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第十三話 禁じられた箱

( ̄(エ) ̄)<頭目も倒したし、月間総合8位になったし、昨日の感想コメントの勢いもすごかったクマ


( ̄(エ) ̄)<読者のみんなありがとう。二章もめでたく解決クマー


(=ↀωↀ=)<…………

 □【聖騎士】レイ・スターリング


 頭部を喪った【大死霊リッチ】の体が塵になって崩れていく。

 同時に、俺の身体は急激に重くなり、受身も取れないまま地面に倒れこんだ。


「終わった、か」


 ステータスウィンドウには【猛毒】、【麻痺】、【死呪宣告】、【衰弱】、【劣化】、エトセトラと数えるのも馬鹿らしくなる状態異常が表示されている。

 しかし、敵対者から受けた状態異常が俺の身体を蝕んでいる今の状態だからこそ、俺は確かに奴を倒したのだと確信できる。

 《逆転は翻る旗の如く》。

 敵対者からの状態異常の効果を逆転させる……ネメシスの第二形態黒旗斧槍の固有スキル。

 反面、敵対者が死ぬと発動が停止する。

 つまり状態異常が効いている現状が奴の死亡証明になっている。

 俺は奴に操られていたらしい子供に首を切られた直後、ネメシスを大剣から黒旗斧槍に切り変え、《逆転は翻る旗の如く》を発動していた。

 状態異常表示が見えたのでそれを防ぐためだ。

 スキルが発動すると【出血】は増血に、【猛毒】はHP回復に、【麻痺】は身体能力の向上に成り代わる。

 最初の首を切られたダメージは【猛毒】の逆転で地に伏せている間に回復した。首の傷がそれに応じて塞がったときには【出血】の表示は消えていた。

 次いで、奴が俺に放った状態異常魔法で付加された分も同様にバフへと早変わりした。このとき、逆転した感触のない状態異常もあったが、マイナス効果は受けてはいなかった。

 結果としては数多くのバフが付いた状態になったため、奴との実力差は逆転していた。

 相性もあっただろう。

 《聖別の銀光》がアンデッド特効付与スキルであり、相手がアンデッドでもある【大死霊】だったことが大きい。

 それに逃走した奴を追うのにシルバーの足も役に立った。

 もちろん、俺はまだ《乗馬》を習得していない。

 だから乗っていない。

 シルバーが走るに任せるまま、足を地面に引きずられながら奴を追った。

 西部劇でよくある馬に繋がれて引き回されるのと大差ない状態だったので、接地していた足への継続ダメージはあった。

 が、それも【猛毒】が逆転したHP回復で誤魔化していた。

 地上に出て、奴が最後に使った魔法も《カウンターアブソープション》で防いだ。

 【ガルドランダ】の火炎よりも遥かに圧力は大きかったが、耐え抜いた。

 一瞬、今のように状態異常に体を持っていかれそうになったが、すぐにネメシスが黒旗斧槍に変形し直して《逆転》を再発動し、事無きを得た。

 それから黒旗斧槍で奴の動きを封じ……この拳で息の根を止めた。


 この結果に至るまでは綱渡りだ。

 いくつもの要素が積み重なり、俺は奴を倒せた。

 振り返れば、今回の戦いは全てが嵌っていた。


「……運が良かったんだろうな」

『タネを知っている私でもそう思うしかないの』


 あるいは子供の命を弄び続けたあの外道に天罰を下すため、運命が味方でもしたのか。


「…………」


 ジッと手を見る。

 今も奴の頭部を砕いた感触は残っている。

 アンデッドであったためか、あるいは《銀光》の影響か、枯れ木を砕くような感触だったが、確かにある。

 救いようのない悪党ではあるが、初めてティアンを殺した。

 俺が、メイデンの<マスター>がここを現実と同じように感じるのなら……これもまた傷になるのだろうか。


「考え悩むのはいいが、今はやめておくがいい」

「ネメシス?」


 いつの間にか人型に戻っていたネメシスが俺を見下ろしながら言う。

 ネメシスはステータスウィンドウの一部、【死呪宣告】を指差した。

 よく見れば【死呪宣告】の隣にタイマーの表示があり、『362秒』と書かれたカウントがドンドン減っている。

 似たようなカウント表示をレトロなRPGで見たことがある。

 ……包丁持ったカエルが使う0になったら死ぬ類のカウントダウンでは?


