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第四十四話 議長の誤算 / 加算

(=ↀωↀ=)<いつもより一時間遅れでの更新となります


(=ↀωↀ=)<遅れた理由は活動報告にて


(=ↀωↀ=)<今後も遅れるときや休むときは活動報告で告知しますので


(=ↀωↀ=)<気になったときはご確認いただけると幸いです

 ■議長の誤算について


 後に<ウィンターオーブ事変>と呼ばれるこの事件。

 はっきり言えば、カルディナ……議長にとっては多くの誤算を含んだものだった。

 元より予知の精度が落ちるウィンターオーブ。

 自らにとって鬼門の地で作戦を行うがゆえに過剰とも言える戦力を投入したが、抗う者達の奮戦や天空院翼神子という乱入者、そして迅羽の龍神装によって形勢を覆された。

 レイが最初に関わった一連の事件をはじめとして王国でも度々誤算はあったが、頻度で言えばこの事件が勝る。

 それも無理はない。

 議長は未来を見るが、それは獲得した膨大な情報から導き出した演算結果だ。

 今の議長はシステムを介してレベルを持つ者を把握するゆえに、レベルを持たぬ者ばかりのウィンターオーブでは観測情報が不足して読み違いが多発する。


 なお、議長はそれ以外では意志を持つ特典武具や……ただの機械を把握できない。

 それでもかつての運用者の記憶や兵器と戦った者達の記憶から性能や整備ドックの所在などは把握できていた。

 だが、機械のみの活動で得た結果は人の目に触れるまで観測できず、不明のまま。

 そのせいでこの世界の指し手の一派……先々期文明の残滓たる水晶の煌玉人達の暗躍とは相性が悪い面もある。


 その性質ゆえに、<ウィンターオーブ事変>でも更なる誤算がある。

 しかしそれは、この事件における議長側の誤算にとって恐らくは唯一……プラス(・・・)となるものだ。


 ◇◆◇


 □■<北端都市 ウィンターオーブ>


 ウィンターオーブ近郊の砂漠に開いた大穴。

 その奥底からせり上がったリフトに鎮座しているベルドリオン。

 当然だが、それが自ら動く気配はない。ラスカルがスキャンしたとおり、この決戦兵器はかつての戦いで動力炉(心臓)思考中枢(脳髄)も失っている。

 身体を動かす力も意思も、この巨人の残骸には宿っていない。

 この巨人は既に命なきモノだ。


『――a8e0b5eb(おもしろ)bba4(そう)

 ――だからこそ、神話級の怪物はそれを求める。


 街の中、光に覆われた玩具……死体とパワードスーツに囲まれていた【フーサンシェン】は巨人を見上げる。

 この街で……否、これまでで最高の『玩具』を見つけて子供のように……そして怪奇譚(ホラー)の怪物のように目を輝かせる。

 直後、【フーサンシェン】は身を丸め、解放直後のような球形(スフィアモード)に変じる。


b5e3c1cfc2(しゅっぱつ)


