第三十七話 KO
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(=ↀωↀ=)<【RSK】戦決着です
□■【大武闘劇 オリンピア】・内部
――『その手で全ての古龍人を抹殺すべし』。
ツァンロンが手にした【契約書】、その『条件』にはそんな一文が書かれていた。
『そんな……まさか……』
強制的に送り込まれた
敗北した際のペナルティは『死』か『【契約書】へのサイン』。
つまりは、自分が死ぬか家族を殺すかの二択だ。
そのどちらでもない……この遊戯で勝利することは彼には不可能だ。
『……っ』
しかし今、彼の心を苛む問題はその二択ではなく、【契約書】そのもの。
ツァンロンの見間違いか、偽造でないのならば……【契約書】の筆跡は彼もよく知る人物のものだったからだ。
【龍帝】であるツァンロンは――
『
【闘神】より差し出された【契約書】に嘘がなければ、より恐ろしい事実を示している。
自らの父が、父自身も含めた家族を皆殺しにしろと息子に迫っている。
なぜそんなことを求めるのかはまるで理解もできない。
だが、この状況で攻め込んできた相手が父の【契約書】を出してくるならば、今回の策謀にまで関わっているだろう。
まるで狂気であり、悪夢だ。
『父上は、そこまで……』
しかし最も救い難い点は、父が『そんなことをする訳がない』とツァンロンが否定できないこと。
他ならぬ彼自身が知っている。
父には狂気に落ち、悪夢を作る理由があることを。
父には動機があり、その発端となったかつての悲劇の
裁きを受け、ここで独り死ぬことこそが正しいのではないかとさえ……思えてしまう。
(……けれど……)
今は、駄目だ。
今ここで死ねば、死ぬのは彼だけではない。
彼が守るはずだった者達の……エリザベートの命までも危うい
シェルターにも敵が入り込んだ。一刻の猶予もない。
(この、【契約書】にサインをして……)
この<エンブリオ>を突破し、敵を倒し、彼女達を護る。
その後に父と兄姉を手に掛けることなく、
それが、この絶望的な状況を覆す唯一の手段ではないかと……彼には思えてしまう。
「…………」
そうして【契約書】を見下ろして懊悩する間にもゲームは進み、あと一本取られれば死ぬという段階に至っていた。
【闘神】はツァンロンの決断を待つつもりがない。
彼女からすればどちらでも構わない。どちらであろうと作業の様に勝利し、自分のゲームをアンロックするだけだからだ。
あるいは、『人との戦い』に対する熱意が既にないのか。
今も画面の中ではツァンロンのアバターが削られ続け、もはや時間の問題だ。
ただ死ぬか、【契約書】にサインをして死ぬか。決めなければならない。
『っ……!』
そうして、ツァンロンは握りしめていた【契約書】を筐体に置き、自らの指の腹を噛み千切って血で署名をせんとして……。
『…………え?』
血に濡れた指が紙に触れる直前に、画面が目に入った。
画面に映るのは、【闘神】のアバターに一方的に殴られるツァンロンのアバター。
通路だったものが崩れて空が見える……そんな壊れた世界に。
『えり……ざべーと?』
彼が共に在りたいと思った少女の姿があった。
けれど、彼にはそれがエリザベートであるとすぐに分かった。
彼女は手を伸ばし、言葉を発している。
【闘神】の手で一方的に打たれる彼に、必死に叫んでいる。
彼を助けようと触れようとして、しかし決闘中に外界からの干渉を受けないオリンピアの効果ですり抜ける。
だから、声だけでも届けと叫んでいるのだ。
そんな外野の声は
けれど、彼の心には……彼の名前を呼ぶ彼女の声が届いた。
(……死ねない!)
強く、思う。
今は、死ねない。
これから先も、死ねない。
だって、彼は彼女に既に願われている。
炎に燃える王城の地下で、彼が願った言葉を、彼女に願われている。
――いっしょに生きよう。
かつてと今が重なって、彼の心に理由が蘇る。
(ああ、そうだ。決めたじゃないか。一つだって譲れないと……!)
彼の意志が【契約書】を破り捨て、諦観の選択ごと打ち捨てる。
モニターの中では、彼の最後の残機が削り切られようとしている。
この後に待つのは<
彼の死を定めた運命が待つ。
(それが、どうした……!)
彼もまた、
黄河という国が継いできたものと、呪われた誕生。
それでも、未来と彼女を護るための力は此処に在る。
ならば……。
(定められた運命程度覆せないのならば……この力は何のためにあるんだ!!)