「時にマスター、状態異常の薬は?」

「……【解毒薬】の類は買い込んだけど、さすがにこんな状態異常は想定していない」

 

 まずい、非常にまずい。

 このままではデスペナルティを喰らってしまう。

 子供達はユーゴーもいるし山賊団も壊滅したようなので安心だが、明日のマリー達との約束が駄目になってしまう。

 それは困る。


「ええい! あの馬ゾンビめ! 余計な置き土産をしてくれおって!」

「……どうしよう」

 

 多重状態異常のせいで身体が口しか動かず、頭を抱えることもできない。

 ネメシスが俺の代わりにアイテムボックスの中に何かないか探している。出したままのシルバーはどことなく心配そうに見下ろしていた。

 そのとき。


「薬ならこれを飲めばいい」


 と、不意に硬い感触が口元に当たった。

 見れば、氷のロボット――透けた内側に壊れた【マーシャルⅡ】が見えている――から降りたユーゴーが俺の口に薬瓶を当てていた。

 薬瓶の中身を嚥下すると、嘘のように体が軽くなった。

 次いで、ユーゴーはもう一本薬瓶を俺の口に宛がう。

 それも飲み終わってステータスウィンドウを見ると、状態異常の表示は全て消えていた。


「治った!」

「おお、助かったぞユーゴー!」

「どういたしまして」

「ちなみに今の薬は?」

「【快癒万能霊薬エリクシル】と呪いを解除する【高位霊水】さ」

「いいのか?」

「構わないさ。どうせ、私が倒した相手のアイテムボックスから出てきたものだ」


 ユーゴーはそう言って、門にぶら下がる牛頭を指差した。

 よく見れば、遺体の周囲にはいくつものアイテムが転がっていた。

 アイテムの幾つかは俺が飲んだのと同じ薬瓶だ。


「あのアイテムはどうして転がっているんだ?」

「攻撃の拍子にアイテムボックスが壊れたからだ。……少し、やり過ぎてしまった」


 そういえばチェシャもチュートリアルのときに、アイテムボックスが壊れるとこのように中身がばら撒かれると言っていたな。

 放出の衝撃で中身が壊れる事態も多いらしいが、最も楽に他者の所持品を奪う方法でもある。

 そのため、裕福な人間を襲っては中身をばら撒く悪党もいるそうだ。

 余談だが、アイテムボックスを壊す以外にアイテムを奪う手段には、アイテムボックスから直接アイテムを盗む盗賊系統の《窃盗》スキルや、奪ったアイテムボックスの所有権を変更する強盗系統の《強奪》スキルもあるらしい。

 それを知ったとき、「この二つ、そこまで違わない気がするのに系統違うんだな……」と考えたことを覚えている。


「ん……あれは」


 俺が倒した【大死霊】のアイテムボックスも奴の着ていたローブに埋もれるように落ちていた。

 俺のは鞄型だが、それは立方体の黒い箱だった。

 奴は最後にあれから金銭を取り出そうとしていたのだろう。

 だからあれを壊せば奴が言っていた金銭や、所有していた希少なアイテムが手に入るかもしれない。

 だが。


「あんな奴の遺したものには触りたくもない」


 俺があいつから奪うのは命だけでいい。

 それに、あの中身がどのような手段で手に入れてきたものかは想像に難くない。


「私も同感だのぅ。こちらの心まで汚れそうな気がするわ」

「なるほど。なら放っておけばいい。そのうち拾いたい人が拾うだろう」

「そうだな」


 もっとも、ゴゥズメイズ山賊団は壊滅したしここは既に廃棄された砦だ。

 再び誰かが足を踏み入れるかはわからない。

 ……後で冒険者ギルドにこの件を伝えれば、きっと調査もされるだろう。そのときに、連中の残した財宝も回収してもらうか。

 福祉か何かに使ってもらえば、少しは浄財にもなるかもしれない。

 亡くなった子供達のためにも。


「……そうだ、ユーゴー。地下で攫われた子供達を見つけた。生きている子供は八人。たぶん魔法で眠らされている。手分けして地上まで運びたいんだが……そういえばキューコは?」