 ボーリング大の球体を傍にいた『玩具』……動く死体が抱えて、走り出す。

 元は猛者には程遠いウィンターオーブの住人。

 しかし、その身体能力は生前とは比較にならない。

 【フーサンシェン】から直接(オーラ)を供給され続け、常人を凌駕して超人の域。

 石床を砕きながら走り、反動で肉と骨が砕けても一瞬で再生し、血の足跡を刻みながら一心不乱に巨人へと走る。

 それを阻む者はいない。

 ユーゴー達はザカライアと交戦を開始し、カルルを倒した直後である迅羽の龍は空よりも高い場所にある。

 誰にも妨害されないまま死体は疾走し、やがて街の囲いを越えて動かぬ巨人に届く。

 機体の装甲を駆け上がり、頭部を失った名残の亀裂へと登り、……そして球体の【フーサンシェン】を抱えたままタッチダウンのように内部へと飛び込んだ。

 胸の中心に辿り着くと役目を終えた死体は光を失い、電池が切れたように動きを止める。

 そして【フーサンシェン】から溢れる光の全ては、人間の骸ではなく巨人の残骸へと流れ込む。


『――Oo』

 ――光がその身に満ちるにつれて巨人……【ベルドリオン】の各機関が稼働する。


 かつて動力(心臓)思考中枢(脳髄)も失った決戦兵器。

 しかし今、体内にフーサンシェンが入り込んだことで、息を吹き返す。

 かつての動力炉を超えて満ち満ちるエネルギー。

 演算機ではなく、擬似生命として躍動する頭脳。

 六百年の雌伏の中で改修されたその身体。

 ここに、決戦兵器は再び砂漠の大地に立つ。


『Ooo――』


 【ベルドリオン】が立ち上がり、一歩一歩砂漠に足跡を刻む。

 目指す先はウィンターオーブ。

 最大にして最悪(最高)のプレゼントは【フーサンシェン】の手に渡ったが、【フーサンシェン】は強欲だ。まだ街中にいる二つの玩具……【グラディウス】を倒した【ホワイト・ローズFB】と【サードニクス】を手に入れるべくそちらへと向かっている。


d3a3f1(ふぅん)?』


 その最中、内部の【フーサンシェン】は何かを理解するような声を上げる。

 実際、理解しているのだ。

 全身に光を溢れさせ、命なきモノが仮初の命を得るに従い、身体の使い方が持ち主となった【フーサンシェン】に伝わってくる。

 パワードスーツや【グラディウス】がそうであったように、これは【フーサンシェン】のスキルの基本機能だ。


a8e0b5eb(おもしろ)bba4(そう)


 そして外観に対して述べた言葉を今度は【ベルドリオン】の能力に対して呟いたとき。


『――【砲殲火】再チャージ完了』

「――爆撃開始」


 天空の城……否、上物の城を失くした空中要塞から放たれた砲撃が【ベルドリオン】を襲った。


 ◇◆


 ラピュータを襲っていたカルディナ勢力の全滅とほぼ同時に、【ベルドリオン】は出現した。

 その動きは上空のラピュータからも当然確認でき、【ベルドリオン】の機体が光を纏った時点でラピュータを動かすグレイは新たな脅威と認識。

 街への被害を考えて対応を考えていたが、歩き出した巨人がそれ以上街に近づく前に爆撃を開始した。

 【砲殲火 フォンシィェンファ】のクラスター爆弾は完全にベルドリオンを捉え、その装甲を焼き剥がさんとする。

 だが、そうはならない。

 炎上して融けると同時に、溢れる光がその損傷をないものとする。

 その再生スピードは《百刑氷河・実りの戒め》に封じられる前の【グラディウス】よりも遥かに速い。


 これが統率者型<神話級UBM>、【フーサンシェン】のバフの真価。

 限られた光を遠距離に貸与するのではなく、直接接触しながら光を注ぎ続けている。

 齎される再生力とエネルギーはもはや無尽蔵とすらいえる。

 しかし、この能力を使うということは戦う者の懐に【フーサンシェン】自身がいるということ。 【フーサンシェン】を斃さんとするものにとっては好機でもある……が。

 【ベルドリオン】の巨体と装甲、今の再生力を貫いて【フーサンシェン】を仕留められる火力は【砲殲火】にはない。

 仮にそれができる貫通力と攻撃力を持つモノがいるとすれば……。



 ――天より翔け降りる一刀(・・)の龍に他ならない。



(こっちは<超級>連中を相手にした後だってのに……あの【獅子面】野郎は本当にろくでもないことしやがって……!)


 迅羽は新たに出現した【ベルドリオン】がカルディナの策謀の一つであると理解していた。

 光を纏った巨人の進行方向がウィンターオーブであった時点で、そこにいる人々を害するものであるのは明確だった。

 ゆえに、天高くから【応龍牙】を引き戻し、街に迫る【ベルドリオン】を討ち貫くべく加速させている。

 彼女の《龍神装》の力を以てすれば、装甲を貫いて【フーサンシェン】本体を撃破することも可能だろう。

 だが、【符】を失くした彼女の表情からは、隠せない焦燥感が滲み出ていた。


「ッ……。間に合うか……?」

「えっと、あのさ、何でそんなに焦ってるの?」


 迅羽の隣に立つソニアは、迅羽の表情の理由が分からずに問いかける。

 彼女はその目で迅羽の《龍神装》の力を目撃していた。自分達を囲んでいた『獅子面』達を瞬殺し、ラピュータに戦力を送り込んできたウロボロスを貫き、さらには倒せないはずの無敵の<超級>さえも打倒した。

