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第四十話 雲外蒼天 Ⅲ

(=ↀωↀ=)<本日三話目なのでまだの方は二話前から

 □■【未確認飛行要塞 ラピュータ】


 既に城の形が失われつつある建造物の上で、二体の人型が激突する。

 【グリッター・イン・ザ・ダーク】と阿修羅童子。

 それを見守るのは、二体を呼び出した術者達。


「どうやら、戦況が傾いてきましたね」

「…………」


 桔梗の言葉に翼神子は微笑を浮かべたまま……されど無言。

 スキル効果とコンボによって力を高めたものと、リソースの暴力で極限の力を発揮したもの。

 呼び出された者達の戦いを左右したのは、投じられたコストの差。

 翼神子と桔梗。この一戦に投じたリソースと代償は、自らのエンブリオに貯蔵されていた全リソースを三倍化した上で全て投入した桔梗の方が明確に重い。

 たとえ式神と召喚の間に基本コストの差があるとしても、ステータスには数割程度の差がある。

 それに加えて阿修羅童子の持つ外付けの力、二本の妖刀と二本の名刀もある。

 グリッターも戦闘中に数合わせの業物二本を破壊したが、戦力減少は軽微だ。


 他に大きな要因となったのは翼神子側のカードの引きと、相性。

 必殺スキル発動時点で手札にあった黒竜プラス一枚で呼び出せる最強の召喚モンスターは間違いなくグリッターだ。

 だが、グリッターは阿修羅童子に対してその能力の全てを使うことはできなかった。

 グリッターの攻撃スキルは相手の身体に自身の魂力を浸透させ、相手のリソースそのものを爆発させて殺傷する呪いの一種。

 しかし、阿修羅童子は呪いへの完全耐性を持つ。

 妖刀を扱うため、そしてモデルとなった人物に似せたがゆえの特性だが、それはグリッターへの明確なメタ能力として機能した。

 加えてグリッターには相手の魔法を吸収して自己強化する能力もあったが、阿修羅童子は純粋な前衛アタッカーであるため意味がない。

 グリッターの持つスキルで機能しているのは、相手のスキルによる直接干渉をある程度までは弾く耐性くらいだ。お陰で、妖刀の呪いを回避できている。


 つまりは、互いに相手の特殊性を潰した上での力比べをしている。

 そうなればコスト差によるステータスがモノを言う。

 激突の度に両者の残存HP(ダメージレース)の差を広げていた。

 阿修羅童子もHPを半分以上削られていたが、グリッターの方は八割以上だ。


「…………」


 翼神子の召喚モンスターが追い詰められているこの状況でも、彼女は微笑を絶やさない。

 無表情でも笑顔でも、状況問わず同じならばそれはポーカーフェイス。

 自らの有利も不利も相手に伝えない最古のカードテクニック。

 しかしそれも、全身全霊の切り札が追い詰められている状況では虚勢にしか見えない。


「私の勝ちのようです。楽しい殺し合いでした」


 彼我の戦力を冷静に比較し、桔梗はそう告げる。

 お互いの全身全霊を尽くした、これ以上はないという最強のしもべ。

 であるがゆえに、現時点での優勢劣勢はそのまま勝負の趨勢となる。


「どうやら彼女も敗北した様子。クエストの続きは私と阿修羅が行いましょう」


 自身と共に城の最奥まで乗り込んだRANが退場したことを悟り、桔梗はそう述べる。

 阿修羅童子はまだ動ける。王女達を抹殺する程度は造作もない。


「本当に、今日は楽しかったです。今回は私の勝ちですが、またどこかでやりましょう♪」


 自分は東西最強召喚対決というこの上ない催し物を愉しみ、仕事も果たし、素材も手に入れる。払ったコストに見合うベストな結果に落着すると、そう述べたのだ。

 そんな桔梗の勝利宣言に対し翼神子は……。



「――それはどうかしら?」

 微笑を浮かべたまま――指の間に挟んだカード(・・・・・・・・・・)を見せた。



