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第三話 “初心者”“狩場”

ブックマークが200件を超え、日間ランキングも36位になっていました。

多くの方が更新をお待ちになられていると思うと緊張で胃が痛くなります。

でも頑張ります!


( ̄(エ) ̄)つ「胃薬」

□<ノズ森林> 【聖騎士】レイ・スターリング


 ルーク達とは「お互い初心者なので今度一緒にパーティ組んでみよう」と約束して別れた。

 それとルークはまだジョブについてなかったらしいので(前情報なしでゲームを始めて転職のことも知らなかったそうだ)、兄から貰った【適職診断カタログ】を使わせてみた。

 何やら良いジョブが見つかったようで、これから就きにいくそうだ。

 一体何のジョブに就くつもりなのか、パーティを組むときの楽しみにしていよう。


 そんな訳で、ルーク達と別れた俺とネメシスは予定通り北門の先の<ノズ森林>へとやって来ていた。


「やるか」

『うむ、一気にレベルを上げてやるとするかのぅ』


 既に大剣に変身したネメシスと共に、第二の初心者狩場<ノズ森林>へと踏み入る。

 <イースター平原>と比較すると立ち並んだ木々のために視界が悪く、二十メートルも離れると視認が難しい。

 しかし、そこかしこから戦闘音が聞こえてくるので他にもプレイヤーはいるようだ。俺と同じように<イースター平原>で物足りなくなった初心者層だろう。

 <ノズ森林>の中に入って二分ほど歩いたところで、狼のようなモンスターを発見した。

 視界に入れると同時に、【ティールウルフ】というモンスター名が表示された。

 【ティールウルフ】の数は三体。


「いきなりか」


 RPGの定石で言えば狩場のレベルを上げた直後に複数相手取るのはリスクが高いが、やるしかないだろう。

 あちらが先手を取り、先頭の一匹が俺に噛み付いてくる。

 ダメージ量は22、本日初ダメージだ。

 あと30発くらい受けても大丈夫なので攻撃に専念することにした。

 三匹は俺を取り囲むが、俺はその内の正面にいる一匹に的を絞った。

 三匹が時間差で襲い掛かってくる中、他の二匹には構わず正面の一匹だけに集中して迎撃する。

 黒大剣が命中し、一匹が悲鳴を上げる。

 【リトルゴブリン】や【ラビット】のように一刀両断とはいかないが、ダメージにより露骨に動きが鈍くなっている。


「これならやれるな」


 俺は引き続き同じことを繰り返した。


 ◇


 五分後、そこには三体分のドロップアイテムと、HPが半分に減ってレベルが1上がった俺が立っていた。


「よし、三匹まではいける」

『そのようだのぅ』


 次の戦闘に備えて《ファーストヒール》で回復しておく。

 HPの高さと自己回復、【聖騎士】はレベル上げにはもってこいだな。


「よし、完治」

『それにしてもこれでレベル5、HPも800越えか。ステータスも上がっておるし今ならば素でもデミドラの攻撃に耐えられそうじゃのぅ』

「……出来てもボス戦はしばらくいい」


 あんなことばかりやっていたら寿命縮んでしまう。


「レベル20までは通常モンスターだけ狩ってレベル上げするよ」

『それもいいかもしれんな。その頃には私も第二形態に進化しておるかの』

「ネメシスが進化するとどうなるんだ? 兄貴は変わりすぎることはないって言ってたけど」

『恐らくスキルの追加と武器としての見た目の変化に留まるだろう。まぁ、これが第三から第四への進化となるとわからんがのぅ』

「上級進化、だったか?」

『そう。第一から第三までは下級カテゴリー、あるいは通常カテゴリーと呼ばれておる。このあたりは大体がアームズ、ガードナー、チャリオッツ、キャッスル、テリトリーに収まる。私もメイデンであると同時にアームズだしのぅ。他のレアなカテゴリーもどこかで五つの通常カテゴリーと被っておる』


 完全にその五つから逸脱したカテゴリーはいないわけか。


『次いで第四から第六までは上級カテゴリー。このあたりになると独自色が強くなる。通常カテゴリーの純粋強化のようなカテゴリーもいれば、固有スキルに特化してユニークカテゴリーとなるものもおる』


 クマ兄の第四は戦車らしいけど……チャリオッツの強化かな?