 地上に出てから彼女の姿が見えない。

 パーティの枠からは戦闘前に抜けていたが、今も姿が見えないということはまさかデスペナルティに……。


「キューコなら無事だ。少し待ってくれ。キューコ、こちらに……ああ、構わない」


 ユーゴーが氷の教会のような装甲を纏った【マーシャルⅡ】に向かってそんなことを言う。

 すると氷の装甲は白と蒼の光の粒子に変わって拡散した。

 直後に、氷の装甲が解けた【マーシャルⅡ】が瓦解した。

 ユーゴーが「……これはオーナーに予備機を貰わないとだな」などと呟いていたが、それよりも俺とネメシスの目を惹きつけたのは光の粒子の行き先だ。

 光の粒子は一点に集中し、人型を形成した。


「やっほー」


 そこにいたのは白い服装の<マスター>――キューコだった。

 しかし今の彼女の左手の甲には<マスター>の証明である刺青がない。

 それに今の粒子状の変化はまるでネメシスの変化の色違いだ。


「そうか。キューコ、御主……同類だったか」

「いえす。ほんとうのなまえは、こきゅーとすだよ」

「同類……ってことは」


 彼女の正体はネメシスと同じTYPE:メイデンの<エンブリオ>。

 そして彼女の<マスター>がユーゴーだということか。


「けど、さっきまであった左手の刺青は……」

「TYPE:メイデン固有のスキル、《紋章偽装》だ。左手やステータス表示などを<マスター>のものに偽装できる」

「そんなスキルがあるのか……」

「メイデンが人型のまま、ある程度の戦闘経験を積めば出来るようになる」


 ……なるほど。

 俺は今までネメシス自身に戦わせたことがない。

 習得していないわけだ。


「でもそのスキル、何の意味があるんだ?」

「意味はあるさ。<マスター>と<エンブリオ>はそれぞれがどんな固有能力を持つか解らない鬼札だ。《紋章偽装》を使っていれば<マスター>と<エンブリオ>を一組多くいると誤認させることが出来る」


 ブラフとして使うわけか。

 他にも出来ること多そうだし、俺達も今度習得してみるか。


「よし、揃ったところで地下の子供達をお日様の下に連れ出してやるか」

「了解した」


 俺とネメシス、ユーゴーとキューコは連れ立って砦の地下へと向かった。

 四人いて、それにシルバーもいるから頑張れば一往復で子供達を全員運び出せるはずだ。

 あいつが消えた影響で目を覚ましているかもしれないし、早く行ってやらないとな。






 ◆◆◆


 ■<廃棄砦周辺>


「……行ったか?」

「ああ、連中は砦に入った」


 廃棄砦を囲む森の中。

 ユーゴーが【マーシャルⅡ】で走破してきたルートよりも木々の密度が濃い鬱蒼とした一角に、五人の怪しげな男達がいた。


「まさか頭目達がやられるとはな……」


 彼らはゴゥズメイズ山賊団の残党だ。

 そして、ギデオンの街でレイとユーゴーが遭遇した五人でもある。

 レイやキューコに叩きのめされ、ギデオンの警備隊に捕まった。

 しかし監獄に入れられる前に他の仲間の手引きで脱走していたのだ。

 それからは馬車隊の後詰として後方からの追跡を警戒し、遅れて砦に戻ってきたところで……自分達の根城が蹂躙されている光景に出くわしたのである。

 彼らの運が良かったのは、彼らが身を潜めていた場所がキューコの索敵範囲外だったことだ。

 だから見つからず隠れ果せた。


「これからどうすりゃいいんだ?」

「どうって、逃げるしかねえだろ。バケモノの頭目達を倒すようなバケモノとなんか戦えるか」

「チッ、砦の宝は置いてくしかねえのか」


 男の一人――レイに殴り飛ばされた男が悔しそうに舌打ちする。


「……待てよ?」


 しかし、彼は思いついたように呟く。


「そうだ、そうすりゃいいんじゃねえか」


 彼は納得したようにうんうんと頷いている。


「どうしたんだよ?」

「そうすりゃいいって、何が?」

「?」


 他の四人は男の様子を不思議そうに見ている。


「連中が砦に入った今なら、あそこに落ちている頭目達のカネやアイテムをいくらでも持っていけるじゃねえか。それに馬車の中のガキも楽に連れて行ける。ガキ共は身代金を要求してもいいし、カルディナで売っ払ってもいい。国境を根城にしている他の山賊団へ加入する手土産にも出来るぜ!」

