第三十一話 『遊戯』派
(=ↀωↀ=)<何とか更新
(=ↀωↀ=)<しかし現在も20巻作業中
(=ↀωↀ=)<文字数が多すぎた蒼白Ⅲ
(=ↀωↀ=)<諸々の修正はできたがまだ削り切れず
(=ↀωↀ=)<既に削ったシーンについても初見の身内から
(=ↀωↀ=)<「○○の描写が足りない」と削った部分に直で言及されたので
(=ↀωↀ=)<シーン単位の書き下ろしと差し替えの必要性が生じました
(=ↀωↀ=)<そのため、次回更新日は休載します
□■【未確認飛行要塞 ラピュータ】・シェルター
「――こんばんは」
巨大な鬼と共に桔梗が隔壁の内側……シェルターに入り込んだ瞬間、悲鳴が木霊した。
その多くは侍女たちのものであり、鬼の姿の粉砕童子に怯えてのものだ。
そんな侍女達を気にも留めず、桔梗はシェルターの中を見回し……年配のメイドに庇われている二人の少女を見つけた。
「エリザベート・S・アルター。エイリーン・ローグ。良かった。二人ともここにおられましたね」
安堵したようにそう述べて、ホッと息を吐く。
「……ツァンはどうしたのじゃ?」
「あちらに。……あら、動いてますね」
桔梗が指し示した破壊された隔壁の向こうでは、ツァンロンがもう一人の侵入者……RANと戦っている。
しかし、明確にツァンロンの動きが鈍い。
あの【炎王】との戦いとは比較にならないほど、動きが精彩を欠いている。
何より、RANも含めて動きが幾つかの
何らかの不可思議……あるいは不条理がそこに働いているのは明白だった。
それはこの場にいる者には分からないオリンピアの仕様によるものだ。
オリンピアの発動時、オリンピア内部で行われた格闘ゲームの動作と現実の肉体の動きは連動する。
しかし、それは連動するだけで外部の影響を受けない。
攻撃も回復も効かず、壁や通路もさして関係がない。
単に、精神空間で行われている戦いの模様を外部に『見せる』ための仕様だ。
決闘においてはその仕様と対戦相手の動きの悪さゆえに、ティアンはRANをデバフ系の<エンブリオ>の<マスター>とさえ誤認している。
この場にいる者達にとっても同様だろう。
だが、状況を正確に把握できなくとも……ツァンロンが押さえられ、エリザベート達を助けに向かえないことは明白だった。
「
その場にいる者達の絶望を代弁するように、桔梗はそう述べた。
エイリーンと侍女達――年配のメイドを除く――の表情が恐怖に歪む。
「…………」
だが、エリザベートは怯えないまま、ジッと桔梗の目を見据えていた。
「…………ふぅん」
そんなエリザベートの視線を見つめ返し、桔梗は思案するような表情を浮かべる。
そして何事かを考え付いたのか自らの手を打ち合わせ、エリザベート達に話しかける。
「私達のクエストのターゲットはお二人。けれど、
「?」
「確保と殺害。そのどちらを目的とした言葉だと思います?」
問われ、考え、そしてこのように問われたことが答えだと思い、エリザベートは返答する。
「かくほ、か? でなければ、はなすひつようもないであろう」
こんな風に話しかけていること自体、殺すならば関係ない。
それこそ、シェルターに乗り込んできた瞬間に式神を差し向けて殺してしまえばいい。
しかし……。
「正解は……
「なに?」
「『ターゲットに辿り着いた<マスター>の判断に委ねる』そうです」
桔梗の答えは、理解できないものだった。
最大目標の扱いがどちらでもいいなど、そんな雑な話があるものかと。
「私達はあなた達を目指して戦うことしか指示されていません。あなた達という
「なんのために?」
「さぁ、なぜでしょう?」
桔梗はそう言って首を傾げるが、そこに誤魔化す気配はない。
この陰謀を何のために実行したのかという意図を、彼女は本当に知らないのだろう。
あるいは桔梗自身、細かい理由など
「……それで、シンセツにおしえてくれたおぬしは、わらわたちをどうするつもりじゃ?」
「殺します」
エリザベートの問いかけに対して桔梗はそれまでと同じように答える。
同じように、当たり前のように、――二人の少女を殺すと告げた。
「…………え?」
エイリーンは困惑した表情を浮かべ、エリザベートは察していたように唇を噛む。
エイリーン以外の『殺すつもりはないから説明している』と
「どちらでもいいなら……ころすことをえらんだりゆうは?」
「式神の材料って色々あるんですよね」
エリザベートの問いかけに対し、桔梗は唐突に関係のない話を語り出す。