 始まりは銃器=アームズだったのに途中で別カテゴリーの上位種に進化したわけだ。


「じゃあ第七形態は?」

『わからん』


 ……おい。


『私が生まれもった知識の中には詳細がない。最初から情報を与えられるようなものではないのだろう』

「そういうものか」


 開始から一年半経っても百人足らずらしいからトップシークレット、ということなのかもな。


『ただ、知っていることもある。この世界では第四形態以上が<エンブリオ>の分類だけでなく、実力でも上級と呼ばれる』

「なるほど」

『頑張って私を第四まで押し上げることだのぅ。出来ればその先までな』

「まぁ、言われんでもな」


 ランカーっていうのは上級以上の集まりなのだろうし、そこに入ろうと思えば俺もそこに至らねばならない。


「まずは地道なレベルアップからだ。今日中にレベル13までいってこの狩場を卒業してやる」


 もう夕方らしく、木々の間から見える空は橙色に染まっていたが、まだまだ狩りは続ける。

 夜になるとモンスターは増えるらしいがドンと来いだ。


『その意気だの』

「よっし、じゃあ早速索て――」



 ――瞬間、視界が傾いた。



 否、傾いているのは視界ではなく俺自身。

 コメカミに残る衝撃と痺れが、側頭部に何かが直撃したのだと知らせる。

 簡易ステータスは今の衝撃で俺のHPが八割消失したことを告げた。


「な、にが」


 前触れのない大ダメージ。

 頭部に衝撃を受けたためか、眩暈で手足を動かすのもおぼつかない。


『マスター!』


 ネメシスが声を張り上げる。

 俺を心配しているのかと思ったが、違う。

 これは、警告。


『ッ! 《カウンターアブソープション》!』


 昨日の使用から24時間経過し、ストックが回復した《カウンターアブソープション》をネメシスが使用する。

 そのとき、展開した光の壁に何かが激突した。


『ギャギギ、ギギィ!!』


 それは弾丸の如き流線型と餓鬼に似た形相を併せ持った小型の化け物。

 光の壁を突き破ろうとしているが、果たせずにもがいている。

 先ほどのダメージもこいつの仕業か。


「モンスター、か?」


 いや、ありえない。

 ここのモンスターにしては先ほどの【ティールウルフ】とは攻撃力が違いすぎる。

 デミドラグワームのようなボスモンスターとも違う気がする。

 何より、モンスターなら視認した時点で表示されるはずの“名称”がない。

 こいつは……。


『クッ!』


 《カウンターアブソープション》が消失し、同時に光の壁にぶつかったあの化け物も消滅した。


『攻撃したら消える。一度攻撃したら死ぬ。自爆特攻型モンスター、そうでありながらモンスターではない……マスター! 此奴は!』

ガードナー(・・・・・)……!」


 TYPE:ガードナー。

 モンスター型の<エンブリオ>。

 なるほど、バビと比べてこちらはよく分かる。

 今のはどう見てもモンスターだ。


『マスター、退け! 何者かが御主を狙っておる!』

「言われんでもッ!」


 ようやく眩暈から解放された俺は回復魔法を自分に掛けながら、北門へと駆け出した。

 そこでようやく周囲の状況が掴めてきた。

 <ノズ森林>にはプレイヤーの悲鳴が反響している。

 それも一人や二人ではない、何十人もの悲鳴だ。

 あの化け物が<エンブリオ>なら、これをやっているのはプレイヤーだ。

 PKプレイヤーキラー――MMO黎明期から存在する、ゲーム内でプレイヤーがプレイヤーを殺す行為。

 俺を襲った奴が他のプレイヤーにも攻撃を仕掛け、犠牲者を量産しているらしい。

 今のレベル帯で言えば格段に高いはずの俺のHPを、一瞬で瀕死に追い込む攻撃。

 ここを適正レベルとするプレイヤーでは耐えられないだろう。

 ここは最早“初心者狩場”ではない、“初心者の”……“狩場”だ。

 俺達が狩られる側に回らされた。


「あのガードナーはさっき死んだだろうに、何でまだ被害者が増える!?」

『あやつらは恐らくガードナーの上級カテゴリーであるTYPE:レギオン。群体(・・)を成す<エンブリオ>だ。代わりに一体一体の性能は低いらしいがな!』

「あれで低いってか、笑えねえ」


 そして<エンブリオ>が上級カテゴリーということは、PKもまた上級の<マスター>ということだ。


『分が悪い、のぅ……!』

「…………」


 兎に角、今は王都へと戻らなければ……。

 このPK野郎も街中にまでは追ってこないはずだ。

 そんな、俺の思惑を無視して、


『ギャギギギギギギギ』


 背後から聞こえた声が、背後から流星のような軌道で飛翔してくるだろう化け物が、


『マス……!』


 俺を殺――


「――っされるかぁ!」


 振り向きざまに黒大剣を弾丸の化け物に叩きつけた。


『ギィ……ギギギギ』


 弾丸の化け物は黒大剣によって弾き逸らされ、森の木々にぶつかって命を散らし、その役目を終えた。


「……凌いだッ!」

『やるではないかマスター! これであとは』


 街に駆け込むだけ。

 そう言おうとしたのだろうネメシスの言葉が止まる。

 大剣になったネメシスに顔はない。

 けれど、ネメシスの視線がどこを見ているのか、俺には分かってしまった。


 森の木々の向こう、ボンヤリと薄暗い靄の中に、誰かがいた。

 男か女か、老いか若きか、人か否か。

 そんなことすら、靄でボヤけるそいつのシルエットは教えてくれない。

 唯一わかるのは――そいつの右手に拳銃らしきものが握られていること。

 左手が――<エンブリオ>の紋章が発光していること。

 そして、確信した。

 こいつだ、と。

 こいつが、俺を殺そうとしている相手だ、と。


『逃げろ!! マスター!』


 ネメシスの言葉に応えるまでもなく、俺は逃走を選択していた。

 あと二十メートル。

 あの果樹園からの脱出行よりもずっと短い距離。

 それで森を抜けて街へと辿りつけるのだから。


「殺されて……たまるか!」


 俺は駆け出した。

 だが、背後で発砲音が聞こえた。

 同時に、恐ろしい威圧感を覚える。

 逃げなければならなかった。

 だが、背後から迫る悪寒に、俺は――振り向いてしまった。


 そこにあった光景。


 それは、俺とネメシスが一度ずつ、一発ずつ、辛うじて回避した銃弾の化け物。


 その化け物が――“視界を埋め尽くすほどの大群で飛翔する”――地獄絵図。



 直後、瞬きをする間すらなく化け物の群れが俺の身体を粉砕した。



【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】


To be continued


Ordeal of Rookie(ルーキーの試練)


次の投稿は本日の21:00です。

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