拾話 付喪神
(=ↀωↀ=)<区切りの都合で短め
(=ↀωↀ=)<今回からVSフーサンシェン
(=ↀωↀ=)<なんとか今年中に2.5日目完結までやりたい
(=ↀωↀ=)<それはそれとしてポケモン図鑑は完成させました
(=ↀωↀ=)<今週発売のVSTARユニバースも楽しみです
■むかしむかし
約二千年前、『異大陸船』と呼ばれる巨大な何かが空の果てに現れたときのこと。
『異大陸船』の航路が開いた『裂け目』から、二つの鉱物が虚空に放り出された。
どこから流れてきたかも知れない鉱物の一つは黒い岩塊であり、もう一つはそれよりも大きく……少しだけ透き通った結晶体だった。
どこか似通っていて、前者を研磨すれば後者になるかという雰囲気がある。
二種の鉱物は『異大陸船』がこの世界で活動し、数多の混乱を巻き起こした後も虚空の衛星軌道に漂い続けた。
何もしない。ただそこに在るだけの異物。
鉱物にはどちらもエネルギーを吸収する性質があり、自らの表面に当たる星の光を吸い続けた。
今のそれらはただの鉱物。このまま何もなければ、光以外の刺激を与えられなければ、鉱物が二つ衛星軌道上に漂うだけだっただろう。
しかし、どちらもそうはならなかった。
黒い岩塊は遥か後に自我らしきものを獲得し、人間を真似て『
そして、結晶体は自我を獲得するよりも先に……地上へ墜落した。
何がきっかけか分からない地上への落下。
墜ちた先は、黄河の霊山の一つ。
聖属性の自然魔力に溢れ、無数のエレメンタルが活動する地域だった。
墜落した結晶体は、落下によって砕け散った。
モンスターですらない少し特殊なだけの鉱物ゆえに、それは当然の結果だ。
軌道上に残ったもう一つの結晶体のように長い時を経ればモンスターへと変質したかもしれないが、この結晶体の落下はそうなるには早すぎたのだ。
砕けたまま、塵になることすらなかった結晶体の残骸。
時折、この山に生息するエレメンタルが不思議そうに近づいては……消えていく。
そんな奇妙な現象が誰に見られることもないまま、一夜が過ぎた。
翌日、落下地点には数人の男達がやってきていた。
結晶体落下の轟音を聞き、何事かを確かめに来た近隣の町の衛兵達である。
彼らのレベルは高いとは言えなかったが、幸いにしてこの霊山は強力なモンスターの跋扈する地域でもない。
何よりこの山の主なモンスター……霊山で発生、生息する【シャイニング・エレメンタル】は温厚であり、傷や呪いを負った人間が近づけば傷を癒やし、呪いを浄化する性質を持つ益獣ですらある。
ゆえに彼らは恐れ少なく山に入り、そして結晶体の残骸を見つけた。
砕けた欠片、美しい結晶体を見つけた彼らは轟音の原因と思しきそれらをかき集め、その地の領主であった狸龍族の貴族――古龍人に従う狸人部族の長へと献上した。
霊山を保有する町を治めていた狸龍族の長は、結晶体の墜落を『吉兆』とした。
というよりも、『吉兆』とする他なかったと言えるだろう。
結晶体の墜落を『凶兆』とすれば、霊山の管理者として不適格と見做されかねないからだ。
それを内外に示すように、長は墜ちた結晶体の欠片で宝物を作るように命じたのである。
長の指示により、回収された幾つもの欠片は宝飾品などに加工された。
中でも最も大きなものは像を彫る職人の手に委ねられた。
職人は鞠よりも大きな塊をどのように加工するか思案を巡らせ、とある動物の形を彫ることに決めた。
それは、街を治める者と似た動物――『狸』の形をしていた。
職人の手で見事に加工された狸の像を長はいたく気に入り、自らの部屋に飾って楽しんだ。
像は族長一族の家宝となり、彼の子や孫にも引き継がれていった。
◆
結晶体の墜落から百年近くも経った頃。
「なに? 幽霊騒ぎだと?」
「はい。使用人達が噂しております。深夜の見回り中に光る何かを見た、と」
いつ頃からか、像を家宝とする一族の屋敷で奇妙な現象が目撃されるようになった。
「レイス? しかしアンデッドの気配はないが?」
「はい。探査の術でも確認されていません」
「では、またぞろ霊山のエレメンタルではないか? それならば吉兆ではないか」
時折霊山から降りて人里に迷い込む下級の【シャイニング・エレメンタル】は、幸運の象徴とされている。珍しいが、何年かに一度はあることだ。
ならば騒ぐことでもないと、屋敷の主人は判断した。
実際、この報告がなされてから一ヶ月が経とうとも邸内や町でトラブルが起こることもなく、平和なものだった。
しかし、事態は別の場所から急変を告げる。
「霊山のエレメンタルの数が減っている?」
「はい。山中の見回りをしていた者達からの報告です。【シャイニング・エレメンタル】を見かけなくなったと……」
「……よもや、霊山にどこかから<UBM>でも潜り込んだか?」
長はそこまで考えて、一ヶ月ほど前の報告を思い出す。
(もしや使用人達が見たという光は、<UBM>によって山から追われたエレメンタルか?)