「え……?」


 想定外のものを見て、桔梗の表情が固まった。

 ゼロ枚であったはずの手札が、しかし今はそこに在る。


「盤面に見とれるのはいいけれど、相手のカードリソースは確認すべきよ」

「あれが、最後のカードでは……」

「私の説明、ちゃんと覚えてる?」


 翼神子の言葉に、桔梗は《オープンルール》によって告げられた彼女の<エンブリオ>のスキル効果を思い出す。

 高速で記憶を辿り、やがて……最後の説明に思い至る。


『第三効果、引いたモンスター、及びそのモンスターを素材としたモンスターが破壊・召喚解除されたとき、フォルトゥナは二十四時間機能を停止する』


「あ……」


 そこで、桔梗は自分の勘違いに気づいた。

 必殺スキルで引いたモンスターに関連したモンスターが破壊・召喚解除された時点で、フォルトゥナは機能を停止する。

 しかしそれは該当モンスターが消えるまでは『必殺スキル使用後のドロー』を禁じておらず――、


 ――『召喚術そのもの(・・・・・・・)』も禁じていない。


 単に、フォルトゥナというバフが消えるだけ。

 そう、最初から伏せられていたグリム・レッドと同じ。

 彼女は……フォルトゥナがなくとも召喚自体はできるのだ。

 そして、彼女がこれから行う召喚にとってフォルトゥナの有無は大した問題ではない。


「《置換召喚》」


 新たなカードを手にしながら、彼女は召喚を宣言する。

 阿修羅童子と斬り合っていたグリッターが消失し、同時に必殺スキルの反動によってフォルトゥナが光を失う。

 だが、彼女の掌中に在るカードは、光の塵と化したグリッターを糧として――顕現する。


「――【餌氾攻倍 グレーター・ビースト】」


 それは巨大にして偉大な魔獣。

 二腕二足の人のような手足だが、全身を分厚い殻と体毛に覆われている。

 角を生やした頭部は、まるで勇者の兜の如く。


「このモンスターは《置換召喚》によってしか召喚できない。

 召喚時間は《置換召喚》に使ったモンスターの残り召喚時間の半分となる。

 このモンスターは……」


 そして空間を通して伝わるその力は……。


「――《置換召喚》に使用したモンスターの倍のステータス(・・・・・・・)を持つ」

 ――グリッターを凌駕していた。


 フォルトゥナのバフとは関係ない、召喚モンスター自体の性質。

 入れ替えるように召喚した結果、ステータスが高くなるだけのモンスター。

 それ以外に特別なスキルなど持たない。

 だが、今は最強の召喚モンスターだった(・・・)グリッターの倍の力を持つ。

 特別なスキルこそ持たないが……その性能は限界を超えていた。


「あのモンスターが、最強だったのでは……!?」

「さっきまでは最強だったわよ?」


 東西の最強召喚対決など、トンデモない。

 翼神子は最初から、切り札のグリッターを削り要員(・・・・)時間稼ぎ(・・・・)として使っていた。

 阿修羅童子のHPを少しでも多く削り、目当てのカードを引く時間を稼ぐために。


「カード単品の力比べだけでは、カードゲームとは言えないわ」

『ヅァ!』


 入れ替わった相手、より強大化した相手にも阿修羅童子は臆さずに切りかかる。

 だが、それを凌駕する速さでビーストは両腕を振るい、阿修羅童子を挟み潰して拘束した。

 拘束されながらも、阿修羅童子は刃を振るう。

 両腕を刻まれ、妖刀の呪いが蝕み始めるが……ビーストはそれに頓着しない。

 自らのステータスを以て押さえ込み続ける。


「カードゲームの華は――コンボとタクティクスよ」


 《運命に手を伸ばせ(フォルトゥナ)》で《極大》と《融合召喚》のコストを踏み倒して強力なモンスターを召喚し、相手の妨害札を削り、さらにはそのモンスターさえも糧とした【グレーター・ビースト】を叩き込む。