「おお!」

「そいつぁ名案だ!」


 仲間達は男の何とも自分達に都合のいい言葉に大喜びで応じる。


「じゃあ連中が戻ってこないうちに」

「おう! さっさとアイテムとガキを回収してトンズラだ」


 男達は手分けしてアイテムを拾い、生きた馬を子供の乗った馬車に繋いでいく。

 しかし、男の一人……アイテムの回収と子供の再誘拐を提案した男は、塵になったメイズの死体の前で首を傾げていた。


「どうしたんだよ?」

「メイズ頭目のアイテムボックスが壊れてねーんだよ」


 それは、先ほどレイとユーゴーが放置を決めた黒いアイテムボックスだった。


「ああん? じゃあ壊せばいいだろ。もう《強奪》持ちはみんな死んじまってるからそれしか手がないぞ」


 山賊団らしく《窃盗》や《強奪》のスキルを持った者も複数人いたのだが、全員がユーゴーの駆る【マーシャルⅡ】に殺害されていた。


「そうだな、じゃあ壊しちまうか」


 男は、手にした短剣を振りかぶり、アイテムボックスに突き立てた。

 アイテムボックスは破裂し、中に入っていたものを吐き出す。


「うっひょーーーーー! すっげー大金だぜー!」

「こりゃあよぉ、もう山賊しなくても十二分に豪勢に暮らせるんじゃねえか?」

「ガキ共もいるし【奴隷商】でも始めてみるか!」

「いいねぇ!」


 メイズの遺産を前にして、彼らは自分勝手な夢を口にしていた。

 彼らの前にあるのは莫大な財。

 メイズがレイに言ったことに嘘はなく、所持していた金銭は七千万リルを超える。

 他にも希少な宝石や装備品、素材アイテムなども大量にあった。

 それらを使えば、彼らが口にしたような夢は叶えられる。

 彼らの腹の中にある「どうやって他の奴を出し抜いて独り占めしようか」という考えを実行できればより確実だ。


 もっともそれは……絶対に不可能であったが。


「あれ? なんだこれ?」


 男の一人が、地面に転がっていたアイテムの一つを拾い上げた。

 それはシルエットだけなら鶏卵に似ていた。

 しかし色は赤黒く、表面に一箇所だけ“瞼”が付いていた。

 一見すると、【大死霊】であったメイズの持っていた他の素材アイテムと区別は付かないが……違いはあった。

 拾い上げた男は高レベルの《鑑定》スキルを所有しており、アイテムならば一通り鑑定できるのだ。

 それでも、その卵の鑑定結果は見えなかった。

 男は素材やモンスターの卵ならば鑑定結果が見えるはずなのに、と疑問に思った。


 だが、見えないのは当然だった。

 それはアイテムでもなければモンスターの卵……生物でもない。

 ただの……“呪い”だった。


『起動』


 卵殻の表面全体から聞こえる音声と共に、卵は“瞼”を開けた。


「ひっ!?」


 男が驚き、手を離そうとするが、指は卵に吸いついて離れない。


「何だ?」

「どうした?」


 男の仲間は悲鳴を上げた男の方を見て声を掛けるが、その顔はまだ大金を手にしたにやけ面だった。

 あえて言うなら、このときに異常を察知してすぐに逃げ出せば、卵を手にした男以外は助かったかもしれない。

 無理な話だ。

 そもそも彼らにそれだけの危険察知能力があるなら、メイズの遺品を漁るような真似はしなかっただろう。


 メイズは、アルター王国の中でも最上級の《死霊術》の使い手だった。

 不死不滅の【死霊王】になるために周到な準備を重ね、人を人とも思わぬ使い方をする男だった。

 それでいて、自らの命を永らえるためなら【死霊王】に必要な【怨霊のクリスタル】すら投げ打つ男だ。

 溜め込んだ財産とて、生き残れるなら裏心なくレイに渡していただろう。

 それほどまでに自分の命に固執していた男が、殺されて自分の遺産を奪われるとしたら。


 “何”をするのか。


 “どこまで”するのか。


 その結末に思い至らなかった時点で、男達は詰んでいたのである。


『アイテムボックスの破損を確認』

『所有者:【大死霊】メイズの魔力波動サーチ』

『……………………反応なし』

『【大死霊】メイズの消滅を確認』

『敵対者による強奪行為と推定』


『報復術式――《グラッジ・アンデッド・クリエイション》』


 音声の後、卵は男を触れていた指の先から吸い込み始めた。

 まるで排水溝に汚水が流れていくように、人体が血飛沫を上げながら小さな卵に入っていく。


「オギョ!ゥ!エエエ――」


