサイルの乱射は多少ザカライアの接近を緩めたに過ぎない。

 ザカライアならばミサイルの直撃を受けることはなく、充満する爆風も衝撃波で対応できる。彼を倒すにはまるで至らない。

 そして弾幕も無限ではない。

 一分か、二分か。やがて少しずつだが弾幕は薄くなっていく。

 そうなれば、話は容易い。

 厚みの薄いミサイル攻撃を掻い潜って接近する程度、彼には造作もないことなのだ。


「――貰った――」

 そしてザカライアは三度、ユーゴーの命を射程に捉え……。




「――わ?」

 ――彼は凄惨な吐血と共に、燃える地面へと転がった。




「か、は……」


 力が入らない。肉体を動かす力が抜けていく。

 ザカライアはその理由を探し、やがて自らの胸の違和感に気づく。

 その胸の中からは心音が聞こえない。


 心臓が止まったのではない。

 心臓が……なくなっている。


「これは……迅羽、の……」


 空間転移による内臓抜き。テナガ・アシナガの必殺スキル。

 『どうして今ここで自分に』とザカライアは考えて……気づく。


「あの乱射は、狼煙(・・)、だったのね」


 なぜ、ユーゴーがミサイルを乱射していたのか。

 あの攻撃は時間に追われて焦ってのものではなく、何より攻撃ですらなかった。

 『ここで戦っている』と周囲一帯に知らせるための爆発と音が重要だった。

 ザカライアが動かしづらくなった体を動かして、街の南方へと視線を向ければ……。


「…………」


 砂漠から伸びる――長く細い影。

 街の南の砂漠にて、右手を地面に突き立てて、それを伸長することで空からザカライア達を見下ろしている迅羽の姿がそこにはあった。

 遠くの迅羽を見上げながら、ユーゴーが静かに話し始める。


「ザカライアさん……。貴方は私達以外とも戦っていたんでしょう?」


 ユーゴーは『獅子面』のギミックは知らない。

 しかし、交戦開始の時点でザカライアが左腕を失っていたことから、彼が『既に誰かと交戦していたのではないか』とは考えていた。

 自分達以外の誰か……ザカライアと敵対する誰かがまだ盤面にいるのではないか、と。

 そして、先ほど見上げた空にはあのギデオンの事件にも関わった<超級>……迅羽の<エンブリオ>が見えていたのだ。

 この事件で被害を被っている者……ラピュータ(黄河)の関係者である迅羽の存在を、ユーゴーは確認していた。


「貴方がこの事件を起こした。だから、それを許せない人がまだいるならば……見逃すはずはない。そう思って、私は賭けに出ました」


 ユーゴーの行動は、正しく賭けだった。

 ザカライアの敵が残っているか。

 ザカライアの敵がこちらを発見してくれるか。

 ザカライアの敵にザカライアを倒す余力があるか。

 ザカライアの敵にユーゴーまで敵と見做されないか。

 幾重にも重なる賭け。


 しかし、『獅子面』と交戦してその脅威を知っていた迅羽は見誤らなかった。


 爆発音がする場所を目視した迅羽は、そこで戦う者達の姿を見て察したのだ。

 振動魔法を併用した……『獅子面』と同じバトルスタイル(・・・・・・・・・)のザカライア。

 加えて、片腕を欠いた重傷でも彼は能力が落ちていない(・・・・・・・・・)

 その事実から迅羽はザカライアを『獅子面の本体』と判断し、必殺スキルの最後の一回を用いて心臓を奪ったのである。

 そして、判定をズラす特典武具もなく、眼前のユーゴーにのみ集中していたザカライアは呆気なく心臓を抜き取られた。

 それが迅羽と『獅子面』……ザカライアの戦いの決着である。


 ◇◆


(ここまでか)


 心臓を抜かれて地に倒れたザカライアのHPは消え続けている。

 そんな彼を確実に倒すべく、【ホワイト・ローズFB】が武装を向ける。


「…………」


 死が迫るザカライアの鼓膜が捉えたのは、ラピュータが砂漠へと不時着する音。

 しかし、ラピュータが消えていない……グレイが生存しているということは、ラピュータを攻めた者達は失敗したのだろう。

 【フーサンシェン】は自ら欲してラピュータを落としたが、逆に大きな玩具に夢中でただの人間達の逃走を見逃す恐れもある。

 そうなればザカライアが任された任務は半分も達成できないことになる……が。


(まだ、()はある。私ならば(・・・・)、動くはずだ)


 ザカライアは自身の意図を悟られぬように顔を伏せる。

 そうして、直後に殺到したミサイルによって彼は光の塵となった。

 消える寸前、任務達成を確信して笑みを浮かべながら……。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<…………


(=ↀωↀ=)<計算上あとはエピローグ抜きで二話、込みで三~四話


(=ↀωↀ=)<何とか年内に終わらせたい


( ꒪|勅|꒪)<20巻の著者校正用原稿届いてるゾ


(=ↀωↀ=)<そっちは正月休みの作業で……



○ザカライア


(=ↀωↀ=)<ウィンターオーブパートとラピュータパートのどっちにも関与していたので


(=ↀωↀ=)<どっちからも殴られた


( ꒪|勅|꒪)<やっと仕留めたゾ



○《地獄門》対抗装備


(=ↀωↀ=)<《地獄門》を伝導する粒子に限定して弾く気密バリア


(=ↀωↀ=)<【FB】のついでにコキュートスの詳細データを取っていたカリュートが


(=ↀωↀ=)<議長に依頼されたので先々期文明のエアロック・エアスーツ技術から作った


(=ↀωↀ=)<今後、カルディナ陣営でユーゴーと相対する奴は大体装備してくる


(=ↀωↀ=)<あとデータ取りさえできればフラグマン陣営やマキナも作れる


(=ↀωↀ=)<ただし必殺スキルの方は現状対処不可



○カリュート


(=ↀωↀ=)<「趣味で兵器を作る」


(=ↀωↀ=)<「依頼されたものは要求通りに作る」


(=ↀωↀ=)<「スポンサーの善悪も兵器の用途も問わない」


(=ↀωↀ=)<「だが作ったものに口出しするな。ぶっ転がすぞ」


(=ↀωↀ=)<というタイプ

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