 そんな最強とも思える力を振るえる迅羽が、何をそんなに焦っているのか、と。


「……タイムアップだからだよ」

「…………え?」


 《龍神装・雲外蒼天》。

 全スキル中最高峰の貫通能力と迅羽であるゆえの射程距離を持つスキル。

 その発動には迅羽自身の最大値を遥かに超えるMPとSPが必要だ。

 そして当然、一度発動すれば永遠に続けられるものでもない。

 発動時に注いだエネルギーが切れれば、《龍神装》は解除される。


(けど、ギリギリでまだ届く。残り時間と彼我の距離とこっちの速度……一撃で仕留める)


 超速で宇宙から降る牙持つ龍。

 それは瞬く間に地上の巨人への距離を詰める。

 龍の嗅覚は既に巨人の内部にいる別の怪物……【フーサンシェン】を捉えている。

 そのまま装甲ごと【フーサンシェン】を貫くべく、真っすぐに龍は進む。


「往け……!」


 そして迅羽の言葉と共に龍の牙が巨人へと迫り……。




 ――龍の牙が巨人を傷つけることは叶わなかった。




「え?」


 その言葉は、誰のものであったか。

 迅羽か、ソニアか、アスマか……あるいはこの光景をどこか遠くで観測している何者かか。

 無敵でさえも貫くはずの龍の牙は、巨人を貫かない。

 防がれたのでもない。

 幽体の如くすり抜けたのでもない。

 目算甘く届く前に解けたのでもない。


 ――巨人がそこにいない(・・・・・・・・・)


 龍の牙が届く直前に、夢か幻のようにその場から消え失せている。

 その光景にソニアは自分の幻術を連想し、迅羽も先ほどまで戦っていた『獅子面』を連想した。

 だが、そのどちらも違う。

 姿を消した巨人は今……。



『――なん……だと?』

 ――【霊亀甲】の護りの内側、ラピュータの目前(・・・・・・・・)にいた。



 【ベルドリオン】は特定地点への緊急脱出機能(ベイルアウト)を持っていた。

 しかしそれは、【ベルドリオン】が【覇王】に敗れた六〇〇年以上前の話だ。

 元より、緊急脱出は敗退した後の改修を前提とした機能。

 思考中枢と動力炉を失い、それらが修理不可能だとしても……決戦兵器は改修を怠らない。

 【覇王】との戦いで亜空への強制転移を以てしても防げぬ攻撃があると学習したがゆえに、別の防御……回避手段を得た。


 即ち、任意地点への自在転移(テレポート)


 無論、必要なエネルギーは緊急脱出よりも跳ね上がる。

 だが、思考中枢と動力炉が失われていたからこそエネルギー上限を考慮せず、機体各部に記録されたログを基に改修が実行された。

 それだけならば、思考中枢と動力炉を失くしたスクラップが、それらを積み直しても使えない機能を持ったガラクタに変わるだけだった。

 しかし、六〇〇年余りの時を経て【ベルドリオン】に積まれたのは機械ではなく、神話級の怪物。

 【フーサンシェン】という存在の力は、先々期文明の動力炉を超えていた。

 それこそ、自在転移能力を使えてしまうほどに。

 先々期文明の遺した決戦兵器は、外界より齎された神話級の怪物と交わることで……完成形を凌駕する完全体として人類の絶望と化した。



「……ッ……!」

 そして、タイムリミットを迎えた《龍神装》が解けるのと同時に、


『――c2a9dca6bd(つかまえた)――』

『――OooooOooo――』

 《デルヴァスター(亜空)》を展開した【ベルドリオン】の右腕が振り下ろされ、



『――総員退館』

 ――表層を覆う城の土台諸共に<超級エンブリオ(ラピュータ)>の本体を抉り取った。



 To be continued

○【ベルドリオン】+【フーサンシェン】


( ꒪|勅|꒪)<つまりどうなったんだこいつ?


(=ↀωↀ=)<内部の【フーサンシェン】がやられない限り瞬時に回復し


(=ↀωↀ=)<致命的な攻撃は空間転移で回避して


(=ↀωↀ=)<上空数千メテルだろうが一瞬で距離を詰め


(=ↀωↀ=)<防御不可能の転移攻撃で抉り取ってくる巨大ザ・ハンド


( ꒪|勅|꒪)<…………誰だこのクソボス作った奴


(=ↀωↀ=)<フラグマンが造った兵器を【覇王】が壊した後


(=ↀωↀ=)<議長の陰謀で<神話級UBM>が取りついた結果です


(=ↀωↀ=)<メタ的には作者(難易度ルナティックボス作りたい病)

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