そうであれば一ヶ月もの間、未知の<UBM>が霊山を荒らしていたことになる。
それは聊か以上にまずいと、長は肝を冷やした。
「山狩りをなさいますか?」
「そうするしかあるまい。あの霊山は古龍人の方々の祭事にも使われる場所だぞ。次の祭事までに原因を究明し、解決せねば管理者としての責を問われるわ」
事態を把握した長は、すぐに自らが部隊を率いて<UBM>を討伐すべく霊山に入る決断を下した。
彼と彼の側近達はレベルカンストの強者達であり、ある程度までなら<UBM>にも抗しえるだろうという自負があったからだ。
そうして、長の率いる討伐隊は三日三晩、霊山の中で<UBM>の存在を捜した。
しかし結局、彼らが霊山の中で<UBM>を見つけることはなかった。
彼らが<UBM>を見つけたのは――町へと帰還した後だ。
埒が明かぬと一時帰還した彼らを待っていたのは、生きていると見紛う姿の死体の群れ。
衣服には致命傷となる傷や血の痕があるというのに、身体は生気に溢れている。
されどその表情は生者のものではない。
それどころか、
「な、なんだこれは!?」
長と討伐隊は困惑の中、襲ってくる生きた死体に抗わねばならなかった。
見知った顔を苦渋の思いで切りつけて倒し、しかし直後に傷が塞がって再び立ち上がってくる。
終わることのない悪夢のような戦いで、討伐隊の猛者達も一人二人と倒れていく。
そして死した猛者達もまた……起き上がって死者の列に加わるのだ。
『a0cdcdcdcdcd』
そんな生者と死者のダンスを、屋根の上から眺めているモノがいた。
それは透き通った硝子状の身体の中に光を灯した――狸型の像。
百年近く、この狸龍族の族長一族が家宝として伝えてきたモノ。
しかし今は、明らかに意思を持つモノとして人々の成れの果てを見下ろし、嗤っていた。
このような結果になったのは、ひとえに結晶体の性質によるものだ。
かつて虚空に出現した二つの鉱物が持っていた共通の性質、エネルギー吸収。
虚空に残った鉱物は恒星の光を吸い続け、そちらに特化・適応していった。
そして地に墜ちた結晶体……その成れの果てである像は身近な、より濃厚なエネルギーを吸収していたのだ。
即ち、――
墜落直後、不用意に接近してきた【シャイニング・エレメンタル】を吸ったのが発端。
そこから回収されるまで、欠片はエレメンタルを喰らい続け……人々に回収されたころにはその内にある種の『核』、『卵』とでも言うべきものを備えるに至った。
しかしそれを人には察知できず、察知されないままに欠片は器物へと加工された。
それから、霊山の麓で百年弱。
結晶体の中で、結晶体に吸われたエレメンタルの残滓が凝縮し、やがて結晶体と合わせて新たなカタチのエレメンタルとして生まれ落ちた――【シャイニング・エレメンタル】突然変異種。
ソレは結晶体の性質を以て漏れ出る自然魔力を吸収し、迷い込む
屋敷の人間達が目撃したのは、ソレが食事を終えた帰り道。
しかし、百年近くも人の傍に在り続けたソレは、恐ろしく賢かった。
自らの存在が露見しないように正体を隠す能力と知恵に長けていた。
そうして少しずつ魔力を喰らい、エレメンタルを喰らい、力を増していき……。
自らの傍にいた強者……族長と側近達が街を離れたのを機に動き出した。
街の死体に自らのエネルギーを分け与えて手駒へと変え、人を襲い、手駒を増やし、街一つを滅ぼした。
『abe1cdcdcdcdcdcdcd!』
ソレは、ソレの言葉で嗤い続ける。
なぜ人の死体を手駒にするのか。『動かすと面白そうだから』。
なぜ街を滅ぼしたのか。『玩具を増やしたかったから』。
なぜ嗤うのか。『玩具で遊ぶと楽しいから』
そこに生命の軽重や人の持つ倫理はない。
そも、血肉通わぬモノから生じたゆえにその観点が抜けている。
鉱物から器物へと形を変え、百年を経て命を得て、物言わぬ者共の百鬼夜行を為すに至る。
ゆえにソレの名は――
霊山一つを食い尽くして力を得て、町一つを滅ぼした。
その後は人の目から隠れ続けながら、【龍帝】によって封じられるまで黄河各地を荒らした怪物。
それこそが【百棄弥光 フーサンシェン】と銘打たれた<UBM>である。
To be continued
○鉱物
(=ↀωↀ=)<人間で遊ぶ系謎鉱物
(=ↀωↀ=)<いったいどこから来たのさコイツら