 人のものとも思えぬ悲鳴を残して、男だったものは卵の中に消えた。

 卵は肥大化し、ダチョウの卵と同程度のサイズになっていた。


「ひぃぃいいいい!!」

「なんだ、なんだよぉおお!!」


 仲間達はその光景に動転し、背を向けて我先にと逃げ出そうとした。

 直後、卵から血管に似た管が噴出し、逃げ出した四人の内三人の背中に突き刺さった。

 まるでストローでジュースでも飲むように、卵は男達から全てを吸い取った。


「グイ!ジャサナ!?イケ!?」

「オディ――ウバァァア」

「アシダイデャアアアアアア――」


 どれほどの苦痛を味わったのか、男達は正気の世界にはない言葉を発しながら消えた。


「あああああああああ!?」


 唯一の生き残り……頭目の遺産を拾おうと提案した男は腰を抜かし、小水を股間から漏らしながら後ずさった。

 そんな彼にも当然卵は管を伸ばすかと思われたが、そうはならなかった。

 卵は他の物――周囲に散らばっていた遺体に対して管を伸ばした。

 死体はいくらでもあった。

 【マーシャルⅡ】の攻撃で死亡したゴゥズメイズ山賊団全員の死体があった。

 砲弾で散った死体に、ナイフで断ち割られた死体に、踏み潰された死体に、門に掛かったゴゥズの頭に、卵の管が突き刺さる。

 それだけではなく卵の表面から漏斗に似た形状の器官が迫り出し、大気中や地中から目に見えない何か――怨念を吸収し始める。

 その中には、肉体こそ塵となって消滅したが、未練と憎悪だけは残ったメイズの怨念もあった。

 そして無数の肉と怨念を吸収し、卵は膨れ上がった。

 ガスタンクにも似た巨大さと、風船の如き破裂の危うさを伴った球体。

 眼前で巻き起こる光景に、ゴゥズメイズ山賊団唯一の生き残りは既に呆然自失していた。

 やがて、球体全体に亀裂が入る。


 そして破裂と共に――最も醜悪なバケモノが誕生した。


 ゴゥズメイズ山賊団、その成れの果て。

 悪人達の死肉と怨念が寄り集まった姿は地獄の光景を切り取ったと言っても過言ではなかった。

 百人もの死肉がパズルのピースのように組み合わさり、牛頭の人馬を形作っている。


 血液の代わりに流れるのは怨念。


 自分達が死んでいるのになぜ生者がいるのか、と。


 世界の全てを道連れにせんとする暗き怨讐の念で異形の体を動かしている。


 無論、その怨念の対象は。


「あ……え……ああ?」


 ゴゥズメイズ山賊団唯一の生き残りにも向けられていた。

 死肉の腕が動いて男を掴む。

 両手の人差し指と親指で男の両腕を掴み、ゆっくりと、優しいほどにゆっくりと、両側に引っ張った。


「あ、あぎゃあああああああ!!」


 ゆっくりとではあったが、決して止まらない指に引っ張られて男の片腕が捥ぎ取られた。

 すると今度は両足で同じ事を始める。

 そうして男の手足がなくなったところで、牛頭の人馬はその巨大な口を開けた。

 痛みにより正気を失いかけていた生き残りの男も、それで理解した。

 それは、ゴゥズメイズ山賊団で何度も見た光景だったから。


「あ、俺って、デザートぉ……?」


 羽虫の如く千切られた男は、牛頭にゆっくりと噛み潰された。


 そして――ゴゥズメイズ山賊団は一つになった。


 比喩でなく、彼らは一つになった。


 言葉だけは崇高に見えて――吐き気がするほどおぞましい。


 そうして、最も醜悪なアンデッドが生まれた。



 ◆◆◆


 ※プレイヤー非通知アナウンス

【(<UBMユニーク・ボス・モンスター>認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】

【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を<UBM>に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】


【(対象を逸話級――【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】と命名します)】


 To be continued


次回の更新は明日の21:00です。


(=ↀωↀ=)<二章ボスバトル後半戦開始です


( ̄(エ) ̄)<Oh……

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