 彼女が好む、ワンショットキルコンボである。


「最後に一つ忠告しておくわ」


 ビーストは相手を圧倒する膂力で阿修羅童子を抑え込みながら、角を生やした頭部を大きく振りかぶる。

 阿修羅童子は抗うも、逃げられず。

 桔梗もまた、立ち尽くし。


「――勝つ前に未来の展望を話すのは負けフラグよ」

 ビーストの角から放たれた雷光は――掌中の阿修羅童子ごと後方の桔梗を消し飛ばした。


「グッドゲーム」


 対戦相手の健闘を讃える常套句を口にして、【召喚姫】は【式姫】を打ち破った。


 ◇◆


 そして同じタイミングで、更に一つの決着がつかんとしていた。


 ◇◆◇


 □■【未確認飛行要塞 ラピュータ】・周辺空域


 獅子の群れを屠った龍は、新たな獲物を求めて天へと昇る。

 加速しながら空を裂く龍の牙が次に狙いを定めたのは、宙を走る蛇の似姿。

 ラピュータをこの空域に閉じ込める元凶、【円環綴道 ウロボロス】。


『……押さえられなかったようだな』


 ウロボロスを動かすツークンフトは既に迫る龍に気づき、蛇の双頭たる先頭車両と後部車両、イヴの乗る特等客車以外を消した現状の最高速度で逃走する。

 音速を凌駕した速さで空中に軌跡を綴る双頭の蛇。

 しかしそれすらも、龍の前では遅すぎる。

 後ろの蛇と睨むあうかの如く、急速に距離を詰めていく。

 ツークンフトにこれを凌ぐ手段はない。


『対処をお願いする』

「もうやっているわ」

 ゆえに、対抗手段はイヴに委ねられる。


 イヴはラピュータのみを見据えていた視線を別の場所に移している。

 狙うのは天を翔ける龍……ではない。

 マスドライバーの高速質量爆撃と言えど、あの速度で動くものを正確に狙うのは至難の業だ。

 ゆえに、狙うのはその源。

 そう、視線(ロックオン)は龍を辿り、その先にいる迅羽へと向かう。

 動けない彼女をマスドライバーの的とするために。

 龍がウロボロスに食らいつくのが速いか、アルテミスの砲撃が迅羽を殺すのが速いか。

 否、ウロボロスの撃墜が先んじたとしても、残存戦力のために迅羽を墜とす。

 その意思をもって月女神(アルテミス)を従えた【砲神】は龍を従える少女を狙う。

 やがて彼女の視線が迅羽へと届き……。



 ――白金のカーテンに視界を遮られた。



 ◇◆


 ウロボロスの特等車両は奇妙な有り様になっていた。

 まるで土砂降りの雨に降られ、大量の雨水が車両を流れるように……白金の液体が車両を包む。


(……こちらの息の根が止まる前に……反撃は間に合ったようだな……)


 それは、特等車両の車上にその身を横たえたカーバインの最期の力。

 既に両腕の液体金属を武器へと変える力はなくとも、ただ流れるだけのもの。

 だが、流れるままに、溢れるままに……放出することはできる。


 ただ一時の目隠しとして、彼は自らの血と共に<エンブリオ>を解き放っていた。


 この瞬間、仲間達が反撃に出たときに相手の砲撃を封じるために、生きて耐えて待っていた彼の最後の『手』。

 そして砲手の目を塞ぐ彼の行為は、天を翔ける龍に蛇へと追いつく時間を与えた。


 自らの仕事を為し遂げた男が命を使い尽くした直後、牙持つ龍は後部車両(蛇の頭)へと飛び込む。

 それはあたかも蛇が獲物を呑み込むかのような光景だったが……。


 ――龍の牙は車両(蛇のハラワタ)ごとツークンフトを貫いた。


 <マスター>の消失と共に、世界を円環に閉ざしていた大蛇が崩壊する。

 


『――――』


 獅子を討ち、大蛇を仕留め、それでも龍の飛翔は止まらない。

 その先に見据えるのは……ラピュータを襲う最後の敵。

 白熊の皮を脱ぎ捨て、自らの総力で敵を抹殺せんとする狩人にして獣。


 ――“万状無敵”のカルル・ルールルー。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<はい


(=ↀωↀ=)<まだ連続更新です


(=ↀωↀ=)<まさかの四話連続更新


(=ↀωↀ=)<……何で作者は三十七と合わせて二話で終わると思ってたんでしょう?



○阿修羅童子の武器


 【穢土】

 周囲の生物を腐食させ、ダメージと共にENDを下げ続ける。

 本来は真っ先に振るうものが影響を受ける妖刀。


 【蒼枝】

 生物に触れるとHPを吸い、枝を伸ばすように刃の間合いと攻撃力を上げる。

 本来は真っ先に振るうものが吸われる妖刀。


 【山洞】

 名刀の中でも頑丈だが、逆に切れ味はさほどでもない。

 ただし山洞が斬れない物質に触れた際、その内側に『斬れる部位』があればそちらにダメージを通す。

 鎧に覆われた武者などの肉だけ斬る。


 【庭霞】

 任意で刀身を非実体化できる。

 防ごうとした相手の剣をすり抜けて敵を斬る名刀。

 ただし、実体非実体の切り替えは完全にマニュアルであり、タイミングを誤ると攻撃も防御もできない玄人向けの武器。


(=ↀωↀ=)<ハイリスクでビームをぶっ放す【死蛍】と違い


(=ↀωↀ=)<アドバンテージ稼ぐタイプが多いです


○翼神子


( ꒪|勅|꒪)<結局なにしたんだコイツ


(=ↀωↀ=)<相手の手札と伏せカードがない状態で


(=ↀωↀ=)<ドラ○ーン・オブ・レッドアイズを生贄に偉大魔獣○ーゼット呼んだ


(=ↀωↀ=)<相手モンスターが効果耐性持ってたので戦闘破壊した

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