モブの卒業式
今日は、いよいよ卒業式である。
早くも教室のあちこちで、陽キャの皆さんが思い出話に花を咲かせている。今日で終わっちまうんだなー、とか、ほんとあっという間だったよなー、とか。
名もなきモブである俺には、彼らのような華々しい思い出は特にない。
なんとなく、焼きそばばっかり作ってた高校生活だったような気がする。
まあ、モブの高校生活なんてそんなものだ。
最後までモブを全うしてこそ、立派な大学生モブになれるというもの。
大学生になったら、バイトをしたりレポートを書いたり免許を取ったり飲み会をしたりしなければならないのだ(←適当な大学生のイメージ)。
在校生から胸に花を付けてもらい、俺たちは体育館に入場した。
一生懸命校歌を歌い、二年生の熱い送辞に拍手し、去年生徒会長だった陽キャ卒業生の意表を突いたアクロバットな答辞に「すげえ。あいつ伝説作ったな」「うちらの代、最強だな」と囁き合う。
モブらしく卒業式を盛り上げ、教室に戻って先生から卒業証書を受け取った。
受け取る時には、先生からの一言が添えられる。
俺のときは、「縁の下の力持ち!」と言われて拍手された。別に何もやってないんだけどな。
それからみんなの卒アルの端っこに寄せ書きをして、これで俺の高校生活も全部終わり。
みんな、まだ名残惜しそうに教室や校庭で話している。
うんうん。青春だよなあ……。
俺も、大学に行ったらあんな仲間が作れるといいなあ。
まあ、陰キャモブだから無理か。これからも分を弁えて生きよう。
そんなことを考えながら帰ろうとしていたら、校門のところで呼び止められた。
「どこ行くの!?」
それはクラス一の美少女の若松さんだった。さっきまで泣いていたみたいで、目が赤くて、それも可愛い。
「え。帰ろうかと……」
「これからみんなで打ち上げに行くんだよ?」
「いや。誘われてないから……」
「いちいち誘わないよ! みんなで行くに決まってるじゃん!」
「え?」
そしたら、三階の教室の窓からクラスメイト達が大笑いしながら手を振ってきた。
「帰るんじゃねえよ! お前がいないと始まんねえだろうが!」
「あいつは、最後までマジで」
「ってか大学、一人暮らしすんだろ! 住所くらい教えてけ」
えー。
「ほら、もう」
若松さんが俺の手を引っ張る。
「教室戻るよ」
よく分からないが、俺の高校生活はあと数時間くらい続くらしい。