彼の心が吼えて、魔力と魂が身体を巡る。
そして、運命の瞬間が訪れて――。
◇◆
『――KO』
【闘神】のアバターが【龍帝】のアバターのライフを削り切ったとき、筐体から電子音声が流れた。
その直後に、オリンピアの《死亡遊戯》は解除される。
何事もなかったかのように【闘神】RANは自らの肉体へと意識を戻す。
対面では、【龍帝】がその巨体を廊下に横たえていた。
(結局、【契約書】にサインはしなかったけれど、これで良かったのかしら?)
議長より依頼されたのは提案までであり、サインの成否は二の次だった。
彼女としては新たに高難易度の
「ツァンロン!? ツァンロン!?」
「あら」
倒れた【龍帝】の死体に、ターゲットの一人であるエリザベートが縋りつく。
(桔梗ちゃんはどうしたのかしら? ……あぁ、楽しくやっているのね)
ゲームをしている間に随分と見晴らしがよくなった城を見回せば、すぐに見つかった。
桔梗の阿修羅童子はシェルターまでの道中でRANが見たときよりも遥かに強力な力を発揮しながら、同格と思われるモンスターと死闘を繰り広げている。
桔梗自身と対戦相手らしい<マスター>はその戦いを見守っているようだ。
(楽しそうだけど、クエストは放りだしてるみたいね)
自分の遊びに夢中で他がおざなりになるのはよくあることだと納得する。
そうしてRANは納得ついでに……。
「せいの、っと」
『KYU!?』
背後から姿を消して忍び寄っていたドラゴンの横面を蹴り飛ばす。
どれだけ隠密に優れようが、《ブレイクスルー》の選択で見えている。見えた通りに蹴るのならば、実際の殴る蹴るが不得手なRANでも問題ない。
「キュルル! ……ッ!」
ターゲットの王女が死体に縋りつきながら、今しがた蹴り飛ばされたドラゴンを案じて呼びかける。
RANのことを睨んでもいる。
だが、睨まれた彼女の方から特に思うことはない。
地上にいる<
原初の電子ゲームに慣れ親しんだ世代の遊戯派。CPUの思考はビットの点滅に過ぎず、ゲームキャラクターは所詮ゲームキャラクターと割り切っている。
(どうしようかしら。この子を
そちらを選ぶならば、どうにかしてウロボロスに近づいてもらい彼女含めて回収してもらう必要がある。
(回収が無理そうならここで倒せばいいわね)
ともあれ、捕まえて生殺与奪を握るべきだろうとRANは考え、死体の傍から離れようとしない王女に近づいた。
怯えることなく自分を睨むエリザベートに手を伸ばそうとして……。
瞬間、【闘神】の脚力で跳ねてエリザベートとの距離を詰める。
同時に、RANの立っていた場所が音速の衝撃波によって粉砕された。
「おやまぁ、新しい乱入者ね」
『仕損じたか』
その場に姿を現したのは四体一組の楽団を連れた指揮者。
マテルが退場した後、シェルターを護るべく駆けつけたベルドルベルである。
敵と見定めたがゆえの音による奇襲だったが、RANには《ブレイクスルー》で避ける選択肢が見えていた。
視えた通りに問題なくRANは衝撃波を避け、そしてエリザベートの傍に立つことで相手の追撃を封じている。
ここまでが《ブレイクスルー》で見えた『択』。
あとは《死亡遊戯》のクールタイムが明けるまで相手の攻撃を封じ、躱し、再発動すればいいとRANは考えていた。
エリザベートに近づいた彼女の――足首を誰かが
「…………?」
疑問に思うのと同時に、彼女の身体は床から引き抜かれるように宙を舞い――足首を掴まれたまま壁に叩きつけられる。
阿修羅童子の斬撃によって半壊していた壁が、衝撃で崩壊した。
(ッ~~! 一体誰が……)
HPが削れ、衝撃で暗転しかける視界の中で、彼女は相手を見る。
「?」
それはありえない相手だった。
ヒトと龍が混ざったような筋骨隆々とした肉体は――死んだはずの対戦相手。
――【龍帝】蒼龍人越が彼女の足を掴んで振り回している。
「どうやって?」
確実に、彼女の<超級エンブリオ>のペナルティで死んだはずの者。
それが生きて動いているのは、ありえないのだ。
人間ならば誰であろうと、それこそ“無敵”のカルルであろうと《死亡遊戯》の絶命からは逃れられなかったのだから。
人に見えてもやはり龍の分類であり、ペナルティの対象外だったのだろうかとも思考するが……違う。
