第三十二話 事故
(=ↀωↀ=)<区切りの都合で今回ちょっと短め
(=ↀωↀ=)<あと息抜き回
( ꒪|勅|꒪)<前回の引きで……?
□■【未確認飛行要塞 ラピュータ】・西門ブロック
RANと桔梗がシェルターに到達した頃、他の戦場でも動きがあった。
その一つは、西門から侵入してベルドルベルと交戦中だったマテルだ。
「あぁ、もう!」
『……しぶといな。ダメージを流す人形をどれだけ持っているのか』
必殺スキル発動から人形完成までの持久戦において、マテルはベルドルベルに一方的に削られ続けた。
反撃しようにも銃器人形やギロチン人形の攻撃は振動結界で無力化され、通じない。
そうして手をこまねいている間に、敵はベルドルベルだけではなくなっていた。
元々は中央正門エリアにいた<AETL連合>の半数までも、応援に駆け付けたのだ。
当然ながら、マテルは彼ら全員の標的である。
城内の廊下を駆け回る彼女の背には、様々なエフェクトの攻撃が飛来している。
「君達さぁ!? 僕みたいな美少女を袋叩きとかヒトとして恥ずかしくないの!?」
「ピンピンしながら自分でそれ言う奴に配慮なんかしねーよ!!」
「お前の反撃でうちのパーティメンバーが壊滅したんだが!?」
振動結界の内側にいる者はベルドルベルだけなので、他の<マスター>には反撃できて数も減らせたが……それでも多勢に無勢で押し込まれていく。
《ダミー・ドール》で生き永らえても、身代わりの人形は次々に破損していく。
「あと美少女って
「クソロリコン共がぁ……!?」
そうして彼女の限界が見えたとき……。
『――完成した』
<エンブリオ>である
「おっそいっ! もう少しでやられるところだよ!?」
ようやく三分が経過したことに気づくと、マテルは息を切らしながら叫んだ。
『時間通りだ……。文句を言われる筋合いはない』
「~~~~!? あぁもうっ! 寄越して!」
『納品する』
更なる振動波が迫る中、マテルはアイテムボックスから黒い手袋を取り出して装着する。
同時に、出現した窓から木箱が投下される。
床に接触すると木箱は砕け、直後に黒い手袋から伸びた糸が木箱の中身と接続。
『――【
――彼女の糸に引かれ、箱の中身……一体の人形が動き出す。
『…………』
黒いドレスアーマーを纏い、奇妙な盾と音叉の剣を携え、美しいと言える容貌を持つ人形。
彼女は迫る振動波に向けて左腕の盾を掲げ、
「――!?」
――直後、マテルを追っていた<マスター>達が
振動結界の内側でベルドルベルが目を見開く。
それを為したのが、
パーカッションの放った振動波は味方を射線から外して放たれていた。
だが、盾に触れた瞬間にそのベクトルを反転……どころか【
『……振動を増幅反射する盾、か?』
コンサートホールなどで用いられる音響反射板と少しだけ似て、まるで比べ物にならない代物。異なる素材と魔法がある世界ゆえに成立した、音に対する絶対反射。
それこそが【静寂の幽谷響】が持つ盾、《エコー・イージス》の力。
そして、人形が持つ武装は盾だけではない。
「盾よし! 次!」
『…………』
人形はマテルの糸繰りに連動して更に動きを見せ、今度は右手の剣を突き出す。
音叉の剣は独りでに振動し、周囲の空気を揺らす。
――瞬間、【静寂の幽谷響】とマテルの周囲からブレーメンの音が消える。
周囲の有害な
これがあれば、振動結界の内側に切り込むことさえ可能だろう。
音を倍返しにする盾と音を消す剣。
必殺スキルと彼女の『対音波・対振動仕様の上位純竜級人形』というオーダーによって生まれた、ベルドルベルを打ち破るための切り札。
それが【令嬢人形:静寂の幽谷響】である。
「ははっ! 良い仕事じゃないか、コッペリウス!」
自分を苦しめた攻撃を無力化し、さらにはベルドルベル以外の敵を殲滅したマテルは上機嫌で自らの<エンブリオ>を褒める。
『ああ。アイテムボックスの素材を
「…………え?」
マテルは……コッペリウスからの返答に言葉を失った。
理解できないし、
『人形本体の構造に用いるモノ以外も全てコスト変換し、最速で仕上げた。リルもだ』
しかしコッペリウスは現実を再認識されるようにそう繰り返す。
要約すれば――『お前今日から一文無しな』である。
「おま、おまえ、おまえええええええええ!?」