表情には、変化もない。
……いや。
「召喚に際して消費するMPSPだけじゃないんですよ。式神自体を設計するために必要なのはモンスターの素材に残留したリソースや自然の魔力だまり、曰くつきの物品。兎に角、そういうのをかき集めて工夫して作るのです」
いつしかその表情は……朗らかな笑顔になっていた。
「けれど、
絶望した貴人や武将が死後に怨霊となる。
リアル……日本の歴史の中でも多々見られる伝説だ。
「前の大名家を抜けるときも良い
傍らに立つ粉砕童子――かつて仕えた大名を素材にした式神を撫でながら、彼女は笑う。
ワクワクと、クレヨンを持って画用紙に向かう子供のように。
創作という『遊戯』に心躍らせる幼児のように。
要は、これまでの長話は少し希望を見せてから落とすためのものに過ぎない。
彼女にしてみれば、素材の精錬作業だ。
「今回の仕事、
「――強い式神にしてあげますから、絶望して死んでくださいね♪」
――今までで一番朗らかな笑顔で、自らの式神に少女達を殺すように命じた。
◇◆◇
□■【大武闘劇 オリンピア】
その空間――オリンピアの内部ではRANとツァンロンが筐体を挟んで座り、レバーとボタンで自身の分身を動かしていた。
「オリンピアはアバターのステータスをある程度は写し取る。けれど、あなたはこれまでの相手と比べても格別です」
巧みな運指でキャラを操作しながら、RANは画面上部を見て感心するようにそう述べる。
そこには多くの格闘ゲームがそうであるように、RANとツァンロンそれぞれのキャラクターのライフバーが表示されている。
だが……
RANが一本なのに対してツァンロンは十本あり、更に赤ゲージの……時間経過で自然回復する分の回復速度が恐ろしく速い。
一つのゲームに収まるキャラ性能かと言えば疑問であり、RANと同格の腕前のプレイヤーがツァンロンのキャラクターを扱えば勝負にならないだろう。
だが、ツァンロンは格闘ゲームに初めて触れるティアンであり――RANはリアルの半世紀をこのジャンルに費やしている。
その技量の差は、キャラクターの性能差を埋めても余りある。
RANはツァンロンの放った拙い大パンチを見切りながら、自身の小キックからコマンド技に繋げていく。
『ッ……』
「迂闊な攻撃はピンチを招きますよ」
コンボを重ねてツァンロンのゲージを一本削りながら、RANはさらに声を掛ける。
「まだまだゲージがありますね。間違いなく歴代最高のライフです。オリンピアは人間範疇生物のみを対象とする<エンブリオ>。議長は『そもそも人ならざる肉体を持つ者がオリンピアに取り込まれるのか』と気にしていましたが、問題なく作動しています。容姿がどうあれ、人ですね」
『……それはどうも』
異形の肉体と血から、血塗られた出生を経た身。
しかし、こんなことで人間だと言われても、ツァンロンの心に喜びはない。
この術中に取り込まれ、エリザベートの危機を見過ごすくらいなら……人でない方が良かった。
ゆえに、彼は焦っている。
何とかしてこの危機を打破し、空間を抜けて、彼女を救わなければならない、と。
『…………』
そのために、相手の隙を探る。
唯一の利点であるキャラクターのタフさを活かしながら、相手に隙を作る。
相手が話しながら戦う余裕を見せているのが、好機だった。
『なぜ、避けようとしなかったんですか?』
まずは、疑問と共に問いかけた。
「?」
『その仮面が砕けたことで、ようやくステータスが感じられるようになりました。あなたなら僕の拳打も回避しようと思えばできたはずでは?』
「ええ。スキルのアシスト込みなら避けられましたね」
そも、普段から決闘では相手の初撃を回避した上で、この空間に取り込んでいる。
【龍帝】の一撃も、回避できる公算はあった。
「でも、そうしたらあなたは私じゃなくて動きの鈍い桔梗ちゃんを狙ったでしょう?」
『…………』
「あえて【ブローチ】で受けるという
『……その読みは、【闘神】の力ですか?』
「そう。《ブレイクスルー》。戦闘における選択の結果が脳内に閃くわ」
超級職に就かないまま、闘技場で両者が勝利を目指す対人戦を一〇〇〇回行い、勝率一〇〇%を達成する。それが【闘神】の転職条件。
その【闘神】の奥義が短期選択型未来予知スキル、《ブレイクスルー》。
歴戦の経験が、勝利の経験が、短期的な未来を読む力を与える。そういう理由付けだ。