かつて<IF>の改人と交戦した際は、種族すら変わった相手でも《死亡遊戯》の効果の範疇だった。
(ペナルティが不発だった? 違う、これは……)
思考しながらRANは、恐ろしく単純な答えに思い至った。
【龍帝】蒼龍人越は――
そう、《死亡遊戯》は確実な死を突きつける必殺スキル。
だが……
死体の損壊もないため、《
ゆえに、相手もそれに類する装備かアイテムを使ったのだろうと判断したのだ。
◇
だが、実際の理屈は違う。
彼が行ったことは、そんな次元の技巧ではない。
それは、心の具現。
彼の心が強く抱いた願いのカタチを、彼の身に宿る
かつての【龍帝】が用いた
未だ完成せざる、彼自身すら自覚していない生まれたばかりの力が彼を繋ぎ止めたのだ。
そして、自分と愛する人の未来に立ち塞がる敵を倒すべく、彼は立ち上がった。
◇
『オオオォオオオッッ!』
【龍帝】としての力で、絶対にこのチャンスを逃すまいと攻撃を続ける。
再びオリンピアに囚われれば次はないと、勝負を決めるために彼は動く。
「……!」
RANは再び《ブレイクスルー》を発動し、ここから採りうる選択を視る。
如何なる状況でも、突破可能な選択肢が視えればそれを選べばいい。
「――あらまぁ」
はたして彼女に視えた選択の結果は――全て『彼女の死亡』だった。
【龍帝】に掴まれ、回避も闘争も不可能な状態で攻撃を浴びせられる。
ここから何を足掻こうと、デッドエンドということだ。
「まいったわね」
その定められた運命に、彼女はお手上げと手を挙げた。
眼前の少年のように覆そうとは、しなかった。
――そして【龍帝】の
それは
【闘神】のステータスを以てしても瞬く間にHPを削られ、ゲームでツァンロンがそうであったようにライフゼロへと到達する。
(ふ、ふふ……。場外乱闘は厳禁と、言った……のに……)
目まぐるしく動き、砕かれていく視界に苦笑しながら……【闘神】は
◇◆
『…………ぅ、はぁ……!』
【闘神】を打ち破った後、ツァンロンは膝をつき、荒く息を吐いた。
未知の能力との戦いを強いられ、死という過程を経て……それでも彼は勝利した。
だが、自分でもどうやってあの能力を突破できたかは理解できてはいない。
彼に分かったのは恐ろしく消耗したことと……。
「ツァンロン……!」
傍らの少女を護ることができたという結果だけだった。
『エリザベート……ご心配をおかけしました』
「ぐす……」
エリザベートはツァンロンの身体に泣き顔を埋めながら、けれども強く彼を抱きしめる。
ツァンロンも【龍帝】の身体と比較すれば小さすぎる彼女を優しく抱き留めた。
(【闘神】は倒した。けれど……まだ敵はいる)
ツァンロンはこの城の周囲にはまだ幾つも巨大な力の気配を探る。
<超級>を一人倒してもまだ数人、さらには神話級の怪物の気配まである。
ベルドルベルとブレーメンも二人を護るように立ち、周囲を警戒している。
だが……。
「これは……」
ツァンロンが最も強く感じ取ったのは、それらではない。
この城から離れた位置、同じ空の下で……
このラピュータ周辺の何者よりも強いオーラを放つ何者かの気配。
その気配の持ち主が誰かを、彼は知っている。
『――迅羽さま』
To be continued
(=ↀωↀ=)<…………
(=ↀωↀ=)<あと一話でVSカルディナ収まるかなぁ
○《死亡遊戯》
(=ↀωↀ=)<死体が綺麗なので蘇生はしやすい
(=ↀωↀ=)<まぁ蘇生してくれる人やオートリジェネあってこそだけど
(=ↀωↀ=)<決闘ならタイマンだし一回死んだ時点で決着なので
(=ↀωↀ=)<RANは色んな意味で決闘が主戦場
(=ↀωↀ=)<逆に決闘なら誰が勝てんだよってタイプ
( ̄(エ) ̄)<…………
○《リザレクション》
(=ↀωↀ=)<【司教】の奥義
(=ↀωↀ=)<端的に言えばザオラル
(=ↀωↀ=)<ただし、死後時間と死体の損壊具合で成功率大きく変わる
(=ↀωↀ=)<<マスター>の場合は蘇生可能時間があるので分かりやすい
(=ↀωↀ=)<まぁ時間内であっても【司教】の《リザレクション》だと確実ではないけど
(=`ω´=)<【女教皇】の場合は時間内なら確実や
○《■■■・■■■■》
未完成。効果全貌は現時点で不明。死亡後蘇生効果あり。