『コストが非常に重くなると尋ねたとき……「構わない」と言った。ああ、それとクールタイムだ。私は暫く休眠する』
「おい!? ちょ、こらぁ!?」
自身の想定を凌駕する代金を徴収した<エンブリオ>に、彼女は語彙が消滅した文句を言うが……コッペリウスは必殺スキルの対価としてさっさと
なお、嘆きで隙だらけなマテルに対してベルドルベルは四種の攻撃を織り交ぜて使用しているが、いずれも《サイレント・ソード》で無効化されている。
コストが重かった分、期待通りの性能は発揮している。
「大赤字……大赤字にも程がある……。いや、まだだ……。クエストの報酬で素材を貰って、この城の調度品をパクって売れば……」
自分の<エンブリオ>に心を折られたマテルは膝から崩れ落ちたが、何とか未来を皮算用して気力を奮い立たせる。
「幸か不幸か、味方は全滅。ここの戦利品は僕の総取り……!」
『……火事場泥棒の自覚はあるかね?』
「攻撃方法もお説教もうるさいんだよぉ!!」
呆れたようなベルドルベルの言葉に、マテルは地団駄を踏んで反発する。
(……ふむ。こちらの『言葉』は聞こえている。無差別で音を消しているのではなく、一定以上のエネルギーを持った『危険な音』を選んで弾くか。大した精度だが、ならばホーンはまだ効くか? 自傷で死に切るのが先か、あちらの人形が尽きるのが先か)
「兎にも角にもまずはリベンジ! 教えてあげるよ! 【傀儡師】の人形は……
圧倒的不利な能力の敵の出現を前にしても、ベルドルベルは打てる手を考える。
対するマテルは自信と自棄の混ざった妙な勢いのまま、【静寂の幽谷響】と共に駆ける。
傀儡師系統には操糸傀儡を操り強化するためのセンススキルの《糸繰り》があり、【傀儡姫】たる彼女はスキルレベルEX……イメージのままの精密動作を行うスキル補助と全ステータス一〇〇%強化に達している。
「――《
《糸繰り》の強化に、奥義を重ねる。
ステータスの更なる倍化、合算すれば元性能の四倍に到達。さらに付随効果として、人形を操るマテル自身の視力・思考・運指のAGIも人形と同値にまで引き上げられる。
上位純竜級の人形にセンススキルと奥義の二重強化を重ね、その性能は最上位純竜……【竜王】クラスに達している。
従来の彼女のスタイルである大量の人形による物量戦では活かせないが、操る人形を一体に絞った今ならばその性能を遺憾なく発揮させることができる。
『っ……!』
「ははははは! 僕が外部HPだけしか能がない二流の準<超級>とでも思ったか!」
彼女の生命線だった《ダミー・ドール》戦術の要はスカウト後に与えられた素材に依る。
ならば、スカウトされるに足る実力を彼女はその前から持っていたのだ。
「どいつもこいつも……僕を舐めていたことを後悔しながらデスペナしろ!!」
そしてマテルは《ハートビートパルパライゼーション》を無力化しながら、人形と共にベルドルベルの命を奪うべく駆け抜け――。
――――城の壁を突き破ってきた光の塊に
「……………………は?」
人形を先行させて走っていたので、彼女だけが巻き込まれた現象。
壁を破り、マテルを轢き、反対側の壁をぶち抜いて光の塊は過ぎ去っていった。
そして、光の塊は恐るべき火力を有していた。マテルの保有していた身代わり人形の残り全てを破壊し、その上で致命傷となるだけの貫通ダメージを与えたのである。
後に残されたのは、胸から下が吹き飛んだマテル。
ベルドルベルは驚愕し、ブレーメンは演奏の手を止め、人形であるはずの【静寂の幽谷響】さえも『え? 何してんのご主人?』と言いたげな雰囲気で彼女を振り返っている。
「…………えぇ?」
マテルは自分に何が起きたかも理解できず、悔しさを抱く間もない困惑の中で……デスペナルティとなった。
ようやく完成した【静寂の幽谷響】も彼女が光の塵になると同時に消えていく。
そのようにして、西門から侵入した面々は全滅と相成った。
『…………』
逆転されかけながら、一転してよく分からぬ『事故』で勝ってしまったベルドルベル。
ただ、彼はそれを素直に喜ぶということはできない。
(今の光……この城を
それが意味することは、唯一つ。
――
To be continued
(=ↀωↀ=)<気をつけよう。■■■は急に止まれない
( ꒪|勅|꒪)<これまでで屈指のひどい退場を見た