……彼女の場合は、従来の決闘とまるで違う経験を積んでいるがそれでも与えられている。一種の仕様上のバグだろう。
『自分のアバターが格ゲーキャラになったのを愉しんでいた<マスター>』や『このゲームで彼女に勝ちたかった<マスター>』などの分も含まれているので尚更だ。
しかし格ゲーにおいて彼女は無敗であり、結果として得た【闘神】……《ブレイクスルー》を含めたスキルとステータスは真剣勝負でも極めて有用だ。
【ブローチ】などなくとも、決闘においてオリンピアの発動を止められる者はいない。
「さて、話している間にゲージも半分ほど削りましたね」
『…………』
「安心してね。ラウンド数も
両者のゲージの下には勝利数を刻むための空っぽの星が配置されている。
ただし、ツァンロンの星は一つだけだが、RANの星は十個並んでいた。
つまりツァンロンは一度勝てばいいが、RANは
ライフゲージそのものの差も含めて、ゲームとしてはRANが圧倒的不利に立っている。
もっとも、強キャラとラウンド数で有利を取っただけで勝てるほど甘い相手ならば、彼女は<セフィロト>でタイマン最強などとは言われていないだろうが。
『……どちらかの勝利が確定したとき、負けた方は?』
「死にますね」
『…………ッ!』
『やはり』と思いつつ、ツァンロンは歯軋りする。
超再生能力を持つ【龍帝】の肉体は、単純な破壊ではそうそう死ぬことはない。
だが、<超級エンブリオ>で『死』という結果を押し付けられた場合は……どうなるか。
「まずは、一本」
そうして間もなく、これまでよりも苛烈な攻めを行ったRANがツァンロンの数多あったゲージを全て削り切り、一ラウンド目を先取した。
『死』に、一歩近づく。
「さて、私があなたと戦いに来た理由ですが、議長からあなたの性能が一番高いと聞いて
「……?」
欲しい、とはどういう意味か。
「オリンピアの副次機能ですが、倒した相手のキャラクターを保存できます。さらには一人用のCPU対戦でそれらと戦えるので重宝しています。有人対戦で私に負けた人達も、CPUならより強敵として機能しますからね。これでも、CPU版の<セフィロト>の皆さんにはそれなりの回数を負けているんですよ」
対人戦よりもレベルを上げたCPUの方が楽しめると、彼女は言う。
「ただ、それも全て倒してしまったので新しい対戦相手が欲しいと思って挑ませてもらっています。けれど、あなたは対外決闘には出場しないので、こうした機会がなければチャンスがありませんでした」
『…………』
彼女の言葉は、ツァンロンには理解不能だ。
要約すれば、RANはこう言っている。
――
遊戯派どころではない。
彼女にとって<Infinite Dendrogram>は、『遊戯のための遊戯』に過ぎないのだ。
『なぜ、そんな……』
「
自分の手――アバターの若々しい手を見ながら彼女はそう零す。
画面から目を離しても問題はない。話す内に、既に彼女は二ラウンド目も勝利している。
あと、八回。
「ああ、そうそう。少しオリンピアの仕様について補足説明があります」
『?』
「まず、通常使用時のペナルティに死はありませんね。【強制気絶】やステータスの削減といったレベルのリスクを負うに留まります。ただ、必殺スキルである《死亡遊戯》で始まったゲームは、両者のデフォルトのペナルティが『死』に設定されますね」
『…………』
「この場合、私のペナルティは『死』から変更できません」
『デフォルト』、『私の』。
二つのワードに含まれたニュアンスに、ツァンロンも気づく。
『僕の方のペナルティは、変更できる……と?』
「ええ。両者合意の上なら可能ね」
RANはそう言って、どこかから取り出した一枚の紙――【契約書】を見せる。
「議長の指示なの。あなたのペナルティを、『これへのサイン』に切り換えてもいいと」
『……文面は?』
「私も知りません。どうぞ」
RANはそう言って、筐体を挟んだ先にいるツァンロンに【契約書】を放る。
ツァンロンはそれを手に取り、読む。
『――――え?』
そして、絶句した。
彼が目にした契約内容だけが理由ではない。
【契約書】の筆跡が――
ツァンロンが絶句し、混乱する中で――三ラウンド目が終わった。
あと、七回。
To be continued
○遊戯派
桔梗「ティアンは素材」
RAN「ティアンはアンロック要素」
(=ↀωↀ=)<はい
( ̄(エ) ̄)<はいじゃないが
(=ↀωↀ=)<光の遊戯派(迅羽)と対照的な闇の遊戯派である